2007年度研究活動一覧」刊行に際して

 

 「研究活動一覧」は1990年に第1号が発行され、本年は18号となる。これまで、1年間の研究業績がまとめられ、冊子として配布されてきたが、今年度からより広くWebで公開することとなった。

「研究活動一覧」をまとめ、公開する目的は、その第1号で「自己点検・評価の一環であり、研究活動の活性化と質の向上を図ると共に、成果を公開することにより、社会的責任を果たす」とされている。しかし、後半の「公開が社会的責任を果たす」ことは用意に理解できる一方、このまとめが、前半の「研究活動の活性化と質の向上を図る」目的を果たすことができるかどうかは難しい問題である。業績の発表は各個人が行っており、組織として改めてまとめたということは、組織として「研究活動の活性化と質の向上を図る」必要があるが、このまとめを見るだけでは、組織のその意向が伝わってこない。まとめる目的が明確でないと、これはただ単に大変な作業になるだけで、実際担当者から、時々不平を聞くこともある。

しかしながら、18年間も続いてきたということには、別の意味があるような気がする。発刊した当時は、我々自身が、そこから研究活動に活かす何かを読み取ることを期待していたのではないだろうか。組織は、そのための資料を準備し、資料を基に各個人が何かを思い、その集合が組織としての活性化に跳ね返ることを期待してきたのではなかろうか。例えば、この資料から、同僚の研究活動状況を始めて知り、それを励みとすることもあれば、逆に自分の研究活動に自信をもつことになることがあるかも知れない。或いは、工学研究科の全体像を知り、自分の役割の重要性を再認識することもあるだろう。本来、大学は自由な研究者の集団であり、それが大学の活力であったから、「研究活動の活性化と質の向上を図る」組織としての具体策は、敢えて避けてきたのかも知れない。

近年、評価は組織に強く求められるようになった。工学研究科も、大学評価・学位授与機構を通し、大学評価委員会から、組織として重点的に推進する研究とその評価が問われている。組織として、研究活動の位置付けが求められるようになったのは、これまでの自由な研究活動が停滞していると判断されているからであろう。それもある側面からは事実かもしれないが、組織としてのリーダーシップも、研究を進める上での一方策であって、組織による「選択と集中」が、個人の自由な研究活動を阻害するようなことがあってはならない。大学の研究活動の基本は、個人の自由な研究活動であることを、もう一度社会に理解して貰うためには、それぞれが自分の研究を厳しく自己点検・評価し、「研究活動の活性化と質の向上」のために、このような資料からも、少しでも何かを求めようとすることが必要ではなかろうか。そうでなければ、自由な研究活動は誰も保障してはくれない。

                              

                    福井大学工学研究科長 鈴 木 敏 男