2010年度研究活動一覧」発刊に際して

 

 今年度も「研究活動一覧」をまとめる時期となった。これは1990年度から始まった事業で、近年では冊子ではなく電子ファイルでホームページに掲載して公開している。

 福井大学は20044月に法人化され、中期目標・中期計画に従った評価を受けることとなり、20104月からは第2期の中期目標・中期計画期間に入った。第1期の評価は、4年目の2007年度に行なわれた暫定評価に、2008,2009年度の評価を加えた確定評価の結果が先日示された。中期目標・中期計画自身の達成度評価では、暫定評価において福井大学は83国立大学中7位の評価であったが、確定評価の順位はまだ分らないもののほとんど同じ順位だと思われる。この達成度評価とは別に、現況状況の評価が部局別に行なわれた。教育・研究・地域貢献のそれぞれについて各部局で現況調査表を作成・報告し、それに基づいた評価である。教育では、工学研究科は暫定評価で全国1位、確定評価でもこの評価結果は変わっていない。研究では評価項目は「研究活動の水準」「研究の成果の水準」「質の向上度」の3点である。暫定評価では3段階で 2,2,3 の評価であったが、確定評価では 2,3,3 の評価となった。全国的な比較はまだ得られていないが、この評価結果は上位1/4以上の位置にあると思われる。もちろん、このような評価結果に一喜一憂する必要はないが、我々の研究活動が高く評価されたこと自身は喜んでよいと思う。

 ところで、筆者は、2007年度の秋から始めた暫定評価(当時は中間評価とか20年度評価とか呼んでいた)に関わる作業において、研究科では研究に関わる現況調査表作成作業を担当した。当時、法人化前からの「研究活動一覧」、外部評価の資料、研究業績を入力していた工学部の研究業績データベースなどの資料を収集し整理したが、そのときに抱いた危惧がある。それは、工学部・工学研究科における研究活動の量的水準が法人化前からあまり向上しておらず、見方によっては停滞・減少傾向が垣間みえることであった。それは、2008,2009年度の2年間の追加評価資料の作成時にも同様に感じた。もちろん、研究業績は、数量ではかるものではなく、質がもっとも重要である。しかし、筆者は、質の向上は量的向上を背景としなければありえない、と考えている。個人レベルでは、何年もの間業績がなく突然画期的な論文が発表されるということはあるし、毎年のように高い評価の業績を上げることはあるだろう。しかし、これを一般化することはできない。書かないと書けない、というのが筆者の信条である。たとえば、毎年業績を上げる中で10年に1件評価される論文を出す。研究科には150人余りの教員が所属しているから、この割合ならば中期目標期間の6年間に90件以上の業績が高い評価を得ることになる。研究科において量的側面で収縮傾向が垣間みられるのは、この意味で大きな懸念である。

 この「研究業績一覧」は、研究活動の量的側面だけかもしれないが、上述のような意味で研究活動の水準をはかる1つの、しかも重要な、資料であると思っている。20年以上に渡って継続して発行していることは、研究科の現状を把握する上で重要である。この業績一覧は、森眞一郎編集委員長をはじめ編集委員各位の献身的努力の結果であり、委員各位の多大な尽力に感謝したい。

 

福井大学大学院工学研究科長 小倉久和