2011年度研究活動一覧」発刊に際して

 

 今年度もまた「研究活動一覧」をまとめる時期となった。これは1990年度から始まった事業であるから、もう22年の歴史を刻むことになる。2007年度からは電子ファイルとして、工学研究科のホームページに掲載して公開している。

 福井大学は20044月に法人化され、中期目標・中期計画に沿った評価を受けることとなり、第2期中期目標・中期計画期間の2年目が終わる。第1期の評価は福井大学は83国立大学中7位の評価であった。部局ごとの現況調査表による評価では、工学研究科は、教育では全国1位、研究でもかなり高い評価を得た。もちろん、このような評価結果に一喜一憂する必要はないが、我々の研究活動が高く評価されたこと自身は喜んでよいと思う。

 しかし、昨年のこの巻頭言でも触れたが、研究面では工学研究科の展望はあまり明るくない状況にある。第1期中期目標期間における自己評価で、研究にかかわる現況調査表作成作業を担当したが、法人化前からの「研究活動一覧」や外部評価の資料、研究業績データベースなどの資料を整理した結果、工学部・工学研究科における研究活動の量的水準が法人化前からあまり向上しておらず、むしろ停滞・減少傾向があった。この傾向は第2期に入っても続いている。博士後期課程における入学生の大幅な落込みや留学生の減少傾向は、同じ状況の別の側面であろうと思われる。この原因はさまざま指摘されているが、法人化前から指摘されている教員の多忙化が大きな要因であるのは間違いないだろう。それは、直接には定員・人件費削減からきているが、同時に大学を巡る社会的な環境の変化、あるいは入学してくる学生たちの変化が、教員の多忙化に拍車をかけている気がする。これは福井大学だけの問題ではなく、地方大学では全国的に起きている現象である。それは結果として、外部との人事交流の不活発化が構成員の高年齢化をもたらし、ひいては学生の内向き志向に繋がるところがあるかもしれない。

 大学における組織としての活動は個々の構成員のアクティビティに依存するが、組織としての活動量は単なる個々の活動量の総和でなく組織としての活動水準に大きく左右される。これも昨年触れたことであるが、研究業績は、数量ではかるものではなく、質がもっとも重要である。しかし、個人的には、質の向上は量的向上を背景としなければありえない、と考えている。個人レベルでは、何年もの間業績がなく突然画期的な論文が発表されるということはあるだろう。しかし、これは普遍的ではなく、一般には、書かないと書けない。毎年業績を上げつつ10年に1件高く評価される論文を出すことができれば、150人余りの教員が所属している研究科は、中期目標期間の6年間に90件以上のSS,S業績を得ることになる。そのような活動水準を組織として維持する必要がある。たとえば、プロジェクト研究センターによる論文投稿への支援や科研費申請に対する支援が、組織的な活動水準の向上に少しでも資することを期待したい。

 この「研究業績一覧」は、研究活動の量的側面だけであるが、このような意味で研究活動の水準をはかる1つの、しかも重要な、資料である。20年以上に渡って継続して発行していること自身も貴重な財産である。この業績一覧は、今回も森眞一郎編集委員長に取り組んで頂いた結果であり、編集委員各位の協力と尽力の結果でもあることを記して、感謝申し上げる。

 

福井大学大学院工学研究科長 小倉久和