2012年度研究活動一覧」発刊に際して

工学研究科長 岩井善郎

 

「工学部・工学研究科に関わる研究活動一覧」は、1990年度に発刊が始まり、2007年度からは電子ファイルとして、工学研究科のホームページに搭載している。

2012年度は、工学研究科の教職員が自分たちの研究活動を否応なしに意識させられた年であった。それは、20126月に文部科学省から「大学改革実行プラン」が提起され、国立大学の工学系、教員養成系、医学系を対象としてミッションの再定義が要請されたことによる。工学研究科においても、教育、研究、社会貢献の観点からミッションの再定義に取組んだ。特に研究に関しては、科学研究費の採択状況、論文の発表件数、掲載誌のインパクトファクターや引用数等の定量的な資料に基づいて、各大学の研究に対する特色と強みを明らかにしてミッションを再定義することが必要となった。

大学における研究では、個々の研究を大切にし、その自由を担保することによって、工学研究科のみならず大学全体の活力が生み出されることは、大学がどのような状況に置かれても不変であることは言うまでもないであろう。研究の自由と闊達さが知の創造とイノベーションの源である。

他方、工学研究科の研究面での成果について危惧があることも事実である。研究のさらなる活性化と社会へのアピールが一層必要である。基礎研究を尊重すると共に、工学研究科を代表する研究、例えば地域産業と密接に連携した研究や現在の特色ある個々の研究を包括するプロジェクト研究などについても議論を進め、育成・推進することが重要と考える。このような研究科を取り巻く状況の中で、ミッションの再定義の議論と集約が私たちの研究に対する自己点検・評価として絶好の機会となったことは事実である。

大学における教育の評価は教育の質の保証を目的とし、その評価手法は過去の経験と実績からある程度確立されつつあるように思える。一方、研究の質の評価は、その困難さから逆に定量的な評価項目に頼らざるを得ない部分がある。もとより、唯一絶対の評価は存在し得ないのであるから、各組織および個々の研究者の発想や意欲を尊重した多面的な評価が不可欠である。評価の優劣は、当該組織が自らの特徴を最大限発揮できる評価項目の設定、およびそれらに対する自己点検・評価の的確さにある。

毎年発刊している「研究活動一覧」は、工学研究科の研究活動の量的側面ではあるが、研究活動の水準をはかる貴重な資料である。「2012年度研究活動一覧」がミッションの再定義の中で描いた工学研究科の研究の将来展望を具現化するに当たり、私たち自身の自己点検ならびに学内・学外からの助言や提言に繋がる資料として役立つことを願っている。

この業績一覧の作成に尽力頂いた堀邊稔委員長をはじめとする編集委員各位に対して謝意を表する。