23年度 優秀教員のことば

カナダからの手紙                     — 物理工学科 高木 丈夫

連絡どうもありがとう.今,カナダに居るんだね.それにしても,この「優秀教員のことば」が,いくら卒業生とはいえ,カナダから見られているとは思わなかったよ.君達に,特別講義をしてからもう15年以上も経つんだね.

 今回,優秀教員に選ばれたけど,本当にそれに相応しいかは,大いに疑問だねぇ.君達に教えていた頃なら,自信を持って優秀教員と言えたんだけどね.あの当時は,他学科の応用数学の授業しか担当していなかったけど,授業の最後の20分は.「自学科の講義が解らないから」と請われるままゲリラ講義もやってたなぁ.その中で,いろんな講義をしたっけ,電磁気学,量子力学,線形代数,統計力学,回路理論,....放課後に持ち込まれた問題の中には,Δ変調なんてトンでもないものもあった.当時,応用物理学科の授業は,全く担当していなかったんだけど,「放課後に物理全般の講義をしてください.」と,ものすごく遠慮がちにやって来た,君達の顔を今でもはっきり思い出せる.そう,あの頃の大先生たちには,学科の内外問わずに授業がヘタクソな人達が多かったよね.当時僕は30歳チョイだったわけだけど,授業でやっつけるのは,赤子の手を捻るようなものだった.でも,今だったら君も判るでしょう,解りやすい授業が良い授業だとは限らないことを.僕にとっては,このことは,院生時代に嫌というほど教えられ,経験した事なんだけどね.

 今の授業?うん,なかなか君達の頃のようには行かないからねぇ.今は,勉強したい学生に対しては最大限興味を引くように,最初から就学意欲が無く,授業に害を与えるような学生に対しては,授業が嫌になって教室から出て行ってもらえる様に,授業をしているんだよ.そう,僕は Best teacher の称号と,Worst teacher の称号を同時受賞したいと思っているんだ.授業を自在に設計できるならば,嫌われる授業も当然設計できるわけで,どちらか片方というでのは面白く無いし,簡単だからね.少しは,授業は個性的で,難しいことにも挑戦しないと.それに,大学に入ってまで嫌いな事をするのは,良い結果をもたらさないことも,学生に知って欲しいんだ.君達の頃には,少なくとも大学に入学した後の目的も大部分の学生は持っていたと思うんだけど,今はこの部分から心配しないとイケないんでね.
  さて,僕が福井大学の教壇に立てるのも10年と少しになったけど,授業は今までと変わりなくやっていくつもりだよ.芸術作品がそうであるように,受け手に迎合した作品は,その場では評判を取るかもしれないけど,結局あとには何も残らないから.どうせ授業をするからには,毒にも薬にもならないんではつまらないよね.最近流行りの,"とにかく,学生に親切に" というような甘口の授業は,チョットねぇ.僕が学生だったら,出席するのは,苦痛でたまらなかったと思うな.

 僕の学生時代,「カナダからの手紙」というラブソングが在ったけども,君の手紙,あの頃に学科を問わずに僕の部屋に質問に来ていた,(あるいは,ただ遊びに来ていた?)おそらくは学問が好きだった学生達からの,授業への応援歌に思え,大変嬉しく思いました.

この度は,連絡ありがとう.
体に気をつけて.また会える日を楽しみにしています.

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 前回の受賞後に,カナダにいた卒業生が「優秀教員のことば」を読んで,電子メールをくれました.すぐに返信しましたが,それからの短い間に,大学も,学生も状況が変わってしまいました.もしも今回の受賞後に電子メールをもらったら,という想定で書きました.ご笑覧,感謝します.

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