26年度 優秀教員のことば

「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」    — 電気・電子工学科 勝山 俊夫

今回優秀教員に選ばれ、教育に対する工夫と抱負を書かせていただける機会を与えられましたが、私自身はこの3月に定年退職し大学を去る身ですので、もう少し別の立場から私が知っているある方の話を交えて、むしろ教育に対する反省を書かせていただきます。


私は、大学を修士課程で修了し民間会社に入りましたが、大学で物理を学んでいたころ、研究室に一年先輩の小池さんという方がいました。在学時は、それほど印象に残る交流はありませんでしたし、小池さんは、やはり修士課程を修了後、埼玉県の高校に教師として就職したという程度しか知りませんでした。それから、30年近く経って、朝日新聞をふと見ると、その文芸欄に「現代日本を代表する歌人の一人」として、小池光氏が大きく紹介されていました。研究室の先輩の小池さんその人でした。風の便りに、小池さんは高校の先生をしながら短歌を作っているということは聞いていましたが、これほど知られるようになっていたとは驚きでした。事実、彼は、芸術選奨新人賞、斎藤茂吉短歌文学賞、迢空賞など様々な賞を受賞しており、昨年春の叙勲ではミニ文化勲章と呼ばれる紫綬褒章を受章しています。もしかすると、これから長生きすれば文化功労者くらいに選ばれるかもしれません。最近になって初めて知ったのですが、彼の父上は、直木賞作家とのことで、もともと文才はあったのかもしれません。


小池さんの歌集に、1978年刊行の第1歌集「バルサの翼」があります。短歌の世界と無縁の私が言うのも、もちろんおこがましいのですが、「バルサの翼」という韻律が、ギリシャ神話の「イカロスの翼」を連想させて大変印象に残りますし、昔よく子供が作っていた模型飛行機のバルサ材のことであるにもかかわらず、言葉自身が特別な意味を持っているかのように感じられます。この歌集の題名になった短歌が、


「バルサの木ゆふべに抱きて帰らむに見知らぬ色の空におびゆる」


という歌です。たぶん小池さんの子供の頃の心象風景を歌ったものと思いますが、同世代の私にとっても、模型飛行機を作るバルサの木に託して、純粋な少年の心に同時に内在する希望と不安を象徴的に表した大変引かれる歌になっています。


さて、定年を迎える頃になって、私自身色々な考えが以前と違ってきたような気がします。とくに、大学に7年前に移ってからの「教育」に関する考え方です。「教育」とは、何でしょうか。ここで紹介した小池さんが、いわゆる良い教育を受けていたとは、失礼ながら思えません。とくに、当時は、大学紛争真っ盛りで、大学がロックアウトされていた間は、授業など全くありませんでした。しかし、小池さんを初め、そういう状況にいた学生は、その後、たぶん挫折も、失敗もあったと思いますが、それぞれ一生懸命に人生を切り開いてきたと思います。最近になって考えることは、教育とは、これからの人生を切り開く糧を与えるものではないだろうかということです。今も記憶に残っている私の先生は、たとえば、数カ月にわたって、教科書などとは別に、ずっと小説の「二十四の瞳」を読み聞かせてくれた中学の先生のように、何か生きる上での糧を与えていただいた先生です。糧を与えられる人は、たぶん目立つような先生や偉い先生でも何でもなく、「二十四の瞳」の大石先生のように人生を愚直に真面目に送ってきて、全人格的に学生や生徒に向き合える人のような気がします。こう考えますと、大学の教員生活のこの7年間で、残念ながら、私はそれができなかったと思いますし、このことが私の教育に対する最大の反省です。

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