29年度 優秀教員のことば

US + THEM、そして自己変容を遂げる知性へ      — 材料開発工学科 飛田 英孝

10月にエドモントン(カナダ)で開催された学会に出席した夜、Pink Floydの元メンバーRoger Watersのコンサートを見る機会に恵まれました。タイトルは「US + THEM」。映像と音楽を駆使した壮大なステージはYouTubeにもアップされています。「私たち」と言明するとき、暗黙に「彼ら」を措定し、「我々と彼ら」の間に壁を築き分断することになります。反トランプを掲げるRoger Watersが表現したいのは、如何にこの壁を溶解し、プラスあるいはinclusiveなWEに変容させるかということでは、と感じました。(もちろん、USに合衆国の意味があることはお気づきの通りです。)

 

分けること、溶解すること、そして学ぶこと

何事かを理解するには、まず、分けることが必要です。分けることは分かるための方便。でも、分けることは自らを閉じ込める壁を作る作業でもあります。私たちは常に壁を溶解する作業もしなければなりません。壊すために作る。これは動的平衡の中で生きることの宿命なのでしょう。

本能のみでは生きられない人間にとって、学びとは生きることそのもの。今年、一番印象に残った本は、國分功一郎氏の「中動態の世界」。この本を読んで、学びとは本来、能動でも受動でもない中動態で表すべき行為なのではないかと思うようになりました。中動態は、今では失われてしまった動詞形態。主語が過程のなかにある、すなわち、主体の中で生じ、主体自身を変容させる営みを表す動詞です。人は学ぶとき、自分自身の身体を学びが生成する場として提供し、自分の壁を溶解させる作業をしているのではないでしょうか。さなぎが自らの身体を溶解し自己変容を遂げるように。さなぎの外壁は、そんな脆弱な溶解状態を外敵から守る防御壁。教員の仕事は、学ぶもののための防御壁となり、安全な環境を提供することなのかもしれません。

 

We don’t need no education

コンサートの前半を締めくくる曲は、Pink Floydのヒット曲、Another Brick in the Wall。地元の子供たちが黒地に白文字でRESISTと書かれたTシャツ姿で歌う言葉は、We don’t need no education!教師は望む形に壁をつくり、子供たちを型に嵌めることもできます。

「教育というおせっかい。そっとしてやる思いやり。」教育は、確かにおせっかいですが、前の世代からの贈り物でもあります。そして、受け取るかどうかを決める権利は受け手側にあります。

 

Singularityを越えて

Intelligence(知能)については、AIが人間を越える日も近いのかもしれません。米国では2011年に「今年小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は無い職業に就くだろう」という言説が飛び出しました。2013年には、今後10〜20年で米国の職業の47%がAIに奪われるという研究論文も出ています。

でも、知能指数で測れるような知能と知性(intellect)は本質的に異なります。大学教員がなすべきことは、どんな状況になってもしなやかに生き延びることのできる「知性」を学生たちの中に育むこと。キャリア・シフトに遭遇しても、それまでの知識・経験を生かして創造的な解決方法を見出し、自らを再創造できる自己変容型知性を育むことではないでしょうか。

定年まで、あと7年。学生とともに自分自身も変容させる教育と研究に挑戦したいと思っています。

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