The teacher of the yearおよび優秀教員
工学部では、毎年、工学部3年生の投票により学科ごとに The teacher of the year(23年度より)および優秀教員を選出しています。このコーナーでは、The teacher of the yearおよび優秀教員に選ばれた教員が、普段明かすことのない日頃の授業での工夫や考え方を紹介しています。みなさんも「先生の心の内」を探ってみませんか?
令和5年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械・システム工学科 | 機械工学コース | 岡田将人 | 教授 |
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ロボテックスコース | 髙田宗樹 | 教授 | |
原子力安全工学コース | 泉佳伸 | 教授 | |
電気電子情報工学科 | 電子物性工学コース/電気通信システム工学コース | 茂呂征一郎 | 准教授 |
情報工学コース | 長谷川達人 | 准教授 | |
建築・都市環境工学科 | 建築学コース/都市環境工学コース | 西本雅人 | 准教授 |
物質・生命化学科 | 繊維・機能性材料工学コース/物質化学コース/ バイオ・応用医工学コース |
吉見泰治 | 教授 |
内村智博 | 教授 | ||
沖昌也 | 教授 | ||
応用物理学科 | 高木丈夫 | 教授 |
令和4年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械・システム工学科 | 機械工学コース | 岡田将人 | 教授 |
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ロボテックスコース | 黒岩丈介 | 教授 | |
原子力安全工学コース | 福元謙一 | 教授 | |
電気電子情報工学科 | 電子物性工学コース/電気通信システム工学コース | Asubar Joel Tacla | 准教授 |
情報工学コース | 長谷川達人 | 准教授 | |
建築・都市環境工学科 | 建築学コース/都市環境工学コース | 西本雅人 | 准教授 |
物質・生命化学科 | 繊維・機能性材料工学コース/物質化学コース/ バイオ・応用医工学コース |
吉見泰治 | 教授 |
内村智博 | 教授 | ||
沖 昌也 | 教授 | ||
応用物理学科 | 浅野貴行 | 准教授 |
令和3年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械・システム工学科 | 機械工学コース | 永井二郎 | 教授 |
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ロボテックスコース | 黒岩丈介 | 教授 | |
原子力安全工学コース | 福元謙一 | 教授 | |
電気電子情報工学科 | 電子物性工学コース/電気通信システム工学コース | 塩島謙次 | 教授 |
情報工学コース | 長谷川達人 | 准教授 | |
建築・都市環境工学科 | 建築学コース/都市環境工学コース | 西本雅人 | 講師 |
物質・生命化学科 | 繊維・機能性材料工学コース/物質化学コース/ バイオ・応用医工学コース |
吉見泰治 | 准教授 |
金 在虎 | 准教授 | ||
米沢 晋 | 教授 | ||
応用物理学科 | 浅野貴行 | 准教授 |
令和2年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械・システム工学科 | 機械工学コース | 永井二郎 | 教授 |
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ロボテックスコース | 黒岩丈介 | 教授 | |
原子力安全工学コース | 泉 佳伸 | 教授 | |
電気電子情報工学科 | 電子物性工学コース/電気通信システム工学コース | 重信颯人 | 助教 |
情報工学コース | 長谷川達人 | 准教授 | |
建築・都市環境工学科 | 建築学コース/都市環境工学コース | 山田岳晴 | 講師 |
物質・生命化学科 | 繊維・機能性材料工学コース/物質化学コース/ バイオ・応用医工学コース |
金 在虎 | 准教授 |
内村智博 | 教授 | ||
中根幸治 | 教授 | ||
応用物理学科 | 浅野貴行 | 准教授 |
令和元年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械・システム工学科 | 機械工学コース | 本田知己 | 教授 |
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ロボテックスコース | 浪花智英 | 教授 | |
原子力安全工学コース | 泉 佳伸 | 教授 | |
電気電子情報工学科 | 電子物性工学コース/電気通信システム工学コース | Asubar Joel Tacla | 准教授 |
情報工学コース | 長谷川達人 | 講師 | |
建築・都市環境工学科 | 建築学コース/都市環境工学コース | 西本雅人 | 講師 |
物質・生命化学科 | 繊維・機能性材料工学コース/物質化学コース/ バイオ・応用医工学コース |
米沢 晋 | 教授 |
金 在虎 | 准教授 | ||
吉見泰治 | 准教授 | ||
応用物理学科 | 高木丈夫 | 教授 |
平成30年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械・システム工学科 | 機械工学コース | 永井二郎 | 教授 |
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ロボテックスコース | 黒岩丈介 | 准教授 | |
原子力安全工学コース | 安田仲宏 | 教授 | |
電気電子情報工学科 | 電子物性工学コース/電気通信システム工学コース | 葛原正明 | 教授 |
情報工学コース | 長谷川達人 | 講師 | |
建築・都市環境工学科 | 建築学コース/都市環境工学コース | 西本雅人 | 講師 |
物質・生命化学科 | 繊維・機能性材料工学コース/物質化学コース/ バイオ・応用医工学コース |
内村智博 | 教授 |
金 在虎 | 准教授 | ||
吉見泰治 | 准教授 | ||
応用物理学科 | 高木丈夫 | 教授 |
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 機械・システム工学科 機械工学コース 永井 二郎
今年度より、優秀教員の投票を行う3年生は新カリキュラム(私の担当学科・コースでいえば、機械・システム工学科の機械工学コース)の学生となった。この学年の科目として私が担当したのは主に「熱力学Ⅱ(2年後期 指定必修)」と「伝熱工学(3年前期 選択)」の2科目である。これら2科目について、授業準備で工夫した点や今後の改善点について記す。
「熱力学Ⅱ」について、旧カリと比べて一番大きく変わったことは関連する演習科目「熱流体力学演習Ⅱ(必修1単位)」が廃止されたことである。以前は、演習時間中に隔週で熱力学演習に学生は取り組んだ。自力で黙々と取り組む学生もいれば、私に色々な質問をする学生、理解度の高い友達に相談する学生等々、様々な形で熱力学の理解を深める形があった。その演習科目が無くなったため、毎週宿題として演習問題を課すが、「熱力学Ⅱ」の授業時間中に演習に取り組む時間を増やすようにした(私の演習解説時間も増やすようにした)。また、成績評価には関係しない補足演習問題プリントを隔週で配付し、自宅での学習に役立てるよう配慮した。今後は、反転授業やLMS活用を検討してみたい。
「伝熱工学」は、今年度より敦賀キャンパスでの受講生がいることから遠隔授業となった。黒板をカメラで撮影し敦賀の教室で映し出すことも可能ではあったが、見やすさの点から、基本的には全ての授業内容をパワーポイントのスライドで示すこととした。レーザーポインターではなく、PCプレゼンポインターを用いることで、敦賀のスクリーンにも指し示す矢印が表示される。あらかじめ作成したスライド資料だけでは説明が不足する部分については、授業中にタッチパネル上に専用ペンでイラストや数式を追記することで対応した。この「授業のパワポ化」には当初から心配していた点があった。それは、学生がノートをとるスピードとスライドを送るタイミングのずれ、である。板書であればほぼ問題がなかったが、パワポの場合はついつい早いタイミングで次のスライドに移行してしまうのではないか? いっそのこと、パワポ資料をLMSで配信しようかとも思ったが、私のポリシーとして「授業中に説明を聞きながら自分なりのノートをとる(つくる)ことは良いことだ」と思っているので、パワポ資料は配信せず、パワポはあくまでも板書の代わりとして用いることにした。今後は、「熱力学Ⅱ」と同様に反転授業やLMS活用を検討してみたい。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 知能システム工学専攻 黒岩 丈介
今年も優秀教員に選出され,非常に光栄に思っているとともに,本当に自分が学生に対してその栄誉に値するだけの教育的貢献をしたのかと自省させられます.現在担当している学部の講義科目は,以下です.
- 応用数学B(2年前期,必修)
- コンピュータ演習(ロボティックコース1年前期,
物質・生命化学1年後期,選択) - 応用電磁気学(2年後期,必修)
- 自律システム(3年後期,選択)
- 機械・システム工学科概論Ⅱ(1年後期,必修,全教員分担担当)
その他に,大学院前期課程の講義として脳情報学(前期),及び大学院前期課程の講義として人工知能特論(後期)を担当しています.
今年度は,新たに行った教育改善の取り組みはないのですが,これまで行ってきたアクティブラーニングを用いた講義を継続して行っています.事前学習・事後学習を中心としたアクティブラーニングは,思いのほか学生の評価が高く,少々困惑しています.評価の高い理由の大多数が,「予習・復習の教材が提供されるから」であるからです.本来,義務教育ではない大学の講義であれば,学生は自分で考えて学習するものであると,そうあって欲しいという私の思いと,実際の学生の実態との乖離が見られ,そこをどのようにして埋めていけばいいのか,現在の私には良い方法が見いだせていません.今後この問題点の解決方法を見出すことが,私の今後の大きな教育目標となっています.
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 附属国際原子力工学研究所 安田仲宏
平成30年度優秀教員に選ばれたとのこと、この場をお借りして学生達、教員と事務スタッフの皆様にお礼を申し上げます。放射線と原子力防災関連の講義を担当しています。福井大学に赴任して7年が経過しようとしています。取組みが一定の評価を受け励みになりました。
1.日頃の教育に対する工夫
福井の良いところは、先輩・後輩が教え合う文化があるところだと思います。附属国際原子力工学研究所は、今年度より3年生が来るようになりました。当初は、先生方や先輩たちに「かまってもらう」ことがあまりないのか戸惑っているようでしたが、講義や実験で教員やTAの学生と触れ合うことが、よい効果を生み出しているように思います。講義では、先輩(社会人も含む)に時々登場してもらってアドバイスをしてもらいます。実験でも、同様に修士の学生らと一緒に行動します。これらにより、修士生にとっては自分の理解を確認する場に、学部生にとっては教員と異なるアプローチで理解が促される場になっているようです。また、研究室には外国人の方が多いので、いきなり英語を話す場に放り出されます。半年もすると、面倒くさがらずに対応できるようになるようです。留学を志す学生増加につながっていると思います。これらを実現するために、学生に「居場所」を提供することと、コミュニケーションが必要な課題(課題解決をチームで競わせる)を提供することを心がけています。
現場感(リアル)を感じられることも研究所の教育の特徴だと思います。教科書に書いてあることを学ぶのはもちろんですが、原子炉の構造1つをとっても原子炉を見たことないとピンときません。できるだけ現場に連れていきます。また、最先端で研究する方々を招いて不定期にセミナーを企画します。例えば、規制庁、県庁などから企業の研究者や新聞記者、福島で活躍する方々まで理系・文系を問わず多岐にわたります。原子力法令の講義でも、福島第一原発事故後にどう変わったかだけでなく、変遷(歴史)を伝えてどういう考え方でそのようにしたのか、どういう点に問題がありそうかについて考えられるようにします。このように教科書で学ぶ先に何があるのかを提示することも学習意欲をかき立てる方法だと考えています。一旦、やる気になりさえすれば、私の役割は、何故そう考えたかを問うこと(説明させること)と、話を聞きながら軌道修正することで十分で、意欲的に取り組むようになってくれます。
2.今後の教育への抱負
現場感を維持するためには、私自身が「走っていないといけない」と考えています。講義や実験などは毎年同じことを繰り返しているようでも、学生の自主性を尊重し、社会や地域の現状を取り入れることと授業の手ごたえをフィードバックすることを怠らず、次年度にはさらに良いものになるように心がけていきたいと思います。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 電気電子工学専攻 葛原正明
本学の講義に携わり早いもので今年で15年目になる。講義科目は3年生の電子デバイスと電磁波工学を担当している。毎回の講義では、教科書に加えて簡単な講義ノートを持参して臨んでおり、そのスタイルは15年間変わりがない。ただ気付けば、講義ノートを黒板に写すだけでなく、最近はチョーク1本で黒板に臨み、その場で計算過程を導き出す講義スタイルをとる場面が増えてきた。準備不足による計算間違いや自身の考え違いで立ち往生するリスクもたまに生じるが、何よりその場で臨場感をもって説明する(自分の間違いすらその場で解説し学生側に教訓として伝える)ライブ感覚が大切ではないかと思っている。ただ、教員側の都合で講義内容にムラが生じることがないよう、さらに良い教育スタイルを追求する気持ちを忘れぬようにしたいと考えている。
電子デバイスの講義では、最新のLSIや発光ダイオードなど、その実用化の速さに比べて理論面で教科書の説明が追い付いていない分野もあり、教科書の説明に間違いや別解釈が存在する箇所を見つけては、その理由と新たな解釈を講義で示すようにしている。章末問題についても、模範解答の不備や誤りを見つけ、オリジナルな解答案を講義で示すように心掛けている。この意味で、教科書は文字通りの反面教師である。また、学生にはノートをとるばかりでなく、教科書への積極的な書き込みを推奨している。なぜなら、自分自身がかつて大学時代の講義で取ったノートの殆どを整理の拙さから紛失してしまったからである。一方、大学時代の講義で使った教科書の多くは、今は黄ばんで破けているものの、ページに書き込んだ自分の文字とともに本棚に健在である。まさに40年を超えて未来の自分に送ったタイムカプセルである。自分の下手な文字を通して、当時教わった明快な解釈やその秘訣が蘇るときほど、良き教員に出会った大学教育の真のありがたさを実感するときはない。
電磁波工学では、電気電子の学生を悩ませるマックスウェル方程式が登場し、まずは電磁波という波の振る舞いを3次元空間で考える基礎を学んでもらっている。10数年前の学生であれば、携帯電話(ガラケー)に付属した伸ばすアンテナの長さや地上波テレビアンテナの長さから、それぞれのシステムで使われる電波の波長について理解を得ることができた。また、右ネジの法則という原理を、実際にネジを回す動作や水道栓のひねり方から理解することができた。しかし、最近の学生にとって、日常環境にネジ回しはなく、回転式の水道栓などイメージすらないのである。無線通信が益々発達する現代において、電磁波の存在を実感できるよい実例が減少しているのは皮肉である。このような現象は、その他の工学分野でも共通に起きているものと思われるが、だからこそ、このような環境の中で、学生が実用面での応用や将来展望において興味をもって学べるような配慮が教員に要求されるのではなかろうか。残念ながら、この点に関する解答を模索中であり、残された教員生活の中で考え続けたいと考えている。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 電気電子情報工学科 情報工学コース 長谷川達人
2018年度の優秀教員に選定いただき大変光栄に思います.今年度の授業に関する振り返りと,次年度への抱負について述べさせていただきます.
今年度は殆どが新規授業でして,常に授業準備を行っている一年でした.準備で精一杯でしたが,学生が楽しめる内容にすること,双方向な授業にすることを,できる限り意識して授業設計を行いました.前者については,基礎的な工夫ですがゲームを題材にして授業内の技術の説明を行っています.特に私の担当科目がプログラミングなのでゲームとの親和性が高かったことも幸いしました.実験科目では,大きくない課題を複数用意し,クリアする毎にスタンプ(得点)が貰えるような設計にしました.ゲームでよくあるクエスト*報酬を参考にした授業資料にすることで,多少はモチベーションに繋げてもらえたように感じます.後者については,講義の最後にWebから質問と感想を提出してもらうようにして,よくある質問は翌週に回答するようにしました.なるべく一方通行にならず,学生からの意見を参考に授業を改善していけるように意識しています.
次年度への抱負は,当然のことですが授業がより良くなるようにリバイズを行うことです.今年度は授業をこなすだけで精一杯だった面が強いので,次年度は今年度分かりづらかった内容や,説明の流れを見直し,より良くなるようリバイズに努めます.また,授業の双方向性が増すような,試験的な取り組みも既に開始しております.せっかく情報工学の研究者をやっておりますので,情報技術をうまく利活用して,より面白い授業設計を模索していく予定です.
最後になりましたが,私が上記のような自由な授業設計を行え,結果として今回の表彰を頂けたことは,様々な支援を頂いた学科を始めとする周囲の皆様のご助力のおかげです.この場をお借りして御礼申し上げます.
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 建築・都市環境工学科 西本雅人
福井大学の学生の建築力を北陸で一番にしたい!
2年前に福井大学に着任してまず心に誓ったことでした。 建築力なんて言葉はそもそもなく、何を持って一番といえるのかなんて分かりませんが、 「最近の福井大学頑張っているよね」「建築を勉強するなら福井大学がいいよ」と言ってもらえるような学科にしたいと思っています。
建築系の大学では、卒業設計や建築アイディアコンペや、学生主体で建築のイベントが数多く行われています。 そのため、学生が社会で活躍する機会も多く、同時に大学名も広まっていきます。 しかし、最近はあまり建築アイディアコンペで福井大学の名前が見られません。
僕が設計教育に携わることで、コンペを受賞する学生が増えていって欲しいです。 コンペでの受賞が学生にとっても大学生活の目標やモチベーションになり、必要な知識を身につけるため普段の授業や演習に熱が入ると思います。 福井大学の学生が建築コンペ受賞の常連になる、建築の地域活動を行うようになる、それを知った高校生が福井大学を目指したいと思うようになる、それが私の目標です。
この目標のために普段の授業や教育に心がけていることが3つあります。
一つ目に「学生の名前を覚える」こと。 設計教育は学生が行ってきた設計をマンツーマンで指導することが多いです。 学生は一人一人考え方や学力も違うので、それを見極めるためにもまず名前を覚えるようにします。 そのために、演習プリントを一人一人呼んで返却したり、名簿を毎日確認したりと小さな努力をしていますが、…まだまだです。
二つ目に「学生のアイディアを伸ばす」こと。建築の設計は考えだすとキリがありません。 デザイン性に加え、構造・空調・照明・合理性・コスト全てを満足するものを設計できないとオーナーに了解を得られません。 もちろん建築を学んで1、2年の学生の考える設計は足りないことが多いです。 それをダメ出しするのではなく、拙いアイディアでも建築として成立するように指導することを意識しています。 建築に関する知識がない分、学生は自由に形を提案してくるのでそれを見るのは面白いです。
三つ目 に「卒業後も使えるプリント資料を作成」すること。 大学の授業は概念的な内容も含めて本来社会で役に立つものでなければならないと思っています。 ですから卒業しても「あっ大学で習ったことや」「あのとき先生こう言ってたな」と記憶に残るような講義をしたいと思っています。 ただ、僕の技量ではそこまですばらしい講義ができないので、せめて配布資料だけでも残るように立派なものを作成するようにしています。 一ヶ月ほど前に教え子からメールをもらって、「今でも先生のもらったプリントを見て勉強しています」と言ってくれました。 やっぱりそう言ってもられると嬉しいです。そんな学生が増えるように資料作成は頑張りたいです。
教員はあまり自身の教育方法や考えを表彰される機会はありません。
まだ自分のやり方に迷うこともあり、周りの先生方に相談したり、学生に意見を求めることも多いです。
その中で、この「THE TEACHER OF THE YEAR」の受賞の連絡をいただいたときはすごく嬉しかったです。
今後もさらに良い教育ができるように、自身の建築力を磨きたいと思います。
過去と未来へのアドバイス — 物質・生命化学科 内村智博
初めに,雑談が多い私の講義にあきれずについてきてくれた学生諸君に感謝します。
1年前期の必修科目「物質・生命化学概論」で,当時のみなさんの前で初めて講義をしました。担当する「分析化学」について,その概要や魅力を伝えるという講義でした。学科で学ぶ分野が大変広く,どうやったら興味を持ってもらえるか,色々と考えました。
その講義で私は,みなさんに次のレポート課題を与えました。
『「現在の分析機器では測れないが,今後30年以内に測れそうなモノ」とはどんなモノか,他の学生の答えとは違うモノを1つ考えてきて下さい。物質・生命化学科の学生としての答えを期待しています。』
時は流れ,2年生になったみなさんに「分析化学II」(機器分析)の講義をしました。あいかわらず雑談が多く,大ヒットしたアニメ映画について講義に取り入れたりもしました。
そしていよいよ期末試験となりました。前述のレポートを提出してもらってから1年半が経過していました。そこで私は,1年半前に提出されたレポートを一旦返却し,以下の問題を出しました。
『各自,1年半前に提出した当時のレポートを読み,「現在の成長したあなた」が「1年半前のあなた」にどのようなアドバイスをおくれば,当時のレポートがさらに評価の高いものとなるか,簡潔に答えよ。精神論ではなく,レポートの内容等について正しく指摘・批評すること。』
1年半後の答え合わせはどんな感じだったでしょうか?「昔から真剣にレポートを書いていたなぁ」とか,「こんなに適当にレポートをすませていたんだ・・・」とか。いずれにせよ多くのみなさんは,試験中にもかかわらず少しばかり懐かしさを覚えたことでしょう。せっかく講義で触れたので,現実世界でもちょっとタイムスリップする気分を味わってもらいました。
さて,試験が終わってさらに幾ばくかの時間が経ちました。そこであらためて,みなさんに尋ねてみたいと思います。
『「現在の成長したあなた」は,「過去のあなた」と「未来のあなた」にそれぞれどのようなアドバイスをおくりますか?』
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 物質・生命化学科 金 在虎
私が福井大学に着任したのは10年前になります。着任と同時に授業を担当することとなり、当初は大変だった覚えがあります。私の場合、日本の中学校、高校の教育を受けたことがなく、学生さんの高校までの知識や経験などが分からず、授業を準備するしかない状況でした。それで近くの本屋さんに行って高校の化学に関する書籍を何冊か買って勉強をし、徹夜しながら授業の準備をした覚えがあります。この経験は私自身が学生さんのレベルを理解し、知識を深める授業づくりに非常に役に立ちました。
○日頃の教育に対する工夫
授業によっては、知識詰め込み型と参加型のどちらでしか効果が発揮しない科目もあると思いますが、私の場合、両方を上手く使って学生のモチベーションや学習能力を高めるような授業を試みています。個人的には一方的な演説型よりはコミュニケーション型が好きなので、常に学生さんと授業内容についてお話しております。
- 授業が始まる前に学生さんと少しおしゃべりする。天気や話題ニュースなど、、
例えば、企業さんと打合せをする時に、いきなり仕事のお話より別の話題で盛り上げてからの方が良かった経験からの工夫です。 - 前回の復習から始まり、次回の予告で終わる。
- 授業中に演習問題を出して、その場で学んだ内容を復習させる。
- 各チャプター(2~3週間)ごとに小テストを行い、再度復習をさせる。採点した結果物は学生さんに次の授業までにお渡しすることで、学生自身の理解度が確認できる。
- 最後に講義室を出るようにし、その間に気軽に質問ができる状況を作る。
○今後の教育への抱負
以前アメリカで約2年間留学した時に、担当教授の授業を手伝ったことがありますが、その日に学ぶ授業内容を事前にネットで公開し、学生さんに予習をさせ、授業当日はその内容と課題について4~5人グループ別で討論をして、発表を行うような内容でした。
もちろん、日本とは教育環境や内容が異なることもあり、そのまま適用することは正直に難しいとは思いますが、授業中で楽しく自分の意見を述べる学生さんの姿が非常に印象的でした。今後は、学生さんが楽しめる授業内容と積極的に参加可能な授業づくりをして、私自身も楽しめる授業をしたいと思っております。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 物質・生命化学科 吉見泰治
新学科における、はじめての優秀教員選考に投票してくれた学生さんたちに感謝いたします。材料・化学・生物系の2つの学科が一つになって、大人数での講義(旧学科の2倍以上になっています)になり、講義の内容がきちんと伝わっているか、非常に心配していました。今回、学生さんたちが選んでくれたことで、少し安心することができました。講義の内容において、まずは基礎的な有機化学のことを理解してほしいために例年と同じ授業内容で行っていますが、人数が多い分、それぞれの学生の顔を見ながら、詳しく説明する場合と、話すと理解が難しくなりそうなところの説明を飛ばす場合とをメリハリをつけて授業を行いました。しかし、やはり大人数の授業ですので、講義に集中できてない学生さんが多いなと感じてしまいます。これは大人数の授業では仕方のないことかもしれませんが、これから工夫をしていこうと考えています。テストも中間テストと期末テストを行い、点数を付けるのが大変なのですが、すべて記述式であるテストを行っています。テストの前だけは十分勉強をしてくれている様子です。また、大人数の学科になったため、学生実験での担当分も少なくなり、学生さんたちとの交流の機会も少なく、こちらも1人1人の学生さんを把握することも難しいなと感じています。このように、新学科になって、大人数の学生さんたちがいる授業や学生実験への取り組みは、今からもっと工夫していかねばいけないことであり、学生さんたちの様子を見ながら、授業・学生実験の工夫をすすめていきたいと考えています。
大学たるもの、難しい授業をしなければ! — 応用物理学科 高木丈夫
数物系(理学系)の授業を30年間担当して思うのだが、やはり自然の摂理(それを作った神様?)を人間が理解するというのは、本質的には教育してどうにかなるものではなさそうだ。その概念を各自がいろいろ足掻いて獲得する以外に方法が無く、教えるという行為は単なる興味を持たすための補助手段に過ぎないのだと思う。
本学に赴任して以来、この大学に入学したことで研究者への道や旧帝大系大学院への進学が閉ざされるような授業はしないように心掛けてきた。(さすがに、他学科に対してはそうはしていない。)だから試験においても、数学的な記述問題の後に、「どうしてそうなるのかを説明せよ。」という論述問題を必ず加える。こうすると、真に理解していない者は、まったく歯がたたないし、カンニングもできるはずがない。だいたい、これができないことには学問的な議論は不可能と言っていい。議論の際には、いちいち計算などしてはいられないし、把握している概念こそが頼りなのである。まあ、その程度の到達点を設定しないことには大学としての授業とは言えないし、学生の質保証もあやしくなる。だから、簡単には理解できない授業をやってこその大学であろう。最近、授業が解るかどうか等の、何を調べたいのか良く分からないたぐいのアンケート等が多く、(もしかして、ものすごく低レベルの事を聞いている?)難しい授業をすることが悪とされる様な風潮は困ったものである。
今年の優秀教員への投票権を持つ学年の定期試験を採点していたとき、チョット驚いたのだが、明らかに楽しんで論述問題を解いている好成績の答案が多数あった。こちらも大いに楽しんで採点をしたのだが、これだけ物理的な解釈がよく書けていた学年は初めてである。と同時に、今年度の優秀教員のタイトルは絶対獲得できると確信した。こんな感覚は、今まで無かったことである。自分の授業がどのような学生層に支持されているのかは十分に理解している。今回、受賞したことよりも、このような授業を支持してくれる学生が学科に多数いることを嬉しく思う。
還暦を迎えた今年、受賞できたことは良い記念になった。これからの授業で、いまさら方針を変える気もない。学問が好きで授業を支持してくれる学生は大切にして、そうでない学生からは蛇蝎のように嫌われるように(メリハリのある?)授業を続けていこうと思う。毒にも薬にもならない様な退屈な授業は、最も忌み嫌うところである。
平成29年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械工学科 | 永井二郎 | 教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 葛原正明 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 磯 雅人 | 准教授 |
材料開発工学科 | 内村智博 | 教授 |
生物応用化学科 | 吉見泰治 | 准教授 |
物理工学科 | 高木丈夫 | 教授 |
知能システム工学科 | 浪花智英 | 教授 |
優秀教員
機械工学科 | 酒井康行 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 福井一俊 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 森 幹男 | 准教授 |
建築建設工学科 | 石川浩一郎 | 教授 |
材料開発工学科 | 飛田英孝 | 教授 |
生物応用化学科 | 寺田 聡 | 准教授 |
物理工学科 | 古閑義之 | 准教授 |
知能システム工学科 | 黒岩丈介 | 准教授 |
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 機械工学科 永井 二郎
1.日頃の教育に対する心構えと工夫
心構え①:学生の学習をいかに後押しできるか
「医者の役割は、治療では無く、患者本人が快復に向かうプロセスをサポートすること」と言われることがある。それと同様に教育の役割も、「教員→学生」の方向での押しつけで効果が上がるというよりも、「学生↑←教員」のように、学生が自主的・能動的に学ぼうとするプロセスをサポート(後押し)することと基本的には考えている。ただ、講義・演習を通じた大人数対象の教育や、研究室での研究を通じた教育の現場で、具体的にどうすれば「学生↑←教員」が上手く機能するのか妙案は特に無く、日々・毎年試行錯誤している。
工夫①:講義において、学生・教員双方に分かり易くするため、1回90分の講義は1つのまとまりのある内容で完結するよう全15回の構成を組む。また、毎回講義内容に沿った演習問題を宿題として課す。その宿題プリント裏面に「今日の講義の要点(必ず記載)」と「講義内容・方法に対する質問・要望等」の欄を設け、講義内容の振り返りの機会を持たせ、またなかなか口頭で質問に来ない学生の疑問や要望を把握するよう努め、次回講義の最初に必ず何らかの回答を行う。
工夫②:私が担当する熱力学や伝熱学では、「熱」や「温度」「エントロピー」といった見えない物理量を扱うため、その基礎概念や各種熱サイクルをビジュアルに分かり易く示すアニメーションソフトを活用し、板書と併用することで、難解な概念理解を助ける。
2.今後の教育への抱負
私が担当する「熱力学Ⅱ」は、2年後期開講で、機械・システム工学科の機械工学コースでは指定必修科目である。新カリキュラムとしては初年度となる。旧カリと比べて一番大きな変更点は、関連する演習科目「熱流体力学演習Ⅱ(必修1単位)」が新カリでは廃止されたことである。旧カリでは、この演習時間中に隔週で熱力学演習に学生は取り組んだ。90分の間、自力で黙々と取り組む学生もいれば、私に色々な質問をする学生、出来る友達に相談する学生等々、様々な形で熱力学の理解を深める形があった。その演習科目が無くなったため、どのように自主(自宅)学習を促すべきか少々悩んだ。とりあえず今期は、上記工夫①で述べた宿題に加えて、補足演習問題プリントを隔週で配付し、また(私としては初めて)いわゆる中間テストを実施することとした。今期の学生の理解度等をふまえて今後も継続的に科目設計の改善を行うつもりである。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 電気・電子工学科 葛原 正明
本表彰の約束により、今年も本コメント欄への投稿を求められました。ただ、担当する講義科目に変化はなく、文才のない筆者にとっては、過去の投稿に比べて気の利いた文章をすぐに考えつくわけもなく、ワープロとの侘しいにらめっこの日々が続きました。
現在担当している講義は3年生向け専門科目で、電磁波工学、半導体工学、電子デバイスの3つです。いずれも電気電子工学に直結した科目であり、モノづくり産業を支える基礎原理を教える大事な科目と自覚しています。1970年代に大学生だった筆者も、同様の講義を受けた記憶がありますが、自身を含めた当時の学生と比べると、聴講する側の学生の受講態度に差を感じます。昔の学生の方が優れていたなどと言うつもりはありませんが、モノが溢れた現在の学生には、勉強して是非理解したいと願う動機付けが欠けているように感じます。しかし、それも無理ないことかも知れません。
筆者が学生の頃の男子へのクリスマスプレゼントと言えば、プラモデルに始まり、レーシングカー、ゴム動力飛行機、電子ブロック、顕微鏡、天体望遠鏡などでした。いずれも今思えば、娯楽性だけでなく、創造性と発展性に富んだ魅力的な商品ばかりです。手作り工作に関して、模型とラジオ、模型と工作、初歩のラジオ、などの月間雑誌が街角本屋に氾濫し夢中で立読みした思い出があります。そんな環境の中、筆者はやがて電子回路工作の面白さに夢中になり、無意識のうちに工学部電気工学科を目指すようになりました。テレビはなぜ映るのか、FM放送はなぜ音質が良いのか、もっと音質の良いオーディオアンプを作りたい、エレキギターの音色を自在に変化させたい、などの素朴な疑問の一部の答えは講義の中にありました。
人間は知りたいことがそこにあるとき、欲求を満足するために努力を惜しまないはずです。したがって、その欲求の答えが講義の中にあるならば、講義は手放しで成功するはずです。学生が知りたいと感じる欲求を常に喚起しつつ生きた講義を展開したいと考えています。実際の講義はと言えば、まだ理想に及びませんが、筆者の場合は、身近な電子機器、情報機器、輸送機器などの未来イメージ創造に向けて、学生の知的欲求パワーを巧く誘導し活用したいと考えています。IOTとGPSに支えられた次世代物流とエネルギー流、味やにおいを見分けるセンサー、量子コンピュータ、人工生物や人間型ロボットの出現、無尽蔵のフリーエネルギーの開発、人工ダイヤ合成など、挑戦は尽きません。知的欲求に目覚めた学生諸君に、課題に挑む精神の大切さを伝える講義ができれば、近い未来に新たな独創技術が創造されるものと信じています。今後も講義に精進したいと思います。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 建築建設工学科 磯 雅人
1.日頃の教育に対する工夫
私が担当する授業の最初の10分間は,前回の授業の復習等を兼ねて小テストを実施しています。そのことにより,前回の授業の理解度を確認しています。学生が理解できていない部分については,補足説明をするなど,その理解が高まるようにしています。また,小テストの提出をもって出欠の確認を行っていますので,授業に遅れて来る学生も少ないように感じられます。
建築施工の授業では,「百聞は一見に如かず」を心がけて授業を行っています。授業中にサンプルを持ち込んで実際の物を見せたり,施工現場を2回ほど見学するなど,座学で学習した内容がより深まるように工夫をしています。それに対する学生の反応は極めて良好で,サンプルの提供は授業で行っている内容が,実際に目の前で見られるので,より理解が高まったことや施工現場の見学では,設計図面で記載しているものが実際はこのようになっているのかなど,新たな発見もあるようです。さらに,実務者から施工管理の面白さや,やりがい等の話を聞いて,施工管理を目指す学生もでてきている状況です。
一方で,計算を中心とした構造力学などの授業では,基本的に居眠りができないように緊張感をもった授業を目指しています。例えば,無作為に学生を指して,黒板に授業中に課した問題を学生に解答してもらうなどの取組みを実施しております。学生は,いつ自分が当てられるか分からないので,寝ている学生はいない状況で,真剣に授業に取り組んでいる様子です。そのため,授業内容の理解度の向上が図れているのではないかと考えています。また,その付加価値として,学生が理解できていない部分が,その場でわかるので,指導もしやすいメリットがあります。
2.今後の教育への抱負
何かしら物を造ることに対して興味を持って建築,土木の世界に入り込んできた学生と思われますが,近年の学生は釘も打ったことがない,ノコギリも扱ったことがない,椅子も作ったことがないなど,非常に物造りに疎い学生が多いように感じられます。そのため,少しでも物造りに興味と関心を持って頂くような授業を,3年次の授業に,ぜひ組み入れたいと思っています。例えば,簡単な鉄筋コンクリート造の梁を,今まで学習した知識を用いて学生自身に設計をさせ,その設計に基づき配筋をし,型枠を組立て,コンクリートを打設し,脱型・養生をするなどの一連の体験をさせることも良いのではないかと思っています。さらには,その製作した梁に荷重を加えて,破壊をさせることにより,地震時の梁の挙動を理解させることもできます。以上の取組みにより,構造力学,材料学,建築施工,鉄筋コンクリート構造で学習した内容が,リアリティーをもって感じられるとともに,これまで学習した個々の内容が,関連付けられて,より深く理解できるのではないかと考えています。以上のことを通じて,何か物造りに対して興味と関心を持つきっかけになればと思い,今後,そのような取り組みを実施したいと考えています。
みなさんの未来とこれから — 材料開発工学科 内村 智博
初めに、若干雑談が多い私の講義に熱心に耳を傾けてくれた3年生に感謝します。
「環境化学」の講義では,数千年前に話されていたであろうピラミッド建設の苦労話から,数万年後に語られているであろう伝説の宝探しの物語まで,私の妄想にもあきれずに付き合ってもらいました。もはや講義と呼べるか怪しい限りですが,少しでも悠久の時の流れとその中で今生きているこの時代とのつながりを感じ取ってくれればと考えていました。
以下は「環境化学」の試験問題の1つです。覚えていますか?
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【問3】
次の文章は,2050~2070年頃におじいちゃん(またはおばあちゃん)になったあなたと,小学6年生になった孫のたろう君との会話について書かれたものである。以下の①,②の空欄部分を記述し,会話を成立させよ。
たろう君
「おじいちゃん(おばあちゃん),今日ね,学校の社会の時間に「① 」っていう環境に関することを勉強したんだ!それでね,おじいちゃん(おばあちゃん)って環境のこと詳しいでしょ?だからさ,おじいちゃん(おばあちゃん)の子供の頃とか若い頃のことなんかも踏まえて,何でもいいからその事について教えてくれないかなぁ?」
あなた
「② 」(実際の解答欄はA4用紙半分)
たろう君
「そっかぁ。物事って色々な観点から捉えなくちゃいけないんだね。わかりやすく教えてくれてどうもありがとう!」
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クスッと笑える解答や思わずうなってしまう解答,あるいはもう少し未来の自分になりきって答えてくれてもいいのになぁ,という解答などなど。いずれにせよ,実に様々な未来がありました。「環境化学」の講義が今年で終わってしまうなんて,なんだかとってもモッタイナイです。
ただ一つ,共通していたのは,未来のみなさんが環境についてとても幸せそうに話をしていた,ということです(解答しないといけないから,当然と言えば当然なんですが・・・)。
はたして,みなさんの考えた未来は現実に訪れるでしょうか?
本当の答え合わせは,みなさんがその時にやってみて下さい。みなさん一人ひとりのこれから次第で,きっとその未来は手に入れることができるでしょうから。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 生物応用化学科 吉見 泰治
はじめに、今年度、優秀教員に投票してくれた学生たちに感謝いたします。私は有機化学の授業や実験・演習を担当しています。講義自体は、黒板にチョークを使って書いているオーソドックスなやり方です。講義は、学生たちが理解できるように、毎年少しずつ授業の内容を工夫していますが、いわゆるアクティブラーニングのような双方向な授業とは、ほど遠い一方向な授業だと思います。講義の内容において、まずは基礎的な有機化学のことを理解してほしいことと、双方向の授業を行うためには、学生たちが基礎的な有機化学の考え方を理解していないと無理だと考えています。しかし、学部時代に講義とテストによる反復練習で覚えたことが、それぞれの研究室に入って花開くであろうことを希望して授業を行っています。私が強く思っていることは、4年生になり研究室に入って(我々の学科では3年生の後期から仮配属して研究室に出入りしますが)、実際の卒業研究を行いながら少人数での質問や相談すること、自分で実験を考えながら実行することで、今まで授業で習ったことが理解でき、それぞれの学生の力になっていくものだと考えています。つまり、研究室に入って卒業研究することが、最高のアクティブラーニング(もしくは最高の講義)だと言えるのではないのでしょうか。学問の違いにより考え方はいろいろ違うでしょうが、それぞれの研究室の卒業研究の基礎を作る講義、さらにそれを超えて社会人になった時に力になる講義を続けていければと考えています。
教壇に立ち28年,今思うこと — 物理工学科 高木 丈夫
平成が始まった平成元年に,本学に着任した.最初に他学科の応用数学系の授業を受け持ったが,出席は取らなかったし期末試験のみ十分な点数を取ったら合格としていたものである.この当時は猛者もゴロゴロいて,学期最初の授業が終わった後で,
「期末試験で満点を取りますから,次は期末試験でお会いします.」
と言って,本当に満点を取ってくれた.地方大学にも旧帝大系の雰囲気を持つ学生が居ることを,嬉しく思ったものである.実は,授業に出ないという行為は,学問に対して自分なりの解釈を与える能力を養うには極めて大切なことであり,とくに理学系の研究者を目指すならば必須事項と思う.このことは,大学に入学した最初の専門の授業でトクトクと説明された.授業に出席して教員の説明を受けてしまうと,その教員が優秀であるほど学生の考える余地が無くなってしまう.だから,せめて自力で学問の解釈が困難な,しかし向学心のある学生には,教科書に無い教員独自の解釈を明確に話してやる必要があり,それが授業としての価値なのだと思う.
さて,出席を取らない方針が破綻し始めるのは,第二次ベビーブームに伴う学生定員の臨時増が始まった頃である.学科の人数はそれまでの倍以上の100名を超え,こうなると学問的な興味が薄い学生も多数混在するようになる.1限目の必修授業なのに,授業時間最初の出席人数は15名!という事態になったところで,出席を取る事を決断した.この時点で欠席をする学生は,自力で勉強をするでもなく,単純に勉強が嫌いなのである.さて,出席と取り出したら,優秀な学生達から文句が出た.
「教室が荒れるので,出席を取らないで欲しい.出席したい者だけの授業にしよう.」
と言うものだ.今の時代からすると涙が出るほど嬉しい意見である.さて,このような事態に対応しなければならない.そこで,今に続く授業スタイルを取ることにした.授業に興味を示す学生には居心地の良い,そうでなく授業の雰囲気を壊す学生には,徹底して嫌われる様に振る舞うと言うものである.つまり,ベストティーチャーとワーストティチャーの投票をするのなら同時受賞を目指す,という事だ.出席は遅刻を含めて厳密に取る.そうすると,教員が授業に遅れることは許されないため,電子出席が採用されて以来,1秒たりとも遅刻したことはない.授業中に授業に集中せず騒ぐ学生がいたら,指名して受講するのに必要な概念的準備が十分かを質疑応答する,この時には高校時代に獲得しておくべきことから質問を始めると懲らしめるのに都合が良い.まあ大抵は全く答えられない,だからこそ授業に集中できないのである.世の中では,これをアクティブラーニングと呼ぶかも知れない.(笑)まあ,5分も質疑応答をすると学生は降参する.このようなことを数回繰り返すと教室は平穏になり,授業を聴きたい向学心旺盛な学生にとっては好ましい雰囲気となる.やはり大学たるもの,学問が好きな学生を大事に扱うべきである.
余談:最近,教育技法がいろいろ話題になるが,チョットうっとうしい.これらの技法概念が無かった以前から名講義は在ったわけで,自在に講義ができる教員は,意識せずとも随時,必要な要素を取り入れて授業を行っているのである.まあ,昨今の状況は,そういうことがうまく出来ない教員のための指導,と思って聞き流している.シラバスの存在すら,教科題目に拘束されずに場の雰囲気に合わせて自由に授業がしたい僕にとっては邪魔以外の何物でもないが,今の時代シラバスぐらいは提出しないと叱られる.
今年度,担当している授業が旧カリキュラムで2年後期開講なのだが,新カリキュラムで3年前期開講となった.そのため本来,今期は開講しなくてもよいのだが,必修ながら合格率3割強の授業であるため,再履修が必要な過年度生(3年生)のために開講することになった.
余談:単純に授業の合格率だけで授業の質,その他を判断してはいけない.学生が勉強しないことが原因の不成績と,能力的に到達できないことによる不成績は峻別する必要がある.「この科目は勉強しないと落ちる.」とホザク学生が多数いるが,勉強しないでも通る科目が多数在ることこそが大学として問題なのだと思う.
この科目が,2年生の空き授業のコマに割り当てられたことから,2年生達をこの授業に誘ってみた.もともとこの授業は,それまでの色々な授業が解っていないと理解できないため,最初の数コマはそれまでの他の授業全体の復習も行っている.2年生が,単位にならないとはいえ受講する価値はあろうと思い受講を勧めたのである.その結果,なんとほぼ4割の2年生が参加してくれている.それも一部学生は過年度生を差し置いて,最前列で.聴講してくれている.何か,学生時代に講義を受けていた頃を思い出して,嬉しくなる.そこでは,出席調査も受講登録も無かったし,他学年の授業を受けるのも自由(単位にはならないが),大学院の授業も受けに行ったし,大学院生時代に興味のある学部授業も受けに行った.単位のことよりは,学問的な興味が第一だったのである.さて,この授業をするのが実に楽しいのである.本来,開講しなくてもよい授業を行わなければいけない面倒臭さを遥かに超えて,授業に興味を示す学生がいてくれることが楽しい.なにか久しぶりに,授業をすることが本当に楽しいと思えるのである.
教壇に立って以来,いろいろ授業の方法論は試してきたが,どうにも不可能だと思うようになったことがある.それは,教室の後方で授業を聴かない学生の耳をこちらに向けさせる事である.これはもう,どうやっても無理らしい.やはり水を飲む気が無い馬に水を飲ませるのは不可能な様である.この様な学生には,辛く当たる方が教室の雰囲気も締まるし,彼らへの効果は別にして,教室全体の教育効果は上がるようである.
さて,もう教壇に立てるのは,残す所6年間となった.今さら授業スタイルを変える気もないので,この先も,ベストティーチャーとワーストティチャーを同時受賞するつもりでやっていこうと思う.教壇に立つ役者としても,この様な役を演じるのは実に楽しいのである.ベビーフェイスを演じるのは,退屈すぎるのだ.
最後に,このような授業スタイルに対して投票をしてくれる物理工学科の学生たちに感謝しよう.今となっては,この様な授業スタイルが成立するのは,この学科だけなのだと心底思う.非数物系学科での僕の評判の悪さは,自分でもよく解っているからね.
日頃の教育に対する工夫 — 2017 年度 – ― 知能システム工学科 浪花 智英
現在担当している学部の授業科目は
- 1年後期 機械・システム工学科概論 II (全教員参加:研究室紹介)
- 2年前期 学際実験・実習(知能ロボットプロジェクト)
- 2年前期 ロボット工学基礎実験 I (電気回路 (RC回路))
- 2年後期 ロボット工学基礎実験 II (組み込み用マイコンによる周辺機器制御)
- 2年後期 制御工学
- 3年前期 現代制御理論
です。
機械・システム工学科で入学した学生も2年生となり、ほとんどの担当科目 の名称が変更になりましたが、ロボティクスコースの教育カリキュラムの中で の位置づけは以前と変わっていないため、科目の内容は特に変更することなく 対応できています。
ロボット工学基礎実験 I・II 共に2週間の実験の結果をレポートとして提出させ、その結果を元に成績の評価を行います。レポートの評価に際してチェックしている項目と、各項目に関連して必要な記述事項を段階ごとに分けてルーブリックを作成し、Web class を利用して学生に事前に提示すると共に、初回のレポート返却の際にはルーブリックによる評価結果も添付しています。
2016 年は Webclass のレポート採点システムを使ってルーブリックを基準に採点する準備を行いましたが、学生にはそれまで通りのレポート用紙による提出を求めたことと、レポートの再提出に際してかなり細かく指摘を書き込んだ上で返却を行っていることから、この採点システムの利用は 2016 年に続いて今年も見送りました。
ルーブリックの内容に関しては、昨年のレポートの状況を鑑みて、レポートで要求している記述事項をより明確化したり、一部はレベルの調整を加えることで改善を行いました。
実験の冒頭でレポートの評価にルーブリックを用いることや、実験中に記録を取る際にもルーブリックを意識するようにとの注意を与えているため、学生は事前に用意をしているようですが、提出されたレポートではそれらの評価基準はあまり意識されていないと思われます。学生の意識の改善を図ることが課題です。
講義に関しては、これまでの総合大2講義室から224M講義室に教室を移した科目がありますが、それによって黒板の面積が3分の1以下になったため、教科書から板書していた部分はかなり削減し、間を置く回数や長さを増やすようにしています。後期の科目のため、このやり方で予定通りの内容を教えられるかどうかの結果はまだ出ていませんが、今年来年と調整を行っていくもりです。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 機械工学科 酒井 康行
機械工学科の学生を対象にした物理化学,熱力学,内燃機関工学の授業の工夫について二つ紹介する.いずれも,「なぜ勉強をするのかわからない,勉強した内容がどう活かされるのか」と悩む学生への対応である.一つ目は,身近な物理現象(例えば,水の蒸発など)が上記科目で習う概念や数式で理解できることを示すことである.最新の工学への展開例についても,論文や学会が開催する講習会から情報を仕入れ,授業の合間に雑談として紹介することもある.専門的な内容に深く踏み込む応用例については,一部の優秀な学生のために,参考書やWebページなどの学部生がアクセス可能な情報源を伝え,自ら勉強することを薦めている.二つ目は,授業のはじめの10分を使い,全15回ある授業の中でのその日の授業の位置付け,その日の授業で最低限は理解してもらいたい内容について話をすることである.若くて体力のある学生でも,授業中の90分間(または授業期間中の15週間),常にモチベーションを維持して授業にのぞむことは難しい.先の見えない話の中で,次々と難しい概念や数式の説明をされても苦痛なだけである.しかしながら,この最初の10分間の話を導入することにより,授業で達成すべきこと,なぜ学ぶ必要があるのかが明確化され,学生は苦痛から解放されているようである.以上,いくつかある工夫の内の二つを紹介したが,授業手法的には特別なものではない.授業改善アンケートを通して学生の声に耳を傾け,一つ一つを授業に反映していくことが私の授業に対する工夫である.
今後の教育への抱負として,一つ考えていることを述べる.機械・システム工学科の教育理念・目的として,国際社会において活躍することができる学生の育成が掲げられている.これまで学生海外派遣プログラムに関わり驚いたことは,研究活動については最低限の英語を利用して会話が成立しているものの,ランチ,ティータイム,パーティーでは,まったく会話をすることができない学生がいることである.原因は明らかで,海外ではよく話題にあがる家族の話,日本の歴史や政治に対する自分自身の考えについて答えられないからである.学生自身が意見を持たない,深く考えたことがないからであり,日本語でも答えられないはずである.雑談ができてこそ相手との信頼関係が深まり,国際的に共同して仕事ができると考える.TOEICの点数を追いかけがちな学生の認識を改めさせるためにも,引き続き学生へ海外渡航の機会を提供し,1人でも多くの学生がランチタイムやパーティーを楽しむことができるように協力していきたい.
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 電気・電子工学科 福井 一俊
まずは優秀教員に選んでくれた3年生の学生諸君に感謝します。昨年度も書かせて頂きましたが、2年生の通年の授業(電磁気学I&II)を新たに担当することになったため、現3年生の皆さんとは1年後期から2年後期まで、特に2年後期は3科目(電磁気II、固体電子論、学生実験I)で頻繁に顔を合わせる関係になったことがこの栄誉につながったと思っています。いわゆる「知名度」だけでなく、「授業内容」でも評価してもらえていたら良いのですが…
日頃の教育に対する工夫
何度か優秀教員に選んで頂いていますが、この点に関しては、昔から殆ど変わっていません。以前書かせて頂いたことの繰り返しとなりますが、大きく分類すると以下の2点です。
- マイク音量や文字の大きさなどの授業環境の技術的な点。
- 今話している部分がなぜ今日の講義に出てくるのか、なぜこの科目に出てくるのか、他の科目とどう関係しているか等々の「現在の立ち位置」をできるだけ説明する。
そして、毎年変わらず文字の大きさが守れていたかなどが気になりつつ、特に2が出来ているか、そもそも自分がわかっているのか と自問しています。
あともう一点、私の講義の特徴として付け足すとすれば、期末試験を試験期間の1回前の週に行っていることです。こうすると、試験期間中の最後の授業では答案の返却と解説が出来ます。理由は学生時代に自分の答案がどの程度合っていたのか、どう採点されたのかがわからず不満だったためです。
今後の教育への抱負
スポーツでも勉強でも一度習得したはずのことが実は “わかっていなかった” ということを “わかる” 実体験が必要とよく言われます(私の場合はずっとその繰り返しですが)。しかし、これだけを突き詰めると、初めて学ぶときはとにかく教え込めばよいという考えも成り立ちます。この考えに立てば、”初めて学ぶ” ことを教えるのが殆どである我々教員は、”鬼コーチ” に徹した方がよいことになってしまいます。実は私の担当科目の合格率は低いらしいので、もうすでに鬼コーチの仲間入りをしてしまっているかもしれません。しかし、たとえ鬼コーチだったとしても、”わかっていなかった” の質の向上を、評価の客観性確保などと伴に努力し続けていきたいと思います。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 情報・メディア工学科 森 幹男
今回投票してくれた3年生は情報・メディア工学科としては最後の年となります(平成28年入学からは新学科)。今年度,昨年度に引き続き優秀教員に選ばれたことは大変うれしく思います。最後ということで,思っていることを正直に書きます。
授業で大切なことは,教員がシナリオ通り授業を進行したかどうかではなく,学生が何を得たかだと思います。教員側には分かり易く話す技術も必要ですし,時には夢を語り,学生のやる気を引き出すことも必要です。分からないのを学生のせいにするのは簡単ですが,教員の方にも工夫の余地があるはずです。また,学生が教科書を買わないのは,教員の方にも原因があるはずです。私が学生だったら,使わない教科書は買わないと思います。そんなふうに考えるようにしています。逆に,学生側のやる気によって,教員のモチベーションが上がり,授業に熱が入ることを考えると良い授業は学生と共に作り上げるものであるともいえると思います。
私の場合,その日の授業の概要をまとめた,A4サイズの補助資料1枚を授業の冒頭で配布しています。そこに各自メモ書きを書かせる形で,板書中心の授業を行っております。すべての板書を書き写していると要点を聞き漏らすこともあると思われるからです。また,授業の最後に行う,授業内容の理解を確認する出席課題の提出を以て出席としております。ソートして出席入力するのに,15分くらいはかかりますが,アンケート結果から学生のやる気や理解度アップには役立っていると考えられます。
私は,福井大学を卒業しましたが,情報・メディア工学科の前身である情報工学科の卒業生です。一度は国家公務員として東京にある研究所に就職しましたが,情報・メディア工学科が出来た年に福井へ戻り,教員として着任しました。正直,学生のころは,あまり好きになれなかったのですが,現在は福井大学愛に溢れております。今思えば,国家公務員を目指したのも,学生時代に聞いたM先生の一言がきっかけだった気がします。教員の一言で学生の人生が変わることもあり得ることを考えると,気が引き締まる思いがします。
今後もやる気を引き出す授業を目指して,日々,工夫・改善を行っていきたいと思います。学生の皆さんには何事にも精いっぱい取り組んで欲しいと思います。悩んだときは,相談してください。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 建築建設工学科 石川 浩一郎
昨年度に続き建築建設工学科の優秀教員に選出され、これからの教育活動の励みになります。構造力学や建築耐震工学などの授業を担当しています。これまでは、特に目新しい内容の授業を行っているわけではありません。日々の講義やゼミ、講習会などの資料作成や小テスト、演習などの準備そして少しでもわかりやすく話すことを心掛けています。例えば、具体的な例題を通して問題の解法の手順を明快に説明するようにしています。このときにローテクですが、赤、青、緑、黄色のチョークで色分けしてめりはりをつけながら板書して、大事なところはなるべくゆっくりと話すようにしています。特に、建築耐震工学の授業では、建築物の被害などの経験工学に基づく耐震設計の考え方を受講者に把握してもらいます。また、振動論などの例題・演習問題を略算的な解法を用いて精算解法を大局的に判断することにより「問う力・自分で考える力」を身に着けてもらいます。そして、解決のプロセスや判断した根拠を説明し、内容を共有することを通して「対話力・プレゼンテーション力」が修得できるように工夫しています。
大学院生のTAが演習のときに自ら学生に声をかけて積極的にわからないところを丁寧に聴きだし教えています。教えることは学ぶことにつながることが外目から見て実感できます。手間がかかっても教育の成果保証につながるように努力していきたいと考えています。
昨年度も書きましたが、遠藤周作さんは次のように述べています。楽しいばかりの仕事はいやだけど、楽しいことも案外すぐに飽きる。作家は苦しいが、たまに楽しさに出会える、苦楽しい(くるたのしい)仕事だ。私がTAの学生と「苦楽しそうに」授業や演習を行っているように、受講者が感じ取ってくれたのかと勝手に推測しています。
US + THEM、そして自己変容を遂げる知性へ — 材料開発工学科 飛田 英孝
10月にエドモントン(カナダ)で開催された学会に出席した夜、Pink Floydの元メンバーRoger Watersのコンサートを見る機会に恵まれました。タイトルは「US + THEM」。映像と音楽を駆使した壮大なステージはYouTubeにもアップされています。「私たち」と言明するとき、暗黙に「彼ら」を措定し、「我々と彼ら」の間に壁を築き分断することになります。反トランプを掲げるRoger Watersが表現したいのは、如何にこの壁を溶解し、プラスあるいはinclusiveなWEに変容させるかということでは、と感じました。(もちろん、USに合衆国の意味があることはお気づきの通りです。)
分けること、溶解すること、そして学ぶこと
何事かを理解するには、まず、分けることが必要です。分けることは分かるための方便。でも、分けることは自らを閉じ込める壁を作る作業でもあります。私たちは常に壁を溶解する作業もしなければなりません。壊すために作る。これは動的平衡の中で生きることの宿命なのでしょう。
本能のみでは生きられない人間にとって、学びとは生きることそのもの。今年、一番印象に残った本は、國分功一郎氏の「中動態の世界」。この本を読んで、学びとは本来、能動でも受動でもない中動態で表すべき行為なのではないかと思うようになりました。中動態は、今では失われてしまった動詞形態。主語が過程のなかにある、すなわち、主体の中で生じ、主体自身を変容させる営みを表す動詞です。人は学ぶとき、自分自身の身体を学びが生成する場として提供し、自分の壁を溶解させる作業をしているのではないでしょうか。さなぎが自らの身体を溶解し自己変容を遂げるように。さなぎの外壁は、そんな脆弱な溶解状態を外敵から守る防御壁。教員の仕事は、学ぶもののための防御壁となり、安全な環境を提供することなのかもしれません。
We don’t need no education
コンサートの前半を締めくくる曲は、Pink Floydのヒット曲、Another Brick in the Wall。地元の子供たちが黒地に白文字でRESISTと書かれたTシャツ姿で歌う言葉は、We don’t need no education!教師は望む形に壁をつくり、子供たちを型に嵌めることもできます。
「教育というおせっかい。そっとしてやる思いやり。」教育は、確かにおせっかいですが、前の世代からの贈り物でもあります。そして、受け取るかどうかを決める権利は受け手側にあります。
Singularityを越えて
Intelligence(知能)については、AIが人間を越える日も近いのかもしれません。米国では2011年に「今年小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は無い職業に就くだろう」という言説が飛び出しました。2013年には、今後10〜20年で米国の職業の47%がAIに奪われるという研究論文も出ています。
でも、知能指数で測れるような知能と知性(intellect)は本質的に異なります。大学教員がなすべきことは、どんな状況になってもしなやかに生き延びることのできる「知性」を学生たちの中に育むこと。キャリア・シフトに遭遇しても、それまでの知識・経験を生かして創造的な解決方法を見出し、自らを再創造できる自己変容型知性を育むことではないでしょうか。
定年まで、あと7年。学生とともに自分自身も変容させる教育と研究に挑戦したいと思っています。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 ― 生物応用化学科 寺田 聡
大学教員として最も重要な職務の一つは、大学生および大学院生の能力を高め、優れた卒業生を社会に輩出していくことです。ところで、高等教育機関である大学での教育は初等・中等教育と大きく異なっております。
単に知識や教養を伝達するだけではありません。学生が自らの力で学習を続けていくこと、自己の能力を自らの取り組みで高めていくことができるように、そんな人材として育てていかねばなりません。さらには、工学の専門家として新規の技術を開発し、これまでとは異なる考え方に基づいた新しい概念を提案して優れた仕組みを開拓していく能力も欠かせません。積極的に、未知の課題/難題に取り組み、克服できること。タフで機知に富み、創意工夫を積み重ねていける、そんな人材です。
そのような人材を育成すべく、教育に努めております。注力しておりますのは、研究室での研究教育ですが、それに劣らず、講義や実験、演習といったいわゆる授業も、大切な機会です。
学生実験では、事前の教室での説明の際のみならず、実験中にも、操作の詳細を説明するに際しては、できる限り学生に質問を投げかけます。一つ一つの操作の意味、あるいはどのような工夫で行うべきであるのか、ということです。教員からの一方的な教示では、学生の成長にはつながりません。彼らの主体的な取り組み、とりわけ、一見当たり前のことに対しても「熟慮」の上で操作するという姿勢こそ肝要であると確信しております。
講義についても同様です。私の担当しております「生物化学」では、覚えるべき知識が多く、ある部分では「暗記科目」となっているのですが、そんな中でも、考えること、特に複数の知識の活用と関連付けで暗記せねばならない量も減じますし、新しい課題に対する解決力も磨かれると存じます。
国立大学の特徴の一つに、比較的に少人数の受講生、ということがあると思いますが、学生に様々な問いを投げかけるという教育法では、少人数の受講生という利点が生きてきます。真剣に考えざるを得ないからです。
実際には、以上のような取り組みは、実際にはどれだけ有効であったのか、全くもって自信がありません。格別に目立った教育法でも、受講生の気持ちを惹きつける教育技術を持っている訳でもありませんから。しかしながら、私は講義であっても、受け身ではなく、学生が自ら考えながら主体的に取り組んでいく講義を達成できれば、という努力は続けてきたつもりです。口で言うほどは簡単ではないですが、今後もこのような意欲を持って取り組んでいきたいと考えております。
そして、次のように願っております。本当の意味で、学生から評価される教員になりたい、ということです。
優れた教育を受けた、と評価できるのは、少なくとも十年後、あるいは人生の後期に至ってからであるはずです。はじめに申しましたように、高等教育での目標は、自らを教育していける人材であり、道なる課題を主体的に解決できる能力の涵養です。
であるならば、学生からは、卒業後、かなりの年数を経た後に、我々の教育を評価してもらえることが望ましいのです。このことを心に刻み、教育に努めていきたいと存じます。
2017年12月20日
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 物理工学科 古閑 義之
私が担当の授業は、応用物理学科以外の他学科も含めた1年生の微分積分や線形代数が中心です。工学部では、これらの1年生の数学の授業に関連して、入学時の数学プレースメントテスト、達成度別クラス編成や数学ステップアップ、微分積分ステップアップ演習などの取組を行っています。昨年の工学部の改組後もいくつかの改善や変更を行っていますので、今回はその紹介をしようと思います。
日頃の教育に対する工夫 平成24年度から数学ステップアップの一部を、微分積分の授業の単位を取ることができなかった学生を対象に「微分積分ステップアップ演習」として開講するようになりました。当初は1年後期の「微分積分ステップアップ演習1、2、3」だけの開講でしたが、昨年度の改組に合わせて、2年前期にも「微分積分ステップアップ演習4、5、6」を開講しました。これにより、前後期合わせて200名以上の学生が、微分積分ステップアップ演習を受講しています。
また応用物理学科の保倉先生、田嶋先生、大学院生(ティーチングアシスタント)と協力して開室している(数学)学習支援室の名前を、昨年度から(数学・物理)学習支援室と変更しました。担当者に物理学がご専門の田嶋先生もおられるので、数学に限らず、物理などの質問があるときにも積極的に利用して下さい。これまでの利用者の中には(私には全く専門外の)卒業研究や修士論文のテーマについての質問を持ってくる「ヘビーユーザー」の学生さんもいました。もちろんそのような質問にいつも答えることができるわけではありませんが、色々な質問大歓迎です!
今後の教育への抱負
今年度から私の数学の授業の一部で、ウェブクラスの教材を使い始めました。まだ試行段階ですが、今後は工学部基礎教育支援センターの他の先生とも協力して、工学部全体の数学の授業で共通に使えるような教材を準備していきたいと考えています。また、この2年ほど(数学・物理)学習支援室の利用者数が減っているので、どうしたら多くの学生に利用してもらえるかも検討中です。
最後になりましたが、物理工学科と応用物理学科の学生の皆さんと、授業や(数学・物理)学習支援室を通して関わった他学科の学生さん達に感謝します。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 知能システム工学科 黒岩 丈介
今年も優秀教員に選出され,非常に光栄に思っているとともに,本当に自分が学生に対してその栄誉に値するだけの教育的貢献をしたのかと自省させられます.現在担当している学部の講義科目は,以下です.
- 応用数学B(2年前期,必修)
- コンピュータ演習(ロボティックコース1年前期,
物質・生命化学1年後期,選択) - 応用電磁気学(2年後期,必修)
- 応用人工知能論(3年前期,選択)
- 機械・システム工学科概論Ⅱ(1年後期,必修,全教員分担担当)
その他に,大学院前期課程の講義として脳情報学(前期),及び大学院前期課程の講義として人工知能特論(後期)を担当しています.
今年度行った工夫は,福井大学が提供しているWEBクラスを用いたアクティブラーニングの導入です.と言っても,単にどの程度WEBクラスが使い物になるのか試してみようという,気軽な気持ちなんですけどね.具体的には,事前学習用の穴埋め式テキストを自作し,それを講義前に各自が毎回事前にダウンロードし,穴埋めを行い予習してくるというものです.更に,事後学習としての小テストの模範解答を,期日を指定し確認出来るようにしました.このような機能がWEBクラスには提供されていました.その意味では,WEBクラスは,アクティブラーニングを行う上では,非常に優れた支援システムと言えると思います.しかし残念なことに,実際に学生がWEBクラスを利用出来るようになるのは,履修登録が確定してからとなります.そのため,講義開始後3週遅れとなるため,最初の数回は利用することが出来ません.これは,WEBシステムの運用方針,及び履修登録の運用方針の問題であるため改善は可能なはずなのですが,現状では改善されていません.何度か事務サイドにも相談に行ったのですが,現状は難しそうです.
このように,積極的にアクティブラーニングを導入しているのは,学生がアクティブラーニングに対してどのように感じるのかということにも興味があったからです.私が学生なら,アクティブラーニングなんかは面倒くさいからやめて欲しいとおもうだろうなぁと思っているからです.ところが非常に驚きなのですが,学生からアンケート結果を見ると,予習復習が出来て良いと,非常に好評です.このような学生の声を聞くと,今の学生は色々なものが前もって与えられ,自分で考えることを経験してないからなのかな?と心配になります.更に学生によっては,「他にどんな講義を勉強したらいいですか?」と,質問する学生もいます.こんな現状を見ると,本当に今の教育が良いのか心配になります.上からは,アクティブラーニングを導入しろや,GPAを導入しろ等,色々な要求が出てきますが,本当に大学教育にとって必要なのか疑問を持ってしまいます.社会は嫌が応にもグローバル化し,様々な文化的背景を背負った人との競争の波にさらされます.そのような厳しい社会で生き抜いていくためには,何でも最適と思えるようなものを前もって準備し提供するような教育でいいのでしょうか?その意味では,4年以降の研究室配属後の卒業研究が重要になるのだと思っています.そこで,今年度から研究室の学生には卒業資格としてTOIEC 600点以上,修士修了条件としてTOEIC 750点以上を課すことにしました.その他,卒研生は必ず地方会で発表する,修士学生は,修士課程在学中に学会発表2回以上,論文1編以上をノルマとして課しています.更に,修士学生には,スプリングプログラムを含め1度は海外へ留学すること,MOTの講義を受講することも課しています.その他に,人との交流する力を養うために,昼休み時間に,バスケットボール,ビーチバレー,筋トレ等の様々な活動を行うようにしています.このような教育活動を通して,一人でも多くの日本を背負う高度な技術者を輩出していけたらと思っています.
平成28年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械工学科 | 田中 太 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 福井一俊 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 石川浩一郎 | 教授 |
材料開発工学科 | 内村智博 | 教授 |
生物応用化学科 | 吉見泰治 | 准教授 |
物理工学科 | 玉川洋一 | 教授 |
知能システム工学科 | 黒岩丈介 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 田中 太
私は福井大学に着任して今年で10年目になります。担当している講義は、2年生前期の流れ学と熱流体力学演習Ⅰ、3年生前期後期の機械創造演習と機械工学実験です。福井大学に着任してから、初めて講義を担当するようになり、これまで四苦八苦しながら自分の講義スタイルを作ってきました。
機械工学科では、3年生の前期後期を通じて機械工学実験という実習授業を行います。機械工学実験は、これまでに学んだ座学の知識について、自ら実験することにより直接体験し、理解を深めることを目的としています。実習は6~8人の少人数グループで実施し、全部で12の実習テーマがあります。私は流れ学の分野として「船の模型実験」を担当しています。この実験では、あらかじめ用意された小さな模型船を用いて、その抗力係数を計測し、船が水面を航行する際に生じる抗力について理解することを目的としています。また、模型船を用いて計測された抗力係数が、模型船に対応する実大サイズの船の抗力を推定するのに有用なことをスケール相似則に基づいて説明しています。その後、学生たちは自分のアイディアに基づいて、新型の模型船を設計製作し、その新型模型船の抗力係数を計測します。更に新型模型船の抗力係数があらかじめ用意された模型船と比較して、なぜ小さく(あるいは大きく)なったのかについて議論するのが最後の課題です。この実験では、流れ学として教えているアルキメデスの原理、メタセンタによる浮揚体の安定性、連続の式、ベルヌーイの定理、境界層、抗力と抗力係数などの知識を総動員します。少人数教育なので、流れ学の授業と異なり、学生に問いかける形式を一部取り入れて解説を進めることができます。最後の新型模型船の設計製作は、学生たちにはとても楽しいようで、流れ学の講義では見せたことのない顔で喜々として製作に励んでいる様子を見ることができます。この実習の中で狙いとしていることは、あえて新型模型船の設計指針を学生に与えず、学生の好奇心に基づいて新型船を設計してもらうことです。学生自ら考えた改善理論に基づいて製作された船が、予想通りに高性能を示した時の高揚感と満足感も大事ですが、逆に全く性能が出ない時の失望感とそれを跳ね返して手持ちの知識を総動員して、改善に励むことが大きな教育効果を生むと考えています。実験を通して得られた知識は体験に基づいているので、座学で得た知識よりも、きっと深いレベルで学生の心に残るだろうと期待して、毎年の実習授業を進めています。
今後も講義や演習の内容に改善を続けていき、自分が学生のころに理想としていた教員に少しでも近づけるように頑張りたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 福井 一俊
まずは優秀教員に選んでくれた学生諸君に感謝します。選んでくれた学年は、2年の通年の授業を新たに担当した最初の学年です。1年後期から2年後期まで連続して会っていますし、特に2年後期は実験も含めると3つも担当することになったので、”露出度”が高まって選んでくれたのだ(つまり3年後期まで忘れないでくれていてありがとう)と思っていますが、さすがにこれでこのレポートを終わるわけにもいかないので、
日頃の教育に対する工夫
前にも一部書きましたが、
*適度なマイク音量で全員に聞こえること(鼻息が聞こえるほどの音量もまずい)。
*板書は大きく読める字で(最近、ちょっと小さく崩れてきていると反省しています)。
*なるべく板書をグチャグチャにしない(特に専門の授業でのってくるとこうなる)。
*授業全体の流れと今回の講義している部分の立ち位置を説明。
*今話してことと教科書の対応を適宜明示しながら講義。
に心がけているだけです(学生実験での工夫は先日のFD通信に書いています)。というか、これ以上授業中に気を配ることができないでいます。
今後の教育への抱負
初めて担当する科目はいろいろとわからないことだらけで、試行錯誤しながら授業しています。それにもかかわらず選ばれたのはうれしいのですが、私としては内容や講義の仕方がブレまくりで申し訳ないとも思っています。その授業に合った手法や内容は、必須科目か選択科目か、基礎的科目なのか専門性の高い科目なのか、座学なのか演習なのか実験なのか等々の条件と、学生の世代がどう学んできたか、世代の気質、同学年に何名ぐらいのムードメーカーがいるかなどの条件の掛け算から決まると思っています。ですので、世代で変化することもあり、毎年の授業中の雰囲気を掴みながら教科書も含めて都度検討をし、新たな担当科目に関してはなるべく早くよい手法を探り当るよう行っていきたいと思います。
ということで、講義ノートを作らないこと(ただの手抜き?)の言い訳もできたので、これでレポートを終わります。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 石川 浩一郎
福井大学に着任してから20年目になります。構造力学や建築耐震工学などの授業を担当しています。この20年間は日々の講義やゼミ、講習会などの資料作成や小テスト、演習などの準備で精一杯でした。授業では、具体的な例題を通して問題の解法の手順を明快に説明するようにしています。このときにローテクですが、赤、青、緑、黄色のチョークで色分けしてめりはりをつけながら板書して、大事なところはなるべくゆっくりと話すようにしています。100円ショップで買った直方体の食器洗い用スポンジと接着剤で作成した長方形断面をもつ棒状の部材模型を授業で使っています。これを使って曲げモーメントが作用した時の変形状態を視覚的に把握できるように説明しています。平面保持の仮定や曲げ変形にともなう断面に作用する引張や圧縮応力なども理解できます。この実演によるスポンジ模型の変形性状に基づき計算式の意味を何回も同じことを繰り返し説明しています。また、研究室の大学院生のTAが演習のときに自ら学生に声をかけて積極的にわからないところを丁寧に聴きだし教えています。後輩にわかってもらえることの喜びを感じ取っているように見えます。
演習のときには、TAとともにどのようなことがわからないのか予測する。質問に対してわかりやすい資料や説明を準備する。小テストや演習問題で確認する。授業の説明や例題等を修正する。そして、わかりにくいところが残っていれば反省して次の授業や演習等を改善することを心掛けています。
最近、AI(人工知能)がいろいろな分野で活用されるように開発が進んでいます。これまでの人の仕事がなくなってくることが懸念されています。AIの弱点として「意味の理解」を苦手にしていると、国立情報学研究所の新井紀子さんが述べられています。これまで私自身が授業等の体験を通して習得したことがつながってきて、頭の中でゆっくりと意味の理解や意味づけが熟成しているものと考えています。このような経験や知識などをデータベースやマニュアル、録画などで表現することは難しいのかなと思います。このことがAIに取って代わられたら、我々の大事な教育現場を失ってしまうのかなと心配してしまいます。
今後は、問いや筋道を立てて自ら考えて理解し、明快に伝える力を養うことを目的として、失敗を繰り返しながら達成する体験型の授業や実習等ができればと考えています。
最後に、遠藤周作さんは次のように述べています。楽しいばかりの仕事はいやだけど、楽しいことも案外すぐに飽きる。作家は苦しいが、たまに楽しさに出会える、苦楽しい(くるたのしい)仕事だ。私がTAの学生と「苦楽しそうに」授業や演習をしていたように学生が感じ取っていたのかなと勝手に推測しています。
「自ら考えることの重要性」 — 材料開発工学科 内村 智博
初めに、私の講義に熱心に耳を傾けてくれた3年生に感謝します。
以下は、みなさんが受けた「環境化学」の試験問題の1つです。覚えていますか?
問5
『今期の講義「環境化学」では、みなさんに対し、自ら考えることの重要性について説いてきた。今、あなたが、「環境化学」の期末試験問題を作成する立場にあるとする。あなたなら、受験生が考える能力を身につけたことを評価するために、どのような問題を出題するか。その問題文、および模範解答を記述せよ。』
講義の中で、私が本当に“自ら考えることの重要性”について説いてきたかについてはとりあえず置いておくとして、私はこの問題を出題するに当たり、次のことで悩みました。それは、“次年度、これに匹敵する問題を考え出せるか?”ということです。つまり、この問題が、おそらく私が考えられる「究極の問題」だということです。
・・・と、何だかエラそうなことを書いていますが、実はこの問題は「科学者という仕事」(酒井邦嘉著)に書かれている内容を参考にしたものです。興味があれば読んでみて下さい。いずれにせよ、上記のような問題が「究極の問題」のようです。
そこで、単位の取れたみなさんには申し訳ないですが、1つ追試です。
『上記の問題に劣らぬ問題を考えてみて下さい。』
といっても、今のみなさんなら簡単ですね。
でも、1つお願いがあります。もし思いついても(思い出しても?)、かわいい後輩たちには教えないであげて下さいね。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 吉見 泰治
今年度、私の講義を熱心に聞いて、試験に対しても真剣に取り組んでくれただけでなく、優秀教員にも投票してくれた3年生に感謝いたします。
私は有機化学の授業や実験・演習を担当しています。学科の特性上、幅広く有機化学の授業や実験・演習を学習する必要があるため、他の先生より学生さんたちと接する時間が多いかもしれません。学生実験において、手が空いている時間帯は、なるべく学生さんたちと雑談するように心掛けています。これは、授業で理解できないことやテスト前で聞きたいことがある時に、スムーズに私に相談できるようにするためです。一度も話したことがない人への質問は、躊躇すると思います。そのため、講義を素晴らしくするだけでなく話しやすい環境を作ることも重要ではないでしょうか。講義自体は何も工夫なく、黒板にチョークを使って書いているオーソドックスなやり方です。やはり、講義だけでは伝えきることが難しいため、少人数での質問や相談での理解促進が重要だと思います。
15年前ほどに他大学の博士後期課程を修了してから、福井大学に助手として着任して、7,8年ほど前から有機化学の講義をやらせていただいています。そのため、福井大学での自分の講義のやり方しか知りません。もし、機会があれば他大学の有機化学の講義の進め方などを見に行く機会を頂ければと思います。
「物理を学ぶ楽しさと大切さ」 — 物理工学科 玉川 洋一
今回、物理工学科において優秀教員に選ばれ大変光栄に思います。ありがとうございます。
さて、前回の大学院改組で新しい専攻が設置され、物理工学科から原子力・エネルギー安全工学専攻に移動して10年以上の歳月が経過しました。新しい専攻での教育は様々な分野の先生方と一緒に一から作り上げるもので、毎日が大変楽しく興味深いものでした。中でも、他大学の学生と一緒に合宿形式で学ぶ原子力関連施設での実習を新しく立案し予算を獲得して継続的に実施できていることは現在の自分にとって大きな力になっていると思います。さらに、近年では国内にとどまらず東南アジアを対象とした海外からの留学生に対する教育のあり方について日本全国の様々な方々と意見交換できる機会が与えられ、敦賀キャンパスの先生方との交流と併せて、新しい気付きの機会をいただいています。特に、3.11事故の影響で世間では敬遠されがちな原子力分野の人材育成については、全国の大変熱心な教員たちと、何より原子力を学ぼうと自らこの分野に飛び込んでくる学生たちの熱い想いに大いに助けられています。
こうして原子力の教育研究に携わるようになっても、私としては未だに物理学の世界から離れることはできません。それは、この物理学という学問領域が持つ独特の自由な雰囲気が好きなことと、この雰囲気が今まさに「原子力」の世界に必要だと感じているからです。原子力工学の世界では、規律としきたりや人の上下関係がかなり厳密です。それはこの分野がこれまで官主導で牽引され、中央省庁・電力会社・大手メーカー・下請けメーカーという縦の系列の中で形成されてきた歴史と絶対的な安全を担保するための責任体制によるものではないかと思いますが、この辺りが時に窮屈で鬱陶しく感じることがあります。ご存知の通り、物理では人の役割の区別はあるものの明確な上下関係を意識することは少なく、学生と教員はフラットな関係を保ちながら自然現象を前に共に議論し発展させる独特な雰囲気があります。学生の時期に是非このような場で学び、一個の人間としての意識を醸成し、これからの新しい科学や工学を拓いてほしいと思います。
これからも物理と原子力の2つの領域に関わりながら、学生と一緒に楽しく勉強させていただきます。
「日頃の教育に対する工夫・今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 黒岩 丈介
今年度の最優秀教員に選出され,非常に光栄に思っているとともに,本当に自分が学生に対してその栄誉に値するだけの教育的貢献をしたのかと自省させられます.現在担当している学部の講義科目は,以下です.
- 総合理数学Ⅰ(1年前期(過年度生),必修)
- 電磁気学演習II(2年前期,必修)
- 応用人工知能論(3年前期,選択)
- 機械・システム工学科概論Ⅱ(1年後期,必修,全教員分担担当)
- コンピュータ演習(物質・生命化学1年後期,選択)
その他に,大学院前期課程の講義として脳情報学(前期),及び大学院前期課程の講義として人工知能特論(後期)を担当しています.コンピュータ演習は,私が初めて受け持った他学科の講義となります.特に,物質・生命化学科の学生はプログラミングに対する予備的知識は高くないことを想定し,演習を中心にし,どうしたら分かりやすくなるのかに気を付けて講義用教材を作成しています.毎回の教材は,WEBから閲覧及びダウンロードできるようにしています.
その他の改善としては,昨年の抱負でも述べていたアクティブラーニングのための反転講義支援システムに事前学習達成度確認テスト機能等を追加し,本年度よりシステムを本格稼働し電磁気学演習IIの講義で利用しました.その結果,約9割の学生が毎回事前学習達成度確認テストに合格して講義に臨んでくれました.また約86%の学生がこのシステムに対して,講義の理解に「役立った」もしくは「まあ役に立った」と評価してくれました.その他の改善点としては,イグザム・ラッパーを電磁気学演習IIの講義で行ってみたことです.これは,中間試験・期末試験の後に,自分がどのような態度でこの講義及びテストに臨んだのかを振り返ってもらい,次のテストへ生かしてもらうためのものです.イグザム・ラッパーの効果についてアンケートを実施していないため私の主観的な評価しか出来ませんが,ほとんどの学生が真面目に自分の態度を内省しており,それをテスト前に返却し見返してもらうことでテストに対する取り組む姿勢には変化があったと思います.また,我々の立場からは,実際の勉強時間の調査,講義へ対する取り組み姿勢が分かるため,今後の講義の改善方法を考えるうえで貴重な資料となり得ると思います.
最後に,最近考えていることについて.自分の子供が大学受験生であることも一つの理由となりますが,最近のセンター入試問題を見ていると,問題量が増え,考える力よりどれだけ知識を効率的に取り込み,それをどれだけ迅速に処理できるのかといった能力を評価しているように思えます.大学入学後の教育,及び実社会では,そのような能力よりは,問題を考え,理解し,解決し,その上で新しいことを創造する能力が重要であると思います.そのような力を付けてもらえるような教育を大学は提供すべきであると考えると,高校生が求められている能力と大学・社会が求める能力には,大きな隔たりがあるように思えます.このようなギャップを有する大学生に講義を行うことは非常に難しく,様々な工夫を行って講義をしなければならないと自省しています.今後も,福井大学工学部の教育に力添え出来ることを誇りに思い,微力ながら貢献していきたいと思います.
優秀教員
機械工学科 | 永井二郎 | 教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 葛原正明 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 森 幹男 | 准教授 |
建築建設工学科 | 高木丈夫(物理工学科) | 教授 |
材料開発工学科 | 飛田英孝 | 教授 |
生物応用化学科 | 沖 昌也 | 准教授 |
物理工学科 | 古閑義之 | 准教授 |
知能システム工学科 | 浪花智英 | 教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 永井 二郎
近年、多くの先生方が導入・実施している反転授業について、検討はしてみるが踏ん切りがつかず、相変わらずの授業を行っている。その日頃の授業でも心構えと工夫を述べた後、最近感じたことを記す。
1.日頃の教育に対する心構えと工夫
心構え①:学生・教員が互いに納得できる講義となるように
教員(私)は、初回講義時に「学生の目標」を提示し、その目標達成のために出来る範囲内で最大限の援助(講義の工夫、質問への回答等)を行うことを伝え、目標達成の評価手段や合格基準(期末試験、演習問題等)を明示し、実行する。学生は、私の援助を受ける権利を最大限に活用し、自らの能力向上に利用することができる。その権利を行使しない学生(例えば、講義に欠席する、分からないのに考えない・質問しない等)は、当然のことながら「学生の目標」を達成することが困難になる。この当たり前のことを、学生・教員が互いに納得できるように、公平・誠実を旨として心がける。
工夫①:学生・教員双方に分かり易くするため、1回90分の講義は1つのまとまりのある内容で完結するよう、全15回の構成を組む。また、毎回、講義内容に沿った演習問題を宿題として課す。
工夫②:宿題プリント裏面に「講義内容・方法に対する質問・要望等」の欄を設け、なかなか口頭で質問に来ない学生の疑問や要望を把握するよう努力し、次回講義の最初に必ず何らかの回答を行う。
工夫③:私が担当する熱力学や伝熱学では、「熱」や「温度」「エントロピー」といった見えない物理量を扱うため、その基礎概念や各種熱サイクルをビジュアルに分かり易く示すアニメーションソフトを活用し、板書と併用することで、難解な概念理解を助ける。
2.今後の教育への抱負
教育の成果として、学生の自主的な学習・研究意欲が向上することが最も重要である。しかし、意欲向上を促すような具体的・一般的な方法は無いように思われ、またその評価方法は学生から受ける”感触”以外に見当たらない。ここが教育上の最大の課題であり常に頭の隅において教育活動にあたりたい。
2016年度後期、私が担当する機械系熱力学の科目を、生涯学習市民開放プログラムとして受講されている一般市民の方がいる。この科目は、熱力学第一法則・第二法則を学修済みの学生が対象で、自動車エンジン、航空機ジェットエンジン、火力や原子力発電所、エアコンや冷蔵庫の冷凍サイクルなど、具体的な熱機関やヒートポンプの基本的な性能評価計算が出来るようになることを目標としている。第一法則や第二法則はもちろん、理想気体の関係式も用いて、温度・体積・圧力・熱・仕事・内部エネルギー・エンタルピー・エントロピーといった諸量の計算をするため、機械工学科専門科目の中でも難易度はかなり高いと思う。そのため、その一般市民の方には最初、「この科目は、いわゆる教養科目ではなく、電卓を叩いて計算することも多く、なかなか難しいですけど、いいですか?」と問いかけた。その方は、「昔、大学では物理を習って、理論熱力学は学んだが、蒸気が出てくる工業熱力学に興味があって、ぜひ履修したい」とのことであった。講義では毎週、復習のための宿題を出しているが、その方の解答用紙には毎回びっしりと計算過程が書かれていて、また講義後は毎回のように急所をつく質問をされる。「興味があって学びたい」と思う方には年齢など関係なく、熱心に自主的に学習されている。その姿は、同じ教室で聴講する学生にもよい影響を与えているように思え、顧みて私自身は最近、「興味を持って学習した」と言えることがどれだけあるだろうか? と自省している。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 葛原 正明
電気・電子工学科で電磁波工学、電子デバイスという専門科目を10数年に亘って担当している。担当した当初は、携帯電話方式の違い、端末開発の歴史、携帯アンテナの正しい使い方などのからくりを講義の導入部で話すと、それまで後ろを向いておしゃべりしていた学生でも、こちらに熱い視線を向けてくれたものである。しかしこの10年で、携帯電話から棒状アンテナがなくなり、家庭の屋根から地上波アナログアンテナが消えた。システム環境の変化に対応して、学生諸君の受講態度にも変化が現れた。パソコンや携帯電話は、かつての贅沢品から必需品に変わった。その昔であれば、CPU、HDD、メモリなどの部品を自らの趣味で組み合わせた専用パソコンを自作しその性能を競うことができた。筆者が若かった頃の時代まで遡れば、オーディオアンプやスピーカを部品レベルから自作し、その性能に自己満足を覚えたものである。しかし昨今では、一部の熱狂マニアを除けば、情報通信機器を改造する余地などなくなってしまった。電気部品の機能が複雑かつ大規模化した結果、素人工作のレベルでは、歯が立たなくなったのである。このため、パソコンや情報端末を選ぶ比較基準が、性能ではなくデザインやブランドなどの要素に移行してしまった。物理系や電気系を専攻する学生ですら、パソコンや携帯電話の動作原理に興味を示せなくなりつつある事実を教員として認めざるを得なくなっているのである。
では、われわれ教員は専門科目の講義を行う上で何に留意すべきであろうか。アクティブラーニングの観点から筆者の考えを述べてみたい。アクティブラーニングでは、対話性と主体性を重視した講義が求められる。前者の対話性を促進する方法としては、演習形式やミニレポートの併用など、場面に合った方法で既に実施が進んでいるものと思われる。一方、後者の目的は学生の思考を前向きにすることである。学生が講義から何らかの刺激を受けて、自らの意志で先の展開を創造するようになれば、主体性が喚起されたと言ってよいはずである。では、学生の主体性を引き出す特効薬は何であろうか。筆者はやはり生きた人間が生の声で発する熱意と臨場感にあると考える。音楽ファンがライブ演奏に参加するのと同じ理屈である。筆者が学生だった1970年代頃の先生方は、実にのびのびと自分の信じる言葉で学生に語り掛けておられたように感じたものである。われわれ教員が講義内容の不思議さや面白さを自らの言葉で学生に伝え、学生がその真髄をわくわくしながら実感できる講義ができれば、ひいては若い世代から新たな独創技術が生まれることになるものと信じている。
「日頃の教育に対する工夫,及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学科 森 幹男
教員数の減少に伴い、新規に担当する授業が増えています。昨年度は共通教育科目を新たに1つ、さらに今年度は3年生前期の専門科目を新たに1つ担当することとなりました。3年生の担当科目が増えたことが、今回優秀教員に選ばれたことにつながったと考えると、新規担当科目の準備に費やした多大な時間と労力も少し報われた気がして、素直にうれしく感じる次第です。
日頃の教育に対する工夫については、前に具体的に書かせていただきましたので、今回は違った角度で書きたいと思います。
最近、プレゼンテーションの講演会と科研費申請資料作成の講演会の両方に参加して分かったことがあります。分かりやすく教えるためには、整理された見易い板書・資料の作成は欠かすことが出来ませんが、その方法と分かりやすい科研費申請資料を作成する方法とで似ている点が多いということです。このことを考えると、見易い資料の作成技術はこれら両方に重要なスキルであるといえます。私の場合、学生時代に塾講師をやって生計を立てていたので、学生時代はかなり苦労しましたが、そのときに見易い板書・資料の作成のスキルを少しは会得していたような気がします。
しかし、福井大学の学生だけを相手にしていると、外から見て良いところ・悪いところも分らなくなってしまいますので、イベントの開催など新しいことにもチャレンジをし続けてきましたし、参加もしてきました。授業のマンネリ化を防ぐ効果も実際あると考えております。
よくいわれることですが、教える側が楽しいと思っていないと、教えられる側が楽しいとは思いません。学生にとって学びに興味を持ち、喜びを感じることは大切ですが、そのためには、教える側の心のゆとりも大切なのではないでしょうか?
冒頭に、教員数の減少に伴い、新規担当科目の準備に費やす時間と労力が多くなったということを書きましたが、教員が心のゆとりを持って授業の準備や外部資金獲得のための書類作成を行える環境を失ってしまわないか危惧しております。ゆとりが本当に必要だったのは、教員側だったと思うのは私だけでしょうか??
今後も、やる気を引き出す授業を目指して、日々、工夫・改善は行っていきたいと思います。
「建築建設工学科から選出されて」 — 物理工学科 高木 丈夫
今回は,所属学科の物理工学科からではなく,建築建設工学科からの選出となった.
前年度に続いての建築建設工学科からの選出で,選んでくれた学生達には深く感謝したい.所属学科以外から選ばれるのは難しいだけに,嬉しさもひとしおである.
物理工学科からは常連と言ってよい程,優秀教員に選出されている.合格率が3割強の必修授業をして,概念的なことは十分に難度の高いところまで講義し,出席や受講マナーは極めて厳しく指導している.そして,研究室に来る卒業研究生の7,8割が旧帝大の大学院に進学する状況からしても,どのような学生層が僕に投票しているかは明確な事である.1年次の数物系と非数物系の混在する他学科の基礎数学の授業で,授業アンケートを取ったら,結果が真っ二つに割れて呆れたことがある.もちろん,高い評価をしたのは数物系学科の学生達であり,非数物系の学生達の評判は散々であった(授業が解らなくて面白くないらしい).僕の授業は,学問的な興味が薄い層には受けないし,そのことを自覚させる意味でも,あえてそのような授業をしている.
そこで,今回の建築建設工学科から優秀教員に選出された理由を考えて見ると,イマイチ良く判らない.ただ,ぼんやりと思うのは,授業科目である応用数学以外に,建築建設等に関連する学生が興味を持ちそうなことを話している事が受け入れられているのかも知れない.もともと,講義において授業科目に内容を限定して話すことは好まない.大学の授業ならば,周辺まで話して学生を楽しませねばと思う一方で,授業レベルを下げてまで学生に迎合する気はない.だからこそ,建築建設工学科の学生が選んでくれたことが嬉しいのである.
さて,ここまで書いてきて,来年度は所属学科の物理工学科で優秀教員に選ばれたいと思った.極めて不遜な言い方だが,物理が好きな学生は僕に投票してくれる.(授業でマインドコントロールしているからネ.物理が嫌いな学生にはマインドコントロールは効かない!笑)優秀教員のタイトルが欲しいのは,自分のためとゆうよりも,物理工学科に物理を学問として愛でる学生が集まっている事を確認したいのである.まあ,こればっかりは,自分の努力だけではできないんだけどネ.
「教育を考える:The Answer is Blowing in the Wind」 — 材料開発工学科 飛田英孝
子供の頃、なりたくなかった職業は、警察官と教師。警察官は父親の職業だったこともありますが、とにかく「権威」や「立場」で支配する人間が子供の頃から大嫌いでした。学校の先生というのは、生徒にとっては「権威」の象徴、私にとっては日々向き合う「敵」でした。中学では自分たちの意志で始めた募金活動に教師たちからクレームが付いたことに対し、高校では遠足が一方的に中止されたことに対し、職員室に話し合い(気分的には殴り込み)に行きました。些細なことですが、私にとっては「闘争」でした。結局、募金問題では新聞社に募金を届け、遠足問題では自主企画を立て、貸切バスで日曜にクラス全員で日帰り旅行を決行し、小さいながらも達成感を味わいました。
学校は十分に民主的か?
民主的市民を育むべき学校は民主的な場所でしょうか。教師という権力は、間違って行使すれば暴君になります。スタンフォード監獄実験にもあるように、ただの実験と頭では理解していても「看守役」は、看守らしい振る舞いになってしまうもの。無批判に教師らしい振る舞いをすれば、相手のことを理解しようとせずに一方的に自分を理解させようとするハラスメントになるかも。民主的市民を育むべき学校が非民主的なのは矛盾ですよね。
18歳からの参政権が導入されましたが、学校教育に必要なのは、生徒や学生が自分の頭で考えて行動する体験を通じて、自分達には(自分自身を含め)何かを変える力があることを実感できる環境を創り出すことではないでしょうか。
Bob Dylanとノーベル賞
Bob Dylanのノーベル文学賞には様々な批判もありました。「Bob Dylanにノーベル賞は必要ないが、文学界にノーベル賞は必要である」といった言説もありました。確かに、普段脚光を浴びないマイナーな文学にスポットライトをあてるという意義はあると思います。でも、忘れてはいけないのは、文学界という業界のためにノーベル賞があるのではなく、人類のためにノーベル賞があるということ。
格差社会、宗教対立、移民問題、トランプ現象・・・、今、世界は分断の危機にあります。価値観の異なる他者といかに良きつながりを創出するか、それが人類の叡智であったハズです。私には文学的価値は分かりませんが、Bob Dylanの詩には人類的問題に気付かせてくれる力があると思います。そして、The answer is blowing in the wind. 答は自分自身で事実をしっかり見て考え続ける。(Theorem [定理] は、ギリシャ語の「良く見る」に由来するってご存知でしたか?)確かにBob Dylanにとっては、ノーベル賞は不必要です。だから、彼は授賞式を欠席しました。でも、今、世界はBob Dylanの詩を必要としている、だから彼にノーベル賞を贈ったのではないでしょうか。
Teaching から Learningへ
「啓蒙とは何か。それは人間がみずから招いた未成年の状態から抜け出ることだ。未成年の状態とは、他人の指示を仰がなければ自分の理性を使うことができないということである。」(@カント「啓蒙とは何か」)「啓蒙」のところは「教育」と置き換えても良いでしょう。教育の本義は、成熟した大人に育てること。成熟とは、ベルクソンの言葉を借りれば「自分自身を永遠に創造し続ける」こと。古今東西、偉大な思想家たちが繰り返し語ってきたことは、学ぶことが人間にとって死活的に重要であると言うことです。
教師が主人公である教育は無意味です。学びは学習者のためにあります。論語にある「学而時習之 不亦説乎」 いろんな解釈が可能ですが、私は安冨歩先生にならって、次のように解釈しています。「何かを学んで、それがある時、ふと腑に落ちて自分の力になったなって感じる。それって、楽しいことですよね!」この感覚さえ身につけることができれば、教育は大成功と言えるのではないでしょうか。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育に対する抱負」 — 生物応用化学科 沖 昌也
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育に対する抱負」というタイトルでのレポートであるが、今回は「今後の教育に対する“不安”」に関して記載したい。
福井大学で講義を始めて、10年になる。だいぶん講義にも慣れ、冗談等を交えながらゆとりを持って講義が出来るようになってきたと感じている。授業改善アンケートでも、今年も改善を希望する意見はなかったので、現状の講義スタイルを続けていけば良いと考えていた。
ところが、学科改組があり、来年からは1クラスの人数が現状の約倍になってしまう。今年、新学科のオムニバス講義を1つ担当したが、講義室は広いし、学生は多いし、全く違う雰囲気である。私は、基本的に板書で講義をし、パワーポイントは使わないのだが、講義室が広過ぎて、今まで同様の板書を中心にした講義は難しいのではないかと思う。また、講義の最初に1人1人名前を呼び、三年生になるまでには全員の名前と顔が一致するようにしているが、それも人数が倍になると難しくなると思う。やはり、学生の名前と顔をきちんと覚え、コミュニケーションを取ることが、講義を進めていく上では大切だと感じている。
では、一体どうすれば良いのか?
正直なところ一度講義を行って、学生の評価を聞いてみないと分からない。従来通り、「板書中心の講義にして、黒板の字が後ろの席からも見えるように大きく書く」という方法もあるだろうが、折角の機会なので、講義のスタイルをガラッと変えてしまうのも良いのではと考えてる。私の担当講義までは、まだ半年あるので、初心にかえり試行錯誤してみようと思う。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学科 古閑 義之
日頃の教育に対する工夫
幸いこれまでに何度か、優秀教員のレポートを書く機会がありました。今回は内容の重複を避けるために、授業をする上で参考になった経験をいくつか挙げてレポートにします。
福井大学に着任してすぐの頃、学科のFD活動の一環として、他の先生の授業を見学しました。中でも大学1年生対象の高木先生の授業をよく覚えています。色々な実験器具を使い、学生たちに問いかけながら進めていく授業で、私が学生の頃に受けた授業とは全く違っていて印象に残りました。自分で同じような授業が出来る訳ではありませんが、日頃の授業だけでなく公開講座などの様々な機会に参考にしています。
アドミッションセンターの高大接続の取組みの中で、福井市内の高校で授業参観したことも参考になっています。どの授業も板書や授業の流れが本当によく準備されており、日頃の授業を準備する上での「お手本」にしています。また授業をされた高校の先生の教育に対する熱意にも、とても刺激を受けました。学生達が高校までにどのように数学を学んできたかを実際に見ることができたことも良い経験でした。
数学ステップアップ(補習授業)の世話教員としての経験も記しておきたい事の一つです。一昨年度まで授業を担当して頂いた横井先生、現在授業をお願いしている松原先生、近藤先生との打ち合わせ(+飲み会)や補習授業の見学を通して多くの事を学びました。授業のやり方や学生への接し方なども参考になりましたが、教育に対する心構えや姿勢についても学ぶ事が多かったと思います。
今後の教育に対する抱負
私は、所属する応用物理学科だけでなく、工学部全体で数学を担当しています。来年度は(1)補習授業の対象を2年生にも拡げる(2)数学の授業全体でインターネットをより活用する等の取組みを計画中です。今後も工学部の数学教育の充実に少しでも貢献したいと思います。
最期に、授業を受講した学生の皆さん、(数学・物理)学習支援室を利用してくれた学生の皆さんに感謝します。
「日頃の教育に関する工夫 — 2016年度 –」 — 知能システム工学科 浪花 智英
現在担当している学部の授業科目は
- 1年前期 機械・システム工学科概論I(分担 3/15)
- 1年後期 機械・システム工学科概論II(全教員参加:研究室紹介)
- 2年前期 学際実験・実習(知能ロボットプロジェクト)
- 2年前期 知能システム工学実験I(電気回路 (RC回路))
- 2年後期 知能システム工学実験II(組み込み用マイコンによる周辺機器制御)
- 2年後期 制御システム論
- 3年前期 現代制御理論
です。
本年度は、2年生前期の実験の課題を新たに担当することになり、また後期に実施していた実験テーマの見直しを行いました。
前期の課題は、RC 回路にサイン波を入力した時の、入力と出力の波形の振幅の比と、位相の差をストレージ・スコープを用いて計測し、横軸を周波数とした振幅比と位相差のグラフ(ボード線図)を描くとともに、ハイパス/ローパス・フィルタの特性を理解するというものです。
前期の実験では他にも基礎的な計測を行う課題がありますが、データの計測・記録、グラフの作成と言ったレポート作成の基本が身についていない学生が少なくないため、図表の書き方や、番号・タイトルの付け方の指導も含めて、学生によっては相当な回数レポートの再提出を行わせる結果となりました。
後期の実験では、昨年までは、予め用意されている実験用基板上に取り付けた H8 マイコンのプログラムを実行したり簡単に修正するというテーマでしたが、本年度からは、回路図に従って自分たちでブレットボード上に組み立てたPIC マイコンの実験回路を用いて、予め配布されたサンプルプログラムの動作を確認しながら 7 セグメント LED の発光パターンを追加したり、A/D 変換とPWM 信号生成を組み合わせて LED の輝度を動的に調整できるようにするという課題に変更しました。
実験の1週目で回路の組み立て、2週目でプログラムの作成というような時間配分を想定していますが、今の所、正規の時間ではテーマを消化しきれないという問題は生じていません。プログラムについては、サンプルプログラムの簡単な修正で達成できる課題を与えており、PIC マイコンの知識が無くても実施可能なものとなっていますが、もう少しレベルを上げた方が良いかもしれません。
前期・後期ともに、レポートの評価の項目とレベルをルーブリックの形で作成し、Web class を利用して学生に事前に提示すると共に、初回のレポート返却の際にはルーブリックに基づいて評価した結果も添付しています。残念ながら学生にはその意味が伝わっていないようではありますが、ルーブリックの活用については今後も継続していく予定です。
平成27年度 (優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械工学科 | 田中 太 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 田岡久雄 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 鈴木啓悟 | 講師 |
材料開発工学科 | 飛田英孝 | 教授 |
生物応用化学科 | 吉見泰治 | 准教授 |
物理工学科 | 古閑義之 | 准教授 |
知能システム工学科 | 黒岩丈介 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 田中 太
私は福井大学に着任して今年で9年目になります。担当している講義は、2年生前期の流れ学と熱流体力学演習Ⅰ、3年生前期後期の機械創造演習と機械工学実験です。福井大学に着任してから、初めて講義を担当するようになり、これまで四苦八苦しながら自分の講義スタイルを作ってきました。
2年生前期の流れ学の講義では、中間テストと期末テストを実施しています。成績評価には、中間テストと期末テストを4:6で案分した点数と期末テストだけの点数を比較して、どちらか良いほうを採用しています。こうすることで、中間テストを頑張って期末テストの失敗に備えようとする学生や、中間テストで高得点を取れなかったけれども期末テストで挽回しようとする意欲的な学生が出てきます。単位取得効率を追求しすぎてしまう学生の中には、中間テストは一息入れて、期末テストだけ真面目にやろうと考える場合もあるのかもしれませんが、全体を見ると学生のやる気を引き出すことに成功しているように思えます。
昨年に続いて今年も機械創造演習において、学生による講義を試しましたので紹介します。機械創造演習は機械工学科の3年生が必修科目として受講するモノづくり実習科目です。この科目は複数の教員が担当しており、それぞれ異なるものづくりテーマを学生に提示します。学生達は希望テーマを選択して3人から5人程度のチームを作り、それぞれのチームごとにテーマを実現する方法を自分達で考えて、モノづくりを実践します。その中では、講義で学んだ様々な知識が使われています。私の担当するモノづくりテーマは航空機の設計と製作です。このテーマでは、2年生で学んだ流れ学の知識を頼りにして、チームごとに航空力学について自習し、その学んだ内容について他の学生に対して講義をします。皆で航空力学を一通り学んだ後、実際に模型飛行機を設計製作して、試験飛行を行い、最終発表とデモ飛行を行います。それぞれのチームはよく準備された講義をしてくれましたが、チームごとに熱意の入れ方に差があり、非常に熱心なチームの学生達にとっては他のチームの講義が退屈に感じるようでした。また、航空機を設計する段階で、結局は自主学習により全てを勉強する必要があります。そのため、チームによる講義は必要なく、最初からチームごとの自主学習のみで良いとする意見もあります。まだ迷いながら機械創造演習を続けています。
今後も講義や演習の内容に改善を続けていき、自分が学生のころに理想としていた教員に少しでも近づけるように頑張りたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 田岡 久雄
大学に入学してくる学生の力の開きが、近年徐々に大きくなってきています。学業に優れた学生とそうでない学生の2極化が進み、授業運営が以前に比べて難しくなっていると感じるこの頃です。また、暗記すればいい知識やパターンの決まった問題には強い学生は多いのですが、創造・工夫・考察を行う能力が弱いと感じられる学生が多く見受けられます。そんな多様な学生の持つ能力を十分に引き出し伸ばすために、私が心がけていることは主に以下の2つです
(1)ミニマムエッセンシャルズの修得
私の専門分野である電力分野は、電気が社会に普及し始めた明治時代の頃から発展してきた歴史の長い技術分野の一つです。しかしながら、電力の供給体系を担う電力システムの挙動は把握できているようでいて、生き物のように成長しており、全貌を正確に捉えることはなかなか難しく、数多くの手法・見地から長年研究が行われてきています。その技術の蓄積量は多大で、学生が大学4年間で身に着けるにはやや難があります。そのため、必要最低限の知識、ミニマムエッセンシャルズを選んで教えていくことが重要であると考え、授業の中では、必ず覚えてほしいこと、身に着けてほしい定理などを明確に示しながら講義を行っています。
(2)創造的思考力・表現力の発現
電力分野は、言われて久しい低炭素社会の実現、再生可能エネルギーの有効利用に留まらず、電力の供給体制そのものを改めて考え直す必要性が生じるなど、種々の課題が見え、まだまだ発展し続けています。特に近年、電力システムに再生可能エネルギーを利用した分散型電源が普及するにつれ、従来の確定的な技術の開発では対応できない不確実な部分が多くなっています。そのような電力システムは、厳密に制御しようとすると多くの情報を用いた制御が必要になり、不確実性を許容しようとすると設備に大きな余裕を持たせなくてはならなくなります。このトレードオフのバランスを如何に保つかが大切です。このような課題に対応した技術の開発においては、柔軟な発想ができるエンジニアが渇望されています。そこで、「なぜ?」、「なに?」という疑問を学生に投げかけ、その解決策を考えさせるような時間を与えることを心がけています。そのプロセスを繰り返すことで、思考能力を養えるのではないかと考え、日々学生と接しています。
厳しくすれば萎え、甘くすれば図に乗る学生との距離感を考えながら、今回の受賞を一つのステップにして、学生の教育により一層励んでいきたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 鈴木 啓悟
教育改善という名のもとに、これまでクオーター学期制の試行やワークシートを適用した授業に取り組んできました。授業アンケートの結果から、クオーター学期制、ワークシートの適用の両方とも学生にとっては学習にプラスとなっているようです。ただし、授業で一番重要なことは、授業形式ではなく、わかりやすく実感のできる説明をする、例題に多く取り組むことだと考えています。
「わかりやすい説明」とは極めて抽象的な表現でして、適切な表現方法が見当たりません。私として心がけているわかりやすさとは、学生時代の自分が分かるように授業準備をするということです。学生時代の自分の成績は、決して褒められるようなものではありませんでした。部活の朝練を終えてシャワーを浴びた後、授業に出ます。そうすると必ず眠気が襲ってきました。そんなとき、わかりやすく、特に実感できる説明があると眠気が覚めた記憶があります。例えば曲げモーメントの説明をするときに、「薄く割れそうな板の階段があるとします。そんなときにあなたはどこを踏みますか?」と尋ねます。曲げモーメントという言葉は初耳であっても、経験的には曲げモーメントを知っているから答えが出せます。このようにして、時に割りばしを割る話、時に筋力トレーニングの話をしながら、力学の説明をしています。
さて、授業形式については、今年度から新たに「反転授業」に取り組んでいます。授業前にウェブを用いて事前学習をし、大学では演習を中心に取り組む授業形式です。すでに昨年度反転授業を実施した材料開発工学専攻の飛田教授に教えを請うて試行しています。学生にとって良い学習効果につながることを期待しての授業形式ですが、自分自身を見直す良い機会ともなりました。事前に自らの授業をビデオで撮影することで、説明の良し悪しから、時間配分の適切さ、口癖に至るまで、客観的に見ることが出来ました。
反転授業で得られた自分自身への反省を踏まえながら、今後も良い教育を目指して改善を続けていきたいと思います。。
「クリスマスと教育」 — 材料開発工学科 飛田 英孝
今年も残すところ10日余り。そんな年末にこの原稿を書いています。残り少なくなると何事も愛おしくなるもの。クリスマスって、本当に良く考えられた祭典だと思います。今年の4月、「定年まで、あと10回しか授業できないんだ」と気づいたとたん、これまで面倒に感じていた授業が急に愛おしく感じるようになりました。
弱きものは幸いなり
通常は「心の貧しい人々は、幸いである。」と訳されていますが、古代ギリシャ語から気仙沼方言に訳した山浦玄嗣さんは、本来の意味は「よわよわしい人」で「心貧しき人」は誤訳だと指摘しています。なぜ、弱々しい人が幸いなのか。多分、これは、弱い人自身が神に救済されるのだから幸せだと解釈するのが聖書解釈の王道なのでしょう。でも、最近の私は、「弱い人が身近にいてくれることが幸い」なのではないかと思っています。弱い人を助けようと思うことで、弱い自分が強くなれます。最新の心理学研究でも「他者をいたわると恐怖が弱まり希望が強まる」ことが指摘されています。
学生は、学校社会では「弱きもの」です。私の「しょうもない話」でも熱心に聞いてくれるのですから、本当に有り難い存在です。なんとか学生たちに分かってもらいたいと思うからこそ、考えを巡らせます。実は、私の研究の基本アイディアは、学生たちに理解してもらいたいと思って工夫したモデルから生まれたものです。「弱きもの」が身近にいてくれたことを本当に有り難く思っています。我が家では、子供たちが巣立ったあと、ポメラニアンが弱きものとして大活躍しています。
システムは弱者基準で
先週まで胃腸の調子が悪くて困りました。そんな時は、食べる量を減らし、胃腸の具合を最優先して生活しますよね。システムの健全性を維持しようと思えば弱いところが基準になります。でも、競争社会では強いところにばかり目が行きがちで、弱いものを助ける余裕を失うこともありますよね。「私に助けさせてください」(@夢千代日記)と言えないことが幸福感の喪失につながっているのかもしれません。
アメリカは、建国以来、移民の流入を前提とした特異な社会です。流入を前提とすれば、その中で「良きもの」を選別しさえすればシステムの維持は可能ですから、弱者のことを考えないのは、ある意味、あたりまえ。臓器移植を前提として、弱った胃を見捨てるようなものです。でも、手持ちの資源が有限であれば、その中でやり繰りしなければならないのがあたりまえ。日本社会は、後者に属するのではないでしょうか。組織のフルメンバーである限り誰も見捨てない。それが、有限システムの活動持続条件。あらゆる制度設計は、構成員の中で最も弱いものを基準とすべきだと思います。(強きものに対しては、お節介せず邪魔をしないことこそが「助けること」だと思います。)
クリスマスの幸せ
クリスマスほど、世界的に広まった行事はないのでは。クリスマスの基本は贈与。しかも贈与を受けた人に反対給付するのではないという捻り技を加えた贈与です。親は、子供たちにサンタとしてプレゼントを贈る。そして、贈り物を受けた子供たちは、その贈与をサンタ(親)に返すのではなく、成長後、次世代を託す子供たちに贈る。これって、まさに教育のことですよね。
最後に、私が留学していたMcMaster大学のスグ近くにあるトロント市の公立学校が掲げる文言をもじって書いた現在の私が理想とする学びの場の姿を。「学習や研究を好み、思考を明確にし、感動を深くし、行動を賢明にし、人と共同し、問題解決者となり、他者の文化を尊重し、高度な専門技能を持った人になることを目指して人々が集う場。」そんな場所をイメージして、残りの9年3ヶ月を過ごせればと思っています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 吉見 泰治
はじめに、今年度優秀教員に選んでいただき、また、私の講義を熱心に聞いてくれた3年生に感謝いたします。
私が日頃の教育に対して気をつけていることの一つが、講義によって得られた知識の定着です。有機化学の講義をしていますので、学生の皆さんが卒業後に化学系の会社に入った場合は、この有機化学の知識を基礎にして、営業や研究を行う可能性があります。ここで、有機化学の知識が定着していないと、徐々に仕事を任されなくなってしまうかもしれません。しかし、我々が行っている講義は一方通行であり、どのようにして知識を定着していけばいいのか、難しいところです。ラーニング・ピラミッド(「世界を変える思考力を養うオックスフォードの教え方」、著・岡田昭人/2014年/朝日新聞出版)という考え方では、講義は平均記憶率で5%ほどしかありません。しかし、その知識を他人に教えた場合は、90%になります。このような「知識を他人に教える」という機会を学生たちに持ってもらうためには、どのような仕掛けをすればよいか?私は、古典的ですが、テストだと思っています。しかも、学生同士でわいわいと盛り上がりながら、さらに教えあいながらテスト勉強をするということに尽きるのではないかと思います。テストの範囲と出る問題の明確化、テストの回数を1回だけでなく最低2回(中間テストと期末テスト)にすること、さらに、質問に来た学生が理解できるまで教え、その学生が他の学生に教えるというサイクルを回すということです。すべての学生に適応することは難しいでしょうが(特に一人でいる学生)、仲間内で教えてもらうことだけでなく教えることが、知識定着の第一歩ではないでしょうか。私の講義についても、このような仕掛けが多くできればと考えています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学科 古閑 義之
はじめに 私が担当している授業は、1年生の専門基礎科目の数学(微分積分や線形代数)が中心です。特別な授業方法を取り入れている訳ではないのですが、これらの授業は達成度別クラス編成や補習クラス(数学ステップアップ)などを行っており、結果として私自身の授業の改善にも繋がっていると思います。しかしこれらの取組に関しては「国立大学54工学系学部ホームページ」に紹介を書いたばかりです。ここではそこに十分書ききれなかった数学学習支援室(数学オープン)の紹介(宣伝)をさせて頂き、私の「日頃の教育に対する工夫」に替えようと思います。
日頃の教育に対する工夫 数学学習支援室は、月曜日から木曜日までの5限目に、工学部1号館の学生自習室で開室しています。物理工学科の保倉先生、田嶋先生やティーチングアシスタントの大学院生と私が交代で学生の質問に対応しています。利用者数は(それほど多いとは言えませんが)今年度平成27年前期で(のべ)271名でした。質問は、1、2年生の微分積分や線形代数、応用数学などが中心ですが、専門科目や卒業研究に関するものもあります。
質問への対応を通して、今の学生がつまずきやすい部分を把握し、また2年次以上の専門科目でどのような数学が必要となるか知ることができるため、私自身の授業内容を改善する機会ともなっています。また数学学習支援室の担当を始めてから、私の研究室に直接質問に来る学生も、以前より増えたように感じます。数学学習支援室を立ち上げ時は、これで学生の質問にまとめて対応できるかなと思っていましたが、思わぬ副作用(?)でした。
今後の教育に対する抱負 数学学習支援室での質問への対応を通して気がついた問題点などについて、現状では他の先生との情報交換の機会がありません。これは数学学習支援室ができた頃からの課題ですが、少しでも情報共有の範囲を広げていければと思います。
おわりに 物理工学科3年生をふくむ、私の授業の受講生、数学学習支援室を利用した学生の皆さんに感謝します。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 黒岩 丈介
今年度の優秀教員に選出され,非常に光栄に思っているとともに,本当に自分が学生に対してその栄誉に値するだけの教育的貢献をしたのかと自省させられました.
現在担当している学部教育科は,
- 総合理数学Ⅰ(1年前期,必修)
- 知能システム工学入門セミナ(1年後期,必修,全教員による分担)
- 電磁気学II(2年前期,必修)
- 知能システム実験I(2年前期,必修)
- 応用人工知能(3年前期,選択)
です.その他に,大学院前期課程の講義として脳情報学(前期),及び大学院前期課程の講義として人工知能特論(後期)を担当しています.
今年度行った工夫は事前学習の効果を検証するために,電磁気学演習IIのやり方を変え,事前学習を各自で行ってもらった上で,通常の講義を行うようにしました.具体的には,研究室学生の修士論文の研究テーマと連動させ,事前学習を支援するWEBシステムを構築してもらいました.学生をこのWEBシステムから毎回講義で使用する「穴埋め式テキスト」をダウンロードして印刷し,事前に教科書等を用いこのテキストの穴埋めを完成させ,それを講義に持参してきてもらいました.このシステムを用いると「穴埋め式テキスト」を何時ダウンロードしたのかが分かるため,明らかに事前学習をしていないと思われる学生には出席確認時に事前学習を行うように注意するようにしました.更に,このシステム上に,講義終了時に配布している事後学習課題の模範解答を答案返却後閲覧可能にしました.このような事前・事後学習支援システムを用いて講義を行い,最後にシステムについてのアンケートを学生に実施しました.アンケートから見えてきた課題は,事前学習を積極的に取り組ませる仕掛けが必要なことです.ほぼ8割の学生が,穴埋め課題を少しは考えていたようですが,半数以上を記入して講義に臨んだ学生は2割にも満たない状況でした.そこで,現在事前学習後に確認テストを行ってもらい,その成績で事前学習を実施したかを判定し,その結果を出席確認時に閲覧可能なようにシステムを作り直してもらっています.その上で,事前学習を行わない学生に対し何らかのペナルティを科すことで,実施率を向上させることが可能となると考えています.ただ,最も注目すべき点は,9割以上の学生がこのような講義スタイルに満足し,継続することを希望していることです.現在の学生の問題は,何もない状態から自分で考えて勉強する能力が欠如していることだと思います.そのような学生に対しては,自分で勉強するためには何をどんな風にしたらよいのかを教える必要があるように思えます. その意味で,事前学習・事後学習支援システムを更に発展させ,自ら考え学習していける人材の育成に少しでも貢献できればと考えています.
優秀教員
機械工学科 | 本田知己 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 葛原正明 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 古閑義之(物理工学科) | 准教授 |
建築建設工学科 | 高木丈夫(物理工学科) | 教授 |
材料開発工学科 | 植松英之 | 講師 |
生物応用化学科 | 末信一朗 | 教授 |
物理工学科 | 高木丈夫 | 教授 |
知能システム工学科 | 浪花智英 | 教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 本田 知己
日頃の教育に対する心構えと工夫
- 一方的に教えるのではなく、常に学生の視点を意識し、学生の自主性を引き出しながら、ともに考え、ともに学ぶ。
- できるだけ多くの疑問点に簡潔に答え、ときにはすぐに答えを出さずに、さらに高度な課題を与えながら、学生の理解度の向上とレベルアップを図る。
簡単な講義メモとイメージトレーニング:用意した講義資料を確認しながら、その日の講義の流れをイメージする。そのときに、簡単な講義メモ(項目と時間配分)を用意する。
穴埋め式ノートと板書:重要な部分を空欄にした講義ノートを毎時間配布し、重要な部分は板書する。板書の量は黒板上下左右4枚分に抑え、講義時間中に書いた事柄がなるべく最後まで残っているように心がける(いつでも要点の確認ができる)。
ホットな話題で気分転換:授業開始時やその中間に、講義に関連する最新の話題(日刊工業新聞などから)について話し、リラックスする時間を作る。
理解度の確認:その日のポイントを集約した15分程度の演習問題を行い、その答えの解説をその場で行うことで、お互いに理解度を確認する。
学生の振返り:その日の講義を振返り、重要項目を書き出すことで定着を促す。
最後のひと工夫:最後に講義室を出るようにし、その間に気軽に質問できる状況を作る。
私自身の振返りと気づき:毎回、簡単なアンケートを行い、そこに書かれた質問事項や要望に対する答えを用意する(わかりにくかった説明や不備、ハンドアウトの良否などの確認も)。
今後の教育への抱負
「私の教授法が原因で学生が学ぶ意欲をなくす」ことのないように、「いかにして、学生との間に信頼関係を築いていくか」を常に考えていきたい。信頼関係を築くための原則は、「コミュニケーションをとること」、「その科目を自分自身が好きになること」、「熱く語ること」、そして、「お互いに誠意を持って接すること」であると考えている。その上で、自然科学における不思議で興味深い現象に対して常に疑問を持って思考する楽しさを見出せるように、私自身が探求心を持ち、知識を豊富にしながら、モノや知識の根源と科学の奥深さを学生たちに生き生きと伝える工夫をしていきたい。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 葛原 正明
20数年間の企業研究所勤務を経て、福井大学に赴任して12年になる。いまだに企業時代に舞い戻った夜の夢をまれに見るが、企業と大学の間のミッションの違いに戸惑う場面は少なからずある。そんな中で、大学教員であることを自覚させてくれる現実の証が講義であり、学生諸君が優秀教員に選んでくれたことに満足と感謝を感じている。
半導体工学、電子デバイス、電磁波工学という講義を数年来担当している。パワーエレクトロニクスや情報通信を支える基礎理論と将来展望を学生諸君に伝えることが務めと考えている。いずれの講義科目についても、外せない予備知識や重要公式が含まれており、講義時間内で式の導出と理解のツボを全て説明できないものかと毎年頭を悩ませている。板書だけでは時間が不足するため、説明内容をプリント配布する方法も併用している。しかし、生きた言葉で説明しなければ意味がないとの思いも強く、授業で取り上げるべき課題の選択と講義方法には毎年少しずつ変化をもたせている。「より良い講義」とは何かという課題は、結論のない課題として筆者の頭に常に存在し続けている。
昨今、学生が主体的に問題を発見し解を見出すことを主眼とする能動的学習(アクティブラーニング)の実質化が議論されている。確かに、話し手の自己満足に終始した授業は排除されるべきであるが、筆者はこの動きが講義形式の大切さを否定するものとなってはならないと考えている。その目的は学生の思考を促し前向きにすることである。聴き手が講義で得た知識をもとに、より深く意味を考え、さらにはその先の展開を自ら考える契機を与えることができれば能動的学習として及第のはずである。筆者は、特に難解な知識を伝える場面で、その歴史的背景を聴き手に伝えることの有効性を感じている。歴史を身近に学ぶことにより、その将来展望を自ら描く能力が醸成されるからである。携帯電話、パワーエレクトロニクス、ハイブリッド自動車などの分野は、その発展過程においてわが国が大きな貢献を果たしてきた。にもかかわらず、いまの学生諸君は携帯電話に棒状アンテナが付属していた事実すら知らない世代になっている。先端技術の進展の歴史-かつて国産技術がどのように世界標準となる技術に育ったか、または成功することなく消えて行ったか-を正しく知ることにより、聴き手の学習意欲が正しい方向に喚起され、ひいては若い世代から新たな将来技術が生まれることになるものと信じている。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学科 古閑 義之
はじめに 私が担当している授業は、1年生の専門基礎科目の数学(微分積分や線形代数)が中心です。特別な授業方法を取り入れている訳ではないのですが、これらの授業は達成度別クラス編成や補習クラス(数学ステップアップ)などを行っており、結果として私自身の授業の改善にも繋がっていると思います。しかしこれらの取組に関しては「国立大学54工学系学部ホームページ」に紹介を書いたばかりです。ここではそこに十分書ききれなかった数学学習支援室(数学オープン)の紹介(宣伝)をさせて頂き、私の「日頃の教育に対する工夫」に替えようと思います。
日頃の教育に対する工夫 数学学習支援室は、月曜日から木曜日までの5限目に、工学部1号館の学生自習室で開室しています。物理工学科の保倉先生、田嶋先生やティーチングアシスタントの大学院生と私が交代で学生の質問に対応しています。利用者数は(それほど多いとは言えませんが)今年度平成27年前期で(のべ)271名でした。質問は、1、2年生の微分積分や線形代数、応用数学などが中心ですが、専門科目や卒業研究に関するものもあります。
質問への対応を通して、今の学生がつまずきやすい部分を把握し、また2年次以上の専門科目でどのような数学が必要となるか知ることができるため、私自身の授業内容を改善する機会ともなっています。また数学学習支援室の担当を始めてから、私の研究室に直接質問に来る学生も、以前より増えたように感じます。数学学習支援室を立ち上げ時は、これで学生の質問にまとめて対応できるかなと思っていましたが、思わぬ副作用(?)でした。
今後の教育に対する抱負 数学学習支援室での質問への対応を通して気がついた問題点などについて、現状では他の先生との情報交換の機会がありません。これは数学学習支援室ができた頃からの課題ですが、少しでも情報共有の範囲を広げていければと思います。
おわりに 物理工学科3年生をふくむ、私の授業の受講生、数学学習支援室を利用した学生の皆さんに感謝します。
「チョット飽きが来た,このエッセイを書きながら思う」 — 物理工学科 高木 丈夫
今年も,このエッセイを書く時期になった.この機会に,今までに記憶に残った3つの授業について述べてみたい.
最初は,小学3年生の事である.「さんすう」の時間,突然に開平法の計算を教えられた.クラスの中で興味を示し,その後にいろいろ計算して楽しんだのは僕だけだと思うが,それまでの授業とは極めて異質でワクワクしたものである.
今の時代で,こんな事をしたらどうなるかと思うが,当時の青森の農村の小学校に,(田舎だったからこそ適職もなく)力を持て余していた人たちが居て,退屈でこんなことしたのだと思う.
次は,高校2年の数学の時間である.最初の微分法の説明で,「大学では微分法をこの様に扱う.」と言って,ε-δ形式での説明を始めた.(ε-δ形式が分からない人は調べてみてね!)コレには本当に驚いた.高校物理と言えども,最初から微積分で扱う方が見通しが良いわけで,数学で微積分を習うより先に,物理を扱うための「出自が物理」の微積分は独習済であった.しかし,これは本当に数学としての微積分である.当時,大学で数学を専攻するか,物理を専攻するかを迷っていたのだが,「自分は数学を専攻としてはいけない.」ということが明確に判った.この1コマの授業は,自分に正しい選択を与えてくれた貴重な授業であった.
最後は学問的な話では無いが,高校3年のとき毒気たっぷりの授業をする教員が,「ダメな人間は,たった今すぐダメになった方がよい.後になるほど回復が難しい.」と言い放った.酷いことを言うなあ,と当時は思ったものの,大学に進んでから今まで,見回してみると,確かに正しい格言ではあった.
そのあと,高校を卒業し,大学や大学院で学びはした.しかし,そこで学んだことはその当時の授業や知識の延長上のものでしかなく,上記3件以上のインパクトを与えるものでは無かった.
今年も優秀教員に選ばれて,自分の今までの教育的方針を思い返してみるに,やはり上記3件の出来事は,教壇に立つに当たっての心構えに強く影響を与えている.
僕の授業方針は,
- 数学や物理の面白さを,難しいことも含めて最大限に伝える.
- 学生は十分に厳しく扱う.学問以前のしつけも同様.
- Best teacher賞 と Worst teacher賞 を同時受賞するつもりで望む.
である.しかし,授業内容とは別に,必修科目での現役生合格率が 1/3 という授業をしながら,優秀教員に選んでくれる物理工学科の学生たちこそが,本当は褒められるべきなのだと思う.
さて,どのような階層の学生が僕に投票してくれているかは想像がつくと思うが,昨今の僕への票の集まり方や学生の学力低下からして(コレは本学だけの問題ではないが),そろそろこのエッセイを書く機会は終わりになるのではないか,と感じている.それならば退屈しのぎに,パワーアップしたヒールに転じて教壇に立とう.ベビーフェースは,僕には役不足だし,役回りでもなさそうだ.
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 材料開発工学科 植松 英之
如何に考えさせて、取り組ませるか?を考え教育している。例えば、学生実験の場合、人数が少なく身の周りにあふれている事象が題材となるため、考えさせるポイントを引き出すことは比較的容易で、また学生が自発的に行動できるため、比較的教育がし易く、また、教育効果は非常に高いと思われる。一方、ほぼ一方通行となりがちな座学の場合、80人の心をつかみ、能動的に取組んでもらうことは不可能に近く、教育効果を高めることは非常に難しい。つまり、得意ではない、あるいは好きではない分野に興味を持って面白いと感じてもらうための90分15回の講義を、如何に作り上げるか?に尽きると思われる。
5年程前から講義を担当しており、教員1年目の講義は酷い内容だったと鮮明に記憶している。受けている学生は全てが敵のように見え、例年行われている授業アンケートの結果は、散々たるものとなると半ば期待していた。しかし、コメントはなく平均すると”普通”の評価だった。アンケートに答えることを煩わしいことと思えば、“普通”と評価されたということは、“聞いていない”とか“興味がない”と評価されたと解釈できる。学会発表や講演会でも同じように、質問やコメントが無い虚しさと同じことと理解した。聴講者のことを思えば、少しでも理解できないと、考えることをやめ、聞くことをやめてしまうことは普通のことである。さらに、学生の場合、内容だけでなく、板書の見やすさ、スピード、少しの違和感によって放棄しがちであることから、90分15回分のドラマを作り演じることは並み大抵のことではない。従って、現在までに、客観的な立場で講義内容を見渡し、ストーリ、論理、解釈、書きやすい板書の配置等をイメージしながら準備をし、講義に望んでいる。
今回、優秀教員として選出された理由に、講義が「わかりやすい」、「丁寧」と評価されたことは、これまでの取組が伝わった証拠であり、方向性は間違っていなかったと感じている。一方で、「講義で使用しているスライドのペースが速いため、遅くして欲しい」などと改善点を挙げてくれたことは、非常に嬉しく思う。来年度から始まる新カリキュラムの実施を含め、対応していきたい。なお、授業中も含め「スライドをデータで欲しい」と言ってくれる学生達へ、嬉しい希望だけれど、講義の中で完結できるよう取組んでみてと、この場を借りて伝えます。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 講義に関する私の思い」 — 生物応用化学科 末 信一朗
まずは今回、優秀教員に選出されたことについて、私の講義を聴いて下さった学生諸君に御礼申し上げます。私は、専門科目の講義に関しては前期の必修科目「応用微生物学」と後期の選択科目「微生物工学」では、全く異なったコンセプトで行っています。応用微生物学は、大学でバイオを冠する名前の学科を修めたものとして、最低限これだけは知っていてほしいという微生物に関する基礎知識をしっかり身につけてもらうという考えで、微生物の細胞構造、生態。分類などを中心に講義しています。後期の微生物工学では、墺よ微生物学で学んだ知識を前提に発酵生産から酒類の醸造などを講義しています。後期の講義では、単なる知識の伝授ではなく、私自身の企業での実体験をもとにした実際の社会においての技術者・研究者の在り方を説き、私の持論である「技術者ど根性」ではない柔軟な産業人材の育成を目指しています。このコンセプトが少しでも学生諸君にわかってもらえたとしたら、それは無上の喜びです。世の中に出ると「技術者ど根性」だけでは通用しません。そこには労務管理、経営といったことだけでなく、国際情勢、自他国の国際戦略、経済、グローバリゼーションといった大きなものからマーケッティング、消費者動向、顧客動向など当然目を向けなければならないものが技術の前に立ちはだかります。高い技術力で良いものを作ることも必要ですが、技術力だけでは通用せず敗北することもあります。そんな感覚を講義から感じ取ってくれたらと思います。併せて、私がいつも強調していますが、歴史もしっかり学んでほしいです。こんなことを言っていますが、その一方で大学というところは本来の多様性が必要であり、基礎に根ざした基盤的な科目や高い専門性を磨く科目があるのも当然ですし重要だと思います。その中で、こんな講義をやって、「ずる」しているのが私です。勿論漫談などではなく、誰もが話をしない観点からの講義を今後も目指していきたいと思っています。
「チョット飽きが来た,このエッセイを書きながら思う」 — 物理工学科 高木 丈夫
今年も,このエッセイを書く時期になった.この機会に,今までに記憶に残った3つの授業について述べてみたい.
最初は,小学3年生の事である.「さんすう」の時間,突然に開平法の計算を教えられた.クラスの中で興味を示し,その後にいろいろ計算して楽しんだのは僕だけだと思うが,それまでの授業とは極めて異質でワクワクしたものである.
今の時代で,こんな事をしたらどうなるかと思うが,当時の青森の農村の小学校に,(田舎だったからこそ適職もなく)力を持て余していた人たちが居て,退屈でこんなことしたのだと思う.
次は,高校2年の数学の時間である.最初の微分法の説明で,「大学では微分法をこの様に扱う.」と言って,ε-δ形式での説明を始めた.(ε-δ形式が分からない人は調べてみてね!)コレには本当に驚いた.高校物理と言えども,最初から微積分で扱う方が見通しが良いわけで,数学で微積分を習うより先に,物理を扱うための「出自が物理」の微積分は独習済であった.しかし,これは本当に数学としての微積分である.当時,大学で数学を専攻するか,物理を専攻するかを迷っていたのだが,「自分は数学を専攻としてはいけない.」ということが明確に判った.この1コマの授業は,自分に正しい選択を与えてくれた貴重な授業であった.
最後は学問的な話では無いが,高校3年のとき毒気たっぷりの授業をする教員が,「ダメな人間は,たった今すぐダメになった方がよい.後になるほど回復が難しい.」と言い放った.酷いことを言うなあ,と当時は思ったものの,大学に進んでから今まで,見回してみると,確かに正しい格言ではあった.
そのあと,高校を卒業し,大学や大学院で学びはした.しかし,そこで学んだことはその当時の授業や知識の延長上のものでしかなく,上記3件以上のインパクトを与えるものでは無かった.
今年も優秀教員に選ばれて,自分の今までの教育的方針を思い返してみるに,やはり上記3件の出来事は,教壇に立つに当たっての心構えに強く影響を与えている.
僕の授業方針は,
- 数学や物理の面白さを,難しいことも含めて最大限に伝える.
- 学生は十分に厳しく扱う.学問以前のしつけも同様.
- Best teacher賞 と Worst teacher賞 を同時受賞するつもりで望む.
である.しかし,授業内容とは別に,必修科目での現役生合格率が 1/3 という授業をしながら,優秀教員に選んでくれる物理工学科の学生たちこそが,本当は褒められるべきなのだと思う.
さて,どのような階層の学生が僕に投票してくれているかは想像がつくと思うが,昨今の僕への票の集まり方や学生の学力低下からして(コレは本学だけの問題ではないが),そろそろこのエッセイを書く機会は終わりになるのではないか,と感じている.それならば退屈しのぎに,パワーアップしたヒールに転じて教壇に立とう.ベビーフェースは,僕には役不足だし,役回りでもなさそうだ.
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 浪花 智英
現在担当している学部の授業科目は
- 1年前期 情報処理基礎科目(共通教育科目)
- 1年後期 知能システム工学入門セミナー(全教員参加:研究室紹介)
- 2年前期 学際実験・実習(知能ロボットプロジェクト)
- 2年後期 知能システム工学実験 II (組み込み用マイコンによるリアルタイム制御)
- 2年後期 制御システム論
- 3年前期 現代制御理論
です。
講義科目として制御関係の科目を担当していることもあり、1年後期の入門セミナーの時間を利用して、制御工学についての導入的な説明と、海外のサイトで公開されている Java applet を利用して、バネ・マス・ダンパー系におけるステップ応答と周波数応答(古典制御)と、倒立振子の安定化(現代制御)のシミュレーションの様子を紹介するようにしています。
「制御システム論」「現代制御理論」の両科目共に、単位の取得が難しいからという理由だと思いますが、受講する学生が極端に減少していた時期がありましたが、入門セミナーで紹介を始めてから普通の選択科目並の
受講者数に戻ってきているように思います。
これらの科目は説明に数式を多用する必要があるため、講義は板書を中心に行っています。教科書の内容をなぞる形で授業を進めていますが、教科書では省略されている数式の展開過程を丁寧に説明するようにして、きりの良い所で学生の質問を受け付けるようにしています。また、ほぼ毎週宿題を課し、集めた宿題のレポートはその内容をチェックして評価結果と共に翌週に学生に返却しています。間違いの多かった課題については授業の冒頭で簡単にコメントしたり、解説する時間を設けるようにもしています。成績の評定は、中間と期末の2回の試験と、出席や宿題の評価結果を総合的に判断して決定しています。 正確なところは調べていませんが、試験の成績とレポートの評価結果には強い相関があるようで、試験を行わずに宿題のレポートの評価だけで成績を付けても良いような感じもしていますが、そこまでの決断をするのはなかなか難しいとも感じます。
教え方としては昔からある講義のやり方そのままですが、科目の特性に応じて、学生に伝わりやすい授業方法を選んでいるつもりです。また、板書する分量の調整や例題の取捨選択といった、細かな工夫は今後も続けていくつもりです。
平成26年度(優秀教員称号授賞式)
The teacher of the year
機械工学科 | 竹下晋正 | 教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 葛原正明 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 鈴木啓悟 | 講師 |
材料開発工学科 | 内村智博 | 准教授 |
生物応用化学科 | 沖 昌也 | 准教授 |
物理工学科 | 古閑義之 | 准教授 |
知能システム工学科 | 黒岩丈介 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 竹下 晋正
授業、研究指導ともに「自ら問い」、「考え」、「論理的に表現」する能力を学生自身が「育める」ように、いかにして「教える」か、という難問に対して自分なりの解答を暗中模索してきました。教育では、近視眼的に「効率・効果」を求めれば求めるほど、本来の目標とするところからますます遠のいていくように思います。そこで近年は授業、研究指導ともに、ともすれば安易に「効率・効果」を求めようとする自分自身にブレーキをかけ、逆に極力「待つ」ことを心掛けるようにしてきました。以下の私なりの方策が、私と同様に暗中模索されている方々の一助となれば幸いです。
授業は、板書を主体にして行い、学生のノートへの転記完了を必ず確認してから内容の説明に入るようにしています。板書を主体にしているのは、学生は手を動かすことで脳活動が刺激され、次の「内容の説明」に対する準備と理解度促進が期待されるためです。また、重要度が高いにもかかわらず、学生の表情から理解度が芳しくないと推察されるときは、表現方法を少し変えて「内容の説明」を繰り返すようにしています。更に、専門科目「機械材料」では、学生の復習時の便宜を考え、板書の際に教科書のページ数・図表番号や配布プリントの図表番号をまず記述するようにしています。加えて、黒板には「キーワード」や「キー・ポイント」、及びそれらの関連・関係性のみを箇条書きにし、完成形としての文章は口頭で述べるだけで敢えて記述しないようにしています。学生には、復習時に完成形の文章を自分なりに作成することを勧め、そのことが期末試験時の記述問題に対する準備にもなることを強調しています。また、専門基礎科目「微分積分Ⅱ」では、「計算力」のみならず「論理的な思考力・記述力」の重要性を説き、中間・期末試験時には公式の導出問題を必ず出題するようにしています。加えて、公式を導出できてこそ、それを実際の問題に適用できる応用力が培われることも繰り返し強調しています。
余談ですが、授業中の私語に対しては厳しい態度で臨んでいます。まず「質問かどうかの確認」をし、質問でないならば私語は「他の学生の聴講の妨げ」になり、「他の学生の授業を受ける権利」を侵害していることを指摘しています。
研究指導では、こちらが学生にまず「問題提起」をして「考え」てもらい、結論の「説明」を求めるようにしています。私自身も「考え」ますが、私なりの結論は学生とのディスカッションの中で全部は出さず、ヒントの形で小出しにして学生が「育つ」ことを「待つ」ように心掛けています。
最後になりますが、現在の私が「在る」のも学生のお蔭です。今後も、学生の将来を見据えた教育を念頭に置き、学生とのかかわり合いの中で私自身も育っていきたいと願っています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 葛原 正明
優秀教員に選んでいただき感謝している。「半導体工学」、「電子デバイス」、「電磁波工学」などの3年生の専門科目を中心に担当している。各科目には難解な法則や原理が含まれており、講義方法については今も試行錯誤を続けているのが実情である。ただ、少しでも私の講義が学生達の心を前に拓き、将来目標に目覚める助けになったとすれば、教員としてこの上ない喜びである。参考になるか分からないが、私の変哲ない考えを以下に述べてみたい。
毎回の講義では、そのまま講義に入らず、冒頭に当日の講義を総括することが大切だと感じている。その日の講義で学ぶ内容が、自然環境、社会、企業活動などとどのように関連するかを予め知らせることで、学生の興味が刺激されるはずだと考えるからである。具体的で身近な話題を学生に提供することにより、無味乾燥な原理法則に新たな魅力と親近感を加えることができるはずである。では、この冒頭部の話に、どの程度の時間を費やしてもよいか?目安はないが、有効だと感じれば、時間に縛られずに講義のもつ意味と将来役立つ展望を対話の中で拡大してもよいのではないかと考えている。電気・電子工学科の講義は、電気製品をはじめ、情報機器やエネルギー関連機器などの中で活用される。その実用化に至る段階で、過去にどんな課題が存在し、その課題がどれだけ実用化を遅らせ、また実用化後に問題を起こし、それらがどのように解決されたかなど、平易な言葉で学生に伝えることができれば、単に知識量を増やすこと以上に有効ではないかと考えている。動機づけのない知識は、学生の頭に一定時間留まるかも知れないが、消えてしまえばそれまでである。一方、強い動機づけを伴う生きた挿話は、知識の詳細を忘れたとしても、動機づけによる連想から再度の学習意欲を喚起し、その学習を容易にするはずである。幸いなことに、私は学生時代に多くのユニークな講義を受け、刺激を受けた印象的な先輩先生の言葉の多くを未だに記憶している。30~40年前の大学にも当然シラバスはあったはずだが、先生方は実にのびのびと熱意をもって自分の言葉で語っておられた。科学技術の進歩に向けた期待、気合い、メッセージの大きさこそが、講義内容に重みと未来への夢を与えていたものと思われる。通信教材ではなく、生きた人間がリアルタイムで行う講義の真髄がここにあるのではなかろうか。
今年のノーベル物理学賞は半導体分野から3名の日本人が受賞した。講義内容に関係する身近な分野の受賞ほど直接的に大きな感動を呼ぶものはない。電気電子分野を志す若い世代への影響力もこの上ないはずである。教育と研究を牽引する大学教員として、これからも学生諸君の意欲を大いに刺激し、前向きに課題に挑戦する勇気の尊さと不断の努力の大切さを粘り強く伝えていきたいと思う。
「日頃の教育について」 — 情報・メディア工学科 吉田 俊之
現在の優秀教員制度になって以来、光栄にも連続して選出頂く結果となり、本レポートもこれで6回目である。一昨年のレポートの段階で「いよいよ書くことがなくなった」旨を報告しており、今回はネタも尽き果てたため、以下、某所に書かせて頂いた内容と重複することをお許し頂きたい。
小職は、専門の必修講義として「確率統計」と「計算機の中級プログラミング」を担当している。特に、後者は情報の学生が備えるべき最低限のスキルであって、これができない学生を卒業させるわけにはいかない。こんな指命感も手伝って、特に必修科目では、毎回、演習問題を解いてレポートとして提出させ、
- 次回の講義では、当該レポートの内容を問う小テストを実施し、
- レポートと小テストの一方でも不合格の場合は、当該講義回は「欠席」とする、
- しかも、徹底した zero tolerance で。
という「厳しい青鬼」に徹している。本学に赴任した直後に「ここの学生は、ちゃんとやれば出来るだろう」と直観し、「厳しく接しよう」と心に決めたためでもある。
一切「媚びる」ことのない「青鬼」に徹すると学生からは嫌われるだろう、と思っていたが、実際には学生からの評判は思ったより悪くないようで、こうして連続して Best Teacher of the Year に選出してもらっている。これまでに寄せられた学生からのコメントでは、「厳しいけれど、小テストがあるので毎回きちんとやっておけば、単位が取れていい」とのことである。「学生に媚びてはいけない。厳しく接する」ことを旨として実践し、一方で、こうして Best Teacher of the Year に選出してもらうことで「間違った教育はしていない」と、どこか自分を安心させてきた。
何と浅はかだったのだろう、「学生に厳しく接することこそが、学生に最大限に媚びている」という事実に全く気付いていなかった。ここの学生は「ある程度の厳しさを望んでいる」のであるから。「やれば出来る。しかし、強制されないとやらない/やれない層」に対して真に必要な教育とは、「個々の科目の単位を取らせること」ではなく、「自律・自発的に学ぶ態度を培うこと」である。その意味で、真のBest Teacher of the Year とは、「昔ながらの放任主義(失礼!)でも、きちんと出来るようにさせられる先生」であろう。この域には到達できない。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 鈴木 啓悟
福井大学に着任して3年目を迎えました。このタイミングで優秀教員に選出されたことはとても嬉しく思っています。といいますのも、今年の3年生は専門基礎教育科目から、専門科目まで、1年次から私の講義を受講していますので、それらを含めての評価であったからです。
1年次授業で担当している必修科目の線形代数Ⅰと物理学Ⅰは、前期開講であり、大学に入って最初に学ぶ科目です。これら講義を担当するうえで、自分に言い聞かせているのは、「最初の講義が嫌になってしまったら、他の科目への学習態度にも影響が出うる」ということです。建築建設工学科へ入学した学生の最初の教育を仰せつかっている以上、私の責任は重大であると考えています。「得意・不得意」というのは誰にでもあります。物理より化学が得意な学生が、当学科にも入学してきていることでしょう。そのような学生が大学の物理学を勉強するうえで、まずは当該科目が “不得意であっても、嫌いにさせない”、そこが教員として重要なスタンスであると思います。
実際の教育内容の工夫といえば、昨年度に申し上げました、ワークシート・板書併用型講義を力学系講義(*)に取り入れていることが挙げられますが、その他に90分講義の中盤で一息入れることを試行しています。それは講義に関連した話でも、全く関連しないことでも、脳が一休みできるなら、どんな内容でも良いと思います。90分間通して集中力を持続させることよりも、約45分で一区切り入れることのほうが、理解度向上に資するのではないでしょうか。
今年の3年生が1年生のときに、私の授業を受講したとき、緊張した面持ちで授業をしている教員かと思ったかもしれません。今はどうでしょうか。慣れ切った顔で講義をしていないでしょうか。慣れ切った顔で講義をしてしまっていては、危ないのかもしれません。初年度のときの姿勢を忘れず、今後も気合をいれて授業内容を改善していき、さらに良い教育とは何かと自問しながら、講義を行っていく所存です。
優秀教員
機械工学科 | 田中 太 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 勝山俊夫 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 山田徳史 | 教授 |
建築建設工学科 | 小林泰三 | 准教授 |
材料開発工学科 | 飛田英孝 | 教授 |
生物応用化学科 | 吉見泰治 | 准教授 |
物理工学科 | 高木丈夫 | 教授 |
知能システム工学科 | 浅井竜哉 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 田中 太
私は福井大学に着任して今年で8年目になります。担当している講義は、2年生前期の流れ学と熱流体力学演習Ⅰ、3年生前期後期の機械創造演習と機械工学実験です。福井大学に着任してから、初めて講義を担当するようになり、これまで四苦八苦しながら自分の講義スタイルを作ってきました。
今年、初めて試した機械創造演習の学習方法について紹介します。機械創造演習は機械工学科の3年生が必修科目として受講するモノづくり実習科目です。この科目は複数の教員が担当しており、それぞれ異なるものづくりテーマを学生に提示します。学生達は希望テーマを選択して3人から5人程度のチームを作り、それぞれのチームごとにテーマを実現する方法を自分達で考えて、モノづくりを実践します。その中では、講義で学んだ様々な知識が使われています。
私の担当するモノづくりテーマは航空機の設計と製作です。このテーマでは、2年生で学んだ流れ学の知識を頼りにして、チームごとに航空力学について自習し、その学んだ内容について他の学生に対して授業をします。皆で航空力学を一通り学んだ後、実際に模型飛行機を設計製作して、試験飛行を行い、最終発表とデモ飛行を行います。昨年までは、私が航空力学の講義を担当していましたが、今年から学生自身による講義に切り替えました。当初は、学生が皆に分かる講義をきちんと準備してくれるか心配していましたが、それは杞憂に終わりました。皆、それぞれ予習をして、講義を実施あるいは受講し、実際の設計に備えて復習もするという良い流れが実現できたようでした。この演習はそもそも学生が自分で演習テーマを選択しているので、学生自身のモチベーションが高く、それが良い結果をもたらしたように思います。
今年のこの体験を通じて、一般に講義とは教員が黒板の前で学生に対して教えるものだと思っていましたが、この概念自体を変えられる可能性を感じました。講義とは学生達が構築するもので、教員はそのガイド役に徹しても成り立つのかもしれません。私が担当している流れ学をチームを組んだ学生達が講義したらどうなるのでしょう?プレゼンテーション能力や、自習能力は間違いなく付くと思います。教員は学生の講義準備を助け、講義中の授業進行を助ける役になります。毎週、講義を担当する学生チームと2時間程度の授業前ディスカッションをした後に、学生チームが講義に臨めば、立派な講義内容になるのかもしれません。しかし、大学では教員の講義を受講できるから授業料を払っていると学生も両親も思っているでしょう。上記の航空力学でも学生達の不満を一部では感じました。「なぜ先生が講義をしてくれないのか?」と。可能性は感じていますが、まだとても学生に流れ学の講義を明け渡す気にはなれません。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 勝山 俊夫
今回優秀教員に選ばれ、教育に対する工夫と抱負を書かせていただける機会を与えられましたが、私自身はこの3月に定年退職し大学を去る身ですので、もう少し別の立場から私が知っているある方の話を交えて、むしろ教育に対する反省を書かせていただきます。
私は、大学を修士課程で修了し民間会社に入りましたが、大学で物理を学んでいたころ、研究室に一年先輩の小池さんという方がいました。在学時は、それほど印象に残る交流はありませんでしたし、小池さんは、やはり修士課程を修了後、埼玉県の高校に教師として就職したという程度しか知りませんでした。それから、30年近く経って、朝日新聞をふと見ると、その文芸欄に「現代日本を代表する歌人の一人」として、小池光氏が大きく紹介されていました。研究室の先輩の小池さんその人でした。風の便りに、小池さんは高校の先生をしながら短歌を作っているということは聞いていましたが、これほど知られるようになっていたとは驚きでした。事実、彼は、芸術選奨新人賞、斎藤茂吉短歌文学賞、迢空賞など様々な賞を受賞しており、昨年春の叙勲ではミニ文化勲章と呼ばれる紫綬褒章を受章しています。もしかすると、これから長生きすれば文化功労者くらいに選ばれるかもしれません。最近になって初めて知ったのですが、彼の父上は、直木賞作家とのことで、もともと文才はあったのかもしれません。
小池さんの歌集に、1978年刊行の第1歌集「バルサの翼」があります。短歌の世界と無縁の私が言うのも、もちろんおこがましいのですが、「バルサの翼」という韻律が、ギリシャ神話の「イカロスの翼」を連想させて大変印象に残りますし、昔よく子供が作っていた模型飛行機のバルサ材のことであるにもかかわらず、言葉自身が特別な意味を持っているかのように感じられます。この歌集の題名になった短歌が、
「バルサの木ゆふべに抱きて帰らむに見知らぬ色の空におびゆる」
という歌です。たぶん小池さんの子供の頃の心象風景を歌ったものと思いますが、同世代の私にとっても、模型飛行機を作るバルサの木に託して、純粋な少年の心に同時に内在する希望と不安を象徴的に表した大変引かれる歌になっています。
さて、定年を迎える頃になって、私自身色々な考えが以前と違ってきたような気がします。とくに、大学に7年前に移ってからの「教育」に関する考え方です。「教育」とは、何でしょうか。ここで紹介した小池さんが、いわゆる良い教育を受けていたとは、失礼ながら思えません。とくに、当時は、大学紛争真っ盛りで、大学がロックアウトされていた間は、授業など全くありませんでした。しかし、小池さんを初め、そういう状況にいた学生は、その後、たぶん挫折も、失敗もあったと思いますが、それぞれ一生懸命に人生を切り開いてきたと思います。最近になって考えることは、教育とは、これからの人生を切り開く糧を与えるものではないだろうかということです。今も記憶に残っている私の先生は、たとえば、数カ月にわたって、教科書などとは別に、ずっと小説の「二十四の瞳」を読み聞かせてくれた中学の先生のように、何か生きる上での糧を与えていただいた先生です。糧を与えられる人は、たぶん目立つような先生や偉い先生でも何でもなく、「二十四の瞳」の大石先生のように人生を愚直に真面目に送ってきて、全人格的に学生や生徒に向き合える人のような気がします。こう考えますと、大学の教員生活のこの7年間で、残念ながら、私はそれができなかったと思いますし、このことが私の教育に対する最大の反省です。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学科 山田 徳史
自分で言うのもなんですが、私の授業はまあわかりやすいと思います。くどいほど説明しますし、板書も結構きちんとしますし、声も大きいですし。ずっと昔に塾で中学生や高校生を教えていたときも「わかりやすい」と生徒や保護者から評判でした(本当です)。ちなみに高校の教員免許も持っていますので資格的にも「先生」です。そういう人の授業ですから、普通に受講していればわからないことはまずないのではないかと思います。「工夫」と言えるほどのものではありませんが、授業の最初は必ず復習から始めるようにしたり、途中に5分の「振り返り時間」を設けて学生が集中力を維持できるようにしたり、毎回必ず課題を出して添削して返却し、内容に応じて再提出させたり(文章に主語がない、提出された紙にしわが寄っている、ωなのにwに見える、というだけで再提出、場合によっては再々提出)、といったことをしています。こうしたことで学生からは結構肯定的なコメントを毎年もらっています。ですので、これでよし、といつの間にか安心して考えなくなっていた面があるように思います(教え方に関しては定常状態に達していた)。が、昨日の「グローバル化時代の人材育成に関するシンポジウム」の講演を聴いて、考えさせられました。なかでも、「1学期間に20ページ以上の論文の執筆」と「1週間に40ページ以上の文献講読」の両方が要求される授業を受けたことがあると答えた学生の割合が米国では42%であり、その数字ですら米国では「たった」という表現で紹介されている、という話は(まだ頭の中で出口を求めてぐるぐるとまわり続けている状態ですが)、やるべきことを思い出させてくれました。かつて実験を担当していたときには「1学期間に20ページ以上の論文の執筆」程度のことは求めていました。しかし、最近ではそうしたロードを学生に課していません(卒研生は別です)。私が現在担当しているのは通常の講義形式の授業が主ですが、「学生に読ませる・書かせる・考えさせる」仕組みを取り入れ、学生にもっと勉強させるスタイルに移行したいものです。
「工夫」も「抱負」も書きましたので、少し補足します。実は、最初に恥ずかしげもなく書いたことは、大学生を相手に私がやりたい授業のスタイルからは大きくかけ離れています。本心を言えば『中高生を教えるのと同じスタイルで大学生を教えるのは情けないしみっともない。そんな授業を受けて「よかった」なんて言ってほしくない。』と思っています。そんな授業の一番の弊害は、「懇切丁寧に指導してもらって当然」というお客様意識を学生に持たせてしまうことにあると思います。仕事に就いて「文句を言われる」立場、すなわち「お客様」を相手にする立場に立ったとき、大学時代をお客様として過ごしてきた(過ごさせてきた、甘やかしてきた)ことのつけが、一気に出るような気がしてなりません。そうならないためにも、もっともっと学生に読ませて書かせて考えさせたいものです。そして、それと並行して、「日本語がおかしいとお客様に相手にされないよ。ωをwと書いたらお客様に伝わらないよ。お渡しする説明書がしわしわだとお客様に大変失礼だよ」といったようなことを見過ごさずに指導することも、彼らが将来「文句を言われる立場になる」ことを考えれば、(幼稚なことに見えるかもしれませんが)やはり必要なのではないかと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 小林 泰三
福井大学に着任して丸4年が経とうとしています。2年目に優秀教員賞を頂き、その翌年は選出されず、今年また選出して頂きました。「学生は良く見ているな」というのが率直な感想です。それは、「私を選ぶ学生の目がいい」ということでは決してなくて、私の意気込み度合いを見抜くかのような学生の鋭い感度に驚いている次第です。
着任当初は準備にも時間をかけ、講義もフルパワーで行っておりましたので、着任2年目の受賞は「熱血賞」を頂いたのだと思います。3年目は、学外の大仕事を仰せつかったこともあり、教育・研究の両立にかなり苦戦した1年でもありました。講義は、惰性に任せた「誤魔化し」が多かったことを認めなければなりません。それなりに誤魔化したつもりでおりましたが、学生からの評価は低調で、ショックを受けたのを覚えています。「これではいかん」と思い、今年4年目からは、気合いを入れ直すとともに、以下に示すように授業方針を少し変えることにしました。それが今回の受賞に少しは繋がったのではないかと私なりに分析しています。
私が主に担当している講義は「地盤工学」と「建設施工法」で、現場に出るまでに知っておいて欲しいことも多く、これまでは、いつも時間いっぱい詰め込み式の講義を行っておりました。試験をすると、高得点を取る学生も多く、それなりの手ごたえを感じていたのですが、いざ研究室に入って卒業研究を進めるとなると、これまでに学んだことが応用できない学生が多いことに気づきました。それまで、大学生が修得すべき「学力」とは、社会人としての教養と職業人となるための専門知識のことであると信じていたわけですが、専門知識とそれを応用する力は別物であるということが良く分かりました。知識を応用するためには、まず知識を体系化・構造化する力(私はこれを「学ぶ力」と呼ぶことにしました)を身につけることが必要ですが、これまでは知識の押し付けばかりで「学ぶ力」育成の観点が抜け落ちていたことに気づきました。とはいうものの、「学ぶ力」の育成方法など良く分からず、まずは学生に「なるほど」と思ってもらえる場面を増やすことだけを目標に、今年は以下のようなことを行ってみました。
- 犠牲を覚悟の上、コンテンツを必要最低限に絞る。
- 簡単な模型実験装置を作成して、講義時にデモンストレーションを行う。
- 演習にかなりの時間を費やす。
特に2. と3. は、多くの先生方が既に実践されていることで、目新しいことではないと思います。また、結果的にはデモや演習は準備不足のものが多く、お世辞にも自慢できるような講義ではありませんでした。今回の受賞は、私の「意気込み」のみを評価した、学生からの「努力奨励賞」だったのかもしれません。
講義の価値は、学生の人気投票結果と必ずしもイコールではないと思いますし、私のとった方法が正解なのかどうかは分かりません。また、「学ぶ力」とは本来は学生が自ら獲得していくもので、これだけでそれが十分に育つとは思っていません。ただ、「学ぶ力」をつけてもらうためには、まずは“理解できたのか理解できていないのかを判断する力”つまり、“理解したことを俯瞰し、再整理できる脳内回路”を強化してやることが重要であるような気がしております。その思いで、半ば強制的にでも少しでも多くの「なるほど」を実感してもらうような授業を展開してみようと思った次第です。
私の思いが暴走して学生が犠牲者になってはいけませんが、いつか「努力奨励賞」が本当の教育賞になることを願って、次年度も「学ぶ力」強化を目指した授業改善に取り組んでいきたいと思います。
講義や試験は、ホントに必要ですか? — 材料開発工学科 飛田 英孝
「講義と試験をやめれば学生は伸びる。」インターネット型教育システムを開発された熊本大学の鈴木克明先生が、昨年、とある講演会でふと漏らされた暴言です。その時は、発言についてまったく説明されませんでしたので、正直、意味不明。講義も試験もせえへんねやったら、教員は何したらええちゅうねや・・・。でも、引っかかりのある言葉には、思考を促す効果があります。
講義は学生に親切か?
考えてみれば、講義形式で学ぶというのはきわめて高度な学習方法です。実際のところ、普通の講義では学生は頭を働かせていません。これは、質問してみればスグに分かります。居眠りは論外としても、ただただノートを取るだけでは頭は働きません。受け身で講義を聴いている時の脳の活動は、眠っているときと変わらないそうです。そもそも動物の脳は運動するために発達した器官。じっとしていると脳の活動が低下するのは動物の宿命なのでは。
今年度、自宅でビデオ学習、学校で演習という反転授業を試みました。(詳細は、「福井大学高等教育推進センター年報No.4」に投稿済みです。)自分の解説ビデオを見て気づいたこと。それは、たった1回講義を聞いただけで理解するのは不可能だということ。自分の頭で考える時間がまったくありません。学生へのアンケートで、ビデオ学習の良かった点のNo.1が「途中でビデオを停止して考えられる」であったことが頷けます。昔ながらの講義形式は、学生にとって親切な授業とは言えないのではないでしょうか。
試験で学生は伸びるか?
試験が学習を強いる力として働いていることは認めますが、自発的学修でないと身についた能力とはならないことは、みなさんも学生時代に経験済みなのではないでしょうか。試験が終わればキレイさっぱり忘れて。しかも、やりっ放しの試験では、自分が理解できていなかったことを思い知るだけで・・・。試験は、その授業の核心部分を扱いますので、やはりその内容だけは理解して欲しいですよね。試験問題の解説は是非すべきなのですが、試験が終わってから翌週に学生を集めても、もはや興味は単位が取れたかどうかのみ。答が知りたいのは、やはり、試験の直後ですよね。
そこで、毎回の演習に加えて、試験の代替としての「総合演習」を2回実施しました。普段の演習では、学生同士の教えあいを奨励していますが、総合演習は個人プレー。1時間、問題に取り組ませた後、教員が解説を加えて解答を示すのですが、その際、学生は自分以外の学生の答案を採点します。これには、答案の書き方を学ばせる意図もあります。最終的には、教員が全員分を採点し直しますので、教員の負担は変わりません。でも学生は内容を理解しないと採点できませんので、学生自身の学習にはなります。
アクティブラーニングに適した大教室の整備を!
H28年度からの改組で、我が化学系は135名の大学科となります。でも、反転授業と演習を中心としたアクティブラーニングを活用するなど、授業に工夫を加えることにより大人数でもきめ細やかな教育は可能なハズ。・・・とは言うものの、人間の意欲は環境に大きく左右されるもの。固定机にぎゅうぎゅう詰めに座らされ、息苦しくどんよりした教室での授業。これでは、学生にやる気を無くせと言っているようなものです。今回の改組を成功させるにはアクティブラーニングに適した大教室の整備が急務です。自由に組み合わせられる机。アイディアをスグに表現できるホワイトボード。どの席からもシッカリ見える大スクリーン。そんな教室だと、教員の意欲も倍増ですね。
(下記のコクヨのHPにアクティブラーニングに適した教室の例が紹介されています。)
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 吉見 泰治
はじめに、今年度優秀教員に選んでいただき、また、私の講義を熱心に聞いてくれた3年生に感謝いたします。特に、今年の3年生のテスト結果や授業態度を見ていると、最近言われている学力低下という話は嘘ではないかと思います。当然、学年によってばらつきがありますが、年を経るごとによくなっているように感じられます。これは、今の学生たちに大学は勉強する場所であるという意識が強く存在しているからでしょう。我々が大学生だった時代は、ろくに授業も行われず、出席もせず、このように勉強もしていませんでした。これは、我々の時代、大学は遊んでもよい場所だと言われていたからです。教員が学会や海外出張なら、授業は休みになり、有名な先生では半分の授業も行わなかったと思います。その当時の大学で学んだ基礎学力もひどいものだったでしょう。それに比べて、今の学生たちの授業への出席率やテストへの取り組みは、すごいものです。また、今年度は2年生の英語のクラスで、有機化学の専門的な講義を英語で行い、実験をする取り組みを行いましたが、その2年生の授業に対する態度にも感心し、また英語を使用できる学生がそれなりにいることに驚きました。私は、研究者になるための必要性に駆られて、大学院生になってから駅前留学したので、今の学生にとって英語、英会話が重要であるという認識を強く持っているのだと感心しました。今後もこれらの意欲的な学生の学力が伸びていくことを邪魔せず、アシストできる授業やアドバイスができればと考えています。
「優秀教員の投票に思うこと」 — 物理工学科 高木 丈夫
例年、優秀教員の言葉を、Web上で読んでいると「なんだかなぁ」といった気持ちになってしまいます。選ばれた教員の方々の学生に対する熱意に対しては敬意を覚えますが、学生に優しく、親切に対応する方針が多くを占めていて、チョットここが本当に大学なの?と疑問に感じてしまうのです。また、その様な方針が学生に支持される状況を見てしまうと、学問的興味以前に何が評価対象なのかという、大学の状況まで透けて見えます。
僕は、学生の名前を覚えることはしませんし、顔を覚えることもしません。とにかく難解な物理概念を、平易に普遍性を持って表現することに腐心しています。これが大学で教壇に立つ者の役割であって、他のことは副次的なことと考えています。学生に対する熱意より、まずは学問に対する熱意を示さないといけません。学生の名前をあえて覚えようとしないのは、実社会に出ていくとわざわざ名前なんて覚えてはもらえないですし、親切にも扱ってももらえません。大学が、実社会で生きていく上で、ある程度完成した人間を作るには、このような対応がぜひとも必要と考えているのです。
さて、学科必修科目の現役生合格率が常に3割強という授業を行っている僕を、度々優秀教員に選んでいる物理工学科学生に感謝しましょう。共通系数学を他学科に教えて、学生の反応を見て思うことは、「僕が他学科で優秀教員に選ばれるのはなかなか難しいだろう」ということです。また、本学科で優秀教員に選ばれるのには、20%程度の票を集めると充分という事実があります。いろいろな個性を持った教員がいて、学生もそれを評価しているわけで、良い意味でのドングリの背比べ状態になっていると認識しています。この状態は、学生組織としても、教員組織としても、好ましい状態だと思うのです。結局は今回の受賞も、学科学生と同僚教員の意識の高さに大きく依っている訳です。
振り返ると、最初に優秀教員に選ばれてから、10年以上が経ちました。10年前に思ったのは、「10年後の学生たちは、僕のような授業方針を受け入れてはくれないだろう。」ということでした。でも、どうやら物理工学科に関しては授業方針が通用するようで、近年優秀教員に選ばれる機会が増えてきました。教壇に立てる時間も残すところ10年を切りましたが、これからも授業方針を変えずに自分の役割に徹する所存です。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 浅井 竜哉
知能システム工学科の科目の中で、私は生物系の科目をいくつか担当しています。生物系の科目では、難しい数式や式変換が出てこない代わりに、多くの単語や現象を理解しなくてはならないので、どうしても暗記が中心となってします。
授業の工夫の一つは、授業の最初に演習問題を行っていることです。選択肢問題なのですが、A:○○○、B:△△△、C:✕✕✕、D:BとCが正しい 、E:上のすべてが正しい、といった5つの選択肢からなります。時間はそれほどかからないし、クイズ感覚で考えられて学生も楽しいし、それでいて意外と難しい。学生からこの演習問題が楽しいと聞いたことは実はありませんが、少なくとも私は学生の悩んでいる表情を見て楽しんでいます。ちなみに、解答するには教科書、ノートなど何を見ても構いません。この演習問題の結果も成績に反映させるので、学生が解答し終わった頃に、問題と解答が一緒になった問題用紙を集めます。そして演習問題の答え合わせをしながら、先週の授業の内容を復習します。授業アンケートには、「演習問題が復習になる」というコメントが多くあるので、たいした工夫ではないかもしれませんが、学生の理解を確かめるには効果的なようです。
もう一つの工夫は、黒板の横にあるスクリーンを使い、図を映しながら説明をします。図を使うことで私も説明しやすくなるし、学生も理解しやすくなります。サイドスクリーンを使用する理由は、私は板書をするからです。スクリーンだけを使って授業をすると早く進みますが、その時は理解してもすぐに忘れてしまいます。実際、先ほど説明した演習問題の解答には、ノートを参考にしていることが多いようです。
昨年から使い初めて非常に便利だと思うのは、スクリーンに映したパワーポイントの図のページ送りができるリモコンです。次の図に替えるために、いちいちノートパソコンの近くに行く必要がないので、時間の無駄を省くことができます。私はコクヨの「黒曜石」を使用していて、使い勝手がいいのでお勧めです。
福井大学でも数年前から他の大学、あるいは学内の他のキャンパスとインターネットで繋いで、インターネット授業が行われるようになりました。場所を移動する必要がなく、普段聴けないような講義が聴けるので非常に便利です。インターネット授業では、ほとんどの場合パワーポイントで図を映しながら授業を進めていくのですが、同じ図を見ながら同じ話を聴いているのに、目の前に話している人がいないと授業がとても分かりづらいのです。
ごくたまに、授業の進め方や話し方の調子がよいと思う時があります。そんな時の授業は、学生の反応もいつもよりよいと思います。反対に準備不足などで授業がうまくいっていなかったりすると、学生の反応も悪い気がします。また一生懸命教えていても、学生の反応が悪いと、こちらの教える熱意が下がってしまいます。おそらく授業もコンサートなど同じように、教師のパフォーマンスの善し悪しが学生に伝わり、また学生の反応が教師に伝わるので、教師と学生が同じ空間を共有することが重要だと思います。
インターネットの他にも、タブレットなど新しいデバイスがどんどん出てきて便利になりますが、あくまで教えるための補助的なものであり、やはり人と人の関係が大切なのだと思います。パワーポイントは便利だから使うけれど、板書をしながら熱意を持って学生に語る、昔ながらの授業を今後もしていきたいと思います。
平成25年度
The teacher of the year
機械工学科 | 田中 太 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 勝山俊夫 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 明石行生 | 教授 |
材料開発工学科 | 入江 聡 | 准教授 |
生物応用化学科 | 沖 昌也 | 准教授 |
物理工学科 | 橋本貴明 | 教授 |
知能システム工学科 | 池田 弘 | 教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 田中 太
私は福井大学に着任して今年で7年目になります。担当している講義は、2年生前期の流れ学と熱流体力学演習Ⅰ、3年生前期後期の機械創造演習と機械工学実験です。福井大学に着任してから、初めて講義を担当するようになり、これまで四苦八苦しながら自分の講義スタイルを作ってきました。
2年生前期の流れ学の講義では、中間テストと期末テストを実施しています。成績評価には、中間テストと期末テストを4:6で案分した点数と期末テストだけの点数を比較して、どちらか良いほうを採用しています。こうすることで、中間テストを頑張って期末テストの失敗に備えようとする学生や、中間テストで高得点を取れなかったけれども期末テストで挽回しようとする学生が出てきます。単位取得効率を追求しすぎてしまう学生の中には、中間テストは一息入れて、期末テストだけ真面目にやろうと考える場合もあるのかもしれませんが、全体を見ると学生のやる気を引き出すことに成功しているように思えます。
3年生の機械工学実験は、4月から5月にかけて開講される共通講義と5月以降に各研究室ごとに分かれて実施される工学実験を担当しています。最初は共通講義を実施するのですが、このとき、遅刻や無断欠席、レポートの提出遅れは許されないと宣言しています。機械工学実験では危険な実験装置を使うこともあるので、教員からの説明や注意がなされる実験開始時刻に遅れることは許されないのです。また約束の時間や期限を守ることの重要性を判ってほしいからです。それでも共通講義の最初のころは、学生達は十分には判ってくれません。大抵、誰かが遅刻してくるのですが、遅刻した学生には自宅学習レポートを特別課題として与えています。この特別課題を遅刻が1分ないしは30秒でも与えます。その結果、共通講義の終了後、各研究室で実施される工学実験に遅刻する学生やレポート提出期限を守れない学生はほとんどいません。自宅学習レポートの内容としては、現在単位が取れていない科目や受講している科目で難しいと感じている科目について、学生と相談したうえで100題程度の問題演習を宿題として課しています。ここで重要なのは、その問題は学生が自分で決めるようにすることです。また、提出時期は例えば期末試験が近いときは期末試験終了後に設定します。私の個人的印象では、機械工学実験で自宅学習レポートを課した学生は、名前や性格も覚えますし、信頼関係が強くなっているような気がしていますが、本当のところはよくわかりません。
今後も講義や演習の内容に改善を続けていき、自分が学生のころに理想としていた教員に少しでも近づけるように頑張りたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 勝山 俊夫
今回優秀教員に選ばれ、日頃の教育に対する工夫,及び今後の教育への抱負を紹介する機会を与えられましたので、とくに授業の進め方に関して、担当授業の「電磁気学」を例に、最近心がけていることを書かせていただきます。
授業で一番に心がけていることは、学生の諸君に如何に考えさせるかということです。学生は時間が無いせいもあってか、公式を丸暗記して問題に当たることが多いようです。これでは、電磁気学の試験は合格するかもしれませんが、社会へ出てから本当に困難な難しい問題に直面したとき、対応するすべも無く、立ち往生することになってしまいます。このような状況に陥らないように、少しでも大学生のうちに、考える習慣を付けてもらうように授業でも気を付けています。
このため授業では、問題を解くときや法則を説明するとき、初めからその内容の説明を始めるのではなく、出来るだけ、問題の解答や法則を予測することから始め、法則の具体的な説明は最後にします。例えば、磁場に関する「アンペールの法則」注)を教えるとき、出発点としては、「磁場は電荷の移動でのみ生じる」ということだけを取り上げ、それからどのようなことが予測できるかを学生に考えてもらうようにしています。具体的には、
- 磁場は電荷の移動(電流)でのみ生じる。
- ということは、電場が電荷によって生じるのとは異なり、N極とS極のような磁荷は単独で存在しない。実際、磁石のN極とS極は、いくら磁石を小さくしても分けることは出来ない。
- したがって、磁場を磁力線で表した場合、電場と異なり、湧き出しも浸み込みも無い。これから、磁場の発散は0であることが示せます。
- 始まりの「湧き出し」も終わりの「浸み込み」も無いならば、磁力線の形はどうなるか?始まりも終わりも無い線の形は、ループしかない。
- それでは、1本の直線状の導線に電流を流すと、どのような磁力線が予測されるか?導線を中心とし、それと直交する円形のループ以外考えられない。直交しないで円が傾いていれば、対称性からおかしくなり、また楕円でもおかしい。円の中心に導線がないと、これまたおかしい。また、円形の磁力線は、同心円としていくらでも考えられ、磁場自体の大きさは、中心から離れるにしたがって小さくなっていくと予測できる。高校で暗記させられた右ねじの法則に関係付けて、磁場が右回りか、左回りかは重要でないと説明します。
- ということで、「円形の磁力線に沿って磁場を1回転足し合わせると、それがこの円を通過する電流である」ことを予測します。
- 以上の予測を纏めると、いわゆる「アンペールの法則」が導かれます。今までの話は予測ですが、法則はちゃんと実験的に導かれ、矛盾が無いことが分かっていることを最後に説明します。ここで大事なことは、出発点として、「磁場は電荷の移動でのみ生じる」ということだけで法則を導き出したことで、電荷の移動が磁場の本質であることを学生に理解してもらうことも可能になります。もちろん、以上の考察は厳密ではないので、専門の先生には異論もあるかと思いますが、学生を考えさせる教材としては十分です。
以上のように、考えさせることを中心に授業を進めたいと思っておりますが、なかなか十分な時間が取れないのも事実で、今後さらに授業方法の研鑽を積んで行きたいと考えています。
注)アンペールの法則:と表せる。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 明石 行生
評価していただいた建築建設工学科3年生の皆さんに感謝申し上げます。
今年も昨年と同様の方針で授業をしましたし、授業の様子も変わりません。「教育に関する工夫」については、昨年のURLをご覧下さい。
参考になるかどうかはわかりませんが、ここでは、私が授業や講演などの前に覚悟を決めるために確認する「自戒」を紹介します。
自戒(明石行生)
学生が居眠りするのは
自分もわくわくしていないからだ
学生がうつむいているのは
自分も彼らの目を見ていないからだ
学生が私語を慎まないのは
自分も大きな声で明瞭に話していないからだ
学生が逆らうのは
自分も彼らを尊敬していないからだ
学生がわかってくれないのは
自分も深く理解していないからだ
学生が質問をしてくれないのは
自分も準備が足りないからだ
学生が質問に応えてくれないのは
自分も心を開いていないからだ
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 材料開発工学科 入江 聡
この度、材料開発工学科で2013年の優秀教員に選出していただきました。大学の教員、職員の皆様のご支援の賜物です。この場を借りまして御礼申し上げます。特に2年ほど前まで所属し色々とご指導いただきました産学官連携本部とそのときに大変お世話になりました産学官連携室、研究推進課の皆様には重ねて感謝申し上げます。
さて工学研究科ではFD講演会を開いていただいたり、ティーチングチップスを送っていただいたり、あと優秀教員のコメントの公開など様々な良い取り組みがございますが、私が一番参考にさせていただいているのは他の先生方の講義です。材料開発工学科では公開授業ということで全員の先生が1つ以上の講義を公開したことがありましたし、工学研究科共通科目で機器分析特論というたくさんの先生方によるオムニバス形式の講義のとりまとめもさせていただき聴講する機会がたくさんありました。またつい最近も「繊維系大学連合による次世代繊維・ファイバー工学分野の人材育成」という事業で海外の著名な先生が大学院生に集中講義されるものを聴かせていただきました。聴かせていただいた講義はすべて個性的で面白く分かりやすく非常に良い講義で感心するものばかりでした。もっとも、単に良さそうなところをそのまま取り入れようとしても、私の話術が拙く破たんしたり、得られた情報量の多さに能力がついて行かず処理しきれなかったりとほとんど失敗しました。それでちょっとした些細なことであればこれは使えると思ったことをひっそりと取り入れるようにしています。細かく積み重ねていくとそれなりにだんだんとよくなっている気がします。具体的に何をしたかと問われると既に思い出せないくらい自分のものになっていると思います。
あと教えなければならない部分は残しながら毎年できるだけ内容・やり方をあっさりとがらりとすっぱりと変えるようにしています。連続で同じようにすると飽きますし、再履修の学生も前年のやり方が合わなかったから落ちたのでしょう。全体として前年より悪くなっていることもあるのでしょうが短所ばかりでなく多少は長所も必ずあります。分かりやすさをかなり犠牲にしたやり方でも批判は少なからずありますがサイレントマジョリティの学生さんは支持とまではいかなくてもそれなりに温かい目で見てくれていると思っています。時々うっかり静かな鋭い視線に気づきますが。試験は学生が事前に問題を予想できないようにし答案は全て回収し返却も解説もしないので、学生さんいわく試験対策ができないそうです。これもきっとマイナスばかりではないはずです。例えば他の科目の試験勉強の時間がたっぷりととれるとか。
今後は、いままでたくさんの方に育てていただいたようにお互いに切磋琢磨し、色々な方が優秀教員になるような環境にしていくことと、それとちょっとだけ相反するようですが、目標をしっかりと定め、それを実現するためのアクションプランを立てて地道に実行することで、一発屋優秀教員で終わらないことを目指します。何年か後に「あまちゃん」のオープニングテーマを聞いたとき、あんな時代もあったなということにならないように。もしそうなったらなったで、皆様のご指導・ご助言を思い出し、また少しずつ積み上げていきたいです。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 沖 昌也
教員にとって学生がどのようなことを考えているかを知ることは大変重要なことであり、学生実験の待ち時間などに、学生といろいろな話題に関して話しをするように心掛けている。「なぜこの大学を選んだか」、「なぜこの学科を選んだか」、「実際に入学して入学前の大学のイメージと違ったか」、「将来何になりたいか」、「大学院に行こうと思っているか」、「どんなバイトをしているか」、「部活動はしているのか」など話題は様々である。
昨今、大学院の定員割れに関して、その原因と今後の対策に関して日々議論されているが私なりに考えていることを記載させて頂きたいと思う。 「なぜこの大学を選んだか?」、「なぜこの学科を選んだか?」という質問に関して、ほとんどの学生が、「入れそうだったから」、「高校の先生に言われたから」など、偏差値重視で決めてしまっている。当然と言えば当然だが、つまり目的意識がほとんどなく、「何となく流れで大学に来た」という感じである。
ところが、「将来何になりたいか?」という質問になると、「漠然と希望はあるが、明確には決まっていないので大学で学んでいる過程で見付け出したい。」、また、「大学院に行こうと思っているか?」になると「入学前は考えていなかったが、興味がある研究に出会えたら進学したい。」という回答が以外と多い。裏を返せば大学での教育次第で、学生の進路は大きく左右され、どのようにでもコントロール可能であることを意味している。選挙で例えると「支持政党が決まっていない浮動票」をたくさん取り込んでいることになり、また、教員の立場からすると「教育しがいのある学生達をたくさん獲得出来、あとは教員の腕の見せ所で教員次第だ。」ということになる。
各教員は、魅力があったためにそれぞれの専門分野に進んだはずである。なぜ、この分野に進んだのか、その魅力を講義の際に、数名の学生にでも伝えることが出来れば学生はその分野に進みたいと感じるのではないだろうか。そして、それぞれの教員が自分の専門を魅力的に語れば、大学院進学を考える学生も自然に増えて行くのではないかと考えている。つまり、講義等を通じて「学生のやる気の『引き金』」をうまく引くことが重要なポイントとなる。逆に大学の講義に魅力を感じず、自分の興味ある分野が見付けられなかった場合、大学院への魅力は無く、大学入学時と同様に「何となく流れで就職した。」ということになるのではないだろうか。
この大学の学生は、変に擦れてなく以外と素直な学生が多いと感じており、少なくとも私は「自分の分野はこんなに面白く、それを研究して新しいことを発見出来、そのうえ給料までもらえる大学の教員という職業ほど魅力的なものは無い。その職業に就けている私は本当に幸せである。もし、みんなも何か面白いと感じる研究分野に出会えたら可能な限り研究者の道を目指して欲しい。」と講義の要所でアピールするように心掛けている。自分が楽しそうに、また熱心に話せば、以外と学生に伝わるのではないかと勝手に思い込み、日々の講義に取り組んでいる。教員が生き生きしている大学は、学生にとっては大変魅力ある大学であり、教員個人個人のちょっとした心掛けが大学を変え、学生の将来に大きな影響を与えると確信している。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 池田 弘
学生の意見を参考に、我々の講義への不満、私が選ばれた理由を紹介し、また、講義に対する工夫、今後の抱負を述べたいと思います。ここに示すのは、学生から見たよい講義であって、真に学生のためになるのかは、私自身、日々頭を悩ませていますし、まだまだ改善点は多くあると考えています。
まず、学生の多くは、講義中、質問をしたくてもなかなか質問をできる雰囲気ではなく、わからないまま講義を受け続けています。そのうちわからないことが山積みとなって講義を真面目に受ける気持ちが途切れてしまうようです。私は、講義中の雰囲気を質問がしやすく、しかも集中力が保てるような雰囲気になるように努力しています。そのための対策として、まず、学生の名前をできるだけ早く覚えるようにしています。名前を覚えるために、講義の出欠確認は、私が名前を呼んで、学生が返事をするという形をとっています。それから、講義には少なくとも5分前に行き、その時間を使って学生と会話をするようにしています。また、講義以外の時間でも、学生に会った時には積極的に挨拶をしたり、言葉をかけたりしています。これらのことは、講義の質とは何ら関係のないことのように思えますが、講義中の雰囲気を非常によいものにします。まず、学生は、私に親近感を持っているため、講義中に気軽に質問ができるようになります。また、私が学生に対して質問をする時も、いちいち名簿を見て当てるのではなく、会話をするような感覚で自然にできるので雰囲気が重くならずに、それでいていい緊張感が保てています。教師側から学生側に多くの質問をし、また学生側からも教師に多くの質問が出ることで、学生は楽しみながら、講義に集中できているようです。また、興味のない講義内容も興味が持てるようになるようです。
また、学生の多くは、講義のペースが速すぎて、理解が追いつかずに困っています。私は、学生がどの程度理解しているかを学生の様子を見ることで感じ、怪しい場合は、もう一度説明を丁寧にしてあげるようにしています。こちらが地道に熱意をもって説明をすると、学生もそれを感じ、一生懸命聞こうという気持ちになるようです。
今後も、学生1人1人を大切にし、できるだけ細かな気をくばってあげるよう努力していきたいと考えています。また、学生が講義内容に興味を持ち、積極的に勉強をしたくなるような講義を目指していきたいと考えています。
優秀教員
機械工学科 | 永井二郎 | 教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 葛原正明 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 森 幹男 | 准教授 |
建築建設工学科 | 鈴木啓悟 | 講師 |
材料開発工学科 | 飛田英孝 | 教授 |
生物応用化学科 | 吉見泰治 | 准教授 |
物理工学科 | 青木幸一 | 教授 |
知能システム工学科 | 黒岩丈介 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 永井 二郎
学生の「教育」は、研究を通じた教育と、講義・実験等を通じた教育に分けられる。以下、それぞれの教育について、その心構えや工夫と今後の抱負(悩み相談を含む)について述べる。
1.講義・実験等を通じた教育について
日頃の教育に対する心構えと工夫
心構え:学生・教員が互いに納得できる講義の進め方: 教員(私)は、初回講義時に「学生の目標」を提示し、その目標達成のために出来る範囲内で最大限の援助(講義の工夫、質問への回答等)を行うことを伝え、目標達成の評価手段や合格基準(期末試験、演習問題等)を明示し、実行する。学生は、私の援助を受ける権利を最大限に活用し、自らの能力向上に利用することができる。その権利を行使しない学生(例えば、講義に欠席する、分からないのに考えない・質問しない等)は、当然のことながら「学生の目標」を達成することが困難になる。この当たり前のことを、学生・教員が互いに納得できるように、公平・誠実を旨として心がける。
工夫①:講義は1回1話完結。毎回宿題。: 学生・教員双方に分かり易くするため、1回の講義は1つのまとまりのある内容で完結。また、毎講義内容に沿った演習問題を宿題として課す。
工夫②:毎回の質問への対応: 宿題プリント裏面に「講義内容・方法に対する質問・要望等」の欄を設け、なかなか口頭で質問に来ない学生の疑問や要望を把握するよう努力し、次回講義の最初に必ず何らかの回答を行う。
工夫③:動的イメージの提示: 熱力学や伝熱学の基礎概念や各種サイクルをビジュアルに分かり易く示すアニメーションソフトを活用し、板書と併用することで、難解な概念理解を助ける。
今後の教育への抱負
教育の成果として、学生の学習・研究意欲が向上することが重要と思う。しかし、意欲向上を実現する具体的・一般的な方法は無いように思われ、またその評価方法は学生から受ける”感触”以外に見当たらない。ここが教育上の最大の課題であり、常に頭の隅において教育活動にあたりたい。
悩み相談: 宿題や演習課題の詳細な解答・解説プリントを配付するかどうか・・(現在は配付していない)。数少ない基本法則によって様々な課題が解決するプロセスをきちんと示すことは、一部の学生にとっては学習上有効と思われるが、その他の学生は解説プリントを読むだけが試験対策となり逆効果。アドバイス、お待ちしています。
2.研究を通じた教育について
卒論や修論研究の指導を通じた教育効果は、客観的指標で表現することは難しいが、講義等による教育効果よりも高いと感じる。その研究指導方法については、悩みは尽きない(毎年違った悩みが生じる)。例えば今年度では、各研究テーマに学生が興味を抱きバリバリと研究を進めてもらうために、最初にどの程度研究の方向性や実施スケジュールを提示すべきなのか、また月日が経つにつれて、どういうタイミングでどのような助言をすると効果的なのか、について試行錯誤を続けている(もちろん学生の個性や能力によって異なる対応が望ましいと思われる)。こちらについてもアドバイス、お待ちしています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 葛原 正明
優秀教員に選んでいただき大変嬉しく感じている。優秀教員の投票では、選ぶ学生の年次と投票時期が結果に影響することは確かであり、後期のこの時期に3年生対象の専門科目の講義をもつ教員が有利になることは否めぬ事実であろう。逆に、低年次学年向け基礎科目を複数ご担当の先生方には申し訳なく思う次第である。
担当する講義は、3年生前期に「半導体工学」と「電磁波工学」、3年生後期に「電子デバイス」である。過去5年間以上、同じ科目を担当している。「電磁波工学」ではマックスウェル方程式の導出と解法を講義し、高周波回路の設計に繋がる知識を伝えている。携帯電話やテレビ放送が身近な応用として存在するため、学生の勉学意欲を高めることは比較的容易なはずであったが、スマホ世代になり変化を感じている。アンテナの長さを講義したくても、携帯電話やアナログテレビ受信機のアンテナの認識は、昨今の学生には希薄である。ましてや、携帯端末が重くポケットに入らなかった90年代導入期の思い出を学生と共有することは極めて難しくなった。それでも、過去の技術課題がいかに改善され今の姿となったかを学生に実感を込めて伝えることは、勉学の励みを与える可能性も高く、歴史の伝道師としての教員の役割も重要ではないかと感じている。「電子デバイス」でも、応用を意識しつつ基礎知識を丁寧に教えている。現在注目されている技術を紹介することは勿論であるが、過去に現れその後衰退した技術の歴史についても触れることが、学生たちに技術革新の重要性を教える良い契機となるものと考えている。
学生諸君には、自分が進みたい分野を真剣に考えて欲しいと願っている。過去の偉大な技術者の逸話を本で読み、教員を含むできるだけ多くの関係者と交流して欲しいと思う。大学時代に出会う知識、経験、人脈はその後の命運に大きく影響するからである。ところで、今の学生諸君はどれだけの刺激を教員から感じてくれているのであろうか。シラバスに忠実な講義進行に反対はないし、理解度試験の重要性に疑問もない。しかし、シラバスや定期試験だけに縛られず、もっと教員の個性に満ちた講義形態を追求してもよいのではなかろうか。例えば、その日の講義から受けた印象または自らが目覚めた方向性を自由な作文形式で提出させる講義や、その日の講義に関連した演習問題を自ら作成してその模範解答を提出させるような講義である。少なくとも、学生と教員との交流の接点を拡張する工夫を随時に心掛けていたいと考えている。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学科 森 幹男
講義で最近行っていることについて簡単に述べたいと思います。まず、その日の講義の要点を書いたA4サイズのプリント1枚を冒頭で配布するようにしています。また、終盤には可能な限り小テストを行うようにしています。このとき満点になるまでやり直しをさせ、その提出を以て出席としています。80名近い学生を相手にするので、結構大変ですが、全員が要点を理解しているかどうかをその場で確認し、フォローするための有効な手段だと考えています。採点答案は、必ず返却するようにしておりますが、赤ペンで行うマル付けは可能限り、迅速かつ丁寧に行うよう心がけています。そのほか、板書を見やすくする工夫や学生に興味を持たせる工夫はいろいろと行っておりますが、これまでに優秀教員に選ばれた先生方が書かれていることなので、以下には別のことを書きたいと思います。
私自身、「口笛」というユニークなテーマで研究を行っていることから、テレビ番組への出演の機会もあるのですが、番組制作担当者から「視聴者の小学生にも分かるように説明してください」と言われることが多々あります。大学で授業を行う場合、「大学生ならこれくらい分からないとだめだ」というのを基準に考えるのですが、ここに落とし穴があることが分ります(分らないのを相手のせいにするのは簡単です)。結局、「小学生でも直観的に分かる」ように「1人でも習ってない漢字がある場合にはルビをふる」「ポンチ絵を描く」などの工夫をするのですが、これは相手が大学生でも「理解できない学生が1人でもいると思われる専門用語には注釈を入れる」「ポンチ絵を描く」などの工夫をすることで、内容を骨抜きにすることなく、学生全員が直観的に理解できる説明原稿にできることを意味しています(キーワードとなる専門用語の意味が1つでも分からないと理解困難になります)。結局「小学生にも分かるように」というぐらいの気持ちで丁寧に原稿を作成することが、分りやすい講義資料を作るコツのような気がしております。実は昨年某局の番組で児童館をボランティア訪問し口笛教室を行った際に、小学生に「分からない」と言われ、目からうろこが落ちる気分を味わいました。思ったことをそのまま口に出す、小学校低学年の児童を相手に教えることが最高のFDだと考えますがいかがでしょうか。今まで見えなかったものに気付かされるはずです。板書した漢字の書き順の違いまで指摘するので手ごわいですよ。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 鈴木 啓悟
本田宗一郎さんは「時間だけは神様が平等に与えて下さった」と仰有ったそうですが、大変真理をついた言葉だと思います。勿論大学における教員と学生にも通ずる事ですから、大学で活動する時間を如何に効率的かつ効果的に使うのかは、教員も学生も本人のやり方次第となります。しかしながら、講義に関して言えば、教員にやり方が大きく影響します。講義時間は90分しかありません。この時間をどのようにして有効に活用し、分かりやすく効率的に伝えるか、第一に教員が工夫しなければいけません。
私は講義中に「私の講義は寝ても構いません。ただし、寝るなら机に突っ伏して寝て下さい。頭を垂れて寝ると首に悪いです。」と言っています。真面目に講義をやっているのか?と問われかねない発言ですが、この発言の目的は私自身へプレッシャーを掛けることにあります。といいますのも“学生が寝る”ということは、講義内容を理解できない、講義自体がつまらない、などの理由があるため、眠くさせたら私自身の責任が大きいと考えています。眠っても良いと言いつつ、寝かさない講義を心掛けています。
講義時間を有効に使いながら、眠くさせないという課題を達成するためには、講義内容の密度を高めることと、内容が分かりやすいことを両立する必要があります。そのためには、パワーポイントを使って説明するのが一番なのですが、パワーポイントだけで講義を進めると、聞き手が受け身になりすぎて眠くなる他、その場で内容の理解が出来ても、いざ問題に取り組むと、なかなか解を導けない、つまり学力の定着が乏しくなる傾向があります。一方で、板書だけで進めると、学生がノートへの書き取りで一杯となってしまう場合があります。特に私が担当する講義は力学に扱う内容が多く、図を多用するので、板書だけでは伝えられる内容に限度があります。
そこで、予め図を印刷したワークシートを配布し、それに書き込む形式でパワーポイントを利用しながら、一部板書をしつつ講義を進めています。これは私の恩師より教えて頂いた手法ですが、特に力学系の講義では威力を発揮するように感じます。見て理解すること、書いて刻み込むことの両面から学力を高めて行きます。効率的に講義を進められるので、ベースとなる理論を教えた後には、例題に取り組む時間を長くとることが出来ます。例題に取り組む回数が増えてくると、基礎理論の再理解につながり、応用力もついてきます。
授業アンケートを実施すると、ワークシート形式の講義に対して肯定的な意見が多数を占めますが、この形式が絶対であるという保証はありません。社会からの要求、高校での教育内容や学生の気質は常に変化していきます。学生が福井大を卒業することでハッピーになるためにはどのような教育をすべきか、教える内容や教え方を良く検討しながら、弾力的に講義の改善に取り組んでいきたいと思います。最近はスタジオ教育や実践教育といった言葉が多く聞かれるようになりました。今後は座学講義の手法を改善しながら、さらに他形式講義の良い所を見習い、時に取り入れて、学生の表情に真剣さと喜びが現れるような講義を追求していきたいと思います。
Banality of Evil:悪の陳腐さについて考える授業 — 材料開発工学科 飛田 英孝
当学科の技術者倫理教育科目である「社会と技術者」という科目を二人の教員で担当しています。私の担当部分の約半分で水俣病問題を教材として取り上げています。今年の授業では、技術者倫理問題としての水俣病事件を終えた後、1995年の村山政権による政治決着、そして2009年の「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」についても言及しました。この両者で謳われたのがいずれも水俣病問題の「最終解決」という文言でした。
「最終解決」とは何か
最終解決、それで終わり。その時に切り捨てられるものはないのでしょうか。私以上の世代にとっては、最終解決という言葉は、ユダヤ人問題の最終解決、ホロコーストを連想させます。数百万人のユダヤ人を収容所へ送る責任者であったアドルフ・アイヒマン。1961年に始まったアイヒマン裁判で彼が主張したのは、「自分は、命令に従っただけ。」この裁判を傍聴したユダヤ人哲学者、ハンナ・アーレントは、アイヒマンは反ユダヤ主義者だから人道に対する罪を犯したのではなく、単に考えない人間であるからだと結論づけました。
アイヒマンは虐殺を知りながら、それが自分の仕事であるという、それ以上のことを考えませんでした。いや、考えることを拒絶しました。アーレントは、そのようなアイヒマンを観察するなかで、本当の悪は、平凡な人間こそが行うというBanality of Evil(悪の陳腐さ、凡庸さ)という概念を創出しました。最終解決が切り捨てるものの中に「考え続けること」があるのかもしれません。
平凡な人間こそが巨悪を起こす
許しがたい巨悪を「考えない」ことに帰するこの結論は、発表当時、大変な物議を醸しましたが、カントの「啓蒙とは何か」で描かれている「理性の私的使用」に基づけば、至極まっとうな議論であるように感じられます。
カントに従えば「上司の指示に受動的に従う、割り当てられた指示に無批判にふるまうこと」は、理性の私的使用であり、私たちの日常業務の大半が「私的使用」となり得ます。カントが「啓蒙:enlightenment」という言葉に込めたのは、他人に指示を仰がなければ自分の理性を使うことができない未成年の状態を脱する勇気を持てということ。結局、自らの理性を私的にしか使わない未熟で平凡な人間こそが巨悪を引き起こすのではないか。水俣病を引き起こした技術者・経営者・役人・政治家たちも真面目に業務をこなしただけだと感じていたのかもしれません。
考えることには知的体力が必要です。でも、人間はともすると一日の業務を終えた後の肉体的・精神的疲労を満足感に結びつけやすい存在です。時には一歩下がって自らの為していることを俯瞰的にマッピングし、社会に対しどのような影響を与えているのかを考える必要があるのでは。私が会社員時代に社長から頂戴し、座右の銘としている言葉。「給料はお布施だと思いなさい。誰かに感謝してもらわない限り受け取ってはいけません。」
自戒をこめて
私が担当する最終回の授業で、上記の話題を学生たちと考えました。「社会と技術者」を担当させて頂いて有り難いと感じるのは、普段、ともすれば忘れがちな大切なことに気づかせてくれること。そういえば、大学での私たちの仕事にも「理性の私的使用」が増殖しつつあると感じているのは私だけでしょうか。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 吉見 泰治
私が日頃の教育に対して気をつけている点は、学生とのコミュニケーションです。どうしても講義では、こちらが話し、知識を与える一方的なやり取りになってしまいます。それでも、講義中は、学生たちが理解できるように、わかりやすく容易な言葉を使って説明を行うように努力しますが、学生たちからの質問などはほとんど出ません。また、授業アンケートに書いてある評価も本当かどうかわかりません。しかし、学生実験(1-3年生の化学実験)においては、学生たちと様々な雑談ができ、そこから本当の授業の評価などが見えてきます。学生実験前に行った説明も理解できているかどうか、また、これが講義と関係していることを理解しているか、さらに先週の講義はどうだったか、などを雑談とともに話していると学生たち一人一人の本音がよくわかります。また、実験後のレポートの書き方と提出時期などをみることで、学生たちの性格の一部分もわかります。このような実験中の雑談を通してコミュニケーションをはかることで、講義での質問のために私の部屋へ来る壁が小さくなっていきます。これからも、講義だけでは両方向のコミュニケーションは無理なので、学生実験という場で両方向のコミュニケーションを進めて、学生と教員の間の距離を縮めていき、講義などの教育に活かしていこうと考えています。
最後に、今年度優秀教員に選んでいただき、また、私の講義を熱心に聞いてくれた3年生に感謝いたします。
「少人数教育の問い直し」 — 物理工学科 青木 幸一
大都市の話になるが、子供が入学予定の私立幼稚園や私立小学校を選ぶ最終段階で、親は具体的な評価をする。母親は、授業見学で教師の目が生徒に注がれている回数の多い学校を良しとする。父親は[学費]×[教師数]÷[生徒数]の小さな学校を良しとする。多くの人は科学を体得し、少人数教育を定量化している。
他人事でなく、我が学科も少人数教育の審判を受けているはずだ。物理工学科では少人数教育として、入門セミナー、6単位分の学生実験、外書購読、2教科の達成度別クラスを教育課程の中に組み入れている。上記3教科では、1教員が細かい配慮のもとに、学生5-6人を担当している。「本学科は学生個人を大切にする」と保護者に説明するのには鼻高だが、実のところ、始めからそれを目指したわけではない。改組時に学生実験を立ち上げたとき、1学年全員が同時に実験できる大きな部屋がなかったから、小部屋ごとに学生実験をせざるを得なかった。さらに、同じ課題を同時に進行するだけの数の実験器具がなかったから、各研究室で不用な実験器具を寄せ集め、小部屋ごとに教員を配置せざるを得なかった。おのずと、少人数の実験になった。大学入門セミナーでは、学生を教員全員にばらまいた。その心は、「教員一人当たりの教育負担は零とみなせるほど薄く」。科学英語教育である外書購読も同じ考えに基づき、全教員にばらまいた。結局、責任逃れと無策の結果として、「素晴らしい少人数教育体制」が出来上がった。その経過を知る人が少なくなるにつれて、「素晴らしさ」だけが独り歩きした。
教員の人数が減るにつれ、教育負担が表面に現れた。少人数クラスでは「教育負担は零」のふりをしても、まじめにやれば教材作成の授業準備は通常授業と同じである。「零負担」は、ただで教員を働かせる口実である。ただ働きした分だけ、卒論などの研究室活動が犠牲になる。卒研生は失望して他大学の大学院を目指したり、就職に切り替える。「教育準備なしで授業せよ」と勧めることにもなった。入門セミナーでは、教員が学生と個人的に付き合うのが苦手な場合、適切な教育の質を保てない。外書購読では教員は語学の専門家ではないから、準備なしの授業は学生にとって退屈である。授業が担当教員の専門外のことがらに依存してしまう。つまり同じ質の教育をすることができない。だからシラバスに掲載されていない内容で授業が行われる。
学生個人を生かすような大人数授業ができないものだろうか。矛盾命題に挑戦しても結果は決まっているが、どんなものかやってみた。目的は、90分内で全員に意見を求めること。学生一人当たり、30秒から1分程度で発言させる必要がある。「外書講読」において実践してみたところ、全員を一巡できるよう、意見を出させることができた。英文を音読させ、コンピュータ訳の問題部分を指摘させるだけだから、学生にとって短時間にできる。しかし、その後にストップウォッチを見ながら秒を争って解説するので、大汗の連続となる。だから授業後の会議など、疲れて出られない。しかし担当教員延べ数9人分が浮くとなれば、来週も挑戦しようかという気分になり、新たな力が湧いてくる。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 黒岩 丈介
現在担当している学部教育科は、
- 総合理数学Ⅰ(1年前期、必修)
- 知能システム工学入門セミナ(1年後期、必修、全教員による分担)
- 電磁気学演習II(2年前期、必修)
- 知能システム実験I(2年前期、必修)
- 信号処理(3年前期、選択)
- 情報基礎論(3年後期、選択)
です。その他に、大学院前期課程の講義として脳情報学(前期)、及び大学院前期課程の講義として人工知能特論(後期)を担当しています。
最近教育について考えていることについて書きます。大学改革・大学教育改革・大学入試改革が、文部科学省・産業界を中心に非常に声高く叫ばれています。今後学生数が減少する中、いかに高校生に魅力ある大学であるべきかを考えることは確かに必要であり、その意味で大学改革が必要である、ということはまあ理解できます。しかし、本当に、教育改革、入試改革が必要なのかについては、現状では私には理解できません。教育改革は、グローバル社会のために国家間で優秀な学生の取り合いになる、またグローバルに活躍できる人材を育成するために必要なのだと言われても、私には疑問符しかでて来ません。本当にグローバルに活躍する人材育成、更にはグローバルな経済活動が重要なのでしょうか。昔のことを考えてみると、昭和初期までは、まだ地方の特色・特産物・文化が残っていたようです。実際には、私が生まれていないので知りませんが。しかし、民主主義経済が発展し、日本という国は一つになり、地域の特性等が失われているように思えます。特産物なんて、どこのデパートでも買えるくらいですから。つまり、新自由主義経済の考えに従ってグローバル化を図ると、結果的には「日本」が「日本の文化」が失われてしまう気がしてなりません。そう考えると、グローバル化を念頭にした教育改革は必要がないように思えてしまいます。ということで、最近の私は、オンラインコースウエアに注目が集まっていますが、黒板とチョークを使った、そして教員が一方的に自分の考えを話すだけの昔流の講義にこだわりを持って行っていこうと、一人決心しています。
平成24年度
The teacher of the year
機械工学科 | 田中 太 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 勝山俊夫 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 明石行生 | 教授 |
材料開発工学科 | 飛田英孝 | 教授 |
生物応用化学科 | 沖 昌也 | 准教授 |
物理工学科 | 高木丈夫 | 教授 |
知能システム工学科 | 池田 弘 | 教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 田中 太
私は福井大学に着任して今年で6年目になります。担当している講義は、2年生前期の流れ学と熱流体力学演習Ⅰ、3年生前期後期の機械創造演習と機械工学実験です。福井大学に着任してから、初めて講義を担当するようになり、これまで四苦八苦しながら自分の講義スタイルを作ってきました
私が研究者、そして教員の道に進むきっかけになったのは、先生のちょっとした一言でした。ロボット工学の授業の中で、ラグランジュの運動方程式を用いて垂直2リンク型マニピュレータの運動方程式を導いたときのことです。この運動方程式には非線形になる重力項が含まれているので、制御の際には平衡点近傍で線形近似して、モータへの入力を制御することを学びました。そのときはずいぶん難しいことをしないといけないのだなあと思いながらその講義を受けていました。その後、当時の私はスカラ型組み立てロボットが日本の工場で大変普及しているらしいことを知っていたので、なんとなく自宅でスカラ型ロボットに相当する水平2リンク型マニピュレータの運動方程式を導いてみたところ、重力項が消えて線形の運動方程式になりました。今思えば、それは運動方程式を導く前からわかるような当たり前のことですが、当時はちょっとした発見をした気分になって、次の講義のとき、先生に対して「スカラ型ロボットのような水平リンク型ロボットならば非線形項である重力項が消えるので、制御が簡単になるのではないですか?」と尋ねたところ、先生に「良く気づいたね」と誉められました。今、私が福井大学で教員をしているのは、このときの先生の一言がきっかけになっています。
私が学生と接するときの行動原理は、このときの経験が基礎になっています。教員の発する言葉には学生にとって大きな影響力があります。私が学生と接するときに忘れないことは、学生はかならずできると考えて発言することです。できるに含まれる意味はいろいろなものがありますが、この考えに基づいて学生と話すとき、私の口から出てくる言葉の内容と展開が変わります。いつの日か、学生にとって、なにか飛躍のきっかけになれると嬉しいと思いながら毎日の講義を行っています。
今後も講義や演習の内容に改善を続けていき、自分が学生のころに理想としていた教員に少しでも近づけるように頑張りたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 勝山 俊夫
今年度優秀教員に選ばれ、なぜ学生の諸君に選ばれたのかを考えて見ました。授業の準備にかける時間をそれほど多く取れる分けでもなく、分かりやすい授業を心がけてはいますが、客観的に見てすばらしい授業をしているとは思えません。どうも、成績に甘い、試験がそれほど難しくないという様なことで選ばれているような気もして、今後対応を改めるべきか悩んでいます。
現在、私が担当している学部での講義科目は、電磁気学Ⅰ、電磁気学Ⅱ、技術英語、光エレクトロニクスの4科目です。とくに、前者の3科目は、学部学生にとって、これから携わっていく技術の基礎となる重要な科目であると思い、気を引き締めて対応しています。このなかで、「技術英語」の授業で日ごろ感じていることを、ここでは述べさせていただきます。
「技術英語」の授業は、今まで英語を教えるということを考えもしなかった私にとって、新鮮で、貴重な体験になっています。授業は、Oxford University Pressで出版しているテキストを参考にして行なっています。
授業を始めて最初に気が付いたことは、一部の学生を除いて、技術的な簡単な英語が皆さん読めないということでした。とくに、0.01、℃、×、÷等どこでも出てくる記号の読み方は、今までどこでも教わっていないということでしたので、まず、基本的な単語や記号をどのように読み、また発音するのかを反復して練習し、身に付けてもらうようにしました。
次に、日本語でも使っていて、英語の発音とアクセントが違う長さや重さの単位の発音を何度も練習してもらいました。たとえばkilometerの発音の仕方です。また、どのようなとき、単位が単数になるか、あるいは複数表現になるかの区別を身に付けてもらうようにしました。1meterと2meters、0.1meters等の違いです。
研究室に配属されれば、必然的に英語の論文を読むことになりますが、そのときは黙読になってしまい、どうしても0.01、℃、×、÷等の記号は、日本語で読んでしまいます。自分の研究成果を国際会議で発表するとき、記号の発音の仕方や単位のアクセントが出来ていない日本人の発表者を良く見かけます。これは、どうしても学校の英語教育が文系の英語教育に偏っているためではないかと思っています。
以上のような点は、英語の表現の基本中の基本で、本当は、文章を論理的にかつ簡潔に表現する訓練をすることが大事と思っています。これは、英語だけでの問題ではなく、日本語の場合も同じですが、英語は論理を構成するのに比較的適した言語と思っていますので、文章を論理的にかつ簡潔に表現する訓練の場として、技術英語の授業に臨んでいます。まだ、手ごたえはありませんが、これから工夫を少しずつして、学生の皆さんが少しでもそのような能力が向上するよう、その手助けになればと思っています。
「日頃の教育について」 — 情報・メディア工学科 吉田 俊之
一昨年、昨年に続いて三連覇させて頂いた。非常に光栄である反面、本報告については、いよいよ書くことがなくなってしまった。今回も「工夫・抱負」という本来的内容はお許し頂き、日頃個人的に実践していること、そしてそれが「実は間違いなのでは?」と思っている正直なところを述べさせて頂く。
およそ10年前に本学に赴任した際、学生諸君の「国語力のなさ」を痛感させられたことがあった。理系、それも工学部の学生とは言え、「読む力」が圧倒的に不足している。「教科書を理解するという以前に、果して『教科書を読む』というエートスがあるのだろうか?」と危機感を持ったのが、結果としてこうして三連覇させて頂く要因になったのでは、と思っている。
「文章を並べても恐らく読まない/理解しないだろう」ということで、「文章ではなくグラフィカルなテキストを作ろう」と思い立ち、担当となったすべての講義科目のテキスト(各100~200ページ程度)を作って学生に頒布してきた(図1)。そのひとつである「電気回路」のテキストは、例えば図2のようになっており、「文章は極力控え、グラフィカルな説明」を心がけた。どうも学生諸君にはこれが気に入って貰えたようで、「テキストが解りやすい」(一部に「安い!」という意見もあるが)ということで、毎年一票入れて貰っているようである。
図1:作成したテキストの例
図2:テキストのあるページ
学生諸君にとっても、そして筆者にとっても、これはこれで「良いこと」ではあったが、事はそう簡単ではない。ここからが問題なのである。
高校は理数科、そして工業大学という「理系そのもの」の筆者であるが、「学力の基礎は国語!」という意識が年々強くなっている。例えば、「入試の数学の点数が同じなら、国語ができる学生の方が入学後は絶対に伸びる」と個人的に確信している。
であれば、入学後は専門教育に並行して国語力(英語力じゃなくて!(ごめんなさい))を涵養する教育を行なうべきである。では、これまで努力してきた「グラフィカルなテキスト」というのは、一体何だろう?文章を読ませてはじめて国語力の涵養なのに、これでは単なる学生への迎合に過ぎないのではないか―自己矛盾。「実は間違いなのでは?」と書いたのは、このことである。
理系学生の専門知識と国語力、先生方はどう思われますか?
「学生とのコミュニケーション」 — 建築建設工学科 明石 行生
昨年、授業中の学生とのコミュニケーションを重視していると述べましたが*、実は、学生とコミュニケーションをとるのにたいへん苦労しています。満足なコミュニケーションができているのは、少人数の博士前期課程の学生を対象とした授業だけです。今回、私の工夫を紹介させていただきますが、より良い方法があればご教示いただきたくお願いします。
1.コミュニケーションを重視している理由
授業中に教員と学生との間でコミュニケーションを円滑にすることによって、学生にとっては、覚醒すること、理解が深まること、他の学生と質問を共有できること、教員にとっては、学生の理解度と授業の問題点がわかること、やり甲斐を実感できること、が期待できると考えています。
2.コミュニケーションを諦めない覚悟
各学期の最初の授業でシラバスとともに、1で述べた授業中のコミュニケーションの利点を説明しています。この説明は、自分にとっては、「この学期の間はコミュニケーションをとることを諦めないぞ」という意思表明にもなります。この覚悟が伝われば、1年生であっても、私の質問に対してリーダーシップを発揮して応えてくれる学生がいます。このような学年の授業では、リーダーシップをとる学生と他の学生との距離が遠くならないようにさえ注意を払っておけば、あとはうまく運びます。反対に、全ての学生が無表情で何の反応も示さない学年もあります。このような学年の授業では、コミュニケーションをとるのを諦めて一方的に授業を進めたくなりますが、教員が学生に話しかけることをやめてしまうと、学生から話しかけてくることはありません。諦めずに続ける事が大切だと考えています。
3.教室の外でのコミュニケーション
教室の外でもなるべく学生に声をかけるように心がけています。特に、キャンパスイルミネーション、学際・実験実習、新入生合宿などはコミュニケーションのための貴重な機会と捉えています。それでも、授業中、学生とコミュニケーションがうまくとれない学年では、上述の機会に見つけた比較的元気な学生に、「リーダーシップをとって、質問に応えたり、質問したりしてね。」と頼んでいます。このように具体的に頼まれた学生は、責任感からリーダーシップをとって期待に応えてくれます。こういった配慮の積み重ねが効いているのか、あるいは、時間とともに自然に学生同士が仲良くなってくることが影響しているのかは不明ですが、次第に授業中の教員と学生との間でコミュニケーションができるようになってきます。3年生にもなると、理解できないところと私の間違いを指摘してくれるようになります。
4.アメリカでの講義の経験
授業中の学生とのコミュニケーションにこだわっている理由は、アメリカの大学で博士前期課程の科目を担当した経験にあります。この科目は、週2回×2時間×14週間の講義をしなければならなかったうえ、中間・期末試験と各週の課題を準備と採点しなければならなかったので、相当な時間がとられました。この大学では、教員は、学生にファーストネームで呼ばせています。英語には日本語のような敬語はないので、ファーストネームで呼びあえば教員と学生との距離は近づきます。授業中、学生は、「ユキオ、よくわからないから、もう一度説明してくれ。」といった要求から、「ユキオ、僕はこんなことを体験したが、これは君が教えてくれている理論では説明できないじゃないか。」といった厄介な質問までどんどんと投げかけてきました。質問の対応に時間がとられ、シラバスどおりに授業を進めることに苦労しましたが、学生の質問によって彼らの理解度を確認することができましたし、自分の頭を活性化することもできました。また、どのような質問にも答えられるように時間をかけて授業の準備をしました。このため、授業には緊張感がありました。周到に準備をした授業に対しては、学生は、「ユキオ、今日の授業はためになった。ありがとう。」と労ってくれたので、充実感もありました。結局、私が学生とのコミュニケーションを重視している本当の理由は、自分の努力を評価してほしいから、なのかもしれません。もちろん、それも期待しながら、福井大学でもこのような授業を再現することを目指しています。
「教え甲斐と教え害 Part2」 — 材料開発工学科 飛田 英孝
ちょうど1年前週刊広報センターに「教え甲斐と教え害」と題した雑文を書きました。
(http://pr.ad.u-fukui.ac.jp/kohotimes/?p=862)ここ数年、私の心に引っかかっているのは、教育の持つ「後ろめたさ」です。
刺さった二つの言葉
一つ目は、週刊広報センターにも書いたイヴァン・イリイチの言葉。「麻薬が麻薬への需要を生み出すように、教育は教育への需要を生み出した。学ぶことが、教えることにとって代わられた。」学ぶことは、成長すること。教師が成長を阻害している面はないのでしょうか。
もう一つは、数学者ハンス・フロイデンタールの言葉。「子どもが自分で発見できるような秘密を、すべて教師が話してしまうことは、悪い教え方というよりむしろ罪悪である。」罪悪なんて言われると、ドキッとしてしまいますよね。
教えない教育、あるいは教え合う授業
現在の私のテーマは、iTunes U に負けない授業。世界中の優秀な教員が授業をインターネットで公開し始めています。学生がひとりで学ぶのであれば、iTunes U にはかなわないかも。大学は、学びのコミュニティであり、人々が集うフォーラムです。協働して学ぶイキイキとしたプロセスこそ、iTunes U にはない人類的学びなのでは。
授業では、グループでの話し合い、教え合いを積極的に取り入れています。問題を解く宿題ばかりでなく、問題の自作を宿題にして、授業の最初に問題と解答を隣の学生に説明する作業も取り入れています。座席は、乱数プログラムで(もしくは名札を当番学生が机に配置して)つくった指定席。隣の学生もどんどん変わります。グローバル時代に求められるのは、文化も価値観も異なる本質的に分かり合えない人たちに対し、粘り強く共通性を見いだし擦り合わせができる知的体力。語学はそのための道具に過ぎません。仲間内だけの「おしゃべり」からの脱却がグローバル・コミュニケーションには必須でしょう。
今年の反応工学の授業では、反応速度の単位はいかに定義されるべきかという問題について、第1回目と第2回目にそれぞれ15分ずつ学生たちに自由に意見を述べさせました。私自身はコメントを加えるだけで答は示さずに授業を進めました。「管型反応器の設計」に関する授業では、管型反応器ではどんな現象が起こるのだろうかという話題を授業のマクラにしたところ、学生たちから思わぬ意見が続出。結局、1時間半ほぼその話題に終始しました。でも、何の説明もなく設計法の講義を始めなくて良かったとホッ としました。喩えて言えば、「教師が可憐な薔薇の話をしているのにバオバブの巨木を頭に描いている」学生もいたのですから。学生たちと共通性を見いだすことが極めて困難な状況であったワケです。
若者のコミュニケーション力不足が問題視される昨今ですが、より深刻な問題は、私たち教員のコミュニケーション力不足なのかもしれません。コミュニケーションの基本は、相手のことを理解しようとすること。相手のことを理解しようとせず、一方的に自分を理解させる行為はハラスメントです。もちろん、教育という目的にハラスメントが有効であるなら敢えてこれを使うという決断も必要ですが、コミュニケーション抜きのハラスメントばかりでは、授業が学ぶ意欲を蝕む拷問になりかねませんよね。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 沖 昌也
理想の講義は、学生個人個人でも違うし、教員1人1人でも違うだろう。しかし、講義は、教員自身の価値観のもとに理想を追求するものではなく、学生に理解してもらうことが最大の目的であるため、学生の評価を真摯に受け止め、改善を指摘された点は変えていく必要がある。教員の理想と学生の価値観が一致するのがベストだが、80名近い学生に講義している現状ではなかなか難しい。従って、完全に全員が満足とはいかないまでも、不満には思わないような講義が出来るように心がけている。その点では、授業改善アンケートで過去に「不満がある」と指摘を受けたことがないこと、また1つの指標として昨年度に引き続き「優秀教員」に選んで頂いたことには素直に感謝したいと思う。昨年度のレポートと重複する点もあるが、私が講義で心掛けている点を下記に記載させて頂く。
(1)多くの学生とコミュニケーションを取る
まずは学生の顔と名前を覚えることが重要である。私の場合、講義は2年生の後期からスタートし、1年生のときから学生実験を担当しているため、学生と接する機会は多い。従って、自分で「顔と名前を覚えよう」という意識さえあれば可能であり、名前を覚えることにより学生とのコミュニケーションは取りやすくなり、結果として、講義内容の改善にも繋がると考えている。
(2)専門用語は多用しない
我々は知らないうちに一般の人が分からない専門用語を、普段使う日常用語と同じ感じで使ってしまうことが多い。講義でも同様で、初めて聞く学生には分からない単語が使われると、途端に思考回路が停止してしまうようだ。講義の前に、その日の講義内容を再度確認し、専門用語と思われる言葉を 使うときには、いきなり使わず必ず説明を入れるように心掛けている。
(3)スライドを使い過ぎない
これは毎年ほとんどの学生が感じているようで、スライドばかりを使った講義は、本当に分かりづらいという意見が多い。しかし、ひたすら板書だけというのも、集中力が持たないので、講義の合間、合間でスライドを使うようにしている。スライドを使うタイミングは、90分の講義を行う上で非常 に重要だと感じている。
(4)最新の情報を提供する
授業改善アンケートの「良かった点」で記載の多いのがこの項目である。研究は日々進展しているが、教科書に出ているからと言って、全てが明らかになっている訳ではない。教科書には記載されているが、実際には分かっていない点も多く、現在の最先端の研究内容にも触れながら説明すると興味を持つ学生が多いようである。「最先端の研究内容の話しにインパクトがあり、講義で習ったことが記憶としてしっかり残った」という意見があったときには、興味を持って学習することの重要性を改めて認識した。
今後も、「試験のためだけの記憶」ではなく、学生の知識として残り、学生が将来役立つ教育が出来るように努力していきたい。
「今回の受賞は、ちょっと嬉しいかも」 — 物理工学科 高木 丈夫
例年、この作文には、少しばかり斜に構えた事を書くのだけれども、今回の受賞だけはチョットばかり嬉しい。まさか、今年の3年生に優秀教員として選んでもらえるとは思っていなかったので…。というのは、この学年の2年次後期必修授業を担当したのだけど、7割の学生を不合格とした。そして、現在それらの学生達が再履修中なのである。必修科目で7割の不合格率というのは、一般的には高過ぎる不合格率であり、教員側の問題が指摘されると思う。ところで、僕は試験に、「理解十分なら簡単に解けて、不勉強の場合は、まったく解けない」問題を工夫して作成する。その結果として得点分布は、極端な二山分布になる。だから、合否判定に関しては何も迷うことは無く、自信を持った成績評定である。実は昨日に、この科目の中間試験を行ったのだが、多くの再履修の3年生は昨年度とは見違えるような答案を書いていた。学生が努力したうえでの不成績なら、授業と試験のあり方を検討すべきだけれど、努力しない不成績学生を合格させるなら、学力不足のデフレスパイラルを加速するだけである。(何となく、近年そのような雰囲気を学内に感じて、ずいぶん不満ではある。)だから、彼らなりに、昨年度の不勉強を納得しての対応であり、今回の優秀教員への投票なのだと思う。
本学に赴任しての最初の10年間、ちょうど30代の頃であるが、成績が下層の学生まで含めて、概念的な把握を十分にさせるべく努力を続けた。しかし、下層部の学生の成績向上は、どうやら不可能らしいと思えた。そんな折に、決定的なことを7年前に経験する。成績下位半分の学生だけに参加権利を与えて、希望者に数学物理全般の補習授業を開講したのだが、参加者は見事にゼロ!誰も来ない教室で90分間(自分の仕事をしながらであるが)学生を待ち続けたのである。さすがに参加者ゼロのまま、8回やってアホらしくなった頃、成績上位の学生が何人かやってきて、「そんなやる気の無い学生を相手にしていないで、僕等を授業に参加させてください。」との申し入れを受けた。成績が下位の学生は、授業では質問もし辛いと思っての企画だったが、やはり知的な資質よりも、積極性や学問に対する興味自体の欠落がはるかに大きいのである。成績上位者を受け入れた、その後の授業は10名を越える参加者を得て、通常授業では話せなかった内容を含めて、お互いに楽しく講義を進めることができた。やはり、大学は「自ら助くる者を助く」方針で行かないと、いけないのだと思う。
さて、それ以来、少しばかり授業方針を変更している。ごく当たり前に授業をしたならば、優秀教員を受賞することは容易だと思う。でも、それでは面白くないし、僕の役割として、そのような授業をしてはいけないと思う。それで、ワースト教員の称号があるなら、優秀教員と同時にその称号も受賞したい、と考えるようになった。だから今は、学問的には学生に優しく、しかし毒をふんだんに散りばめた授業をしている。受講態度が悪い学生や、最初から就学意欲が無い学生には、「進路を考え直したら?」というメッセージも送っている。そのような授業方針に変更して以来、物理工学科だけでなく、授業を持っている他学科の掲示版でも僕の掲示物は、妨害を受ける事が多くなった。方針どおり、一部の学生には十二分に嫌われているいるらしい。そんな中で2年続けて、この作文を書くことになり、同時受賞の目標は、ほぼ達成されたかな?と想っている。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 池田 弘
学生の意見を参考に、我々の講義への不満、私が選ばれた理由を紹介し、また、講義に対する工夫、今後の抱負を述べたいと思います。ここに示すのは、学生から見たよい講義であって、真に学生のためになるのかは、私自身、日々頭を悩ませていますし、まだまだ改善点は多くあると考えています。
まず、学生の多くは、講義中、質問をしたくてもなかなか質問をできる雰囲気ではなく、わからないまま講義を受け続けています。そのうちわからないことが山積みとなって講義を真面目に受ける気持ちが途切れてしまうようです。私は、講義中の雰囲気を質問がしやすく、しかも集中力が保てるような雰囲気になるように努力しています。そのための対策として、まず、学生の名前をできるだけ早く覚えるようにしています。名前を覚えるために、講義の出欠確認は、私が名前を呼んで、学生が返事をするという形をとっています。それから、講義には少なくとも5分前に行き、その時間を使って学生と会話をするようにしています。また、講義以外の時間でも、学生に会った時には積極的に挨拶をしたり、言葉をかけたりしています。これらのことは、講義の質とは何ら関係のないことのように思えますが、講義中の雰囲気を非常によいものにします。まず、学生は、私に親近感を持っているため、講義中に気軽に質問ができるようになります。また、私が学生に対して質問をする時も、いちいち名簿を見て当てるのではなく、会話をするような感覚で自然にできるので雰囲気が重くならずに、それでいていい緊張感が保てています。教師側から学生側に多くの質問をし、また学生側からも教師に多くの質問が出ることで、学生は楽しみながら、講義に集中できているようです。また、興味のない講義内容も興味が持てるようになるようです。
また、学生の多くは、講義のペースが速すぎて、理解が追いつかずに困っています。私は、学生がどの程度理解しているかを学生の様子を見ることで感じ、怪しい場合は、もう一度説明を丁寧にしてあげるようにしています。こちらが地道に熱意をもって説明をすると、学生もそれを感じ、一生懸命聞こうという気持ちになるようです。
今後も、学生1人1人を大切にし、できるだけ細かな気をくばってあげるよう努力していきたいと考えています。また、学生が講義内容に興味を持ち、積極的に勉強をしたくなるような講義を目指していきたいと考えています。
優秀教員
機械工学科 | 永井二郎 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 廣瀬勝一 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 山田徳史 | 教授 |
建築建設工学科 | 小林泰三 | 准教授 |
材料開発工学科 | 内村智博 | 准教授 |
生物応用化学科 | 吉見泰治 | 准教授 |
物理工学科 | 葛生 伸 | 教授 |
知能システム工学科 | 黒岩丈介 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 永井 二郎
学生の「教育」は、研究を通じた教育と、講義・実験等を通じた教育に分けられる。以下は、講義による教育に焦点を絞って、その心構えや工夫と今後の抱負(悩み相談を含む)について述べる。
日頃の教育に対する心構えと工夫
心構え:学生・教員が互いに納得できる講義の進め方: 教員(私)は、初回講義時に「学生の目標」を提示し、その目標達成のために出来る範囲内で最大限の援助(講義の工夫、質問への回答等)を行うことを宣言し、目標達成の評価手段や合格基準(期末試験、演習問題等)を明示し、実行する。学生は、私の援助を受ける権利を最大限に活用し、自らの能力向上に利用することができる。その権利を行使しない学生(例えば、講義に欠席する、分からないのに考えない・質問しない等)は、当然のことながら「学生の目標」を達成することが困難になる。この当たり前のことを、学生・教員が互いに納得できるように、公平・誠実を旨として心がける。
工夫①:講義は1回1話完結。毎回宿題。: 学生・教員双方に分かり易くするため、1回の講義は1つのまとまりのある内容で完結。また、毎講義内容に沿った演習問題を宿題として課す。
工夫②:講義プリントの配布: 毎講義の要点を記したプリントを1枚配布する。板書のみでは、学生が書き写すのに時間をとられて、考えて理解する時間が無くなる恐れがあるから。
工夫③:毎回の質問への対応: 宿題プリント裏面に「講義内容・方法に対する質問・要望等」の欄を設け、なかなか口頭で質問に来ない学生の疑問や要望を把握するよう努力し、次回講義の最初に必ず何らかの回答を行う。
工夫④:動的イメージの提示: 熱力学や伝熱学の基礎概念や各種サイクルをビジュアルに分かり易く示すアニメーションソフトを活用し、板書と併用することで、難解な概念理解を助ける。
今後の教育への抱負
教育の成果として、学生の学習・研究意欲が向上することが重要と思う。しかし、意欲向上を実現する具体的・一般的な方法は無いように思われ、またその評価方法は学生から受ける”感触”以外に見当たらない。ここが教育上の最大の課題であり、常に頭の隅において教育活動にあたりたい。
悩み相談: 宿題や演習課題の詳細な解答・解説プリントを配付するかどうか・・(現在は配付していない)。数少ない基本法則によって様々な課題が解決するプロセスをきちんと示すことは、一部の学生にとっては学習上有効と思われるが、その他の学生は解説プリントを読むだけが試験対策となり逆効果。アドバイス、お待ちしています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 廣瀬 勝一
今回、優秀教員に選出頂いたことが2度目となりました。前回の際に優秀教員に選出された先生方のお言葉がHPで公開されていることを知って他の先生方のお言葉を拝見したり、時折先生方から講義に関する取組などのお話を伺ったりするにつけ、自分が如何に授業の準備などに時間を割いていないかを認識し、それを改善しないまま、少々の後ろめたさに耐えるということを繰り返しています。前回優秀教員に選出頂いた際にも、授業が良かったからではなく、当時、就職担当を仰せつかっていたこともあり、授業のまくらで就職活動のための注意や心構えみたいなことを何度か話したことが大きく影響したのだと考えています(受講生もこの話を聞いているときは明らかに目の輝きが違った印象が強烈に残っています)。このため、文面を埋めるにかなう新たな内容を持ち合わせていませんが、以下では授業に関して気になることを数点挙げてみたいと思います。
授業中の居眠りを完全になくすことは困難かと思われますが、教室を巡回するのみでなく居眠りしている学生を起こすことと教室の後方で講義することは効果があり、居眠りする受講生が減少しました。また、机に伏せて居眠りはしないよう注意しています。
授業中の私語は厳しく注意することもあり、ほとんど問題にはなりません。一方で、授業開始時には挨拶の言葉をかけた後にもなかなか私語がなくなりません。上記のようにまくらで私語がなくなってから本題に入ることもありますが、やはり、どんな話であれ、人の話を聞くときには黙るということを身に着けて欲しいので、注意したり、とりあえず無言のまま板書を始めたりしてみるのですが、翌週には忘れられているようで効果がありません。
授業中に前方に座っている受講生は勿論目立ちますし、真剣な表情の方も多く、それを見ると頑張って話さなければという気が湧いてきます。一方で、前方に座っていても居眠りなどしたりする受講生もいて、戸惑いを感じることもあります。単に後方の座席に座る場所がなかっただけかも知れません。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学科 山田 徳史
【日頃の教育に対する工夫】
「力学と微分方程式」と「電子デバイス基礎」で行っている取り組みを以下に列挙します。
- 教える内容を絞り込む。
- 「解ける」よりも「わかる」に重きを置く。試験問題もその方針に沿って作成・採点する。
- 板書中心の授業をする。ノートを取ることを強く求める(ときどき見回り、取っていない学生には注意する)。ノートの取り具合を時々確認しながら、板書が進みすぎないよう気をつける。
- スライド式の黒板を使う場合は、黒板の左上に①、②のように書き、その黒板が何番目の黒板なのかが、一目でわかるようにする。
- 教科書は使わない(授業内容を1冊で適切にカバーするものがないため)。
- 参考となる書籍(図書館にあるもの)を複数挙げ、各回の授業がそれらの書籍のどの部分の内容に対応するのかを書いたリストを、授業の最初に配布する(「力学と微分方程式」のみ)。
- 3人掛けの机に3人座っている場合には、他に空いている場所があれば、真ん中に座っている人に他の席に移るよう指示する。また、最後尾には座らせない(座っていたら移動させる)。
- わかりやすく話す。重要な点は何度も繰り返す。
- 最初の5~10分で前回の内容を復習し、今回何をやるのかを説明する。
- 授業が半分ほど進んだところで、5分間の休みを入れる。これはそれまでの内容を復習するための時間であるが、トイレに行く、水分を補給する、瞑想するなどの行動も認めている。
- 授業内容に対応する資料を配付する(数回に一度まとめて)。
- 毎回の授業で FeedBack Sheet という紙(A4 一枚片面)を配る。それには授業内容にかかわる課題(主に復習的な問題)がいくつか書かれており、余り時間をおかずに提出させる。提出された課題は TAにも手伝ってもらい添削し、間違っているもの、答えは合っていても考え方が正しくないもの、記述がいい加減なもの、意味不明な書き方になっているもの、字の汚いもの、紙がしわくちゃなもの等は再提出させる。再提出されたものも添削して返却する。ここまでが次回の授業までに完了するよう努める(そうならないことも結構ある)。なお、FeedBack Sheet は添削するが採点はせず、従って成績には反映させない。出席は毎回の授業で確認しているが、出席確認が取れている場合であっても、FeedBack Sheet への取組状況が芳しくない場合は、出席とは認めない。
- 自分の都合(学会等)による休講はしない。
【今後の教育への抱負】
「後々まで重要性を失わないと思われる基礎的な事項をしっかりと理解させる」ということを今後も徹底したい。また、記述力・説明力の弱い学生が目立つので、その指導も日々の授業の中で行っていきたい。最近は授業の準備やアフタケアが十分にできないことが珍しくなく、学生には大変申し訳ない状況が続いてきた。今後はもう少しきちんと取り組めるようになればと願っている。
「日頃の教育について思うこと」 — 建築建設工学科 小林 泰三
この度、優秀教員の一人に選ばれたとの連絡を受け、大変うれしく思います。私の理想は最近話題のサンデル教授の白熱講義ですが、理系科目での実践は甚だ難しく、サンデル教授とは似ても似つかぬしらけた授業を展開しているのが実情です。選出して頂いた理由として「声が大きい」のと「着任2年目の教員で目新しかった」くらいしか思いつかないのが正直なところです(つまり、本質的ではなく感覚的理由?)。ただし、「学問の面白さを共有したい」という熱い気持ちだけはサンデル教授にも負ける気がしません。その部分が多少でも伝わっていたとすれば、まずは最低限クリア?と言いたいと思います。
さて、自分の学生時代を思い返すと、日頃の学業に関しては特に力を入れていたこともなく、講義風景も断片的なものしか記憶に残っていないようなお粗末さです。そのまま惰性で修士課程に進学したものの、このままではよろしくないと決意し、遅蒔きながら数学と力学系専門科目を独学で猛勉強し直した経験があります。そのときに人生初めて「学ぶ」ということ、そして「わかる」ということの面白さに気付いた次第です。
独学中にとったノートは今でも残していますが、そこに書かれているのは公式や数式の羅列でもなく、寄せ集めたテキストの抜き出しコピーしでもなく、理解に至る過程の脳内の実況中継のような文章です(よって恥ずかしくて他人には見せられません)。「ひと月もすれば内容を忘れるだろうから、理解できた瞬間のイメージをそのまま残しておこう」と思ったのがこのようなノートを作るきっかけでした。つまり、後で見直したときに、すぐにそのときのイメージや感覚が舞い戻るような仕組みを作っておこうと思ったわけです。この独学体験を通じて、テキストに書かれている文書や数式は抽象的な概念であって、それを自分なりに具体的なイメージや感覚に翻訳することが「勉強するということ」に他ならないと思うようになりました。これは、小難しい哲学書などを読む場合にも同じことが言えると思っています。概念をイメージに翻訳するには頭を使いますので、自ずと理解が進みます。と同時に理解できていない部分が明らかになって、いよいよ勉強意欲が増すようになります。現在、学生には「教員の板書やテキストの内容そのままノートに写したってあまり意味ないよ。自分の言葉に翻訳して書きなさい。それができないなら理解していない証拠だよ」とよく言います。
90分の講義で「本当にわかる」という段階まで学生を持って行くのは土台無理な話なのかもしれません。学ぶ内容も大切ですが、特に学部生の授業においては学問の面白さに気づくきっかけを与えてあげることが一番大切なのではないかと思っています。教育者の役割が学生の「翻訳作業」をお手伝いすることにあるとすると、指導者自身の持っている翻訳イメージの質やストック、バラエティは極めて重要なツールとなるはずです。今思えば、講義のために毎回このツール開拓には力を入れてきた気がします。それが教育者としての個性となり、延いては、問題解決能力や発想力に優れた人材の育成つながると信じて、今後も私自身の翻訳ツールの質向上と増築には最大限努力していきたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 材料開発工学科 内村 智博
今回投票してくれた学部3年生に対しては、「機器分析化学」および「環境化学」の講義を担当しました。せっかくの機会なので、私が日頃の講義で行っている工夫とその意義について述べます。
小テスト
講義では毎回、A6サイズの紙を配り、小テストを実施します。この小テストにはいくつかの意味があります。1つは出欠の確認です。講義室にはカードリーダーがありますが、カードを忘れる学生もいるため、カードリーダーと小テストでダブルチェックをしています。
この小テストですが、私が出題するのではなく、学生自身がその時間の講義内容について出題および回答をします。これは、決して私が楽をしているのではありません。逆に設問がバラバラなので、採点に時間がかかります。設問の難易度は問いません。自分が回答できる問題でいいことにしています。ですので、全員正解しそうなものですが、そうでもありません。また、答えは合っているのですが、設問の内容自体が理論上、あるいは実用上ありえない、という場合もあります。このような場合、正しい理論や手法を習得してもらうため、次の講義時に改めて解説します。このように、私の教え方で学生が勘違いをしていないか、彼らの習熟度を測るために、毎回小テストを実施しています。
学生の発言
学生には、受け身ではなく積極的に発言してもらうことを心がけています。私が一方的にしゃべっていると、学生は眠くなるか、あるいはノートを無意識に取るだけになるか、いずれにせよ、学生がついてきていないと感じるためです。発言を促すために、発言した学生には成績評価時に加点します。単なる私語以外であれば、その内容にはこだわりません。こちらから発言を求める場合もありますし、学生自ら手を挙げて回答する場合もあります。回答が間違っていても構いません。私の板書の誤りを指摘した場合も同様です。要は、恥ずかしがらずに発言してもらいたい、ということです。こうした経験が、将来的には、各種会議や討論の場での積極的な発言に繋がるものと考えています。発言した学生には、その旨、小テストの紙にて申告してもらいます。小テストの活用法の1つです。
最後に、投票してくれた学生はもちろんのこと、私の不慣れな講義を熱心に聞いてくれた3年生に感謝します。今後も、色々な試行錯誤をしつつ、学生の向学心が高まるような講義に努めていきたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 吉見 泰治
私が受け持っている授業は、有機化学関連の講義と演習、実験です。有機化学は、化学系である我々の学科において授業の基礎となる分野ですが、生物の遺伝や身近な化学製品などの直接的かつ華やかな応用例がないために、学生達にとって、初めは分かり難い分野だと思います。また、高校時代の有機化学は、ただ反応式を覚える暗記科目であり、人によっては嫌いな科目かもしれません。しかし、有機化学の基礎的な考え方を手に入れれば、世の中のいろいろな出来事が、より理解できるという思いで、講義などを行っています。例えば、有機化学の反応式をただ覚えるのではなく、これらの反応式の基礎的なことがわかると、オゾンホールや地球温暖化の問題が分子レベルで理解でき、どのような分子がこれらの問題に関わってきているかがわかります。また、人体の中で行っている有機反応により、生命が維持されていることも理解できますし、麻薬などの有機化合物が、脳にどれほど危険かも化学構造式から理解できます。学生達には、これらの考えを手に入れて、当然のことながら就職や会社での研究にも生かしていただきたいのですが、それだけでなく、世の中で起こっていることを理解するための新たな“眼”を手に入れてほしいと思っています。
講義における技術的な工夫は特にやっていません。パワーポイントを一切使用せず、板書を見やすく書き、わかりやすく学生に説明します。また、後で、ノートを読み直しても理解できるように、重要なことは日本語で、しつこいぐらい板書することぐらいです。
今後の授業も基本的には同じ考え方で行いますが、世の中の出来事を分子レベルで理解できる思考を持つ学生を増やすために、授業における話題の選択には試行錯誤していきたいです。
「私の授業実践」 — 物理工学科 葛生 伸
私自身、学生にとってよい教育をしているか疑問である。しかし、折角の機会であるので参考になるかどうかわからないが、私の偏った教育実践を紹介する。
物理工学科の専門科目で、物理学関係の科目は基礎実験と熱力学だけである。熱力学では、大学赴任当初から書かせる指導をしてきた。レポートおよび特別演習と称する試験形式(資料参照可)の演習を課し、翌週を添削して解答例とともに返却している。答案には、式の変形も含めて論理の流れを言葉で略さず書かせるようにしている。書くように伝えただけでは学生は書けないので、初回授業で「レポートの書き方」を配布している。2〜3回添削するときちんとした文章を書くようになる。テスト時に、受講前後での考えの変容を書かせたところ、多くの学生がこれを機会に考えるようになったと書いていた。
レポートやテストの答案は「想定読者」を考えて書かせている。共通教育科目「光学材料の科学」でも想定読者を考えて書かせるレポートを課していた。もっと詳しく説明してほしいとの要望があった。そこで、平成23年度から共通教育科目「『想定読者』を意識した説明法、自己教育法」を開講した。「想定読者」を意識して書くことは、自己学習法としても有効である。様ざまな人びとのこと考慮する習慣もつける手段としても期待している。
学士力GP関連で開講した「創造システムデザイン」(2年前期必修)を担当している。ワークデザインとよばれるシステム設計のための創造技法を用いて、社会的な課題を解決するシステムを、グループで半期の授業期間を通じて考えてもらう。これによって、長時間考え続ける経験、グループで討論する経験をさせている。学生からも考える楽しさや、討論の仕方を知ったなどと好評である。
3年生後期必修科目「工業と技術者」を開講している。理学系中心の専門科目の学習が社会に出てどのように役に立つかは学生にとってわかりにくい。そのため、製造業で必要な様々な知識を与えるとともに、4回のグループ討議を通じて技術者倫理に関わる問題を考えさせる授業を行なっている。
いずれの講義の中でも、大学での学習は社会人になってから役に立つことばかりであるということであることを強調している。本年度から学部生のための就業力育成プログラム「みらい協育プログラム」を開始した。その中の1年生対象のガイダンスでも、大学での学習を通じた社会人にとって必要な能力の育成の重要性を強調している。
日頃から、教育能力の向上のためにできるだけ多くの機会を捉えて、学内外で様ざまな人たちを対象とした、教育、啓発活動をするように心がけている。さらに、教育関係の学会などで実践成果を報告し、情報交換をおこなっている。
〈実践の詳細および実践の理由等については別紙の添付資料に書きました。〉
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 黒岩 丈介
現在担当している学部教育科は、
- 知能システム工学入門セミナ(1年後期、必修、全教員による分担)
- 電磁気学演習Ⅱ(2年前期、必修)
- 知能システム実験Ⅰ(2年前期、必修)
- 信号処理(3年前期、選択)
- 情報基礎論(3年後期、選択)
です。その他に、大学院前期課程の講義として脳情報学(前期)、及び大学院前期課程の講義として人工知能特論(後期)を担当しています。2008年に記載した内容に加え、最近特に気を付けていることは、2つあります。
一つは、元気のない学生に声をかけ、個別に部屋で雑談をすることです。何らかの理由で元気を失っている学生は、実は思った程大人に成長しておらず、子供のように自分の話を聞いて欲しいようです。「何か元気なさそうだけど、どうしたの?」、「何か問題を抱えてるの?」、とか留年している学生には「何が問題で留年したの?」というような声掛けをしています。このような声かけに対し、初めのうちは反応を返してくれませんが、声掛けを続けていると、抱えている問題を話してくれるようになります。また、場合によっては、学生相談室のカウンセラーの先生に直接コンタクトをとり、学生を連れて行くこともあります。この様な簡単な声掛けで、時間は掛かりますが多くの学生は、問題が解決され、元気を取り戻しています。
もう一点は、学生に元気に楽しんで物事を取り組む姿勢を思い出させる機会を作ることです。例えば、私の研究室では、学生が楽しんで研究室に来る動機づけのために、昼休みに有志でバスケットボールを小一時間程度します。人数が少ない時には、夕方ジョギングをすることもあります。場合によっては、筋トレをすることもあります。実際、このような取り組みを始めてから、引き籠りになる学生は減りました。また、研究室の学生の意欲も向上しました。年齢的な問題はありますが、体力が続く限り、このような取り組みも続けていけたらと考えています。
平成23年度
The teacher of the year
機械工学科 | 田中 太 | 准教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 坂口文則 | 准教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 明石行生 | 准教授 |
材料開発工学科 | 阪口壽一 | 准教授 |
生物応用化学科 | 末信一朗 | 教授 |
物理工学科 | 森田紀夫 | 教授 |
知能システム工学科 | 池田 弘 | 教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 田中 太
私は福井大学に着任して今年で5年目になります。現在担当している講義は、2年生前期の流れ学と熱流体力学演習Ⅰ、微分方程式の一部、3年生前期後期の機械創造演習と機械工学実験です。福井大学に着任してから、初めて講義を担当するようになり、これまで四苦八苦しながら自分の講義スタイルを作ってきました。
2年生の流れ学や微分方程式の講義では、前半40分、小休息5分、後半35分、小演習10分という時間構成にしています。学生達は前半40分をしっかり集中すれば、5分間休むことができ、後半の講義は35分と短いので、再度集中できます。実質的な講義時間は減りますが、時間よりも集中して講義を聞くことのほうが重要と考えて、このような方法を続けています。幸いにも受講学生からの授業アンケート結果では、5分の休息時間は再度の集中に役立つとの回答が多く寄せられています。最後の小演習は、その回の講義内容で解ける簡単な問題を、出席確認の意味も込めて行っています。今年からは、この小演習を講義の最初に前回の復習として行うようにしてみました。最初に小演習を行うと、途中から遅れて教室に入ってくると目立って恥ずかしいので、講義に遅刻してくる学生が減ったように感じます。
3年生の機械創造演習は、風車による風力発電とターボジェットエンジンの設計製作実習に取り組んでいます。どちらの製作課題も、これまでに学んだ知識を活用した理論の構築と、実験による実証を目指しています。毎年、風車もジェットエンジンも少しずつ性能が向上していき、私自身楽しんで積極的に演習に取り組んでいます。私が楽しんで演習に取り組んでいると、受講学生にも楽しさが伝染していくような気がしています。学生の製作技術では、理論通りにいかないことも多々ありますが、風車やジェットエンジンが予想以上の性能を発揮したときの喜び具合は、いつも私が一番であり、これからもそのようにありたいと思っています。この実習授業は、受講学生と密接に話し合いながら進んでいくので、自分の担当している他の講義についても時折インタビューすることで、授業改善につなげる良い機会となっています。
今後も講義や演習の内容に改善を続けていき、自分が学生のころに理想としていた教員に少しでも近づけるように頑張りたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 坂口 文則
講義における工夫
電気・電子工学科には、物理や数学が得意な学生も多数いる一方で、電気電子工学の技術には大いに興味があっても、数学が非常に苦手な学生も沢山います。私が担当している講義科目には、数学の比較的専門的な知識や数学的な思考法が必要な科目が多く、後者のタイプの学生からは、授業内容がさっぱりわからないという声が、昔から寄せられていました。また、前者のタイプの学生との理解度の差が大きく開くという問題を抱えていました。そこで、さまざまな試行錯誤の末、現在では以下のいくつかの点に留意する講義を行っています。
*すでに学んだはずの基礎知識の確認:
講義で説明するとき必要な数学知識について、やや難しいと思われるものについては、たとえ高等学校や今までの大学の教育ですでに習っているはずの知識であっても、習った記憶があるかどうか、習ったとしたらどの科目で習ったか、内容を理解しているか、などを質問し、そのときの反応をみるように努力しています。あやふやな反応しかない場合は、すでに習ったはずの知識であっても、簡単な復習をしたり追加解釈をしたりしたうえで、講義の説明を始めるようにしています。
*他の講義科目の内容との関連を説明:
数学が苦手な学生に比較的多く見受けられるのは、同一の数学知識であっても、別な講義科目で異なった使われ方をすると、相互の繋がりがわからず、全く別個の知識に見えてしまうことです。個々の使われ方を別々のパターンとして丸暗記すると、丸暗記しなければならないパターンの種類が飛躍的に増え、パニックを起こしてしまうようです。そこで、講義で説明に用いる数学知識と他の講義科目がどのように関連しているかを、なるべく時間を割いて説明するようにしています。
*パターン丸暗記からの脱却を推奨:
数学の知識が必要な講義科目では、まず基礎的な内容を「理解」することが重要です。これに反し、基礎的な内容を十分に理解しないまま、問題の解き方の「丸暗記」で対処しようとする学生が、後を絶ちません。その対策として、試験問題の出題傾向を毎年大きく変え、理解なしの丸暗記では全く勉強になっていないことに関して、学生に自覚を促す工夫をしています。当初、この試みは多くの学生から嫌われましたが、最近では趣旨が伝わりつつあるようで、「あの講義の単位は、ちゃんと理解して勉強していれば、意外と簡単に取れる」との声も聞かれるようになりました。
*直観的・視覚的にわかりやすい板書:
数学知識を多用した講義においては、黒板に数式を単調に羅列することを避け、なるべく直感的にわかりやすいよう、数式の中の要素を色チョークで囲んで同じ色で補足説明をつけたり、重要な部分を強調したりする工夫をしています。これには、中学校や高等学校の数学の学習参考書の色や文字の大きさの使い方なども、大いに参考にしました。また、単なる数式の変形導出過程は目立たない小さい文字で、重要な結論となる数式は大きな文字で書き長方形で囲むなど、めりはりをつける工夫をしています。また、数式だけでなく、マンガ的表現の模式図も多用し、さらに、類似した数学知識の整理には対応表を板書するなど、工夫するようにしています。
今後の教育方針に関する抱負
電気電子工学の技術によって産み出された製品の中でも、特に学生の身近にある個人向けの商品では、性能や使い易さやデザインのみを強調し、中の仕組みがなるべく外から見えないようになっているものが多いため、中の仕組みが数学と物理で動いていることを、学生はつい見逃しがちです。
将来電気電子工学の技術開発に携わる可能性が高い学生のためにも、なぜ、電気・電子工学科で難しい数学の勉強が必要なのか、数学が電子製品のどのような部分でどう使われているのかを、直観的に理解してもらえるような講義ができるように、努力を続けたいと考えています。
理想の授業はまだ遠い — 建築建設工学科 明石 行生
理想の授業
私が理想とする授業は、サンデル教授の白熱教室のような授業です。そのような授業には、つぎの特長があると考えています。
- 教員は、質問を投げかけるので、教室に緊張感があり、学生は覚醒している。
- 教員は、ユーモアを交えて話すので、学生は、リラックスしている。
- 学生は、教員の説明が分からないと質問するので、教員は、学生の理解度がわかる。
- 教員は、質問に応えると頭の働きが活発になるので、ますます分かりやすく説明できる。
つまり、教員から学生への一方向の情報伝達ではなく、上述のような教員と学生との間のコミュニケーションを重視した授業を目指しています。しかし、現実の私の授業は、理想からは遠く、授業の出来に満足したことはありません。今日は質問しても学生は答えてくれなかったな、あの話は学生にうけなかったな、分かりにくかったかな、と反省ばかりしています。
授業の工夫
それでも、私の授業では学生の理解を深め学生とのコミュニケーションを促進するために、授業内容の「可視化」に留意しています。特に、つぎの点を心がけています。
- 大事な点をパワーポイントで説明する(資料としても配布)。
- 写真、図、グラフを多用する。
- 最も重要な点を板書する。
- 実務で遭遇する問題を演習に用いる。
- デモンストレーションを行う(例えば、
簡易分光器: http://www.anc-d.u-fukui.ac.jp/~akashi/education02.html#m01 )。
今後の教育への抱負
先日、福井市内の企業に授業を出前する機会があり、30分間の質疑を含む2時間の授業を3回、行いました。参加してくださった20名の若い従業員は、授業中わからないことがあればどんどん質問してくれたし、私の質問にも積極的に応えてくれました。この授業は大変体力を消耗しましたが、日本でも理想の授業はできることを確信しました。また、数日前、ある大学の語学センターの授業を見学する機会がありました。魅力的な若い教員達の授業にかける情熱に感心しました。彼らから、「理想の授業のシナリオがあるなら、ただ、その教員の役を演じなさい。」と言われたように感じました。理想の授業までの道のりは長いですが、少しずつそれに近づこうと思います。
最後に、受賞の機会を与えて下さった方々、評価していただいた建築建設工学科の3年生のみなさんに感謝します。
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負 — 材料開発工学科 阪口 壽一
今回の優秀教員投票用紙に記載されていたコメントの主なものは「説明が丁寧でわかりやすい」「講義のスピードがよい」「板書が見やすい・字が丁寧」「声が聞き取りやすい」「質問しやすい・親切に対応してくれる」であった。普通のことを評価してもらっただけで、実際に私も特に工夫して講義を行っているという訳でもない。そのため、日頃の教育に対する工夫として報告するようなことではないが、私がどのように講義し、どのようなことに注意しているかを以下に述べる。
板書とプリント
必修専門科目の講義は、必要に応じて多少のプリントを配付するが基本的には教科書に沿って板書を主体とする講義である。選択科目の講義では配付したプリントに記入する形式にしているが、これも板書を中心としたものである。パワーポイントを使っての講義は行っていない。板書する際は、読みやすく丁寧な文字を書くように注意している。特に化学構造式や反応式を書く際は極力大きく書くようにしているため、授業中は頻繁に黒板を消すことになるが消す際には学生に確認してから消すようにしている。板書を写す時間が十分に与えられない講義であれば、学生は説明をじっくり聴かずにノートを取ることに必死になってしまう。
丁寧な説明
まず講義の最初に5分から10分をかけて、前回にどのようなことを学んだか簡単に復習してから今回はどのような内容を勉強するか、今日の講義によってどのようかことがわかるようになるのかを説明している。これぐらいはわかるだろうと思っても説明はできるだけ丁寧にするよう心がけている。大切なところは特に時間をかけて丁寧に説明し、学生の表情を見たり実際に尋ねたりしながら補足説明もするため、講義の進行は遅くなってしまう。これに関しては「講義のスピードがよい」という意見も多いが、過去に「講義のスピードがもう少し速いほうがよい」という意見もあり、全員にとってふさわしいとは限らない。
質問への対応
講義中に学生から質問が出ることはまずないが、講義後には個人的に質問に来る学生が毎回のようにいる。私は講義終了後には、学生からの質問がなかったとしても前列の学生と雑談しながら最後の一人がノートを取り終えるまで待って黒板を消して帰るようにしている。学生が質問しに来やすいようにしているつもりである。
学生からの改善アンケートの書き込みやテストの結果などを考慮して、毎年のように板書や説明の内容・方法を改良しているが未だに何がよいのかわからない。理想的には講義課目の必要性と面白さが伝わるような講義をして、事細かな説明をせずとも学生自ら勉強して理解するようになればと思うが現実的には難しいであろう。今後も継続して学生とのコミュニケーションを取るようにして、学生の反応を見ながら講義方法を改善していくことになるだろう。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 末 信一朗
今回は、図らずも3回目の優秀教員の称号をいただきました。過去2回の受賞から数年以上経過してからの受賞ということだけでなく、自分にとって今回くらい、この受賞に関しては考える意義が深いと感じています。それというのは、多くの教員にも共通することだと思いますが、ここ最近、研究室という特殊な環境の中での密度の濃い人間関係が苦手な学生や「うつ」などの心の病に冒される学生が増えてきて、その対応に苦慮してきました。この様な状況に加えて、さらに昨年より、詳しいことは省略しますが、今まで体験した以上に精神面でも研究面においても特に指導の難しい学生を預かることになりました。彼の指導に対する負担は並大抵のものではありませんでした。初等中等教育とは明らかに異なる大学院という研究・教育体系の中で、学生にどこまで均等に教育と研究指導をするべきであるか、また、そうすることによって、周囲の学生が受けられなく指導のことも大変大きな悩みとなりしました。
心身共に疲れ果ててしまい、正直言って平成23年度前期講義は、平常を装いながらも、心の片隅に、どうでもいいという投げやりな気持ちが多少なりともありました。しかし、授業に対するこの様な気持ちの微妙な変化は、授業アンケート結果にすぐさま反映されました。前半のアンケート結果では、ほぼ例年どおりの評価でしたが、後半のアンケートでは、声が小さい、出席のとり方が悪いなど惨憺たる結果でした。自分としては、今期は何とか誤魔化して乗り切ったつもりに思っていたことが、学生にずばり指摘されていることにかなりのショックを受けました。そして、この結果を受けて、自分が大学教員として教育に携わってきたことの意義を改めて考えてみました。民間企業の研究員から教員となった時に感じた研究と教育の両方に携わることの喜びや生きがい、長年をかけて積み上げてきた講義への工夫とそこから得られた経験などが次々と浮かびあがってきました。まったく、今回は自分に恥じ入るばかりでした。後期の講義からは、気持ちを新たに自分の原点に立ち返ったことが学生諸君の評価と今回の受賞に繋がったのではないかと思っています。やはり、講義の原点は講義テクニックになく教員たるものの講義に対する気持ちの持ち方によるものだと感じています。その点では、授業アンケートは貴重なツールだと考えています。
今後については、常に自分が大学教員となりたかった原点を忘れずに講義に望んでいきたいと考えています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学科 森田 紀夫
物理工学科の『優秀教員』だそうである。・・・と言っても、今年度の物理工学科の三年生のうちのたったの2割程度の学生が「最も良い教員」と「2番目に良い教員」として私に投票しただけのことらしいので、『優秀教員』などという仰々しい名称が果たして適当なのかどうか甚だ疑わしい。思うに、私と相性のよい学生が今年度の三年生にはたまたま他の年度よりも幾分多かったというだけのことなのであろう。今年度の三年生にだけ何か特別なことをやったわけでもなく、授業にことさら工夫をしているわけでもなく、普通のことを普通にやっているだけである。そんなわけで、「教育に対する工夫」とやらについてはことさら書くことも無いので、「今後の教育に対する抱負」の代わりに、常々思うことをとりとめもなく以下に記すにとどめたい。
学生はなにゆえ大学に入って来るのであろう。おそらく大半の学生は、大卒の方が就職に有利だから、そして就職してからもたぶん有利だろうと思うから入って来るのだろう。しかし、大学を出ていさえすれば有利であるなどという時代はとっくの昔に終わっており、個人の能力次第という時代に入って久しい。とりわけ現在の日本および世界の経済情勢は、学生にとって可哀想なくらいに悲惨であり、それは以前のような景気循環による不景気とは異なって、当分(おそらく今後数十年)大きく好転するとは思えない。当然、企業間の競争、個人同士の競争はますます激しくなり、そんな時代を生き残るためには、これまでにも増して、自身の能力が重要になってくる。大学で学ぶことは、その能力を身に付けるための基礎となる重要なものであり、それを思えば、自ら進んで積極的に学んでしかるべきものであろう。しかるに、ここ数年の学生を見るに、以前よりもなお一段と積極性が低くなり、真面目な学生であっても、ひたすら受け身に授業を受ける者が目立つようになっているように思われてならない(これが「ゆとり教育」の『成果』なのか?)。
しかし、こんなことをいくら学生に言ったところで、積極的に学ぶことのモチベーションにはなるまい。社会に出て実際に「痛い目」に遭うまでは分からないであろう。それが人間というものである。ましてや、授業に幾許かの工夫を加えたところで、さほどの効果があるとも思えない。では、現在学生である者が目の色を変えそうなものは何だろう?思うに、その一つは金(カネ)ではないだろうか。おそらく大半の学生の授業料は親が出していよう。親とは有り難いものである。我が子の将来の幸せをひたすら願って授業料を出す。しかし、それが必ずしも良い結果となっているとは限らない。授業料は、親から直接に金融機関を介して振り込まれるか、学生自身が振り込む場合でも親から素通りで、学生は、その金額を頭では分かっていても、実感として分かっている者は希ではないか。それが非常に良くない。現在この大学の授業料は年額約54万円である。これが高いか安いかはよく分からない。しかし、少々乱暴ではあるが、これを年間の授業日数(期末試験を含めて、32週×5日=160日)で割ると、1日あたり約3,300円である。おそらくこれは、400〜500円のコンビニ弁当を食べて生活している学生の実感としてはかなりの額であろう。そこで提案であるが、授業料を半期ごとに振り込むのではなく、学生に、毎日の授業の前に自分のポケットから金3,300円也を出して自動販売機でチケットを買わせるのである。そのチケットを持っている者だけが、その日の授業を受講できる。これなら、今日の授業にいったい自分はいくら払ったのかを毎日強烈に意識することになり、映画やコンサートや遊園地などと同様、「モトを取らなければ損だ」という気にならないだろうか?むろん、その反作用として、授業に対する評価も飛躍的に厳しくなろう。しかし、それがまた良いのである。
もちろん、これは9割方冗談のつもりの話である。いろんな弊害が出てくるであろうし、経費や手間も相当なものであろう。しかし、それでも私は学生諸君にいつも問いたい。「今日は、3,300円分、勉強したかね?」と。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 池田 弘
学生の意見を参考に、我々の講義への不満、私が選ばれた理由を紹介し、また、講義に対する工夫、今後の抱負を述べたいと思います。ここに示すのは、学生から見たよい講義であって、真に学生のためになるのかは、私自身、日々頭を悩ませていますし、まだまだ改善点は多くあると考えています。
まず、学生の多くは、講義中、質問をしたくてもなかなか質問をできる雰囲気ではなく、わからないまま講義を受け続けています。そのうちわからないことが山積みとなって講義を真面目に受ける気持ちが途切れてしまうようです。私は、講義中の雰囲気を質問がしやすく、しかも集中力が保てるような雰囲気になるように努力しています。そのための対策として、まず、学生の名前をできるだけ早く覚えるようにしています。名前を覚えるために、講義の出欠確認は、私が名前を呼んで、学生が返事をするという形をとっています。それから、講義には少なくとも5分前に行き、その時間を使って学生と会話をするようにしています。また、講義以外の時間でも、学生に会った時には積極的に挨拶をしたり、言葉をかけたりしています。これらのことは、講義の質とは何ら関係のないことのように思えますが、講義中の雰囲気を非常によいものにします。まず、学生は、私に親近感を持っているため、講義中に気軽に質問ができるようになります。また、私が学生に対して質問をする時も、いちいち名簿を見て当てるのではなく、会話をするような感覚で自然にできるので雰囲気が重くならずに、それでいていい緊張感が保てています。教師側から学生側に多くの質問をし、また学生側からも教師に多くの質問が出ることで、学生は楽しみながら、講義に集中できているようです。また、興味のない講義内容も興味が持てるようになるようです。
また、学生の多くは、講義のペースが速すぎて、理解が追いつかずに困っています。私は、学生がどの程度理解しているかを学生の様子を見ることで感じ、怪しい場合は、もう一度説明を丁寧にしてあげるようにしています。こちらが地道に熱意をもって説明をすると、学生もそれを感じ、一生懸命聞こうという気持ちになるようです。
今後も、学生1人1人を大切にし、できるだけ細かな気をくばってあげるよう努力していきたいと考えています。また、学生が講義内容に興味を持ち、積極的に勉強をしたくなるような講義を目指していきたいと考えています。
優秀教員
機械工学科 | 鞍谷文保 | 教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 勝山俊夫 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 山田徳史 | 教授 |
建築建設工学科 | 川上洋司 | 教授 |
材料開発工学科 | 米沢 晋 | 教授 |
生物応用化学科 | 沖 昌也 | 准教授 |
物理工学科 | 高木丈夫 | 教授 |
知能システム工学科 | 古閑義之(物理工学科) | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、および今後の教育への抱負」 — 機械工学科 鞍谷 文保
日頃の教育に対する工夫
私の専門は振動工学で振動関連の授業を担当している。授業では、簡単な振動系を取り上げ、運動方程式を導き、それを数学の知識を用いて解くことで、系の特性を求める。その手続きと得られた結果の解釈を教えている。運動方程式の解法は、教員にとっては簡単であるが、学生にとっては数式の羅列で頭が痛くなるだろう。そこで、振動解析に必要なものに絞ってであるが、数学の知識を丁寧に教えている。それが、私の教育に対する工夫である。
幸いなことに、私は振動関連の授業とともに、数学の授業も担当している。学部1年の線形代数で、振動解析に必要な固有値(固有振動数)、固有ベクトル(固有振動モード)の知識を教えることができる。学部1年では振動の話はしない。2年生のお楽しみと話している。そして学部2年と3年で、学部1年で学んだ内容を振動解析に結びつけ、復習する。授業評価アンケートで、わかりやすい授業との評価を得ている要因の一つは、学部2年と3年の授業で、繰返し数学の知識(線形代数だけではない)を説明するからだと考えている。他の一つは、講義科目における演習の導入だと考えている。特別ではなく、多くの先生が行っていることで、授業構成は次のようである。
①前回の演習の解説:時間の制約があるので、理解不足の内容にポイントを絞る。
②新しい内容の説明:復習が可能な程度に、教科書の行間(式の展開、導出)を説明する。さらに、工学的な意味をわかりやすく説明する。集中力の低下につながるので、私語に対しては厳しく注意する。
③新しい内容の演習:演習を行い、知識の定着を図る。そのとき教室内を巡回し、学生の質問を受ける。
④演習の提出:学生が理解不足(私の説明不足)の点を把握する。ここが最も重要なポイントと考えている。
今後の教育への抱負
私は、本学工学部に着任するまで、教員養成系大学・学部で11年間、中学校技術科教員の養成に携わってきた。そのとき、本学工学部で取り組まれている「統合型体験学習を通じて知識の活用能力や創造力の向上を図る教育プログラム」と同じ考え方で「ものづくりを通して、科学的な知識の実感を伴った理解を図る教材」の開発に取り組んだ。その経験から、体験的な学習が効果を上げるためには、学生の基礎学力があるレベルに達している必要があると実感している。それは、講義・演習科目で取り組むべき課題である。今後とも基礎学力の確実な定着を目指して、授業改善を行う。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 勝山 俊夫
日ごろ、反省の多い授業ばかりしているので、優秀教員の一人に選ばれて戸惑っています。このため、ここでは、私自身の授業に対する基本的な考え方を述べさせていただきます。
一番注意していることは、本質的なところを選んで、その部分は何度も繰り返し反復して具体的に話をするという点です。例えば、担当の「電磁気学」では、磁場の発散がゼロで、磁場の回転がゼロでないこととその理由を、繰り返し話をしています。また、どの先生もそうだとは思いますが、分かりやすく話をするすることを心がけています。福井大学に赴任した当初は、講義の経験がそれほど多くなく、どうすれば分かりやすくなるのか良く分かりませんでしたが、要は、話を簡潔にするということが最も分かりやすいことであると気が付き、極力簡潔に、具体的に話をするようにしています。どうも、分かってもらいたいと思い、色々喋りだすと返って分かりづらくなってしまうような気がします。
また、授業中の学生の態度を観察してみますと、以下の3つのグループに分かれていると思うようになりました。一番目のグループは、ちゃんと講義を聞いて、内容を理解しようと努めているグループで、このグループは問題はありません。二番目のグループは、ノートは取っているが、単にそれだけのグループ、三番目のグループは、周りとおしゃべりをしていたり、内職をしたり、寝ているグループです。三番目のグループに関しては、とくに講義中の私語に対し、厳しく注意することにしていますが、私が最も関心のあるのは、二番目のグループの学生です。つまり、講義には一見まじめに出席して、機械的にノートを取り、帰っていく学生です。私も、考えてみれば、学生のときこのようなことをしていたような気がします。このようになるのは、講義の内容に興味がなく、単に取得単位の数を増やすために講義に出ている。あるいは、教師の話がつまらないので、ノートは取っているがそれ以上のことは考えない。これら二つの理由は、問題があるにせよ、理由がはっきりしているので、対策も出しやすいと思います。ところが、単にノートを取っているだけで、ある意味単に時間をつぶしているという、昔流行ったニヒリズムの極致みたいな学生が多くなっているような気がしています。このような学生にどう対応したらよいか現在一番思い悩んでいるところです。実際にどのような刺激を与えれば、この状況から抜け出してもらえるのか、試行錯誤することになるとは思いますが、これから取り組んで行きたいと考えています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学科 山田 徳史
日頃の教育に対する工夫
私が大学生だったとき、唯一真剣に取り組んだ授業がありました。その授業に遅刻しそうになったときは、タクシーに乗ってでも山道を越えて教室に駆けつけたものでした。その授業は、ストーリーがはっきりしていてわかりやすく、板書も的確でそれを写せば教科書いらずと思えるほどの、今思っても最高の授業でした(今でもその講義ノートにはお世話になっています)。また、途中5分間の休憩を設けており、そのお陰で集中力を持続させることができました。私は、福井大学に着任するまでは7年近くポスドクでしたので、大学教育に携わるのは福井大学に来てからが事実上初めてでした。どのような授業をするか、と考えたとき、大学時代に受けたあの授業のまねをしよう、と決めたことは自然な流れでした。今、私が授業で実践していることは、その先生の授業のまね+αです。まず、ストーリーを明確にし、その上で、山登りに例えると「今は何合目か。ここまでどんなルートだったか。この先頂上までどう進むのか」ということを、要所要所で繰り返し説明します。次に、「飛躍のない説明」を心がけています。どうしても飛躍せざるを得ないときは、飛躍することを言った上で、どうすればその飛躍を埋めることができるのかについても可能な範囲で補足します。そして、授業の途中で5分間の休憩を設けています。5分間は、それまでの内容を振り返って理解を深めるための時間としていますが、トイレに行ったりするなどの自由度の高い使い方を認めています。板書中心の授業ですので、ノートをきちんと取るよう学生には常々言っていますが、ノートを取る習慣のない学生、ノートの取り方がわからない学生もいるようで、そこは悩ましいところです。ただ、板書の仕方には心がけています。字はお世辞にもきれいとは言えませんが、ある程度大きく書く、行間を空ける、前後関係がわかるように書く(スライド式の黒板を使っていますので、①、②、・・・という具合に、黒板の左上に番号を振る)、などしています。板書中心の授業では一方通行になりやすいので、そう頻繁ではありませんが授業の中で学生に質問をするようにしています。また、毎回の授業でFeedBack Sheet(簡単な課題を書いたプリント)を配り、例えば火曜5限の授業では水曜18時半締切、というように余り時間をおかないで提出させ、添削の上、必要に応じて再提出させています。以前は5、6回再提出させたこともありましたが、最近は時間が取れず、再提出は1回のみとしています。
思い返すと、高校生のときも、大学生のときも、ノートは友人達によく貸していましたし、塾で教えていたときもわかりやすいということは言われていましたので、まとめたり伝えたりすることには結構向いているのかもしれません。そう言えば、教員免許も持っていますし・・・。
今後の教育への抱負
「後々まで重要性を失わないと思われる基礎的な事項をしっかりと理解させる」ということを、これまでも重視してきましたし、今後も徹底したいと思います。「下位層」への対応はもちろんですが、それだけでなく「上位層」をさらに鍛えて伸ばす方策も考えてみたいと思っています。
優秀教員に選出されて — 建築建設工学科 川上 洋司
次点にしても「優秀教員」に選出されたことは、素直に喜ぶべきなのかもしれないが、このことを機に思うことは、大学における教員としての「優秀」とは何なのかということである。「優秀」というものが、被選出者である我々大学教員の中で明確なコンセンサスを持ち得ているのか、もっと問題なのは投票する側である学生にとって「優秀」な教員の要件なり資格なりを十分に斟酌して投票しているのかということである。学生個々人にとって、教員の「優秀さ」の評価軸は多様であってしかるべきではあるが、個々人が明確な自らの評価軸を持たず、またおぼろげに持っていたとしてもそのフィルターを通さずに投票している(その可能性大?)とすれば、選出された者としてはなぜ選出されたのか、どういった点が「優秀」とみなされたのかということから考えざるを得ない。こうしたことを改めて考える機会そのものが「優秀教員」制度の意義なのかとも思う。
改めて自らのことを考えると、パワーポイントを用いてほとんど一方的にしゃべるというスタイルで、特段に工夫をこらした講義をしているわけでもない。少なくとも教育技法という点では、残念ながら他の先生方に参考にしてもらうようなことは思いつかない。敢えてあるとすれば、これも多くの先生方が実践されていることと思うが、唯一担当している数理系の必修科目(計画数理)において、毎回課題を出し、翌週の提出時にその解説を行っていることぐらいである。
ただ、“社会と直接接する高等教育機関としての大学”の“講義”ということを常に意識し、真摯に講義を行っているつもりではある。その上で、理解したように思わせるのでもなく、またこちらがしゃべること全てを理解しろというのでもなく、講義科目(特に計画系)に関して私自身が大事だと思うことを投げかけ、その中から学びたいと思う者が何かを感じ、自らその何かを自らのものにすることになればいいというスタンスを大事にしている。大学の講義のあり方としての私なりの思いであり、約40年前の学生時代を振り返って、自分が思う「優秀教員」と呼ぶに相応しいかつての先生方の講義から学んだことでもある。今の学生にとって相応しい講義のあり方ではないかもしれない。しかし、こうした講義をする者の思いを少しでも感じて投票してくれた学生がいたとすれば、「優秀教員」として選出されたことを素直にうれしく思うのだが・・・。
日ごろの教育に対する工夫 — 産学官連携本部(材料開発工学科) 米沢 晋
講義を進行する上では常に悩ましいことが多く存在するが、その中でよく話題に上るものについて触れてみたい。
1. どこまで手厚くするのか?
私が学生であった頃、教科書というのは海外の著名な先生が執筆されたものあるいはその翻訳もので、なにやら辞書のような分厚いものがドーンとあるだけというのが普通だった。書籍部の書棚を眺めてみるとよくわかるが、今は「よくわかる」や「なっとくする」と銘打ったテキストがわんさとあり、随分と学ぶ側にとっては非常に親切な環境になっている。ただしそれをもって「今の学生は恵まれているなぁ」と言ってしまうのは早計で、これによって助けられているのは実は我々教員なのではないかと思っている。学んで身につけるために必要な努力は基本的には同じだろうと思うので、そうすると教育が効率化されてより助かるのは教員の方なのではないかと。私自身は講義の中で、キーワードが記述によって常に意識されるような授業用に特化したプリントを用意し、記述が終了(穴埋め)すると、それがいわゆる講義ノートのようなものになるようにしている。まさに「○○の友」といったワークブックのスタイルであり、時として「そこまで手厚くするのはやりすぎではないか?」という指摘も受けるのだが、これとて学生のためではなく教える側の都合と言えばその通りである。「教える側がこんなにも親切にしてやっている」とか「君たちは恵まれてるよね」という考えを持ってしまうのが一番まずいのだろうと自戒をこめて感じている。
2. 身についたかどうかをどう評価するのか?
講義を行って究極のところで問題になるのが「どう評価するのか?」であろう。試験をきっちりやって公平に点数をつけて評価すればいいというのは至極当然であるものの、学習の目的が「社会へ出て役立つ知識や課題解決能力がきちんと身についている」ということにあるのであれば、そこへ至るまでには最終的な評価が出ないことになる。とある科目の成績をつけることについてそこまで責任を考えることはないと思いつつも受験勉強の延長のような形を「それでいいや」と受け入れることにはなかなか抵抗がある。時間の制約で実現できる見通しもないが、ひとりずつ口頭で問答して何をどこまで身につけたかを聞きとって評価してみたいとも思う。せめてもと思い、毎講義ごとに感想、質問、授業内容への希望、その他自由記述を記述する時間をとり、回収、次講義時に回答あるいはコメントを述べるよう努力している。5 minute paperのようなものであるが、それよりも記述の自由度を高く設定することで、集計は困難であるが、学生の「気持ち」が見える部分が増加する。例えば、「授業内容を理解できたか?」という質問においては、以前には「理解できた」とした内容に対する質問でも試験が近づくにつれて「理解できていない」と回答する傾向が顕著になる。綿密に指導するためにはこの中から本当に理解できていないものと単に不安に駆られているものとを区別して対処する必要がある。こうした微妙な「空気」はなかなか読めないが、やはりコミュニケーションなくしては試行錯誤すら出来ないと感じている。また、個人あるいはクラスの単なる学習到達状況だけでなく身体的、精神的健康に関する状況も少なからず把握できるため、もちろん完全ではないが「正直」なコミュニケーションをとれるように思う。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 沖 昌也
福井大学に赴任し講義を担当して、ちょうど5年目になる。私は2年生後期の必修科目と3年生前期の選択科目を担当している。必修科目では基礎知識の取得を重視し、選択科目では、応用面を重視し、実際に起こる問題点、解決方法など具体例を出しながら講義している。また、毎年、少しずつ講義の方法を変え、試験の問題もいろいろなパターンを試してみた。同時に出来るだけ多くの学生とコミュニケーションを取り、学生の意見も取り入れ、改善出来るところは改善するよう努めてきた。以下に現在、具体的に講義の際に行っていることと、感じている私の意見を述べたい。
基本的にパワーポイントは使わない
学生のほとんどがパワーポイントを用いた講義は望んでいない。しかし、講義の中で数分、アニメーションを使った動きのあるスライドを用いて説明することは、学生が頭の整理も出来、理解を早める有効な手段である。私の場合、だいたい講義の半ばぐらいで使うが、学生の気分転換にもなって良いようである。
教科書に載る発見までの苦労や実際にあった研究の裏話を交える
学生には教科書に出ている事実だけではなく、その発見までの苦労や失敗談、裏話などを交え、講義することを心掛けている。それを知ることにより、その話しと関連して覚え、試験のときだけの記憶ではなく、自分の知識としてきちんと残り、学生には評判が良いようである。
教科書に出ていても未知の部分が多いこともきちんと説明する
どの分野でも成り立つわけではないと思うが、生物の分野では教科書に出ていても分かっていないことが多い。例えばDNA複製1つとっても、未だ世界最先端の研究分野の1つである。どの部分が明らかになっており、どの部分が不明で現在でも大きな疑問として残されているかなど具体例を挙げることにより、勉強する意欲がわく学生も多いようである。また、上記例を出しながら、何でも教科書は正しいと思わず、何事にも疑問を持ち考える人になるように指導している。
試験の後には1度答案を返却し解説をする
試験は覚えたら出来る問題と理解していなければ出来ない発展的な問題を混ぜて出題している。試験の後に一度答案を返却し、解説する時間を設け、前者は出来るが後者が全く解けない学生には、勉強方法を改善するように指導している。
今後も新たな試みに挑戦し、学生の将来に役立つ講義が出来るように努力していきたい。
カナダからの手紙 — 物理工学科 高木 丈夫
連絡どうもありがとう。今、カナダに居るんだね。それにしても、この「優秀教員のことば」が、いくら卒業生とはいえ、カナダから見られているとは思わなかったよ。君達に、特別講義をしてからもう15年以上も経つんだね。
今回、優秀教員に選ばれたけど、本当にそれに相応しいかは、大いに疑問だねぇ。君達に教えていた頃なら、自信を持って優秀教員と言えたんだけどね。あの当時は、他学科の応用数学の授業しか担当していなかったけど、授業の最後の20分は。「自学科の講義が解らないから」と請われるままゲリラ講義もやってたなぁ。その中で、いろんな講義をしたっけ、電磁気学、量子力学、線形代数、統計力学、回路理論、….放課後に持ち込まれた問題の中には、Δ変調なんてトンでもないものもあった。当時、応用物理学科の授業は、全く担当していなかったんだけど、「放課後に物理全般の講義をしてください。」と、ものすごく遠慮がちにやって来た、君達の顔を今でもはっきり思い出せる。そう、あの頃の大先生たちには、学科の内外問わずに授業がヘタクソな人達が多かったよね。当時僕は30歳チョイだったわけだけど、授業でやっつけるのは、赤子の手を捻るようなものだった。でも、今だったら君も判るでしょう、解りやすい授業が良い授業だとは限らないことを。僕にとっては、このことは、院生時代に嫌というほど教えられ、経験した事なんだけどね。
今の授業?うん、なかなか君達の頃のようには行かないからねぇ。今は、勉強したい学生に対しては最大限興味を引くように、最初から就学意欲が無く、授業に害を与えるような学生に対しては、授業が嫌になって教室から出て行ってもらえる様に、授業をしているんだよ。そう、僕は Best teacher の称号と、Worst teacher の称号を同時受賞したいと思っているんだ。授業を自在に設計できるならば、嫌われる授業も当然設計できるわけで、どちらか片方というでのは面白く無いし、簡単だからね。少しは、授業は個性的で、難しいことにも挑戦しないと。それに、大学に入ってまで嫌いな事をするのは、良い結果をもたらさないことも、学生に知って欲しいんだ。君達の頃には、少なくとも大学に入学した後の目的も大部分の学生は持っていたと思うんだけど、今はこの部分から心配しないとイケないんでね。
さて、僕が福井大学の教壇に立てるのも10年と少しになったけど、授業は今までと変わりなくやっていくつもりだよ。芸術作品がそうであるように、受け手に迎合した作品は、その場では評判を取るかもしれないけど、結局あとには何も残らないから。どうせ授業をするからには、毒にも薬にもならないんではつまらないよね。最近流行りの、”とにかく、学生に親切に” というような甘口の授業は、チョットねぇ。僕が学生だったら、出席するのは、苦痛でたまらなかったと思うな。
僕の学生時代、「カナダからの手紙」というラブソングが在ったけども、君の手紙、あの頃に学科を問わずに僕の部屋に質問に来ていた、(あるいは、ただ遊びに来ていた?)おそらくは学問が好きだった学生達からの、授業への応援歌に思え、大変嬉しく思いました。
この度は、連絡ありがとう。
体に気をつけて。また会える日を楽しみにしています。
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前回の受賞後に、カナダにいた卒業生が「優秀教員のことば」を読んで、電子メールをくれました。すぐに返信しましたが、それからの短い間に、大学も、学生も状況が変わってしまいました。もしも今回の受賞後に電子メールをもらったら、という想定で書きました。ご笑覧、感謝します。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学科 古閑 義之
はじめに
私の所属は物理工学科ですが、授業では主に他学科の1年生の「微分積分」や「線形代数」を担当しています。日々の講義で特に工夫ある授業ができている訳ではありませんが、達成度別クラスや数学ステップアップ等の改善には、自分なりに努力を続けてきました。その結果として、私自身の授業で改善されている部分もあると思うので、工学部全体の初年次の数学教育に関する取り組みも合わせてご紹介します。
授業の工夫
「微分積分」と「線形代数」では、入学直後に実施するプレースメントテストや前期の成績をもとに、3〜4学科を再編成した達成度別クラスを導入しています。上位クラスでは、例えば専門科目に関連するような少し難しい話題を取り入れることがあります。また下位クラスでは、問題や説明が高校数学からかけ離れたものにならないよう心がけています。下位クラスには数学ステップアップ受講対象者が多いこともあり、担当の先生との情報交換をもとに演習や試験の問題も選んでいます。
上記以外に、工夫というほどのものではありませんが、講義の最後に必ず小テストを実施し、解答を提出させるようにしています。上位クラスの学生には少し難しい問題に取り組む機会に、下位クラスの学生には理解できなかった部分を確認する機会にすることが目的で、質問や友人との相談も許可しています。採点が少し大変ですが、この小テストで理解が深まる学生も多いようなので、福井大学に着任以来続けています。
今後の抱負
2年前に始めた学習支援室では、私が授業を担当していない2年生以上の学生に、専門科目について質問を受ける事もあります。またAOセンターの大久保先生主催の高大連携数理教育研究会に参加するようになり、高校の先生と話をする機会を持てる様になりました。これらの経験をもとに、高校数学と専門科目の接続をより意識した授業内容にしていきたいと考えています。
おわりに
知能システム工学科の学生さん達が優秀教員の一人に選んでくれたことは、今後の授業を行う上で大変励みになります。どうもありがとうございました。また優秀教員投票の際、知能の授業を担当している物理の教員も投票対象教員のリストに加えて頂いた、学科長の平田先生のご配慮にも感謝致します。
平成22年度優秀教員
機械工学科 | 酒井康行 | 助教 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 廣瀬勝一 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 吉田俊之 | 教授 |
建築建設工学科 | 本間礼人 | 講師 |
材料開発工学科 | 中根幸治 | 准教授 |
生物応用化学科 | 堀 照夫 | 教授 |
物理工学科 | 藤井 裕 | 准教授 |
知能システム工学科 | 池田 弘 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 酒井 康行
私の教員歴はまだ3年目と日が浅く、教育に関する幅広い知見や経験はありません。しかしながら制度上では若手教員が演習だけでなく授業を担当することが可能となり、 私も基礎熱力学の講義を任されています。ではどうやって不足分を補っているのか?答えは、「ベテランの先生方の真似をする」ことです。以下に具体的に記述します。
初めて授業を担当することになった時の準備
- 知り合いの複数の教員から熱力学の授業、レポート、期末試験の資料を頂いた。
- 熱力学の参考書・問題集を数十冊読んだ。
これだけの情報に目を通すと、わかりにくい授業(参考書)というのが明らかにありました。今現在の授業では、わかりやすかった授業(参考書)を活用しています。ただし、私の視点からわかりやすいというだけであって、学部生の視点とは異なります。授業を受けている学生の反応を見ながら毎年修正しています。
<たくさんの授業資料、参考書に目を通すという手法も、教授からのアドバイスでした>
日頃の授業に対する工夫
出席管理、授業開始・終了のタイミング、配布物、成績管理等すべてがわかりませんでした。しかしながら福井大学のホームページには「優秀教員のことば」が掲載されていますし、学科内には教育熱心な先生も数多くいました。これらの先生方の授業方法を少しずつ取り入れています。以下、具体的に取り入れた項目です。
- 出席代わりに簡単なアンケートを行い、質問や説明不備な点を把握する。
- 前回の復習から始まり、次回の予告で終わる。
- 最後に講義室を出るようにし、その間に気軽に質問ができる状況を作る。
この他にもさまざまな工夫が他の「優秀教員のことば」に記載されています。私のような経験の浅い若手教員にとっては貴重な「ことば」です。
今後の教育への抱負
「若いころは自分が授業(学問)を楽しんでおり、それが学生にも伝わり生き生きしていた。数年繰り返すうちに自分が楽しめなくなった。学生も楽しくないようだ。」と、ある先生がつぶやいていました。これが真実であるならば、どうすればいいのか?
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 廣瀬 勝一
日頃の教育に対する工夫
これまで既に他の先生方が述べられてきたことばかりかと思いますが、この機会にこれまでの講義を振り返るためにも、留意してきた事項を列挙したいと思います。
まず、学生には、講義を通して、専門知識の習得のみでなく、新しい事項を独習する力と方法を修得して欲しいと考えています。このため、学生には、一つの講義からでも良いので、予習をして授業に望み、予習時の自分の理解の正誤や、判らなかった点を確認することを勧めています。また、教科書で省略されている式変形などは、時間の許す限り、まず各自で確認させ、その後に説明するようにしています。また、その時間は教室内を巡回し、学生の質問を受けやすいようにしています。
工学研究科では講義アンケートを実施することが義務付けられていますが、学生からの意見を聴取できるよう、◯✕のみでなく、自由記述の部分もなるべく書くよう学生に依頼し、主な意見に関しては、次の講義時に、今後どのように対応するかを説明しています。
他の留意事項は以下のとおりです。
- 大きな声でゆっくり話し、板書も大きな字で書く。
- 私語は慎むよう厳しく注意する。
- 講義で使用する補足資料は、ウエブページにアップロードし、いつでもダウンロードできるようにする。
なお、これは講義と直接関係はありませんが、手頃な英語の補習として、学生にはラジオ英語講座を聴くことを勧めています。最近は便利なもので、過去の放送がインターネットでストリーミング配信されているようです。
今後の教育への抱負
もう随分以前に、恩師が「将来は最良の教授一人しか必要でなくなる」と仰っていました。最近では、いくつかの大学の講義がインターネットで配信され、誰でも聴講可能になってきています。恩師は、必ずしも言葉通りではなく、我々への戒めとして仰っていたのだと思いますし、本学での審査で模擬講義を行ったときに同じ話をした際にも、審査委員の先生から「工夫次第ですぐに良い講義ができるようになりますよ」とのお言葉も頂きました。今後も、最良の教授に取って代わられることのないよう、学生と直接対話できる環境を活かした講義ができるように工夫を続けてゆきたいと考えています。
日頃の教育に対する工夫 — 情報・メディア工学科 吉田 俊之
教員が各講義の準備や採点等に費やす時間や労力(ここでは「エネルギー」と総称させて頂く)全体を100としたしたとき、
- 講義前に、準備等に費やすエネルギー(事前エネルギー)
- 講義後に、レポートの評価や試験の採点等に費やすエネルギー(事後エネルギー)
の比率は、どの程度が適当であろうか?もちろん、講義科目や形態にも大きく依存するであろうが、かつて小職は、ほとんどを事前エネルギーとして費やしており、またそれが正しいように思っていた。しかし、昨今の自分自身を振り返って見ると、科目に依らず、ほぼ100%を事後エネルギーに費やしている。以下、「日頃の教育に対する工夫」とまでは言えないにしろ、この辺りの事情について触れさせて頂く。
小職の担当する科目は、「確率・統計」、「プログラミング言語」、「交流回路」などの、主として学部1、2年生を対象とした基礎科目であるが、これらは共通して「演習や実習などを通して(実際に手を動かして)はじめて体得できる科目」と言えるものばかりである。事前に周到に準備をして「流れるように話す」ことができれば、教員側にとっては「すばらしい講義ができた」ことになるのであろうが、逆に学生の立場から見た場合、「果してそれが良いことなのか?」、最近はこのように考えている。もちろん、理路整然とは程遠い講義展開は論外である。ただし、上記のような科目の場合、多少の冗長性があったとしても各事柄をゆっくり丹念に説明し、また例題等をその場で教員自身が考えながら解いてみる、という姿勢の方が「学生がついて来る」ように思えてならない。このため、不謹慎かも知れないが、小職は、講義前の準備に費やす時間は小テスト(後述)の印刷のための10分程度のみ、講義内容の準備・予習しない、ことにしている。お叱りを頂くかも知れないが、これが小職の「日頃の教育に対する最大の工夫」で、そのため毎回の講義には非常に真剣に取り組んでいる(格好悪いので、学生の前で立往生するようなことはないように)。
一方で、上記のような科目では演習や実習は必須であるが、講義の中では十分な時間が取れないのが現状である。かと言って、「次回までに演習問題解いておくように」等と言っても、実際にやってくる学生は2割あるかどうか。であれば、ある程度、強制的にやらせる必要がある。そこで小職の講義では、(1)内容を絞った演習問題、実習問題を課題として出し、(2)必要に応じてレポートとして提出を要求し、(3)次回の講義の冒頭で“小テスト”として理解度を確認する、という手順を毎回実施している。その採点やチェックには、かなりの時間と労力が必要で、これが冒頭述べた「事後エネルギーとしてほぼ100%」を費やす理由である。
上述の小テストは、「3回連続で不合格となると自動的に不可」という厳格な方針の下に課しており、小職は学生にとってはこの上なく厳しい先生であろうことは覚悟している。それでも優秀教員に選んでもらえているのは、学生にとって何かメリットもあるためではないか、と思っている(一部の学生だけかも知れないが)。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 本間 礼人
自分が福井大学で教鞭を取るようになって10年以上の年月が経とうとしている。
私の専門とする建築材料という領域は、古くはメソポタミア文明からの古典的な技術が現在も現役として用いられており、それに最新の内容をプラスしていくと、教えるべきボリュームは増えていく一方である。例えば、赴任当時のJISには無かったセメントの規格が追加され、廃棄コンクリート捨てずに破砕して砂利や砂を取り出し再利用する再生骨材も規格化された。コンクリートの製造に関する仕様も改定されている。もう一つの主要な講義の一つである鉄筋コンクリート分野でも、仕様書の改定が行われた。
その度に講義の内容を少しずつ付け足しているが、改変した部分が理解されるかどうか毎回心配ではある。講義の中では時系列順になぜこの技術が発生し、取り入れられるようになったのかを必ず説明するようにしており、なるべく事象の説明のみでは終わらないようにこころがけている。
幸い授業評価アンケートなどでは悪くない評価をもらっているようだが、自分としては現在の講義に満足しているわけではない。これからの展望と言えるほどのものではないのだが、ずっと考えてきたことは一つある。
現在の講義内容は、各素材の性質を、その使用方法などとともに知識として具体的に伝えているのだが、あまり具体的過ぎて知的好奇心を満たす魅力に乏しいように思えるのである。各種規格が性能規定よりに変更されてきている時流もあるので、「この要求性能を満たすためには、ここにこの材料をこのような形態で使用し、接合部はこのようにして…」というような、性能から使用材料や工法などに、議論しながら進めていくような講義形態が、目指しているものである。要求性能を満足させるための多種多様の組み合わせが考えられるので、パズルのような知的ゲームに近くなってしまうかもしれないが、この分野は本来そういう楽しみを内在しているものなのであり、それも伝えたいのだ(そしてそれは月曜1限の居眠りの多さへの対処ともなりうる)。しかしそのためには今以上の内容の厳選が必要となり、知識として伝えられる総量は現在の講義でのそれを下回ることになる。難しいバランスを取らねばならないが、何年かかけても、自分の理想の講義を追い求めたいと思う。
最後になったが、自分を選出してくれた3年生の皆さんにお礼を申し上げる。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 材料開発工学科(工学研究科ファイバーアメニティ工学専攻) 中根 幸治
平成21年度から材料開発工学科2年生の授業で材料力学を担当している。私自身、学生時代から材料力学に接する機会がそれまでほとんど無く、不惑の歳になって初めて材料力学をきちんと勉強することになった。このため、自分が理解しにくかったことをよく覚えている。そのような部分は、教科書の説明と共に、自分が納得した表現で補足説明するようにした。また、「何故今これをやっているのか?」ということを度々大きな視点から現在地を確認してもらえるように努めた。材料開発工学科の授業であるので、高分子やセラミックスなど材料の特性や事例を出来るだけ紹介するように心がけた。材料開発工学科の学生は力学と名の付く科目は苦手意識がある子が多いのではと(勝手に)思っているので、そのような学生に材料力学に向き合ってもらえるように、企業の開発担当者から聞いた材料力学の必要性や私の材料力学に対する(浅はかな)想いも紹介した。
学部3年生の学生実験では、TAに頼りすぎない様、今年度から実験の説明・実施からレポートの書き方の説明まで全て自分で担当することにした。TAの有り難さが身に染みたが、逆に、学生と雑談したり、納得してもらえるまで説明できる時間が格段に増えた。実験レポートの受理は数年前から厳しくしている(それまでは不備があっても受理していた)。 1人1レポートにつきチェックやディスカッションに30分以上かかることもあり学生も私もお互いにシンドイが、真剣にレポートの修正・再提出をしてくれる学生が多く、結果的にこれが学生との交流を深めることになった。
「難しいことを易しく、易しいことを奥深く、奥深いことを面白く」これは10年ほど前に知った言葉で、作家の故井上ひさし氏の言葉だと思われる。学生に教える時にはこの言葉を意識するようにしている。しかしながら未だに第一段階の「難しいことを易しく」で悪戦苦闘している。優秀教員に選んでもらったことを励みに、どうやったら「奥深く」「面白く」教えられるかを追求していきたい。
優秀教員の投票理由で特に嬉しかった学生からのコメントの一つに、「自分に本を読ませるきっかけを作ってくれた先生だから」がある。教員のちょっとした言動やふるまいを学生は敏感に捉えているのだと思い、自分の仕事の責任の重さを改めて感じた。多くの学生に何かのきっかけを作ってあげられる存在になれるようにもっと見聞を広げていきたい。
「日頃の教育に対する工夫および今後の教育への抱負」 — 生物応用化学科 堀 照夫
6、7年前の授業アンケートに「先生は我々を見降ろすように講義をした」とあり、愕然とした。実際、私は教壇から降りることなく、一方的に授業を進めていた。この講義方法は、今もほとんど変わらない。当時の学生に確かめると、「良い先生の講義は、学生が理解したか、時々教室を廻り、尋ね歩くものだ」と言うのである。大学でも、小中高校でやられたような手とり足とりの講義を学生は期待しているらしいことを知った。私は、このような学生の期待は一体何なのか?疑った。手とり足とり、詰め込むだけの教育は高校までで終わらねばならない。与えられた知識を鵜呑みにするだけで、いつまでたっても自ら思考する力が育ってこない。「考えさせること」。これが私の大学教育に対する姿勢である。
良い講義は、いつまでも受講者の頭に残るものである。私が学生時代に受けた講義でもいまだに鮮明に覚えている講義がいくつかある。大変分かりやすく聞き流すことのできた講義はあまり勉強しなくてもよかったので、意外と記憶に残っていない。難しい式の展開を延々と板書された講義などは、当時は理解が大変だったが、解らないから勉強した。これで力がついたものである。また、教員自らの経験や偉人のエピソードなどが盛り込まれた授業は今でも鮮明に頭に残っている。そのエピソードとともに重要な式が浮かんだりする。
私は学部3年前期までには「物理化学」の講義しか担当しないが、これは学生にとっても厄介で理解しづらい科目の一つである。私の授業は、「私も物理化学は大嫌いでした。しかし、化学をやる人にはどうしても必要だから仕方なく勉強しました」から始まる。学生は、この一言で大きく安堵感とやる気が出てくる。理論的展開が多く、新しい理論、数式が出てくると、できるだけ身の回りの現象でこれを説明できる例を示すように努力している。これで学生の目の色は輝きだす。飽きてきたかな、と感じた頃には、説明事項に関連した日常での出来事、偉人のエピソードを入れてやる。学生は、また生き返って注目してくれる。“一方的に見下ろす授業”は自分自身でも改善されたなと感じる瞬間である。
授業は、学科で決められた教科書に従って進めているが、章末には膨大な演習問題が設けられている。中から重要な問題を5、6問選択し、全員にレポートとして提出させ、翌週に、各問について学生に自分の回答を板書させ、この回答に従って私が説明を加える。学生は正解を懸命にノートに移す。類似問題がテスト範囲であると学生に伝える。
3年後期では専門の講義として「繊維加工学概論」を担当している。これにはいとも簡単に学生が興味を示してくれる。選択科目であるが8~9割の学生が受講し、最後まで受講者数は減らない。自分の本当の専門は自信を持って講義できるためであろうか?
35年間、本学で教鞭をとり、ようやく講義のあり方が解ってきたような気がする。しかし一方では、学生の勉学の仕方・姿勢も変化したなと思う。教員もまた柔軟に対応しなければならない。日本の教育全般を考えるに当たっては、できれば大学入学前までの教育に、いくらかでも、生徒・児童に考えさせる工夫ができないかと思う。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学科(遠赤外領域開発研究センター) 藤井 裕
私が物理工学科で受け持つ科目は多くはありません(物理工学実験Ⅱ,Ⅲと電磁気学講究)。たまたま昨年度、物理博物館(物理工学科の学生が中心の創成活動の場)および新入生合宿の担当として学生さんらと接する機会が多く、そのおかげで選ばれたのかもしれません。物理博物館の学生さんらからお祝いしていただき、大変感激いたしました。これに満足することなく、教育面での改善の工夫・努力を継続していきたいと思います。
日頃の教育に対する工夫について、私が実行している内容を、恥をさらすようではありますが、述べてみたいと思います。
・とにかくわかりやすく、フィードバックを大事に
電磁気学講究は受講者を2クラスに分けた少人数教育をしており、私は前期の講義の成績があまり良くなかった30名前後を担当しています。あまり理解度が高くないことから、まず前期の復習に時間をかけます。基本的な演習問題を選び、ゆっくり取り組みます。前後関係にも配慮して各問題の位置づけ・目的を明確にします(私が学生の時の演習講義は問題の羅列が多く、もともと理解不足の科目では系統的な理解が難しかった記憶があります)。学生に解答を板書させることで表現力も養います。ただし板書が見にくくならないように注意を払います。担当学生に質問したり、補足を加えたりすることで、さらに理解を深めるようにします。また、理解度を把握するためのチェックを課しています。まず(少人数講義だからこそできる取り組みとして)演習問題は前回までに配布し、当日予習してきているか見て回って一人一人と話します。さらに演習問題の理解度をチェックするような小テストを半期で10回程度行います。当日の問題に答えが含まれることが多いので、学生もわりとよく聞いています。また、できが悪い場合は、あらためて講義するなどの対処をとることができます。それ以外にも必要に応じてポイントをまとめる講義をします。下でも述べますが効果的に尻をたたき続ける方策をまだまだ模索中です。
・前向きに尻をたたく
学生をやる気にさせるのはもちろん難しいことです。過剰な量の課題等を与えて束縛を強くすると、カンニングなど変な方向に走りかねません。しかし、よく言われているように、「自分に利益がある」ことに対しては比較的やる気を持ちやすいようです。上述の小テスト等もあくまで自分の理解度のチェックであることを強調します(このようなチェックが自分に役立っているかアンケートをとりましたが、おおむね肯定的でした)。よく考えれば講義のすべてが自分のためになるはずなのですが、意識付けを繰り返すことは効果があると思います。また、チャンスがあれば、学んでいる物理法則が実社会でどのように役立っているか、や、自分が社会に出た際に必要な知識となる可能性、も話すようにしています。これは学生実験でも同じです。
・単位取得にキュウキュウとしがちな学生に
たまに学生から、単位取得できるか心配だと相談(懇願?)されることがあります。最近、私はこのように答えることにしています。「私も学生時代に単位をいくつも落としたことがある。しかし、繰り返し勉強することでかえってよく理解できたので良かったと思っている。」また、まじめにやっているのに点数が足りない学生については、不合格にする際に呼び出すことがあります。なぜ不合格にするのかを話すと同時に、上述のような話と、またその学生の良いところを見つけて前向きな気持ちにさせるようにしています。
教員それぞれに特徴があって良いと思いますが、私は自分のキャラクターから考えてこのような方法が自分に合っていると思っています。やや長文となりましたが、参考になる部分がありましたら幸いに存じます。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 池田 弘
学生の意見を参考に、我々の講義への不満、私が選ばれた理由を紹介し、また、講義に対する工夫、今後の抱負を述べたいと思います。ここに示すのは、学生から見たよい講義であって、真に学生のためになるのかは、私自身、日々頭を悩ませていますし、まだまだ改善点は多くあると考えています。
まず、学生の多くは、講義中、質問をしたくてもなかなか質問をできる雰囲気ではなく、わからないまま講義を受け続けています。そのうちわからないことが山積みとなって講義を真面目に受ける気持ちが途切れてしまうようです。私は、講義中の雰囲気を質問がしやすく、しかも集中力が保てるような雰囲気になるように努力しています。そのための対策として、まず、学生の名前をできるだけ早く覚えるようにしています。名前を覚えるために、講義の出欠確認は、私が名前を呼んで、学生が返事をするという形をとっています。それから、講義には少なくとも5分前に行き、その時間を使って学生と会話をするようにしています。また、講義以外の時間でも、学生に会った時には積極的に挨拶をしたり、言葉をかけたりしています。これらのことは、講義の質とは何ら関係のないことのように思えますが、講義中の雰囲気を非常によいものにします。まず、学生は、私に親近感を持っているため、講義中に気軽に質問ができるようになります。また、私が学生に対して質問をする時も、いちいち名簿を見て当てるのではなく、会話をするような感覚で自然にできるので雰囲気が重くならずに、それでいていい緊張感が保てています。教師側から学生側に多くの質問をし、また学生側からも教師に多くの質問が出ることで、学生は楽しみながら、講義に集中できているようです。また、興味のない講義内容も興味が持てるようになるようです。
また、学生の多くは、講義のペースが速すぎて、理解が追いつかずに困っています。私は、学生がどの程度理解しているかを学生の様子を見ることで感じ、怪しい場合は、もう一度説明を丁寧にしてあげるようにしています。こちらが地道に熱意をもって説明をすると、学生もそれを感じ、一生懸命聞こうという気持ちになるようです。
今後も、学生1人1人を大切にし、できるだけ細かな気をくばってあげるよう努力していきたいと考えています。また、学生が講義内容に興味を持ち、積極的に勉強をしたくなるような講義を目指していきたいと考えています。
平成21年度優秀教員
機械工学科 | 本田知己 | 准教授 |
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電気・電子工学科 | 葛原正明 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 山田徳史 | 教授 |
建築建設工学科 | 野嶋慎二 | 教授 |
材料開発工学科 | 田上秀一 | 准教授 |
生物応用化学科 | 吉見泰治 | 講師 |
物理工学科 | 玉川洋一 | 准教授 |
知能システム工学科 | 浅井竜哉 | 准教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学専攻 本田 知己
日頃の教育に対する心構えと工夫
- 一方的に教えるのではなく、常に学生の視点を意識し、学生の自主性を引き出しながら、ともに考え、ともに学ぶ。
- できるだけ多くの疑問点に簡潔に答え、ときにはすぐに答えを出さずに、さらに高度な課題を与えながら、学生の理解度の向上とレベルアップを図る。
簡単な講義メモとイメージトレーニング
用意した講義資料を確認しながら、その日の講義の流れをイメージする。そのときに、簡単な講義メモ(項目と時間配分)を用意する。
テレビドラマのごとく
前回の復習と質問への回答で始まり、次回の予告で終わる。
ホットな話題で気分転換
授業開始時やその中間に、講義に関連する最新の話題(日刊工業新聞などから)について話し、リラックスする時間を作る。
穴埋め式ノートと板書
重要な部分を空欄にした講義ノートを毎時間配布し、重要な部分は板書する。板書の量は黒板上下左右4枚分に抑え、講義時間中に書いた事柄がなるべく最後まで残っているように心がける(いつでも要点の確認ができる)。
ワンポイント・クエスチョン
その日のポイントを集約した15分程度の演習問題を行い、その答えの解説をその場で行うことで、お互いに理解度を確認する。
最後のひと工夫
最後に講義室を出るようにし、その間に気軽に質問できる状況を作る。
振返りと気づき
毎回、簡単なアンケートを行い、そこに書かれた質問事項や要望に対する答えを用意する(わかりにくかった説明や不備、ハンドアウトの良否などの確認も)。
今後の教育への抱負
「私の教授法が原因で学生が学ぶ意欲をなくす」ことのないように、「いかにして、学生との間に信頼関係を築いていくか」を常に考えていきたい。信頼関係を築くための原則は、「コミュニケーションをとること」、「その科目を自分自身が好きになること」、「熱く語ること」、そして、「お互いに誠意を持って接すること」であると考えている。その上で、自然科学における不思議で興味深い現象に対して常に疑問を持って思考する楽しさを見出せるように、私自身がこれまで以上に探求心を持ち、知識を豊富にしながら、モノや知識の根本、さらに計り知れない科学の奥深さがあることを学生たちに生き生きと伝える工夫をしていきたい。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学専攻 葛原 正明
このたびは優秀教員に選んでいただき本文を借りて感謝の意を表するものである。ただ、当学科では選出を学部3年生の投票に委ねるため、3年生の講義を多く担当する筆者が有利な立場にあることは否めず、その他の先生方に少なからず恩借の念を感じる次第である。
当学科で私が担当する講義科目は、半導体工学(3年生前期)、電磁波工学(3年生前期)、電子デバイス(3年生後期)の3科目である。いずれも1、2年生で習得した物理と数学の基礎知識をベースとした専門科目であり、互いに深く関連した電子工学に関する選択科目に対応する。講義は教科書に準じて行っている。授業は講義形式を取るが、章末問題については演習形式で詳しく解説するよう心がけている。
講義中の学生の反応にはいつも注意をしている。重要な事項は何度も反復して念を押すとともに、具体事例や数字を使って理解を深めるよう工夫している。板書だけでは不足する内容については、手書きのプリントを配布し補足資料としている。導出可能な重要公式については特に丁寧に解説するよう心がけている。導出方法が複数あればそれらも教えている。重要公式の裏にある大きな仮定や、導出に必要な背景知識の重要性を記憶してもらうことに重点を置いている。また、導出した結果を丸暗記するなといつも教えている。
毎回ではないが、講義の冒頭では、自分が最近参加した国際会議のトピクスや専門ジャーナル誌から得た最新の話題、企業の研究所の話題などを思いつくままに紹介するようにしている。学生の心に響く話ができたと自らが感じたとき、また興味と希望に満ちた表情を返す学生の顔を見つけたとき、大きな手ごたえを感じている。さらに、講義の本論の冒頭では、復習を兼ねて前回の講義内容の後半を交えるように工夫している。これにより、当日の講義内容にスムーズに移行できるが、時間的ロスが生じることは否めない。
講義の最中に、落ち着かない学生ややる気のない学生を見かけたときには、見て見ぬふりをせず、しっかりと注意を与えるようにしている。中でも、私語をやめない学生がいる場合には、注意を与えた上で、繰返すときには容赦なく講義室からの退室を促している。
期末試験後には、朱書きの模範解答を自分のオフィス横に掲示するように努めている。これにより、自分の成績の確認を含め、学生が筆者のオフィスを訪ねて来る機会が増えたように感じる。いつも感じることだが、期末試験後に試験問題の解説や講評をする機会が取れないことを残念に思うが、試験の成績を自主的に聞きに来るように事前に学生に伝えておくことで、少しでも学生に事後の学習上の注意を与えることができると感じている。学生毎に、試験結果を褒めたり、陥りやすい間違いを指摘し改善点を個別指導したりする行為は重要だと感じている。
以上、自らの拙い経験の中から、少しでも効果のあった教育上の工夫について披露させていただいた。実際には、紙面に書けない失敗例もあり、学生に逆に指摘されて気付く欠点も多々あることは事実である。今後も大切にしたいと考えていることは、より良い教育方法を模索し実践しつつ、自分で変化を起こすことを恐れない教員でありたいと考えている。そして、一人でも多くの学生に、講義は理解できると楽しいものであることを伝えたいと考えている。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学科 山田 徳史
日頃の教育に対する工夫
私が福井大学に着任したのは9年以上前になります。着任以前は6年間以上ポスドクでしたので、教育の経験は殆どなく、講義に関して非常に不安がありました。ちょうど模擬講義導入の直前でして、模擬講義をやらず済んだことに心底ほっとしたことを覚えています。着任後、講義のやり方など全くわかりませんでしたので、「自分だったらどういう講義をわかりやすいと思うか」と自問自答することから、またそれまでに受けた講義の中で「よかった」と思えるものの真似をすることから出発しました。そして、試行錯誤も経て、現在では以下のスタイルで講義を行っています。(1)講義の初めに前回の要点を復習する。(2)原理・基本を重視し、折にふれてそこに立ち戻る。(3)計算は重要なものに限定した上で、詳細を示す。また式の変形にはどのような「意図」が伴っているのかを説明する。(4)板書のみでself-containedになるよう心がける。(5)1回の講義が「きりのよいところ」で終わるように組み立てる。(6)ときどき学生に基本事項を質問する。(7)毎回FeedBack Sheetを渡し、簡単な問題演習を課す。FeedBack Sheetは添削して返却し、出来が悪い場合には再提出させる。(8)途中で5分間休憩する。(9)毎回出席をとるとともに、FeedBack Sheetの提出が伴わない場合には出席とはみなさない。(10)一番後ろの席は着席禁止とする。(11)講義前に席の間を巡回し、内職物をしまわせる。(12)板書をとり、授業を理解し、FeedBack Sheetに取り組んだ学生がきちんと得点出来るような試験問題を作成する。
工夫と言えるほどの特殊なことは行っておらず、ちょっと幼稚な内容に苦笑された方もいらっしゃると思いますが、現状を把握し、どうするべきかを考えた結果、上のようなやり方に落ち着いた、という次第です。なお、上のうちのいくつかは、講義によっては全くふさわしくないと思います。私がこれまで担当してきた講義は主に数物系でして、その経験のみに基づいたスタイルであることをお断りしておきます。
今後の教育への抱負
これも抱負と言えるほどのことではないのですが、「後々まで重要性を失わないと思われる基礎的な事項をしっかりと理解させる」という点を、これまでも重視してきましたし、今後も徹底したいと思います。課題としては、講義の中で学生への問い掛けをもっと増やし、対話しながら講義を進めていくスタイルに近づけていくことが挙げられます(なかなか難しいのですが)。ところで、以前は講義がうまく行かないと2日くらい落ち込んでいました。ところが最近は落ち込む余裕すらなく、1時間もあれば見事に回復するようになってしまい、危ない兆候だと思っています。幸か不幸か、学科のカリキュラム改革で私の担当する科目は総入れ替えになり、また一から試行錯誤を積み重ねていきたいと思っています。
講義は教育のごく一部であり、講義以外のことについても触れるべきだったかもしれませんが、字数の関係上、講義に絞って述べました。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学科 野嶋 慎二
私の主な授業科目は、都市デザイン及び都市計画設計演習です。これは望ましい都市を形成するための総合的な都市デザインの理念や実践的な方法を教えています。建築や緑地やインフラストラクチャー等、都市を構成する要素は多く、また社会的、空間的、人文的な見識を求められるため、学生には常に物事を一つの方向からだけではなく多面的に見る力を養えるように心がけています。
授業の中で工夫していることは①理念と実践が結びつくように、なるべく実際の事例を挙げて説明し、そこから考えるようにしていること。②授業の内容をその場で復習することが重要と考え、毎回授業の最後に小テストを行い、これを成績に反映させていること、です。特別なことをしているわけではありませんが、内容やテーマは新しいものを取り入れるようにしています。
また設計演習の授業では、毎回ではありませんが、課題の対象地の住民や専門家の前で自分の計画案を発表し、ディスカッションし、意見をもらうワークショップを行うことにしています。
地域の人との交流や意見交換を通して現場の意見を聞くことで、様々な立場から多角的な評価を得ることができます。
これにより、学生にとっては教育と現実の仕事や社会との関係を考える機会が得られ、多面的に見る力が養われ、同時にプレゼンテーション能力が養われると考えます。また地元住民にとっては、学生の計画案を聞き、ディスカッションすることで、まちづくりに対して考え、地元のまちづくり活動や計画案の参考にしてもらうことができます。これまで、田原町、武生、今立、東郷、片町など様々な地域で行いましたが、いつもなかなか評判がいいです。
大学院の授業では、議論することが重要と考え、現在、グループに分かれてディベート方式で授業を行っていますが、議論にならない場合が多く、これは改善の余地があると思います。
今後の教育への抱負として、学生が大学教育で学ぶことと社会や現実の仕事との関わりを常に考えながら学べ、体験できることが重要であると考えています。そのため住民や専門家とディスカッションしながら計画づくりを行う等、地域との連携教育をこれからも進めていきたいと考えています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 工学研究科ファイバーアメニティ工学専攻 田上 秀一
このたび、材料開発工学科で優秀教員に選出されました。小職にとっては、大変驚いた出来事になりましたが、同時にたいへん光栄に感じております。「日頃の教育に対する工夫」といいましても、みなさまにご参考になるような特別なことは行っておらず、無理矢理「工夫です」としてまとめましたので、工夫になっていないとお叱りを受けるかもしれませんが、「今後の教育への抱負」と併せて、お目通し頂ければ幸いです。
1.日頃の教育に対する工夫
(1)板書を使う
講義の内容を理解するには、黒板や教科書を「見る」、教員の説明を「聞く」、そして手を動かして板書や説明をノートに「書く」、の三つの相乗効果が必要と感じています。小職は、黒板に板書するという「古典的」な方法で講義を進めています。何人かの学生に聞きますと、PowerPointよりも板書が眠くならずにいいという意見を頂いています。
(2)配布物
教科書等で教える内容を補うためと内容を理解しやすくするために、扱う講義内容をまとめた配布物を配っています。教科書を利用する講義の場合には、要点をまとめたものを、ノート講義の場合には、少しの穴埋めも盛り込んだものを配っています。個人的趣味もありますが、文章を羅列した配布物はなるべく避けるようにしています。
(3)講義で話す内容の工夫
学生の意見を拝見しますと、「説明がわかりやすい」という評価を多く受けました。特に意識していることはないのですが、講義の際の説明で、強いて心がけていることとしますと、(1)なぜこの内容を扱うか、具体例を交えて話す、(2)学科の他の講義の科目名や学生実験の内容を説明に盛り込む、(3)なるべく平易な言葉で身の回りの例を交えて説明する、などが思いつきます。
2.今後の教育への抱負
大学人の責務のひとつは有能な人材を社会に輩出することであると考えます。技術の進歩と競争社会の激化に伴い、大学を卒業ないし修了する学生に対して「できる」能力の要求度が年々増加していると感じます。したがって、学生には、その状況に耐えうる豊富な専門知識や研究能力など、「武器」を身につけさせることがますます重要と考えます。そのための処方箋は、特別なものはなく、「時間をかける」、「手を抜かない」、「説明は丁寧に分かりやすく」などという地道でかつ当たり前の仕事をきっちりこなし、積み重ねることにつきると思います。小職の講義方法や教育手法にもまだまだ改善すべき点は山ほどあります。「よく鍛えられているな」と評価される人材を育てるべく、今後とも努力・精進していく所存です。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学専攻 吉見 泰治
私は、約8年前に本学に助手として採用され、大学の教育と関わるようになった。当時は、他大学の博士後期課程を出てすぐだったので、右も左もわからず、いきなり実験や演習の手伝いに駆り出されて、学生の前で説明することになった。そのときは、頭が真っ白になり、うまく説明ができていなかったと思う。また、学生の反応も、誰だこいつは?TAの学生か?といったようなものだった。それから数年、本専攻または他専攻の様々な先生がたから影響を受け、また、本専攻の学生さんたちに揉まれ、ヘタクソなりに少しづつ進歩していったようだ。特に、本専攻では、教員同士での話は、ほとんど教育に関するもので、学生の状況の共有がよくできていると思う。これは、1年生や2年生の時の学生実験や演習などのレポートを見れば、だいたい誰が留年しそうか、また、単位があぶなくなるだろうかがわかり、これを専攻内で把握できているためだと思われる。また、私は2年前に講師に昇格して、実験や演習だけでなく本格的に授業を受け持つようになった。そのため、経験の浅い私は、皆さんに自慢できるほどの授業での工夫や技術は持ち合わせていない。毎年、このレポートで書かれていることを行っているだけだ。板書を見やすくし、わかりやすく学生に説明する。有機化学の授業なので、写真をみせる必要がなく、パワーポイントは一切使用していない(板書する化学構造式で十分である)。また、後で、ノートを読み直しても理解できるように、重要なことは日本語で、しつこいぐらい板書することぐらいである。たぶん、今回、学生さんが選んでくれた理由は、質問しやすい、または話しやすい教員であったためであろう。学生との年齢が近いので、有機化学や他分野での質問、進路などの相談について、気軽に話せるようで、それらに対して、私はできる範囲内で一生懸命答えている。また、学生実験などの時にも、積極的に話しかけて、学生の状況などを聞いている。授業だけでなく、このような部分も評価してくれた学生には感謝したい。今後は、このレポートに自慢できるような授業での工夫や技術をかけるように、精進していきたい。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 原子力・エネルギー安全工学専攻 玉川 洋一
大変名誉なことに、今年度の優秀教員(物理工学科)に選ばれました。私が担当している物理工学科の授業といえば、1年生の後期に「力学講究」という講義と演習を併せた形の授業を半分くらいです。半分というのは、この授業は習熟度によって2クラスに分けられており、担当しているのが、所謂力学のまだよくわかっていない学生30人程度のクラス(Bクラス)だからです。
さて、ここで「日頃の教育に関する工夫」について述べようと思ったのですが、特に目立って特別のことはしていません。ただ、思いつくことが一つだけあります。それは、自分自身が学生だった頃、物理学(力学を含む全般)が大好きだったにもかかわらず、その内容についてはさっぱりわからなかったということです。私の居室の本棚には10冊以上の力学関係の教科書や演習書が並んでいますが、これはほとんど、自分が学生のときに購入したものです。講義を受けて理解できないところがあると、その足で生協の書店や古本屋に出かけて立ち読みをし、わかりやすい解説がしてあるとその教科書を手に入れる。そんな勉強の仕方をしていました。それでもよくわからなかったのですね。
ですから、教員になって学生を教える立場になった今、「よくわかっていない学生のクラス」を積極的に担当させてもらい、授業を行うときには、当時の自分を思い出しながら自分がわからなかった部分に注意をして、少しでもわかってもらえるような問題を作成し、学生に解かせて、なるべくわかりやすい解説をしながら進めるようにしています。そういう授業をする上で気をつけていることを少し書き出してみます。
1. 予習をする。
皆さんも同じだとは思いますが、とにかく毎時間の予習をします。毎年問題も更新しながら、今年の学生がどこがわかっていないかを考えて問題を選んで自分でいろいろな方法で解いてみます。
2. 授業中は学生の顔色と手元を見て回る。
今やっている問題がわかっているのか、わかっていないのか?どこがわからないのか?手を動かして解こうとしているか?時間を稼いでいるだけか?手はどこで止まっているか?なるべく1人1人に声をかけながら見て回ります。
3. 黒板には大きく絵を描く。
力学なので、とにかく、物体と作用する力を大きく図示します。その後で、その関係を微分方程式で表してからゆっくり解いていきます。
それから最後に、私は授業の進め方として、クラスの半分以上がわかるように問題選びと進度を設定しています。これは担当しているクラスの性格を考えてのことでもありますがせっかく何らかの魅力を感じて物理に興味を持って入学してきた学生に、ワクワクする物理のおもしろさを少しでもわかってもらいたいと思っているからでもあります。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学科 浅井 竜哉
知能システム工学科では、ヒトや生物に学んだ知能を持ったシステムについての知識を学んでもらうため、生物系の科目をいくつか用意しています。現在、私が講義として担当しているのは、「生命科学入門」(1年前期)、「神経科学入門」(2年前期)、「人間情報学」(3年後期)の3科目で、特に最初の2科目は、生物学に近い科目といえます。一方、学科に入ってくる学生さんの多くは高校の時に生物を習っていないため、1年前期に開講している「生命科学入門」では、高校の生物ですでに学んでいるはずの内容から話を進めるようにしています。
パワーポイントなどを利用した授業では、どうしても学生さんが寝てしまい、またノートを取ってまとめさせることが重要であるとの信念から、基本的には板書をしながら授業をしています。(おそらくパワーポイントを利用した授業でも、工夫をすれば学生さんは寝ないのかもしれませんが。)また、生物系の科目の場合、視覚的に捉えた方が説明しやすく、また学生さんの理解も進むと思い、関連する図や写真をスクリーンに映しながら授業を進めています。その時、黒板のスペースを狭くしたくないため、黒板の横に写せるようにサブのスクリーンを用いています。また、使用する図の中で重要なものはプリントにして授業の前に配布し、学生さんの理解を助けるようにしています。
黒板はノートがとりやすいように大きな字で書くようにしています。本当は、学生さん自ら重要と思うことをノートにとって欲しいので、できるだけ最低限のことを板書したいのですが、後でノートを見れば内容が理解できるように、まとめたものを板書しいています。どこまで書くべきかというこのことは、なかなか難しく、これについてはいつも頭を悩ませています。授業の最初には、前回の授業に関する演習問題を出して、解答を提出させるようにしています。また、提出させることで出席をとっています。演習問題は、短時間に解けてしかも考えさせるよう、5者択一の選択肢の問題としています。その問題の解答をすることで、前回の授業の復習になり、またその日の授業の導入のような役割にもなります。
「生命科学入門」で教える内容は、身の回りのものが対象となることがあり、例えば今年であれば新型インフルエンザのことなど、その時に話題となっていることを取り上げて、できるだけ学生さんに興味を持ってもらうようにしています。また最近では、生物応用化学科で行っているプロジェクトを参考にして、学生さんに本を読んでもらうことと授業に関連した内容を別の角度から理解してもらうため、ベストセラーになった「生物と無生物のあいだ」を課題図書として読ませるようにしています。アンケートをみると、やはり少数の学生さんはこのような本を読むことに抵抗があるようですが、生物あるいは生命のすごさをあらためて感じたというコメントもあり、今後も続けていきたいと思っています。
その他は、バランスが難しいですが、学生と同じような目線から話すようにしています。しかし、怖くない先生と思われているようで、授業中に学生さんの私語が多くなることがあり、注意をするタイミングに悩んでいるのも事実です。
自分の理想とする授業は、自分の講義ノートを見ずに、黒板の前だけでなく教室内を歩いて、学生さんに質問をしたり、たまには脱線した話をしたりと、学生さんと近い距離で話すというものですが、そのようになるにはまだまだ時間がかかりそうです。そのためには、まず学生さんの顔と名前を覚える必要がありますが、努力が足りないのか、名前を覚えるのが苦手で、これも今後の課題と思っています。学科の新入生だけでもよいので、数年前まで配布していた学生さんの写真一覧をできれば復活して欲しいと思っています。
実は、優秀教員に選ばれたのは今回で2回目なのですが、1回目に選ばれたのは数年以上も前で、長い間選ばれてきませんでした。その時から教育方法がそれほど上達したと思っていないので、今回選ばれてびっくりするとともに内心ほっとしています。学生さんとの年齢の差はかなり大きくなってしまいましたが、これからもできるだけ学生さんと同じような目線に立って授業をしていきたいと思っています。
平成20年度優秀教員
機械工学科 | 田中 太 | 講師 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 田邉英彦 | 助教 |
情報・メディア工学科 | 藤元美俊 | 准教授 |
建築建設工学科 | 明石行生 | 教授 |
材料開発工学科 | 徳永雄次 | 准教授 |
生物応用化学科 | 三浦潤一郎 | 准教授 |
物理工学科 | 橋本貴明 | 教授 |
知能システム工学科 | 黒岩丈介 | 教授 |
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 機械工学科 田中 太
私は福井大学に講師として着任して2年目になります。担当している講義は、2年生前期の流れ学と熱流体力学演習Ⅰ、3年生前期後期の機械創造演習ⅠとⅡです。福井大学に着任したとき、多くの学部学生の前で講義をするのは初めての経験だったので、まずは他の経験豊かな先生方の教育方法を真似て、自分の講義スタイルを作ってきました。また、自分自身が学部学生のころに講義を受講していて不満に思ったことや望んでいたことを、自分の講義に取り入れる工夫をしてきました。
大学の講義時間は90分ですが、集中して講義を受講するには90分間は少々長すぎるように感じます。私の学生時代の経験では、「今日はしっかり講義を聞くぞ!」と意気込んで前の席に着いたとしても、集中して50分間ほど講義を聞いていると、徐々に頭がぼんやりしてくることがありました。そこで、私の流れ学の講義は、前半40分、小休息5分、後半35分、小演習10分という時間構成にしました。これで、前半40分をしっかり集中すれば、5分間休むことができ、その後の後半の講義は35分と短いので、再度集中できます。この時間構成では講義時間は減りますが、学生は集中して講義を聞くことができるので効果的だったと思います。5分間の小休息の時間は、基本的には何をしても良いことにしています。集中力が途切れてきた学生は、教室を出てリラックスしたり、少し居眠りしたりすることが回復に効果的です。また、前半の講義でわからないことがある学生は、隣の学生に相談したり、私に質問したりして解決していました。最後の小演習は、その回の講義内容で解ける簡単な問題を、出席確認の意味も込めて行っていました。来年からは、この時間に直接名前を読んで出席を取ってみようかと考えています。その後、講義が終わると時間をかけて丁寧に黒板を消し、更に窓の戸締りやごみのチェックをしてから教室を出るようにしています。このため、講義終了後も自然な形で教室にしばらく残っています。その間に、学生から質問を受けることが多々有りました。
3年生前期後期の機械創造演習は、流れ学で学んだ内容を応用して、風力発電装置の設計製作に取り組んでいます。この授業では私自身が楽しんで演習を行うことが、学生の積極性や気力を引き出すことに効果があると考えています。設計製作した風力発電装置が予想以上の性能を発揮したときの喜び具合は、いつも私が一番であり、これからもそのようにありたいと思っています。
今後も講義や演習のスタイルに改善を続けていき、自分が学生のころに理想としていた教員に少しでも近づけるように頑張りたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学専攻 田邉英彦
1.日頃の教育の状況など
(1)演習について
前期・後期に、それぞれ学部1年生対象の演習1科目を2名の教員で担当しています。実施方法等は下記の通りです。
- 課題は、専門教育の基礎となる線形代数やベクトル解析に関する演習問題です。
- 2つのグループ(各40名程度)に分けて担当者2名で授業を行なっています。
- 課題に関連した例題等を板書して問題を解説します。課題は授業時間内に解いてもらい、授業終了後、レポートとして提出してもらいます。
- 次の授業で添削したレポートを返却しますが、誤り等あるときは、再度レポートのやり取りをして理解が深まる様に心がけました。課題の進行状況をみて、模範解答を配布します。
- 編入生等で他の授業と重なる場合、希望者がいるときは相談の上、別途授業を行ないました。
- 再試験の受験者で、復習を希望する人がいるときは数時間程度の授業を行いました。
- レポート添削の状況は以下の通りです。
- できる限り学生が解いた過程を追っていき、理解度をチェックするようにしました。
- 誤りや解説等が必要な時は、付箋を用いて該当箇所に目立つように貼り付けました。
- 試験前に、各学生のレポート課題に対する達成度や出席状況を一覧表にして配布しました。
(2)講義について
前期に共通教育1科目、後期に専門1科目をそれぞれ担当しています。実施方法等は下記の通りです。
- 共通教育科目については、1年生であることや他学科の学生も受講することを配慮して、講義の基礎となる数学上の理論や手法について多少時間を掛けて説明しました。
- 専門科目は他の関連する科目の復習も取り入れるようにしました。
- 授業で用いた資料は、自宅等でダウンロードできるようにしました。
- 共通教育科目では、期末試験に不合格となった学生を対象に、補習と追試を行ないました。
- 自宅学習のために宿題を与え、添削後、返却しました。課題が多い時は、レポート達成度や出席状況を一覧表にして配布しました。
- 共通教育科目について授業改善アンケートを行い、指摘された不備について、授業方法や資料の修正を行なうよう試みました。
- 専門科目は今年度からの担当で、授業資料等の作成に難があります。
2. 今後の教育への抱負
- 様々な面において必要不可欠な厳しさが私には必要であると、改めて自覚しました。今後は、深く考え、教育に取組んで行きたいと思います。
- 授業方法や授業資料の改善が必要であり、継続して行なって行きたいと思います。
- 時間の有効活用が十分ではなく、効果的な方法を取り入れて行きたいと思います。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学専攻 藤元美俊
1.日頃の教育に対する工夫
a)「バランス」~学生に伝わる知識・エネルギーを最大化するために~
大学における授業の目的は、学生に社会で生きていくための「知識やエネルギーを伝える」ことであると考えている。それを最も効率よく行うためには、授業の内容(難易度)、進行速度などを適切に保つ必要がある。内容が難しすぎたり進行が早すぎたりしては授業についていけない学生が増える。逆に、簡単すぎたり遅過ぎたりしてもいけない。すなわち、最もたくさんの知識とエネルギーを伝えるための最適なバランスがあると考える。
b)「アンケート」~バランスを適切に保つための仕組み~
福井大学に着任して6年になるが、着任当初はどの程度の難易度や進行速度が適切であるか図りかねていた。そこで、出来るだけ早く「バランスの良い難易度と進行速度」を把握するために、毎回の講義の最後にちょっとしたアンケートを実施することとし,これはこの6年間,常に続けている(添付資料1参照)。その集計結果を基に、講義の進行速度や演習のタイミングを調整し、ついていけない学生や退屈する学生が生じないよう図っている。
c)「フィードバック」~有用な情報を得るための仕掛け~
統計的に有意なデータを得るために、アンケートの重要な設問は毎回同じものとしている。ただし、毎週全く同じ内容では回答することが煩わしくなり、講義に反映させるための有用なデータを得ることが出来なくなってしまう。そこで、重要な設問は選択方式とするとともに、他の設問内容に多少のユーモアを加え、学生自身が少しでも積極的に回答してくれるよう仕向けている。また、集計結果を学生に提示し、自身の回答が講義にどのように反映されているか説明している。
以上a)~c)による分析とフィードバックを通して、「講義」と「学生の学力」との整合をはかり、「学生に伝わる知識・エネルギーが最大」となるよう心がけている。
2.今後の教育への抱負
学生にとって授業に出席することは、本来は「知識を得ること」であるが、残念ながら「目前の単位を取得すること」が主となっている場合も少なくない。後者である場合、往々にして記憶力に頼りがちであり、試験が修了した途端に全て忘れてしまうことになる。しかし、せっかく出席し貴重な時間を費やすのであれば、いつしか忘れてしまう「記憶」ではなく、いつまでも残る「知識」を獲得してもらいたい。そのために理論的説明に加え、出来るだけ身近な実例を挙げながら進めることを今後も続けていきたい。さらに、学生にとって「なるほど!」と思える実例を数多く提供できる知識人となれるよう努力していきたい。
図1 アンケート用紙
出席確認と学生からの意見収集を兼ねて、毎講義の終了直前に回収している。重要な設問は選択方式とするとともに、若干のユーモアを添えることにより、有効なデータの収集を図っている。
理想の授業に向けて — 建築建設工学専攻 明石行生
私の「理想の授業」は、例えば、映画「The Life of David Gale(2003)」でKevin Spaceyが演じるGale教授が見せたような、学生とのコミュニケーションを重視した授業である。Gale教授は、常に学生とアイコンタクトし、頻繁に学生に問いかけ、ユーモアまじりに流暢に話す。一方、学生は、リラックスしてGale教授の話に集中するが、リラックスしすぎて寝ることはない。教授の質問に答える時だけでなく、質問や意見がある時にも挙手して発言する。
このようなコミュニケーションを重視した授業の利点は、学生にとっては、常に脳が覚醒していること、他の学生と質問を共有できること、人前で話せるようになること、教員にとっては、学生の理解度と授業の問題点が即座にフィードバックされること、である。
授業の工夫
昨年6月、福井大学に着任してから、建築環境工学・設備分野の授業科目を担当している。この分野には、「科学的知見と実用的技術とを橋渡しする」役割があるため、それを意識した教え方を心がけている。例えば、公式を丸暗記させることをなるべく避け、その公式が基づく理論・実験から、その公式が実務でどのように使われているかまでを、一連の流れとして(時間がある限り)説明する。
上述の「理想の授業」に向けて、学生の理解を深め学生とのコミュニケーションを促進するために、「可視化」に留意している。例えば、①パワーポイントを用いて大事な点が必ず伝わるようにする(資料としても配布)、②写真と図を多用する、③最も重要な点だけを板書する、④デモンストレーションを行う、⑤公式および実験結果を数学ソフトによりグラフ化する、⑥実務で遭遇する問題を対象とした演習をする。
特に今年は、④に関し、「教育改革を行うための競争的経費」の支援と中川慶子さんをはじめ研究室の学生の協力を得て、回折格子を用いた簡易分光器キットを作った(図1)。このキットと糊さえあれば、数分間でお洒落な分光器を組み立てることができる。この分光器を用いて、照明の効率と快適性を向上するために光源のスペクトルをどのように選定・改善するとよいかをデモンストレーションする(図2)。
また、学生の発言を促すために、成績に10%の授業貢献度を評価した。もっとも、日本の学生は、「先生の話を静かに聞いていることが優等生だ」と教えられてきたので、「さあ、今日から発言しなさい」と言われても困ってしまう。しかし、1年半を経て、学生は徐々に私の質問に応えてくれるようになってきたし、少しは質問もしてくれるようになった。
今後の抱負
冒頭で述べた「理想の授業」までの道のりは長いが、毎年、一歩ずつそれに近づこうと思う。
最後に、受賞の機会を与えて下さった方々、評価していただいた建築建設工学科の3年生に感謝します。
図1 簡易分光器キット
図2 簡易分光器で見た空の分光分布
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 材料開発工学専攻 徳永雄次
高い授業料を払っている学生さんに申し訳ないと思いながら、また高い給料を税金から頂いているという気持ちで、日々仕事をしている。取り立てて工夫をしていると言うわけではなく、テクニカルには板書を見やすくする、ゆっくり学生の方を向きながら話す、など他の教員の方が普段から心がけていることを行っているだけと考えている。強いてあげれば、極力パワーポイント等の機材は使用しない、今話している内容と教科書の場所を一致させることくらいのことと考えている。今回学生さんが優秀教員を選んだ際に記載してくれた理由を以下に列挙する(カッコ内は回答人数で、複数回答あり)。
- 講義が分かりやすい(12)。
- 質問に対し親身に答えた(9)。
- 板書が丁寧(5)。
- 人柄(4)。
- プリント作成(2)。
- 学生の力を伸ばそうとしている(1)。
- 演習しているのでやる気が出る(1)。
- まじめ(1)。
- 説明が詳しい・丁寧(11)。
- 情熱・熱心(6)。
- 小テストで復習をしてくれる(5人)。
- 学生が勉学をしやすいように講義を工夫している(2)。
- 考えさせるように指導する(1)。
- 学生のことを考えている(1)。
- なんとなく(1)。
- 追試をする(1)。
といったように、思いもよらず素晴らしい回答が多くの学生さんから返ってきた(恥ずかしい気持ちもあるが、このようなことは2度とないのであえて書かして頂いた)。
話は変わるが、昔の自分のことを考えると高校時代は勉学よりもクラブ活動を優先し、体育と音楽を除き成績は悪かった。大学でも3年間は留年に怯えながら努力もせずに複数のサークルやアルバイトに精を出す毎日であった。また就職後も転職を繰り返し、研究者以外の方と深い付き合いをさせて頂いた。普段の他の教員の方の言動を見ると、昔から非常に優秀でいつもテストでは高成績を取っており、付き合いも研究者が多いものと思われる。思うにこの点が他の先生と私との違いと考えている。これまでの経緯を考えると、一般的な学生さん(ただし成績のよいまじめな学生さん除く)の思考が他の教員の方より予想でき、またその考えに対する理解も出来るのかもしれない。従って、学生さんの考えること・理解できることを他の先生より少し読むことが出来るので、話す内容が他の教員の方よりも「分かりやすく」「丁寧」になり、学生さんとの会話をする(楽しむ)ことで、彼らが「情熱・熱心」「人柄がいい」「考えさせるように指導している」と錯覚しているものと考えられる。
ともあれ、我々教員は指揮者であり、プレーヤーではないことを思いながら、今後とも指導に当たりたい。
授業の工夫と抱負 — 生物応用化学専攻 三浦潤一郎
1.はじめに
以前「授業の工夫と抱負」を書かせていただいたときは、主に授業にどんな工夫をしたかを述べ、次の機会には、工夫したことの効果について書いたと記憶している。いずれも授業に臨むうえでの考えをまとめるよい機会であった。今回、従来考えてきたことが実践できたのかなと思っている。ただ、毎年公表される先生方のレポートを拝見すると、高度な技と労力が感じられる。私が工夫と言ってきたものは工夫のうちには入らず、極々普通のことに過ぎない。今回は授業に対する工夫とは何かを考えてみた。
2.工夫の原点
授業に先立ち、まずこの科目で何を講義したいかをはっきりさせることから始まる。設定したテーマを学生といかに共有して授業を成立させるかが工夫のツボである。「テーマを共有する」・・・と言う言葉になるにはずいぶん年数がかかった。
教員免許を取得するため教育実習を体験しているが、授業方法をちゃんと教わった記憶はない(だけかもしれない)。従って、我流であるから板書の仕方も分からない。最初に講義をもったころ、黒板は真ん中から使い始めた。大事なことを書くのだから、“みんながよく見える真ん中”というのが工夫であった。評判が悪かった。「左から」と絵に描いて指摘してくれる学生もいた。家族に確かめた。当然、学生に軍配が上がった。板書の工夫(?)をスタートとして、試験の仕方、資料や演習問題の配付等々で工夫が続く。それぞれの工夫はその都度学生に好意的に受け取られていることは、昨今の「授業改善アンケート」からも察することができた。
教室が一瞬、シーンとなる時がある。もちろん、「単位は・・・」とやると、静かになるがそれとは違う。“見られてる”という快感!授業はライブなんだ。ここはチャンスと板書に力が入る、左から。どんなライブかは専門によって違うだろうが、「研究のおもしろさ」が根っこになければならないと考えている。
3.今後の抱負
そろそろ工夫の“ネタ”も尽きてきた。毎回述べているようで芸がないが、学生に対しては「人それぞれは、貴きものあり」を忘れてはならないと思っている。こちらがそのように接しても、相手は何のそのということも常。腹の立つこともある。そのときは思いっきり爆発し、どうフォローするか。「教育の仕方」は永遠の課題である。相手は毎年入れ替わる。今後も、新鮮な気持ちで教育に携わりたい。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学専攻 橋本貴明
教育に関しては、多数を占める中程の学力を持つ学生のレベルを全体としてどのように上げるかという点に留意して授業を行なっています。近年の入試の多様化により個別学生への対応も必要ですが、全般的な学力の低下がより深刻ではないかと考えています。質問に訪れるなど授業に積極的に取り組んでいる学生に対しては、その学力を把握し適切な指導を行ないやすいですし、また学業不信の学生に対しては呼び出して指導するなどの対応が可能です。しかし多くの学生はそのどちらでもなく、まじめに学習に取り組んでいるが十分理解出来ない点も多く、しかし質問するまでにいたらないことが多いと思われます。
このような中間層のレベルアップに意識的に焦点を当て始めたのは、従来の試験内容では平均値が顕著に落ちて来たここ何年かですが、試験の得点分布など全体的数値指標以外のデータを取ることが難しく、学生の具体的なニーズはなかなか測れないのが実情です。今まで個別に得た情報から、日頃行なっている教育に対する工夫は、基本的な事柄ですが以下のようなものです。
- 授業時間内での理解が難しい内容も含まれているので、後から見直し安いよう板書を出来るだけ整理し丁寧に行なう。
- 多くの授業で、期末試験前にレポート課題を出すが、任意にノートの提出も求め加点評価の対象としている。同時に特に授業中学生の反応を見て変更した点などその年の板書内容の確認し、毎年改良を行なう。
- 授業アンケートの記述欄だけでなく、全体的傾向に注意する。
まだ、中間層全体のレベルアップに対して、最近の学生の変化へ対応した適切な方法は見つかっていませんが、独り善がりにならないよう注意しより耳を澄ませて、彼らの声なき声を授業に反映させて行く工夫を行なっていきたいと考えています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学研究科 黒岩丈介
現在担当している学部教育科は、
- 電磁気学演習Ⅱ(2年前期、必修)
- 知能システム実験Ⅰ(2年前期、必修)
- 知能システム実験Ⅱ(2年後期、必修)
- 情報基礎論(3年後期、必修)
である。その他に、大学院前期課程の講義として脳情報学(前期)、及び大学院前期課程の講義として人工知能特論(後期)を担当している。学部の講義では、全般的に気をつけていることは学生とコミュニケーションを図ることです。コミュニケーションを図ることにより、教官を身近に感じてもらい、それによって講義に対する嫌悪感を弱め、講義に対する取り組み方にも違いがでるように感じられるからです。電磁気学演習Ⅱや情報基礎論といった講義形式の授業では、講義終了時に、その日の復習を兼ねた小テスト(10分程度で解ける問題)及び講義アンケートを配布しています。講義アンケートには、講義評価の他に自由記述欄を設け、学生の書いてきたことに対し必ず何か数行コメントし、コミュニケーションをとっています。知能システム実験I及び知能システム実験IIでは、提出レポートを返却する際に、一人一人何かコメントするようにすることで、コミュニケーションをとっています。
講義系の講義で最も気をつけていること・工夫していることは、板書内容です。基本的に、後からノートを見直した時に、何を書いてあるか理解しやすうように板書するようにしています。また、1回の講義では、1つまたは2テーマのみになるようにしています。実際、講義後の学生から意見としては、「後から講義ノートを見直すと、復習しやすい内容が書かれているので、先生の講義は好きです」といった意見を書いてくれる学生も見受けます。その他、前述のように、講義終了時に、その日の復習を兼ねた小テスト(10分程度で解ける問題)を配布しています。この小テストは、提出は自由、そのため問題を解くのは講義終了後の自由時間としています。それでも、学生は、講義内容に関連した問題を解くことができるので、講義内容の復習にもなると好評です。また、毎回実施している講義評価も、その日の学生の表情が優れない時、自分で説明していても今一つ反応が悪い時は、評価も悪くなり、講義に対する自己反省ができるため、講義改善を図るためには有効です。
実験系の講義で最も気をつけていること・工夫していることは、レポートの書き方、特に考察の書き方を、個々に指導することです。具体的には、レポート一つ一つに記述内容に不十分・不適切な点について赤ペン指導を入れ、更に口頭で何が不十分なのか、何が不適切なのかを教え、再提出させています。
平成19年度優秀教員
機械工学科 | 小寺 忠 | 教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 福井一俊 | 教授 |
情報・メディア工学科 | 森 幹男 | 助教 |
建築建設工学科 | 松下 聡 | 教授 |
材料開発工学科 | 米沢 晋 | 准教授 |
生物応用化学科 | 沖 昌也 | 准教授 |
物理工学科 | 吉田拓生 | 教授 |
知能システム工学科 | 小高知宏 | 教授 |
福井大学での教育に対する思い — 機械工学専攻 小寺 忠
定年を迎える年に、優秀教員に選んでいただいたことに感激しております。最終年度ですので「将来」の抱負は省かせていただき、私の経験が少しでも後進のお役にたてばと思って、「過去」を振り返らせていただきます。
1.まず、学生の実力を知ること
今回投票していただいた3年生に担当してきた科目は、1年生前期の「機械技術と社会」(必修)、1年生後期の「線形代数Ⅱ」と「数学演習Ⅱ」(共に必修)、2年生前期の「微分方程式」(必修)、2年生後期の「基礎振動工学」と「システム制御演習」(共に必修)、3年生前期の「機械力学」(選択)の合計7科目です。本当に密度の濃いお付き合いでした。最初の人文系科目を除いて残りはいずれも数学・力学系の科目ですので、計算の実力、基礎学力を高めることに力点をおいてきました。そのためには、まず学生諸君の基礎学力を知らなければなりませんが、各科目の最初の時間に行う演習(復習の問題)でそれがわかります。その愛すべき学生の実態を素直に受け入れるところからすべてがスタ-トします。
19年前に福井大学よりも偏差値が高い大学から赴任して、この実態を知ったとき、研究よりも教育に情熱を注ぐことを決意しました。ラグランジュではないが「もう研究はいい」と思うことさえありました。
2.医者のように
福井大学での19年のお付き合いの中で、「勉強しない学生はやめさせてしまえ」とか「できない学生はやめさせてしまえ」という声をよく聞かされてきましたが、40年前の大学生ならともかく、全入時代の大学生にこのような考えを押し通してよいのか、福井大学の存在理由を考えると、大いに疑問に思いました。ちょうど、医者が患者に向かって「健康でないものは来るな」と言ってしまえば、病院も医者も存在理由がないのと同じです。JABEEのいうところの「パラダイムシフト」が必要です。
私達は、因数分解もまともにできず、二次方程式もまともに解けない、そういう「患者」を治療し、健康にしてあげないといけないのです。そのためにはどうするか。数学や力学の科目には王道はありません。階段を一段一段上るが如く、一歩一歩山を登るが如く、少しずつ理解させていく以外に方法はありません。リハビリと同様、地道な訓練(ステップ・バイ・ステップの演習)以外に方法はありません。これには猛烈な時間と体力を使いますが、お金は使いませんし、逆に儲かりもしません。外部に対する大学の宣伝効果もありません。GPよりも遥かに重要なのに、科研はもちろんGPの範疇にも入りません。
私は、具体的には次のようにしてきました。
3.毎時間、演習を課す
演習は地道な訓練、リハビリですが、半年に数回の演習ではほとんど意味がありません。演習はあくまでも理解を助け、理解度をチェックするための手段ですから、講義の度にやらないと意味がありません。ただし漫然と毎回やってもだめです。フィ-ドバックが必要です。学生達がどこを理解していないのか、なぜ間違うのか、それをリアルタイムで教員が直接知らなくてはなりません。学生達は、分からないところが分からないということが多く、分かったつもりで解答します。そこを教員が演習の解答から見抜いて、分からせるように再度説明したり、間違いを訂正させたりして、理解するのを手助けしなければ、毎回の演習もあまり意味のないものになってしまいます。
「演習のやりすぎだ」「演習をやっても評価されない」「演習をやっても効果が見えない」というご忠告をいただいてきましたが、医者が患者の治療に心血を注ぐが如く、私はこの演習形式の講義を天命と思って福井大学赴任以前からずっとやってきました(前任大学では教育と研究を両立させることができましたが)。
4.ところで、講義は
講義では、自分の教科書を使用してきました。福井大学の学生には、その実力に見合った教科書が必要ということで出版してきました。今までに「線形代数」、「常微分方程式」と2種類の「機械力学」および2種類の改訂版を出版してきました。初めて執筆した当初は、教科書があれば板書を省けるので楽だと思っておりましたが、そうではありません。問題意識がない状態では、学生達はほとんど興味を示しませんし、予習もしてきませんので、眠気を誘うだけでしたので、結局板書で説明してきました。ところが、演習をやってみますと、講義を聴いた形跡のない学生が結構たくさん見つかります。ですから、いまは、【講義】プリントの空欄に板書をあえて記入させています。演習を解かせるという形式の講義も混ぜます。そして【講義】プリントのチェックも時々します。それによって全員が講義を聴いた形跡を残すようになりました。【講義】プリントにより、学生がどのように講義を聴いたか、聴いていなかったか、理解しているか、また理解していないか、誰が勉強熱心で、誰がそうでないかを知ることもできます。誰が孤独なのかを知ることもできます。
毎回の講義は60分行い、後の30分をそれに関連した演習に当てています。授業時間内にできない演習は宿題にしますが、それとは別に宿題も課しています。演習中は教室の中を見回りますので、学生はいくらでも気楽に質問してきます。殊更にいまはやりの質問カ-ドなどを準備するまでもありません。ましてや回答をホ-ムペ-ジで公開するなどという必要もありません。普段から双方向の授業になっていました。
これでは講義が進まないではないか、という人が必ず出てきますが、意外とそれなりに進んでいます。確かにもう少し進めたいが、自習や予習、復習の習慣がない今の学生諸君には現状で精一杯です。それは知識の詰め込みにさえなりません。学生が理解できないまま、未消化のままに進んでも意味がありません。
5.これからどうする
もし1回のおしゃべりだけですべて理解してくれる学生達がいたら、どれだけ授業が進み、どんなに研究に専念できて楽なことだろう、と思わないでもありませんでしたが、それは教育という観点では邪道ではないかと思います。何度も同じことを繰り返し、学生達の着実な成長振りを目にできたことは、教育に携わった者としてこの上ない喜びでした。
これからも機会があれば非常勤講師として福井大学の教育に少しでも貢献できれば、と思っています。また、過去の教育経験を活かして教科書のさらなる改訂などもやっていきたいと思っております。
学而不厭、誨人不倦
(自ら学ぶことを厭がらず、成果を人に教えることを倦まず。論語より)
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 福井 一俊
数年前に書かせていただいたことからあまり進歩していません。マイクを付け、受講生にはっきり聞き取れるように心掛け、早口にならないように注意し、板書はなるべく大きく読める字で書く。そして、可能な限り受講生の名前を覚え、出来たら教室内をグルグル歩く。当たり前の事柄だらけのそれだけです。これらはただの技術であって教育ではないという評価も頂いたことがありますが、マイク装着以外、15回の講義全てでこれらのことを終始安定して出来たことがありませんので今後も私の目標とします。聞こえない声は声でなく、読めない字は字ではありませんから。
講義の手法については、1・2年の基礎的な科目と3年の専門科目では大きく変えています。基礎科目は高校や大学に入ってから一度習ったものと重複しているものが多いため、暗記よりは考えを必要とするような演習を重視し、手法的には少し予備校的にキッチリと行っています。つまり、最初の時間に講義の仕方(小テストやレポート(宿題)の出し方等々)とルールを説明して、毎講義や成績評価はその通り実行しています。採点した前回の小テストやレポートを返却し、解答例と平均点、時には得点分布を示して、自分が全体の中でどの程度にあるかを知ってもらっています。これは期末試験でも同様です。毎回の採点(と返却)は負荷が高くいつまで続けられるかわかりませんが、本人へのフィードバックループの中心になっています。一方、専門科目は自分の専門にも近いため、教科書に従うもののかなり自由にイメージ中心で講義を行っています。この場合注意しているのは立ち位置を説明することで、その科目が電気・電子工学(固体物理)においてどういう位置にあるのか、今日の講義がその科目においてどういう位置にあるのか、今話している部分が今日の講義にあってどういう位置にあるのかをいちいち示すことです。尤も充分に説明できているかいつも不安になるのも立ち位置の説明ですが。
こうして書いてみると、自分が学生時代に不満や疑問だったところを重点にしていることに気が付きます。所詮そんなところです。今の学生は本当はどう感じているのだろう。今後も今までの取り組み方をヴァージョンアップして行きたいと思います。PDCA的に回してみたいという方が今風ですか。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学専攻 森 幹男
日頃の教育に対する工夫、心がけていることについて以下に述べさせていただきます。
(1)見やすい板書
横長の黒板が1枚の場合は、全体を3つか4つに分けて使用し、隣に板書が移る際には境界を(赤チョークを使って)縦線で区切り隣の文字との境目を分かりやすくしています。また、上下にスライドするタイプの場合はスライドしても順番が分かるよう黒板に番号を書くようにしました。説明するときは、自分の体が板書を隠さないよう心がけています。また、一番後ろに座っている学生に黒板の文字が見えることを確認するだけではなく、自分で後ろへ行って板書の具合を自分の目で確認するようにしました。その上で、文字が見えない学生は前へ移動させるようにしました。
回路図などの説明では、色分けをした方が見易いと思われる場面があります。しかし、色チョークで文字を書くと学生からは文字が非常に見えにくくなってしまいます。そこで、白以外の色で文字を書く場合は、自前で用意した蛍光チョークを用いました。普通の赤チョークはライン専用に用いています。
(2)話し方の工夫
話し方が単調にならないように声の大きさにメリハリを付けるようにしました。間の取り方にも気を配っております。また、1テーマが終わるごとに学生に分かったどうかということを確認しておりますが、質問に対しては、1対1の回答にならないよう全員に向けて回答しています。質問の内容によっては1対1の回答になりますが、この場合は授業終了後に個別に行うようにしています。
学生が疲れてきたら、新鮮な話題(雑談)で気分転換を図るようにしています。このとき、全員に分かる話題を選ぶことと、(やる気を出させるような)教育的な落ちを付けるように注意しています。雑談的に話したことは(不思議と)いつまでもはっきりと覚えているようです。
新しいテーマに入る場合は、まず身近な製品を取りあげて、これから学習することが最終的にどういうことに役立つのかというイメージを作ります。たとえ、準備していたところまで進まなくても10分前にはまとめに入り、今日やったことと次回やること(予告)を話すようにしております。
(3)その他
出席は時間がかかっても全員読み上げます。このとき必ず相手の顔(目)を見ます。ただし、時間の無駄にならないよう演習させている間に行います。出席をとる最大のメリットはこれを繰り返しているうちに全員の顔と名前を覚えることが出来るということだと思います。名前を覚えるとキャッチボールが可能になります。
また、こちらが話しているときに授業に関係のない私語が聞こえてきた場合は、私語が止むまで、完全に話を止めます。
このようにして、代返や私語ができない雰囲気を演出しております。正直者がバカを見るようなことがないように最大限の注意を払っております。
「分かりやすく」ということ中心に述べましたが、教育のレベルを落とすつもりはありません。また、個人的にはレベルが高くて数人にしか理解できない授業があっていいと思っております。
私の場合、大学生だけを相手にしていると、分かるように話すという感覚が麻痺してしまいます。学生の多くは分からなくても何も言わないか寝てしまうことが多いからです。たまには思ったことをそのまま素直に口に出す小学生を相手にするのが新鮮で良いと考えております。(かつて小学生に「漢字の書き順が違う」と指摘されたことがあります。実によく見ております。)
今後も公開講座などを積極的に行っていきたいと考えております。
建築建設工学科 松下 聡
工学部支援室からレポートを提出せよというe-mailが送られてきたのを見て初めて、自分が優秀教員に選ばれたことを知って驚きました。私は日頃から学生たちにどちらかといえば嫌われていると思っていましたので、選ばれるはずがないと思っていました。私が担当している授業の中で、建築建設工学科が工学部の他の学科と最も異なる特徴を持つ分野である建築設計に関する演習について述べていきます。
建築の設計に関する演習は、学部の1年後期と2年前期の設計演習基礎第一、第二、2年後期から3年後期まで、建築設計演習第一、第二、第三と連続する必修科目があります。私は2年前期の設計演習基礎第二から3年後期の建築設計演習第三まで他の先生方と共同で担当しています。2年前期の設計演習基礎第二では、小規模な公衆便所の課題を出し、製図方法と簡単な建物の図面の描き方を学生に練習させています。最初が大切なので、いい加減な図面を提出する学生には描き直しを命じ、不充分なものは必修科目であるにもかかわらず、「不可」の成績をつけています。2年後期からの建築設計演習は徐々に現実の複雑な建築物の設計課題を出し、学生に条件を満足する建築物の設計を行わせる演習を行います。建築物の設計は、デザイン、機能、構造、設備、法規などの条件を満足しながら、事務所ビル、美術館、図書館、スポーツ施設、ホテルなどの空間を創造する仕事です。演習の時間には、学生に設計方法を説明し、実例として、自分が各地で見て撮影してきた写真をプロジェクターで映写して見せています。基本的な設計能力を身に付けさせるため、3年前期までは手作業で図面を描いたり模型を作らせ、コンピューターによる作図は認めていません。このことは私が2000年に在外研究員として米国各地の大学を視察したときも同様の状況でした。1つの課題を約5週間で完成させる計画で進め、中間と最後に講評会を行い、学生に自分の考えを人前で発表させ、他の学生がその作品を見て論評を加える練習もさせています。そこで不充分な点のある図面には大なり小なり修正させています。
大学を卒業して就職すれば、計画案を他人に解りやすく説明したり、図面の修正や描き直しなどは日常茶飯事で、学生のときから経験させておくことも目的にしています。このようなことに興味のある学生にとっては少しは楽しい授業かと思いますが、苦手な学生にとっては、少々苦痛になるかもしれません。
以下は参考資料として、設計演習授業中の建築製図室風景です。
課題と設計方法の説明
参考資料としての実例写真などをプロジェクターで映写
建築図面作成 3年後期
手描きの作業とコンピューターの使用の両方が見られる。
課題作品の発表
各自作品の発表を行い、教員及び学生が質疑応答する。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 材料開発工学科 米沢 晋
講義を進行する上で以下の点を特に念頭に置いている。もちろん講義の方法は常に変わり続けるものであるという認識の下、継続的な状況把握、改善努力を継続している。
1.解法からの理解・・・「問題を解いてみせる」
教員同士でしばしば話題になることに、「事象の根本をきちんと教えれば解法のテクニックは自然とついてくる」指導の方がいいのか「解法のテクニックを磨かせてだんだんと事象の根本に近づける」指導の方がいいのかという内容がある。理想的には根本をきちんと理解するところからはじめる方が本筋だろうと思われるが、場合によってそれが通用しないことがある。例えば、必修の専門基礎科目のようなものの場合、学生の視線はどうしても試験や評価に向きがちで、学問的な興味を啓発するといった努力を有限の時間内には織り込みづらいと感じている。細かい計算過程などまで確認しながら演習問題を解いてみせることを話の中心におき、その繰り返しの中から理論や概念が感じられるような構成を試行錯誤してみている。
2.リアルタイムコミュニケーション・・・「話す。聞く。」
講義や演習においては聞く側にあった進行速度が最も重要と考えている。理解度のチェックと進行速度の調整のためには、とにかくコミュニケーションを密にとる必要がある。そのため、毎講義ごとに感想、質問、授業内容への希望、その他自由記述を記述する時間をとり、回収、次講義時に回答あるいはコメントを述べるよう努力している。5 minute paperのようなものであるが、それよりも記述の自由度を高く設定することで、集計は困難であるが、学生の「気持ち」が見える部分が増加する。例えば、「授業内容を理解できたか?」という質問においては、以前には「理解できた」とした内容に対する質問でも試験が近づくにつれて「理解できていない」と回答する傾向が顕著になる。綿密に指導するためにはこの中から本当に理解できていないものと単に不安に駆られているものとを区別して対処する必要がある。こうした微妙な「空気」はなかなか読めないが、やはりコミュニケーションなくしては試行錯誤すら出来ないと感じている。また、個人あるいはクラスの単なる学習到達状況だけでなく身体的、精神的健康に関する状況も少なからず把握できるため、もちろん完全ではないが「正直」なコミュニケーションをとれるように思う。
3.視聴覚機器の利用の最小化・・・「書かせる。聞かせる。」
プロジェクターなどの視聴覚機器の使用は最小限度にとどめ、学生に「書かせる」ことを重要視している。ただし、板書からノートをとるとどうしても写すことに気をとられてしまい話を聞くほうの注意力が散漫になる。加えて、米沢の講義については過去にも現在にも程度の差こそあれ「板書からノートを起こしにくい。」という感想、意見が出る。そこで、キーワードが記述によって常に意識されるような授業用に特化したプリントを用意し、記述が終了すると、それがいわゆる講義ノートになるように配慮している。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学専攻 沖 昌也
私はまだ、毎回、試行錯誤しながら授業を行っている。「試験に向けた一時的な暗記」ではなく、「応用の利く本質的な理解」を目指した教育をしたいという目標に向けて。
私の所属する生物応用化学科は「化学系」、「物理系」、「生物系」と幅広く教育を受けることが出来るという大きな長所がある。化学・物理を敬遠し、自分の興味のある生物のことばかり勉強してきた私は、最近になって、もっとしっかりと生物以外のことを勉強しておけば良かったと後悔している。ただ、その重要性を自分が学生時代に気付けたかと問われれば答えは「NO」である。今の学生はどうなのか?第一回目の講義のときにアンケートも兼ねた、簡単な理解度を問う問題を出してみた。その結果は予想以上で、答案を見ただけで生物に興味があるか否か一目瞭然であった。生物に興味を持っている学生を更にもっと伸ばすべきなのか、あるいは興味を持っていない学生に興味を持たせるように講義を行うべきなのか、前者を選択するか、後者を選択するかでは講義内容も大きく変わってくる。結局、考えても結論は出なかった。とにかく実際に講義を行い、学生の反応を見ながら考えようと思い講義をスタートさせた。
個人的には、まず興味を持つこと、そして自分で知りたいと思うことが物事を理解する上で最も重要であると考えている。そのためには着実な知識の積み重ね、本質的理解が必要で、今後、講義を進めて行く上で、最も基本となること、今日の講義でどうしても理解して欲しいことを講義の最初に「本日のテーマ」として説明し、講義の終了時には「今日の講義で理解出来なかったこと、改めて説明して欲しいこと。」を記入するよう紙を配った。最初はほとんど反応が無かったが、毎回、講義の最初に、前回の講義の疑問に答えているうちに、様々な意見が出て来た。その質問を見ているうちに、自分では知らず知らずに使っていた専門用語、自分の中ではいつの間にか常識になっていたことへの説明不足、その結果混乱しだしたところが何人かの学生で一致することが分かって来た。自分では全く予想していなかったことである。また、最後の試験では「暗記してれば出来る問題」と「本質的に理解していないと解けない問題」を混ぜた問題を作成した。応用力を問う問題に関して、予想以上に出来ており、来週解答をすると言ったにも関わらず、「解答が気になる」ということで試験直後に解答を聞きに来る学生もいた。非常に嬉しいことであったが、試験の解答をしているうちに分かって来た。私の講義はいつの間にか生物学に興味のある学生が対象になっていたようである。今後は、更に工夫を重ね、1つの学科に所属し、分野を越えた教育を受けることの出来る環境の重要性を伝え、偏った知識だけでは無く、幅広い知識を持ち、1つの物事を多くの視点から考えられる学生が育っていく教育環境を他の先生とも協力しながら作っていきたい。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 物理工学専攻 吉田拓生
教育において工夫するべき点は、大きく分けて2つあると思います。1つは、何をどう教えるかという教育技法に関する工夫、もう1つは学生との関係をどう保つかという精神的な面での工夫です。前者の教育技法に関する工夫というのは、さほど難しいことではなく、私のような怠け者でも、比較的容易に何らかの工夫ができるものでして、私の場合、例えば以下のような工夫をしています。
- 私が担当している電磁気学Ⅱ、電気電子回路Ⅰ、物理学Ⅲなどの科目では、内容を理解するために数学の基礎知識が必須となりますが、各科目の第1回目の授業で、各科目を理解する上で必要となる数学に関するアンケート(高校から大学1年次のレベル、参考資料1参照)を取り、受講生の多くがまだ十分習得していないと判定された数学については、2回目以降の授業の中で必要に応じて詳しく説明しながら進めています。
- 3次元空間でのベクトルを扱う授業(特に、電磁気学Ⅱ)では、ベクトルの模型を作り、平面的な絵だけでは理解しにくい様々なベクトルの位置関係を立体的に分かりやすく表現する工夫をしています(参考資料2参照)。このようなアナログ的なものでも、学生は、案外、喜んでくれます。
- 電気電子回路Ⅰ、放射線安全工学、粒子線計測学(大学院)の授業では、授業で取り上げる回路素子や放射線検出器などの実物を教室に持ち込み、受講生に見せながら授業を進め、単に理論的に理解するだけでなく、実用に即した理解が深まるよう工夫しています(参考資料3参照)。教室に持ち込めないような大きな機器は、写真を写してスライドで見せています。
さて、このように、教育技法に関する工夫は、ちょっと考えればいろんなアイデアが浮かんできて、それを実行に移すのも難しくないのですが、一方、学生との関係をどう保つかという精神的な面での工夫となると、なかなか難しく、私も未だどのようにするのがよいのか、結論を出せないままここまで来てしまいました。学生との関係をどう保つかとは、平たく言えば、学生達とまるで友達のように親しい関係を築くのがよいのか、それとも、あくまでも教師として厳しく接するのがよいのか、学生を「もう大人」として扱うべきか、それとも、「まだ子供」とみなすべきか、といったような問題ですが、今後の抱負として、このようなことについても試行錯誤を繰り返しながら、自分なりの答えを見つけていきたいと思っています。私の目標は、ただひとえに、学生達が卒業し、社会の第一線で活躍するようになってから、「そういえば学生時代、こんな先生がいたなあ。自分が今あるのもこの先生のお蔭かもしれない。」と思ってもらえるようになることです。
以上
参考資料1:電気電子回路Ⅰの第1回目の授業で行う数学のアンケートの実物
参考資料2:電磁気学Ⅱの授業で用いるベクトルの模型の例
電流が作る磁束密度を求めるための法則の1つであるビオ・サバールの法則を説明するためのベクトル模型
円周上を流れる電流が円の中心軸上に作る磁束密度をビオ・サバールの法則を用いて求めるときに用いるベクトル模型
参考資料3:授業中に見せる電気電子回路素子や放射線検出器の実物の例
電気電子回路素子のサンプルの例
放射線検出器の部品の例
ダイオード、トランジスター
オペアンプLF356N
放射線検出器の部品の例
荷電粒子検出用
プラスチックシンチレーター
シンチレーターの発光を検出するための受光素子(光電子増倍管)
知能システム工学科 小高知宏
1. 教育の目標
大学教育も含めて教育の目標は、環境の変化に適応する能力を身につけさせることだと考えます。工学部・工学研究科における教育で言えば、たとえば、卒業して社会に出たときに、学生から社会人への環境変化に適応できるだけの、技術者としての基礎的素養を身につけさせることは,一つの教育目標です。また,時間が経って技術や社会の変化によって大学で学んだことがすべて時代遅れとなったときでも、自分自身で新たな環境に適応できるだけの能力や強さ、あるいは度胸をつけさせるのも重要な教育目標です。
こうして考えると、我々の行う教育は、単に知識や技能を伝えるだけでなく、学生さんが自律的に学ぶ方法を示し、かつ、自発的に面白がって学習を進めるように誘導することが必須となります。学生さん自らがさまざまなものに興味を持てる動機付けと、学生さんの知識の地平線を広げるための手助けをすること、これが教育に期待されることだと思います。
2. 動機付けとしての演習至上主義
動機付けの方法として、情報処理関連授業において私は実験的に、演習問題の出題を中心とした演習至上主義的授業を行っています。講義時間の冒頭に問題を出題し、一週間後のレポート提出を指示します。コンピュータプログラミングによる解答に直ちに取り掛かれるのであれば、コンピュータ室に移動してすぐさま解答にかかります。優秀な学生さんは、教室に残る必要はありません。すぐには解答の糸口がつかめない人には、教室でヒントを出します。しかし解法そのものや答えは示しません。一週間後、レポートについての講評を行い、演習のまとめとします。学生さんの珍答奇答を手がかりに、さまざまな角度から解法について解説します。
この方法は単に動機付けを与え自律性の発展を促すだけでなく、実は先生が手取り足取り指導するよりも知識や技能の習得にも有効なようです。学生さんのアンケートも大変好評です。
3. 教科書に書かないことを伝える講義
演習だけでなく、講義の重要性ももちろん否定しません。添付資料に示すように、私は講義用教科書や専門書を30冊ほど執筆・翻訳していますが、講義では、教科書に書かない、あるいは書けない裏話や横道にそれた話を必ず話します。必要な知識や技能は教科書を読んでもらい、動機付けや知識の地平線の拡張には講義の無駄話を活用するわけです。これも学生さんのアンケートによると、後者の評判は上々です。
ちなみに執筆した教科書も、都心の大規模書店におけるすべての書籍を含めた週間売り上げランキングで1位をとったものがあったり、中国語や韓国語に翻訳されるものもいくつかあるなど、これまた好評を博しております。
4. 研究の場としての教育
学生さんのためにも私自身のためにも、日々教育技術の研鑽を狙って、情報技術を応用した教育工学の研究を進めております。実験場として講義や演習の現場で学生さんに協力をお願いしております。この中には、レポートのWebサイトからの剽窃自動発見システムなども含まれていますが、これまたなぜか好評です。「背中を見せる教育」が実践できているかもしれないなどと思っております。
5. おわりに
平成14年度の優秀教員受賞に続き、2回目の受賞を受けたことは大変な名誉であると思っております。学生さんの期待に応えるためにも、講義や演習を休講にすることなくがんばってゆきたいと思います。
平成18年度優秀教員
機械工学科 | 服部修次 | 教授 |
---|---|---|
電気・電子工学科 | 林 泰弘 | 助教授 |
情報・メディア工学科 | 福間慎治 | 講師 |
建築建設工学科 | 石川浩一郎 | 教授 |
材料開発工学科 | 飛田英孝 | 教授 |
生物応用化学科 | 池田功夫 | 教授 |
物理工学科 | 高木丈夫 | 助教授 |
知能システム工学科 | 池田 弘 | 講師 |
福井大学での教育に対する思い — 機械工学専攻 服部 修次
私は2002年の機械工学科の優秀教員に選出されており、現在考えていることは当時とそれほど変わりませんが、新しい観点も含めて教育に対する工夫及び今後の抱負について記載します。
工夫1 聴而不聞の講義
講義では、全員に聴いてもらうことが最も重要であり、こちらの声が全員に届く必要がある。マイクのない講義室でも最後列の学生にもはっきりと聴いてもらえるほどの大きな声を出して講義している。
工夫2 学びの意欲の向上を目指す
1回の講義では、1つの課題で完結するように心がけている。2つの課題を消化不良しているよりも1つの課題を十分に理解する方が、自ら勉強しようとする意欲を増大させる。また、講義終了15分前には、講義の理解度をチェックするために学生に演習を課している。この間は、学生の間を回って個人的な質問を受け付ける時間にもしている。学生が問題を解くことによって講義を理解したという達成感が得られるように工夫している。また、学生からの授業アンケートでも高い評価を得ていて、意見については真摯に受け止め、講義にフィードバックしている。
工夫3 問題の設定と目標の明確化
材料力学等の力学系の科目を担当しているので、式の導出や証明問題が多い。講義では、どのパラメータが与えられ、何を求めるのかを完全に理解させるために十分な時間を費やしている。問題を理解させないまま講義を進行したのでは、学生は興味を示さない。また、式を導出した場合も、物理的な意味や工学的な応用性を徹底的に理解させるためにいくつかの具体例を示すなどの努力をしている。
工夫4 確固たる知識を培う
講義は、板書していてもできるだけ前を向いて説明し、常に学生とのアイコンタクトを取っている。学生が理解すれば次の説明に移るが、理解できていない場合は二度、三度いろいろな角度から説明するように心がけている。大抵は、繰返しの説明が必要であるが、3回くらいの説明でほとんどが理解してくれるようになる。
工夫5 グローバル時代を見据えた最先端に触れる多様な学びの場の提供
2001年、当時学科長として学部長の代理で韓国釜山の釜慶大学との姉妹校協定締結式に出席した。これまで、福井大学では50数大学と学術協定を結んでいるが、これからは実質的な交流が重要と考え、本学機械工学科と釜慶大学機械工学科が毎年「先進機械工学に関するシンポジウム」(2005年から中国上海理工大学も参加)を開催するように企画した。また、このシンポジウムに限らずに、院生や4年生が多岐にわたる研究者との交流を図ることができるように国際会議への参加の機会を与えている。
工夫6 きめ細かいサポート
卒研、博士前期課程の学生の研究指導については、自ら考える力を伸ばす環境を提供するとともに、研究課題の設定及び研究計画・方法の助言、実験結果の討論を絶えず行うように心がけている。週1回の研究会で研究の進捗状況を確認するとともに、学生が質問で来室した場合には、必ず当日中に助言できるように努力をしている。また、院生には必ず学会発表と学会論文に投稿できるように指導し、卒業後の自信につながる教育をしている。
今後の教育の抱負
今後とも、学生の目線で考える講義を行う。学生が私の講義の受講により、在学時には「学び」の充実感を、卒業後は「福井大学で学んだことを誇り」に持つべく教育に真摯に望みたい。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 電気・電子工学科 林 泰弘
日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負について、以下に述べさせていただきます。ただし、教育上の小手先の小さな工夫をただ機械的に実施するだけでは、学生が真剣に取り組むようにはならないと感じております。一番大切なのは、教官が学生の将来のために、徹底的に教えるぞという熱意を全面に打ち出し、常に学生と真正面から向き合う教育の姿勢ではないかと自戒しております。大部分の学生が、そういった教官の熱意や気合というものをきちんと受け止めていることは、講義のアンケートの回答から伝わってきます。今の時代、学生の持っている能力ややる気を如何に自発的に引き出すかが教育上重要であると感じております。
(1)日頃の教育に対する工夫
①受講する学生の意識改革(学習の意義を示し、激励することで、受身から自発へ)への工夫
大学の学習とは、受身の姿勢で知識を得るものではなく、卒業後自分が社会に貢献する上で必要な知識を習得するために自発的に行うものであることを、講義中に頻繁に説明し、講義に対する自発性を促進させるよう心がけています。つまり、担当講義の位置づけと、その講義で得られた知識が卒業後どういった分野で役立つのかを適宜説明し,自分が社会で働く姿のイメージとのつながりを常に意識してもらっています。
②講義の進め方に対する工夫
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(説明)+(演習方式)による一講義完結型スタイルの実施
1回の講義の中で、修得して欲しい知識の説明と、その知識の修得を確認するための演習を実施することにより、毎回の講義のポイントを直ちに学生が抑えやすいように配慮しています。
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演習問題の正解順番の提示による講義への集中力向上と理解が遅い学生の底上げ
電気・電子工学分野の必修科目である回路理論の講義では、講義の最後に毎回実施する演習において、演習問題の解答が書けた学生から一人ずつ順に教官のところへ答えあわせに持ってきてもらい、全受講者の中で何番目に正解できたのかを告げます。同時に、前回に比べて順位が何番上がった(下がった)のかも告げ、学生の講義に対するモチベーションを高めています。また、正解できるまで何度でも持ってこさせることで、理解が遅い学生は最後まで教室に残るので、それらの学生には理解するまで直接指導し、学習意欲を損なわないように配慮しています。
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技術英語の基礎能力の育成と英語学習の必要性の啓蒙
講義の中で使用する専門用語の英訳を必ず板書し、技術英語の基礎能力の育成に努めています。専門科目の試験では、専門用語の英訳問題を出題しています。また、講義のたびに、専門用語を英語で表現する必要性を説明し、専門知識を英語で説明することの大切さを理解していただくように配慮しています。
③プレゼンテーション能力の育成に対する工夫
学部学生が卒業研究発表会や、将来の学会発表等で上手に発表するための素地作りとして、3年生の学生実験「単相3線式配電方式」の試問の際に、パワーポイントを用いたプレゼンテーションを実施させています。具体的には、一つの実験項目を一人の学生が責任を持って担当し、その実験の背景・目的・内容・結果・考察を10分で発表してもらい、発表内容に対する試問を行っています。過去に実施した学生による実験のアンケート結果では、この実験の全体評価は高かったようです。
(2) 今後の教育への抱負
今後は、①学部講義を通しての教育、②大学院講義を通しての教育、③研究を通しての教育、の三つを柱として、単なる専門知識の提供だけでなく、リーダシップを発揮できる総合的な人間力の育成にも尽力します。とくに、③の研究開発を基盤とした大学院生の実践教育として、以下の二つに重点を置きます。
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企業との共同研究やプロジェクト研究への参画を通してのエンジニアの素養の育成
企業との共同研究を通して、大学院生が企業の技術者と接することで、自分が目指すべき姿を具体的に肌で感じ取っていただきたい。また、共同研究やプロジェクト研究を通して、責任感・使命感・達成感を学ぶことで能力・技術面だけでなく精神的にも大きく成長していただきたい。
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国内外での学会による研究成果の口頭発表を通してのエンジニアの素養の育成
「エンジニアは、自分が行った開発研究の背景・目的・内容・成果を、他人が理解できるようにわかりやすく説明(プレゼンテーション)できなければならない」という視点から、研究活動の場である電気学会において,大学院生や4年生による研究成果の口頭発表をこれまで以上に活発に実施したい。具体的には、全国の若手研究者(35歳以下)に贈られる電気学会優秀論文発表賞を、指導学生が今後も継続的に受賞できるように努力していきます。
最後に、本年度の優秀教員に選ばれたことは、教育熱心な電気・電子工学科の教職員の皆様の近くで、いつも教育のあり方に対する刺激を受けてきたおかげであり、この場を借りて感謝申し上げます。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 情報・メディア工学科 福間 慎治
優秀教員推薦者はレポートを作成すべしとの仰せにより、常々意識していることを駄文ではありますが述べさせていただきます。
(1)体で覚えるということ
私の講義では短期留学生プログラム科目(英語で講義)含むすべての担当科目で「体験」や「実験」を取り入れている。教科書に書いてあることを鵜呑みにして分かった気になっただけでは何の意味も無く、実験して体感してはじめて分かったと言える。頭で覚えた知識はそのうち消えるが、体で覚えたことは一生モノである。また、実験、体験や経験をフィードバックし改めて理論等を見直せば、今度は新たな理解や異なる解釈を得ることができ、新しいアイデアも出てくる。
(2)自分の言葉で話す・書くということ
教科書を丸暗記した内容や自分で理解できていない内容を話したり書いたりしても何の意味もない。簡単な言葉でよいので、自分の言葉で置き換えて理解し、それをお話なさい、書きなさいと指導している。自分の言葉で書いたものは君がこの世に生きていた証であり、丁寧に書くように時には指導している。自分の言葉でうまく書けないのは読書量の不足もさることながら、小中高における現在の国語教育が「先生(あるいは教養人と呼ばれるリベラル系の大人)に受ける文章の書き方」であり、本人の責任ではない部分もある。
(3)少人数教育ということ
学生はユニークである。しかし、大人数の中ではその個性が埋没してしまう。少人数に絞って教育を行うと、その個性がいろいろと見えてきて楽しい。学生とのコミュニケーションもとりやすく、理解の度合いや成長をよく実感できる。すべての科目を少人数科目にしたいが現実には厳しいところ。
(4)笑うということ
sense of humorは重要である。緊張状態だけでは人は壊れるばかりである。緊張と弛緩のバランスが重要であり、効果的な弛緩が「ユーモア」である。危機に際して冷静さを取り戻したり平常心を維持したりするためには何よりもこれが大切である。学生とコミュニケーションを取るとき、彼らの多くはどうしても緊張してしまう(こちらとしてはやさしく接しているつもりであっても)。緊張してしまうと教育効果も上がらない。そこをうまくユーモアでほぐしてあげることでより効果の高い教育が可能である。ただし、あまりお笑いに走りすぎると、あるべき学生と教員の距離がなくなってしまうことには注意しなければならない。
と、以上のようなことを心がけてはいますが、このような方法がうまくハマる学生さんもいれば、うまくいかない学生さんもいます。みんなが幸せになれる、win-winな関係になれる教育とは果たして何なのか?これは人類永遠の課題なのでしょうね。例え解が見つからなくとも、少なくとも我々はこれに向かって努力していかなければなりません。それを放棄することは、人生勝ち負けで言えば「完全に負け」ですからね。引き分けくらいには何とか持ち込みたいと思う今日この頃です。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 建築建設工学専攻 石川 浩一郎
1.教育プログラムの学習・教育目標と授業の関連
建築建設工学科では、平成16年度から「建築学コース」と「建設工学コース」の教育プログラムを立案・計画し、現在実施しているところです。 教育プログラムでは、学習・教育目標を設定・公開し、個々の授業に対する関与の程度をシラバスで示しています。したがいまして、授業における目標の設定、計画、確実な実施、改善等が学習・教育目標の達成につながっていきます。
以上のことをふまえて、日頃の教育に対する工夫と今後の抱負について述べます。
2.これまでに担当した授業に対する工夫(Plan – Do)
模型製作とレポート作成による建築構造システムの理解
重力と自然災害による外力に対しての建築構造システムの抵抗機構並びに構法の仕組みを身につけることを目標に掲げ、演習前の解説、資料の提供、模型製作と模型の構造挙動観察により、安定構造のしくみを学ぶことが可能となる学習法を工夫しました。
作成した教材
約70名の学生が模型製作できるような教材「模型製作の手順とレポート作成の手引」を作成しました。その中には、製作した構造模型を用いて構造挙動を観察する方法と考察のポイントを記しています。
板書の工夫
毎回授業の最初にシラバスに記されている内容の項目をなるべく大きな字で板書します。そして、キーワードの用語に黄色のチョークで丸印をつけながら強調させて、簡潔に10分ほどで内容の要点を学生にまえもって説明します。また、授業中の板書は3色のチョークを使い、色分けしてめりはりをきかせることをこころがけ話しています。
3.今後の抱負(CHECK – ACTION)
演習中に学生に声をかけて質問、意見、希望等を聞き出し、特に、そのなかで重要であるものは、その場で本人に答えるとともに忘れないよう付箋にメモ書きしておきます。そして、次回の授業で全員にその質問と答を解説します。これらのことを反映させて毎回の授業を改善できるよう心がけています。また、中間試験等により学生の理解度を点検するとともに、改善点を記録しています。
以上のことは標準的な授業だと思っていますが、少しでも役立つような授業ができるよう今後とも地道に励んでいきたいと思っています。
授業を楽しむ「怪・解・快」 — 材料開発工学科 飛田 英孝
私の授業の基本は、教わる側も教える側も共に授業を楽しむということです。毎年、さまざまな授業スタイルを試していますので、以下に記したことは、あくまで今年度の「実況中継」であることをご了承下さい。
授業を始める前に
何事も楽しむためには、それなりの準備と心構えが必要だと思います。第1回目の授業で授業の目的やスケジュール等の授業内容や学習教育目標の他、「受講についての注意事項」を記載した書面を配布し、学生と受講態度について「契約」を交わした上で授業を行っています。契約の中には授業中の私語、携帯使用、内職、無断退出の禁止といった、当然の受講マナーについても記載し、十分注意を喚起するようにしています。また、居眠りや遅刻等についても最初にルールを決めておいて、いちいちその場で「お説教」をすることによる時間の浪費と雰囲気の悪化を防止しています。こういった一見厳しいルールは、教員と学生の間には、ある程度の緊張感を保つことが「授業を楽しむ」ために必要だと考えるからです。また、授業開始数分前には教室に入り、学生一人ひとりと前回の授業内容について言葉を交わすなど、学ぶ雰囲気づくりを行っています。
授業の怪・解・快
人間の知的欲求は、不思議・不安・不満を納得・安心・満足に変えるというプロセスにあると言えるでしょう。一般に教科書がおもしろくないのは、「物語性」の欠如にあると考えています。基本的な授業展開としては、【怪】知りたいという欲望を刺激する、【解】自らの力で解ったという実感できるような説明(あるいは演習)を行い、【快】問うて学ぶ学問の快感を体験する、という3段話にまとめるよう心がけています。つむじ曲がりな私は、分かりやすさばかりを重視する昨今の風潮に逆らって、今年度は「教えないで教えること」を一つのテーマとして授業を進めており、大事なことは敢えて「言わない」ということを試行していますが、その成果は未だ「?」です。
現在私は、達成目標の明確ないわゆる理系科目の他、環境問題や技術者倫理といった向上目標を重視した科目の2つのタイプの授業を担当しています。後者においては必ずしも「正解」は明確ではありませんので、さまざまな立場・切り口から考える練習をすることが重要だと考えています。そこで、グループ・ディスカッション、ディベート、ロールプレーなどを取り入れながら、一人でも多くの学生に発言機会を与えたいのですが、現代っ子は目立つことが嫌いで普通に指名したのでは教室の雰囲気も悪くなりがちです。そこで、指名すること自体をゲームにする方法を採用しています。これまでに実施したゲームは「乱数バトル・トーク」、「紙飛行機ディスカッション」、「サイコロウォーク・トーク」などがあります。(毎年、さまざまな方法を考案しています。内容は、その名称からご想像下さい。)「大学生にこんなゲームなんて」と思われる方もあるかもしれませんが、教室の雰囲気はこれで一気に明るくなり、出される発言内容も大きく変わります。ただし、こういった討論系の授業では、必ずしも想定した通りには議論が進まず、教員も現場で「裸」になる覚悟が必要であることを申し添えます。
毎年毎年が試行錯誤の連続ですが、学生も教員も、一人ひとりが授業という「物語」の主人公になれる授業をめざして創意工夫を楽しみたいと思っています。
「日頃の教育に対する工夫、及び今後の教育への抱負」 — 生物応用化学専攻 池田 功夫
いや~驚きました、私が優秀教員とは。これが第一印象です。しかし、選ばれた以上は名誉なことですので、日頃の教育活動について述べたいと思います。
教育となると先ず「講義」だと思います。講義では特別なことをやっているわけではありません。教科書を選定し、少し補足を加えながら教科書の内容に沿って講義を進めています。補足の項目は必ずプリントして配ります。パワーポイントなどのOA機器も必要に応じて使いますが、ほとんど板書が中心です。古い人間ですから「手で覚える」を信じているからです。演習は章または節の区切り毎に行っています。ここでの復習が学生にとって有意義なようでよい評価を得ています。なぜそれが分るか。授業の最後に出欠のチェックもかねてその日の内容の質問事項(なければ講義以外のことでも良いとしています)や感想などを書かせます(記入率、約10%)。そこに学生のいろいろな意見が書かれています。これは私にとっても大変参考になります。そして、次の講義時間の初めにこれらの記載事項に対して回答をします。10分ほどを費やしますが、これも彼らにとっては有意義なようです。また、講義内容や学生生活に関連した新聞記事などを見つけたときにはそれを紹介しています。
講義以外では進路に関する相談がよくあります。こういう時には誠心誠意(のつもり)、余り豊富でもない経験談をもとに相談に乗っています。1時間を超えることもあります。
今後については、定年までそう先はありませんので今とほとんど変わらないことになると思いますが、知識の詰め込みや「学び方」の話ばかりでなく、これまでの経験を生かし、できるだけ人間形成に役立つような話を講義の合間に織り込んでいきたいと考えています。最近、仲間や周囲の人とのコミュニケーションが十分にとれず、「引きこもり」に近い状態に陥る学生が院生も含め増えてきているように思います。以前と違い、「学生生活」についてもよりきめの細かい指導が必要になっているものと思われます。難しい問題ですが、担任教員制度を活用し、教員と学生間のみならず学生間のコミュニケーションの場を増やすことも一つの方策かもしれません。
優秀教員に選ばれて嬉しいですか? — 物理工学科 高木 丈夫
5年ぶりの受賞となるが、今回は何の感激もない。むしろ自分と学生との関係が、自分が想定していたものと違っていたらしいことに驚きを感じてしまった。
授業方法は、教壇に立ってからの20年弱の間変えていない。教科書は使わない、ノートは授業中には演習問題を確認する以外は使わない、シラバスは事実上無視、シラバス通りになんて学生の理解度からして無理に進めることこそ問題と思う。授業のレベル設定は、概念的なことは旧帝大系の授業と同等に設定、計算技術などの数学的レベルは比較的易しく、試験の採点は厳しく。といったところ。とくに選択授業では、最初の2、3コマで受講するために必要な能力や粘り強さ(いわゆる根性)があるかを確認するレポートを課し、(と言っても、それまでの学習事項を切口を変えた出題として復習するだけ)受講人数を半分以下まで絞り込んでしまうということをしている。まあ、院生時代からコロキウム等での講演は、研究室内で教員も含め1、2番に上手い、と言われていたし、授業は(チャント受講している学生には) 理解し易いと言われる。人に基礎レベルの物理を理解させることでは人後に落ちることは少ないと思うものの、そんな講義をする教員に対して、『よくぞこれだけの支持があった!』と思う。
おそらく支持してくれたのは、物理博物館に出入りしている学生(学芸員)の面倒をみている(いや物理的能力欠如を常に叱りつけている)ためと、半年間希望者に行った特別講義のためと思う。この講義は、以前優秀教員に選んでくれた学年(物理工学科第一期生、1999年入学)に対しても行ったもので、『物理工学科の教程(というか物理)全ての内容に対して質問を受け付け それを元に講義をする』というもので、理論、数学的技法、実験例もまぜこぜにして講義をするものである。この講義は、修学意欲が豊富な学生達からの講義依頼があった場合に、かつ、僕が受講者の、その意欲を認めたときに開講することにしている。もちろん教程表に載っていないものなので単位が出るわけではない。実はこの講義がやっていて最も楽しい。たとえ貧弱な才能であっても、それを垂れ流がすように、スピード感にあふれた授業をしないとやってる方も受講者も楽しくはないだろう。
さて、この特別講義受講学生への成績評価だが、1999年度入学生に対しては優を与えたい。このときは、講義するのが本当に楽しかった。質問だけで完全に講義を構成できて、質問に答えているうちに周辺分野に話題が移り、90分の間に電磁気学、量子力学、統計力学、….をぐるぐる回って、このときの物理を話す楽しさは、研究分野の小さなワークショップで話しているときのそれと同じように、教えると言うよりは、いっしょに何かの問題を考えているような錯覚さえあった。そして彼らと一緒に美方高校で行った泊まりがけの学外公開講座の成功も忘れられない。だからこそ、この学年の優秀教員の称号だけは他の教員には渡したくなかったし、自分でも自信を持って受賞することができたのである。
そして今年度の学生への特別講義の成績評価は、学習意欲を買って温情で可である。彼らは質問をするだけの素地もできておらず、制約だらけの通常の授業をするよりしょうがなかった。そして、彼らに対する教育効果も教壇からはたいして認められなかったのである。(あんな程度で理解が進んだと思われては、講義は副作用のみだったことになる)だから、いったい僕の何が優秀教員として評価につながったのか、本当に理解に苦しむ。唯一、考えられることは、特別講義のみならず通常の授業においても『福井大学のレベルではなく、物理教程の標準的なレベルで学生を扱ったこと』なのではないかと思う。結構な数の学生は一人前に扱って欲しく、比較的高い設定目標に向かって努力をしたいのである。だから、こういう学生がいる限り高いレベル設定の授業は続けて行くべきであり、それが僕の役割なのだと思う。でも、そんな理由で選ばれたのだとしたら、少しばかり淋しいではないか。僕に投票してくれた学生達には悪いけれど、今回の受賞を喜ぶ気持ちにはなれない。今から20年後に、彼らが人にものを教える立場になって自分なりの理想とする教師像ができ上がったときに、やはり僕が優秀教員に相応しかったと思ってくれたら、そのときには本当に喜ぼうと思う。
最後に、以前に優秀教員制度のことを他大学の仲間に話したときの反応である。
「ナンセンスなことやってるね。」
「教育に意味があるのだろうか?」
「選ばれて嬉しいかなあ?」
そう!全くその通り、仲間たちの言いたいことが痛いほどよく解かった。そんな感覚をおそらくは持ちもせずに、この制度を実行せざるを得ない本学を気の毒に思うことも。『教育が意味を持つ』その状態に在ることが、既に問題を抱えているのである。ずいぶん遠い道のりではあるだろうけれど、
「教育はやっぱり無力だね。」
と笑いながら教員どうしが話せる日が、この大学にもいつか来て欲しいと思う。
「日頃の教育に対する工夫,及び今後の教育への抱負」 — 知能システム工学専攻 池田 弘
学生の意見を参考に、我々の講義への不満、私が選ばれた理由を紹介し、また、講義に対する工夫、今後の抱負を述べたいと思います。ここに示すのは、学生から見たよい講義であって、真に学生のためになるのかは、私自身、日々頭を悩ませていますし、まだまだ改善点は多くあると考えています。
まず、学生の多くは、講義中、質問をしたくてもなかなか質問をできる雰囲気ではなく、わからないまま講義を受け続けています。そのうちわからないことが山積みとなって講義を真面目に受ける気持ちが途切れてしまうようです。私は、講義中の雰囲気を質問がしやすく、しかも集中力が保てるような雰囲気になるように努力しています。そのための対策として、まず、学生の名前をできるだけ早く覚えるようにしています。名前を覚えるために、講義の出欠確認は、私が名前を呼んで、学生が返事をするという形をとっています。それから、講義には少なくとも5分前に行き、その時間を使って学生と会話をするようにしています。また、講義以外の時間でも、学生に会った時には積極的に挨拶をしたり、言葉をかけたりしています。これらのことは、講義の質とは何ら関係のないことのように思えますが、講義中の雰囲気を非常によいものにします。まず、学生は、私に親近感を持っているため、講義中に気軽に質問ができるようになります。また、私が学生に対して質問をする時も、いちいち名簿を見て当てるのではなく、会話をするような感覚で自然にできるので雰囲気が重くならずに、それでいていい緊張感が保てています。教師側から学生側に多くの質問をし、また学生側からも教師に多くの質問が出ることで、学生は楽しみながら、講義に集中できているようです。また、興味のない講義内容も興味が持てるようになるようです。
また、学生の多くは、講義のペースが速すぎて、理解が追いつかずに困っています。私は、学生がどの程度理解しているかを学生の様子を見ることで感じ、怪しい場合は、もう一度説明を丁寧にしてあげるようにしています。こちらが地道に熱意をもって説明をすると、学生もそれを感じ、一生懸命聞こうという気持ちになるようです。
今後も、学生1人1人を大切にし、できるだけ細かな気をくばってあげるよう努力していきたいと考えています。また、学生が講義内容に興味を持ち、積極的に勉強をしたくなるような講義を目指していきたいと考えています。